(175 / 293) ラビットガール (175)

アスカが乗っている車両は痛いぐらい沈黙が続いていた。
すでに窓の外は見渡す限り海ばかり。
それでもアスカは窓から目を離すことはなかった。


それが数時間経った頃4車両に配置されていたはずのCP7のワンゼがポロポロになって扉を破って侵入し、4車両にはアスカの見覚えのある人物がルッチ達を睨んでいた。


「サンジ!?」

「!!〜〜ッアスカちゃ〜ん!!無事か〜い!?アスカちゃんとロビンちゃんの王子が助けにきましたよ〜〜っ!!」


襲撃に驚きアスカは椅子から立ち上がり、サンジの姿に目を丸くする。
サンジはアスカを見つけいつものごとく緩い顔をしながらこちらに一直線に向かってくるところだった。
しかし、アスカを悪の組織(世間から言えば逆だが)から救い出そうと4車両から2車両へ移動しかけたその時―――上からフランキーが降ってきた。
アスカはウソップと一緒に袋詰めされていたはずのフランキーの姿にまた驚きく。


「お前な、一体どこから…」

「アウ!おめェラーメン野郎は片付けたのか?」

「丁度今な。これから愛しの…いや、おれの愛するレディたちを救出しようとしてたところだ」


捕まっていたはずのフランキーが袋から出ているという事は…アスカはウソップの姿を探して椅子から出て行こうとする。
しかしそのアスカの腕をルッチが掴み、アスカは自分は捕まっている事を思い出す。
ルッチを見上げれば、ルッチはアスカではなく、フランキーとサンジを感情の見えない目で見つめていた。


「急に騒がしくなったわね」

「護送の為の兵士は結局全滅か……」

「別に期待もしてないがのう」


焦ることなくサンジ達を見るルッチ達をサンジは睨みつける。


「アイツらだろ…直接ロビンちゃんとアスカちゃんをさらってったのは…」

「気をつけろ、妙な体技使うぞ」


フランキーの忠告にサンジはタバコの煙を吐き出す。
するとフランキーが蹴り飛ばしたネロが立ち上がろうとするのにルッチが気付く。


「コイツは何だ?」

「コーギーの言うとった『CP9』の新入りじゃろうな。ネロとかいう『四式使い』」


ネロは血を吐き出しながら体を起こしフランキーを睨みつける。
見ない顔にルッチは疑問を投げかければカクが答えた。
その言葉にルッチはアスカを軽く突き飛ばすように椅子に座らせ、ネロの傍へと歩み寄る。


「…畜生ォ…!…ハァ…もう許さねェっしょ……!!おれは戦闘の天才と言われた男だぞ!!もう構わねェ!殺してやる!!!」

「おい新入り」


ルッチが見下ろすネロの姿はボロボロで傷の手当てが必要なほど傷ついていた。
ネロは背後に立ったルッチに話しかけられ振り返る。


「…アァ…アンタ…ロブ・ルッチだな……挨拶が遅れたねェ……!!ちょっと待ってくれよ…今あいつを殺して…」

「フランキーは生け捕りだ。感情に任せて任務を失うとは………イヤ、もういい…3秒やるからさっさと逃げろ」

「は!?逃げるって…誰から……」


ルッチの言葉に唖然とするネロだったが、ルッチが秒読みをはじめ慌てだす。
"剃"で逃げるもルッチに背後からやられてしまった。


「何もかも半端なお前に『CP9』は勤まらん…『六式』揃ってこその『超人』だ、坊や……」


ネロはそのまま窓を破り海へ消えた。
アスカは味方を海に捨てたルッチを信じられないような目で見つめていた。
ルッチをはじめとするCP9は味方…しかも後輩にあたる男を海に捨てても何も言わない。
ルッチはカリファに新人は使えないと"長官"に伝えるよう命じる。
それを聞いたサンジは眉をひそめる。


「コイツらが正義の機関か……?どっちが悪だが…」


思わずこぼれたサンジの言葉もルッチは気にもせず、フランキーの後ろにいるサンジを見る。


「お前らの用は……聞くまでもねェか、侵入者…ドアの開け方を見る限りあまり気の長い質ではなさそうだな……」

「ああ…育ちが悪ィもんで」

「……ニコ・ロビンの事なら諦めろ。お前たちが首を突っ込むには問題がデカすぎる…世の中には…死んだ方が世の為になるという不幸な星の下に生まれる人間もいるもんだ」

「?」

「例えば"世界を焼き尽くす悪魔"がいたとして………それを呼び起こす力を持っている者がわずか8歳の純粋な少女であった場合その少女は…誰かの手で人々のために殺しておくべきだと思わないか?」

「……何が言いてェ…」

「それがニコ・ロビンという女の人生だと教えているんだ。今となっては本物の犯罪者だが……始まりはたったそれだけの事だった」

「…………!!!」


まるでロビンがこの世にいたら世界が不幸になる人間だと…殺して当たり前の人間だと言わんばかりのルッチの言葉にサンジは顔を険しくさせ睨みつける。
殺さんばかりの殺気や睨みなどルッチは気にもせず続ける。


「物心ついた時から自分の存在そのものが"罪"!!!自分が消えることでしか人を幸せにできない…そういう不幸を背負っているんだ。本来20年前に死んでおかなければならなかった女だが手遅れになる前にあの女が死ぬ事になって本当によかった」

「ッいい加減にしろてめェ!!!それ以上口を開くな!!!!」


聞いていられずサンジはルッチに蹴り上げようとするが腕一本で止められてしまう。
しかし、ルッチは話すのを止めずサンジの怒りに触れるが1車両目の扉が開きロビンと仮面を被っているウソップが現れる。


「ロビンちゃん!」

「ロビン!……と…ウソップ?」


アスカは仮面を被っている男がウソップか一瞬分からなかったが、恰好や声を聞けばすぐにウソップと気づく。


「よかった!無事なのか!ケガは!?何もされてねェか!?コイツらすぐぶちのめすからよ!!今度こそ一緒に皆んトコに帰ろう!!」


ロビンの無事の姿にサンジもアスカもホッと胸を撫で下ろすが、ロビンはウソップを投げ飛ばしてしまう。


「ロビンちゃん…何すんだ!」

「口で言ってもわからないでしょ…?」

「ハッハッハ…!」


ロビンの言葉にルッチが笑い、サンジとアスカが目を丸くする。
するとウソップがフランキーに3車両を切り離して逃げると指示する。


「おい!どういうこった!ロビンちゃんとアスカちゃんがまだ……!!」

「君も急ぎたまえ!勝負は一瞬だ!!!」


そう言って投げつけたのは"煙星"。
当たり一面真っ白の煙幕に視界を妨げられる。


「ケホ…ケホ……ッ!!?」

「ニコ・ロビンとアスカは頂いたァ!!!」

「「よっしゃーー!!!」」


煙に咳き込んだアスカは突然の浮遊感に目を丸くしているとウソップに抱えられている事に気付く。
火事場の馬鹿力で女性と少女2人を抱え逃げるウソップにサンジとフランキーはつい拳を握り喜び、列車を切り離す。


「やったァ!!!ロビンとアスカを取り戻したぞ〜〜〜〜!!」

「おっどろいたぜ!しかし急にこんな逃走作戦に出るとは!」

「煙幕なんてくだらなさすぎて思いつきもしねェよ普通。」

「ケホ…やりすぎ!」

「アスカちゃ〜ん!!!大丈夫だったかい!!?」


まだ咳き込んでいるアスカにサンジは駆け寄っていつも以上にハートを飛ばしていた。


「サンジ、いつの間に乗ってたの?」

「最初からさ〜!おれの助けをか弱いレディ2人が待っているかと思うと黙っていられないさ!!でも…なんでアスカちゃんが連行されてたんだ?」

「あー…まあ、色々あって…あ、そうだ。私海楼石の手錠付けられたから戦闘員に含まないでね」

「なにィーーー!?」


サンジがいつもの病気を発症しているのも気にせず、アスカはサンジの問いに適当に誤魔化す。
そうでなければ本当の事を知ったサンジが暴走するからである。
アスカは海楼石の手錠を見せ、戦闘員として期待していたウソップがガッカリしていると突然車両が揺れ、顔を上げるとカリファが棘の鞭で車両が離れるのを止めていた。


「捕らえたわ、ブルーノ」

「ああ」

「伝ってくる気か!?ムチを切れ!!!」


フランキーの指示に動く前にブルーノがムチを引っ張り車両を引っ付ける。
そしてブルーノは車両を手で繋げる。


「なんちゅうパワーだ…!!」

「煙幕とはつまらねェマネを…」

「やっぱり無理あったか…そげキング!ロビンちゃんとアスカちゃんを死守しろよ!!」

「お、おう!!…って2人もかよ!!!!」


無理難題を任せられ突っ込むものの2人の前に立つ。


「……っ!!」

「あっおい!アスカ!!」


ロビンの隣にいたアスカはハッと眉をひそめ車両の後ろに走る。
ウソップが振り返るが、アスカではなくルッチの背中が見えていた。


「…………ッ」

「まさか奪われるとはな…」

「アスカちゃん!?」

「コイツいつの間に…!!」


ルッチは一瞬でサンジ達の居る3車両に移り、ルッチが消えたのに気付き逃げようと後ろに下がったアスカの腕を掴む。


「離して!」

「お前は連れて行くと…言ったはずだ」

「イ・ヤ・よ!!!!」

「アスカちゃんを離せや!!!」


腕を掴まれ必死に腕をとこうとするが海楼石のせいで普通の人間になってしまった為ビクともしない。
サンジがルッチに再び蹴りを向けるがやはり止められ逆に飛ばされてしまう。


「サンジ!!!」

「……………」


サンジに駆け寄ろうとするもルッチに腕を掴まれ駆けつけられなかった。
ルッチはアスカを抱き上げ再び姿を消し2車両に戻っていく。
アスカはイスに座らされルッチを睨みつけるが3車両をフランキーが離させ、フランキーはルッチ達がいる2車両目に留まってしまう。


「……余計なことを…」

「ハァ…うははは!ザマァ見やがれ!!!」

「……だいたい…お前がなぜあいつの肩を持つ?」


アスカをイスに座らせた後倒れているフランキーへと歩み寄り見下ろす。
イスから立ち上がるがルッチに止められ再びイスに座る。


「アウ!!おめェら!!おれと嬢ちゃんの事は気にするな!策がある!!麦わら達と合流したら何とか町へ引き返せ!!!」

「フランキー…」


本当に策があるか分からないフランキーだが、助けるにも距離があり助け出すことは出来ない。
ロビンが慌てる中、2車両は非情にも姿を小さくしていく。


「なんて事を…待って!!私は逃げたりしないわ!」

「待てよロビンちゃん!!この期に及んで何だってんだよ!!オレ達ァ全て事情を知って来たんだぞ!!政府の『バスターコール』って攻撃さえ何とかすりゃロビンちゃんがあいつらに従う事はねェハズだろう!!?」

「その『バスターコール』が問題なんだ」

「え…」


突然現れたブルーノにサンジは蹴られてしまい、剃とは違うその現れ方にウソップは目を丸くした。


「ブルーノが消えた!?」

「消えたんじゃない。悪魔の実の能力で『大気の壁』にドアを作っただけだ」

「能力者…」

「ドアドアの実の真骨頂『空気開扉』により今ニコ・ロビンを迎えに行ったのさ」

「……!!何だそりゃ…なんてこった!!!」


ルッチの説明を聞き、フランキーは慌てて振り返るがもう車両は遠くに止まっていた。
アスカはルッチを押しのけて外を見るがサンジ達の姿は肉眼で確認できず拳を握る。


「…………っ」


振り返りキッとルッチを睨みつけるがルッチはどこか面白そうに目を細めアスカの腕を引き再びイスに座らせる。


「じっとしていられないのか」

「……………」


力にも負け、ルッチの思い通りになっている今の現状が悔しくてアスカは俯いて下唇を噛む。
暫くするとロビンとブルーノが帰って来て暴れるフランキーと共に1車両へ姿をけし、それをアスカはただ見送るだけしかできなかった。
ロビンにかける言葉は本当は沢山あるのに…アスカはその言葉さえ浮かばなかった。

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