物音でアスカは目を覚ます。
しかし体が重く感じ、瞼さえ重く感じてしまう。
アスカはその重い瞼をゆっくりと開き目を開ける。
すると目の前にはあの憎たらしいルッチ…ではなく、ウソップと見間違いそうな鼻の長い男…カクが見えた。
「……?」
「おお、起きたか」
「!」
一瞬カクを見て『ウソップ?』と思った。
しかし腹に多少の痛みが走り気絶する前の事を思い出し、アスカは逃げようと暴れた……つもりだった。
しかし予想外に体が重く感じ、アスカは首をかしげながらふと手元を見た。
そこには海楼石の手錠がはめられており、それを見てアスカは体が動かないのに納得する。
「海楼石…」
アスカは人に比べて能力者の弱点に弱い。
下手をすれば気を失うことだってある。
しかし今は意識もはっきりとしているし、手もグーパーとさせるとちゃんと動く。
足だってぱたぱたとさせれるし、辺りを見渡す余裕もある。
海楼石の濃度がそれほどないと見ていいだろう。
これなら逃げれるチャンスがある…アスカがそう思っていると聞きたくもない声がアスカの耳に届く。
「起きたのか」
「ッ!!」
その声の主へ顔を上げ、アスカは睨みつける。
その声の主…ルッチは見ろしていた"モノ"から振り返りカクの声でアスカが起きたことに気付く。
「あれだけ力を入れたのにこうも早く目を覚ますとは……やはり子供といえど海賊か…」
捕まった事を夢で終わらせれたのならどれほどいいか…しかし実際は目の前にはルッチがおり、カクに捕まって海楼石もはめられているという最悪な状態である。
むっとしルッチを睨みつけるアスカを見てルッチは目を細め口角を上げた。
「お前…あのときの嬢ちゃんか…!!?」
ルッチにばかり気を取られていたせいか、アスカはルッチの足元にいる"モノ"や傍にいる"影"に気付いていなかった。
聞いたことあるようなないような…アスカはその声の方へ目をやる。
そこには袋詰めされているフランキーがいた。
なぜ袋詰めされているかは分からないが、『なんてあんたがここに…』と言いかけたアスカは視界に懐かしい影に気付く。
その影とは…
「ウソップ!?」
一味を抜けたウソップだった。
あの後チョッパーが置いていった包帯や消毒などの一式で自分で治療したのか包帯だらけのウソップがいた。
アスカは一味を自分から抜けたとはいえ、ウソップが無事だということに安堵の息をつく。
「アスカ!!何でお前がここに!?って言うかなんで捕まって…」
「それは…私にもわかんない…」
「お前確か…"麦わら"の……仲間じゃな?」
「カク」
「ああ。」
ウソップもアスカに今気づいたようで、パチンコを構えながら驚いた表情を浮かべていた。
首をかしげるアスカに怪訝としていたウソップだったが、カクが大工として偽っていた時に見た事ある顔にぽつりとつぶやく。
ルッチも確かにルフィと一緒にいた男と覚えているのかカクに命じ、カクはルッチの指示に頷きアスカをルッチに渡した。
「え…」
カクからルッチへ渡されアスカはルッチに肩を掴まれ逃げれなくされた。
どんなにルッチの体を押してもビクともせず能力を使おうにも当然ながら海楼石によってそれを封じられてしまっている。
ただの人間になればこんな男一人に逆らうこともできないことに悔しくて俯き唇を噛んでこの屈辱を耐える。
ルッチは俯くアスカの後ろから抱きしめるように片腕で抱き寄せる。
華奢な体は鍛えられたルッチの腕一本でも余裕で余るほどで、ルッチは抱き寄せられうつむくアスカの頬に手を伸ばし、顔を上げさせる。
「能力を奪っておいた…その間はお前は能力者ではなくただの人間…今もおれに逆らおうとしてもできないのは分かっただろう?」
「………、」
「分かったら大人しくしておけ。」
「……………」
顔を上げたアスカの顔は悔し気にしながらもその金色の瞳は鋭くルッチを睨んでいた。
予想では泣いていると思っていたルッチだったが、その勝気な目も悪くはないとクツクツと笑う。
自分の腕一本でも余るほどの小さい体を持ちながらも気丈に振る舞う所もルッチは気に入ってた。
その笑い声がアスカにとったら癇に障り頬に伸ばされ撫でられているルッチの手を振り払おうかと思ったとき…ドサッ、と何かが倒れた音が聞こえ、意識をそちらへと向ける。
すると倒れているのは血だらけとなったウソップだった。
「ウソップ…!!」
「あ〜あ…!やられちまった…!!」
「――つまり"麦わらの一味"は抜けたがまだ海賊をやめておらんのじゃな…?海賊なら連れて行く」
「いや、殺せ」
「!!」
ルッチの事など忘れたようにアスカはウソップに駆け寄ろうとする。
しかしルッチに抱き寄せられているのでウソップに駆け寄ることはできず、それでもアスカはウソップの名を呼び続ける。
必死に手を振り払おうとしながらウソップばかり見るアスカにルッチは眉を顰めカクに連行ではなく殺せという命令を下した。
それにカクもアスカも…最初ルッチの言葉が一瞬理解できず固まる。
「な…なんで!?海賊なら捕まえるんでしょ!!!」
「元々麦わらの一味は口封じに殺す予定だったんだ…残党は全て片付けておかないと面倒になる。」
「ウソップはもう一味じゃない!!!」
「元だろうが何だろうが麦わらの一味に変わらない」
「だったら私だって一味よ!!!」
「気に入ったと、言っただろ」
ウソップはもう仲間ではない。
でも『元仲間』を見捨てるほどアスカは冷酷ではない。
ルッチに振り返り声を上げるもルッチは顔色一つ変えず冷たい言葉を放つ。
そんなルッチにアスカはカッとなり、海楼石をつけられればその辺の娘以下の力なのにルッチを突き飛ばし腕を振り払った。
ルッチは海楼石で能力が使えないはずなのに自分の力を振り払うことが出来たアスカに目を丸くする。
「!」
「来ないで!!!」
アスカはそのままウソップに駆け寄ることはせず、外に繋がる扉を開ける。
その先は道はなく、アスカが突風のため捕まる手すりの奥は海が広がっており船の死骸と言っても正しい"船だったガラクタ"が浮かんでいる。
能力者であるアスカが海に落ちればどうなるか…同じ能力者であるルッチにも、能力者ではないカク達でもこの先の展開を読むことができた。
更に言えば『アクア・ラグナ』で海が荒れており、そんな海に落ちれば確実にアスカは死ぬ。
だからか、ルッチはアスカの制止の声に応じて足を止める。
「……その先は海だぞ…」
「えぇ、さっき見たから…知ってる…」
「…何の真似だ」
「ウソップを殺さないで」
「………………」
チラリと見た後ろは荒れている海だった。
手すりも年月が経過し手入れもされていなかったためか人一人通れるくらいの穴が開いていた。
正直能力者として海が怖いアスカは恐ろしくてたまらないが、ウソップを黙って殺されるくらいなら自分も飛び込んで死ぬ覚悟はできていた。
今、ウソップを失えばアスカはルフィ達に顔向けができないと思ったのだ。
仲間とか関係なく、アスカはウソップが好きだから。
死なせたくはないと心から思い出た行動だった。
ルッチはアスカの言葉にカクによって怪我を負い血だらけのウソップをチラリと見たが、すぐにアスカへと目線を戻す。
「あんたがどういうつもりで私を連れ出そうとしているかは分からないけど……ウソップを殺すなら私もこの海から飛び降りて死ぬ。」
「……………」
「本気よ?」
「アスカ…ッ!…やめ、ろ…ッ!!」
表情変わらないルッチにアスカは本気だと一歩足を後ろへ下がる。
すでにギリギリなところに立っていたアスカはつま先しか地についておらず、これ以上後ろへ進めば真っすぐ海へ落ちてしまうだろう。
床に転がっていた小さい石のようなものがアスカの足に押し出されガラリと海に落ちる音を聞き、ルッチは眉をピクリと上げる。
ルッチはアスカの顔を見た。
アスカは真剣そのもので恐怖はあるらしく冷や汗はかいているが、その表情から脅しではなく本気だと伺えた。
「……………」
それでも何も言わないルッチにアスカは緊張して激しく動く心臓の音を聞きながら少し下がる。
するとズルリとつま先が滑りアスカは足を踏み外した。
「……ッ!!!!」
「アスカーッ!!!」
あ、落ちる…アスカはそう思った。
死ぬ覚悟はあったが、ヘマして足を踏み外すとは予想外だった。
しかしそれでもアスカは死ぬのを覚悟し目を瞑る。
ウソップの声がアスカの耳に入ったその時――力強く腕を引っ張られ、アスカは誰かの胸に戻された。
「…!」
「はぁ、全く…」
アスカは死ぬ覚悟を決めたのだが、そのアスカの腕を誰かが掴み引っ張って引き寄せた。
黒いスーツが視界一杯に広がり、アスカは目を瞬かせた後ゆっくりと顔を上げる。
顔を上げれば今度はルッチが視界に収まる。
少し焦ったような表情を浮かべているルッチにアスカは意外そうに目を丸くした。
アスカを助けたのは何者でもない、ルッチだった。
ルッチはキョトンとする呑気なアスカに溜息をつきカリファに振り返る。
「…捕らえて連れて行く。」
「え!?……え、えぇ…分かったわ」
「……………」
まさか本気で飛び降りただけで許してくれるとは思っても見なかったアスカは驚いたようにルッチを凝視してしまい、ルッチもアスカを見つめお互い見つめあう。
金色の大きな目に自分しか映っていないのを見て、ルッチは機嫌よく笑った。
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