(18 / 293) ラビットガール (18)

ルフィとアスカはポルシェーミにアジトの一つに連れて来られ、ルフィは柱に括り付けられ拷問、アスカは何処かへ連れられてしまった。
柱に括り付けられているルフィは大人をも超える大きなトンカチで叩きつけられるが、ゴムゴムの実を食べたゴム人間のため打撃は効かず、起き上がる。


「悪魔の実か…これは本物だな…」


どんなに叩きつけても傷一つ負えず起き上がるゴム人間のルフィに、ポルシェーミはそう関心して呟く。
だが手がないわけではない。
ポルシェーミは部下にグローブを持ってこさせ、柱に括り付けていたルフィを釣るし変え、トゲ尽きのグローブでルフィを殴り始めた。
するとまだゴムの能力に対応していないルフィの体には効いたのか、ルフィは大量に出血し、泣き叫ぶ。






その叫びを別の部屋でアスカは聞いていた。


(…ッ!)


これまでに聞いたことのないルフィの叫びにアスカは思わず耳を塞いだ。
人が痛みに叫ぶ声は聞き慣れていた。
奴隷だった頃…特に天竜人に飼われていたころは毎日のように聞いており、その頃はすでに感覚が麻痺していたせいかもう何も思わなかった。
ただあの頃は天竜人の機嫌を損ね、目の前の死体が自分に変わるのを必死に防ぐだけで精いっぱいだったのだ。
父であるシャンクスの愛情を一身に受け、人の暖かな心を知り、アスカはようやく人にあるべき感情を…恐怖を知った。


「おい、こいつ怯えてるぞ」

「まあ、当たり前だわな…けど自業自得だろ」


耳を塞ぎ体を震わせるアスカを見張っていた男達は見下ろし、にやにやと下品な笑みを浮かべていた。
男達の一人はそんなアスカに近づき、髪を掴んで俯くアスカの顔を上げさせた。
顔を上げたアスカは泣いてはいなかったが、怯えながらもアスカは男を睨む。
怯えているくせに自分達は睨むアスカに男はクツクツと笑い声を漏らす。


「クックック!おいおい!見てみろよ!コイツ怯えてるくせに俺らを睨んでるぜ?」

「あ?本当だ…いいねェ…顔も案外悪くねェし、殺すのもったいねェなァ」

「なに、お前抵抗されると燃えるタイプ?」

「あぁ、男はみんなそうだろ?」

「おれァ抵抗したら殴って静かにさせるな。喘ぎならいいけど悲鳴とかうっせェし」

「いい趣味をお持ちで。」

「お互い様だろ?」


男達が自分を見下ろすその目線や言葉…これらは覚えがある。
人間を売っていた場所でよくかけられたものである。
アスカ達奴隷は物として扱われ、同じ人間だというのに人間の扱いは決してされない。
優しい人達と出会ってから初めてのその目線や言葉にアスカは怯えていた。
シャンクスに救われる前ならば、きっとなんとも思わなかっただろう。
ああ、またか…と思うだけでここまで怯えはしなかっただろう。
だが、今のアスカは人間として扱われ、人間として見られていた。
それに慣れてしまっていたから、久々とはいえ人を人とも思わない彼らに怯えていた。
そんなアスカを男達は面白可笑しく見ていた。
アスカは大人に勝てるほどの力がない自分を恨んだ。
するとずっと聞こえていたルフィの悲鳴と殴る音が止み、アスカは扉へ目をやる。







「おい、出番だ」

「お、やっとか…」

「可愛がってやるからな〜」


どうやらルフィの拷問は終わったようで、今度はアスカの出番らしい。
ギャハハと下品な笑い方を聞きながらアスカは海賊に連れられる。







ルフィは吊るされ血だらけになりながらもエースとサボの秘密を守り続けていた。
そんなルフィにポルシェーミは息を荒くし手を血で真っ赤にして苛立ちながら部下へ振り返る。


「連れて来い!」

「は、はい!!」

「、…?」


ルフィは今まで感じたことのない激痛に意識を朦朧とさせながら、ポルシェーミたちを不思議そうに見る。
すでに目は半分も開く力もない。
そんなルフィの目の前に…


「放して…ッ!」


アスカが現れた。
朦朧としていた意識がアスカの姿を見てハッキリとさせ、ルフィは目を丸くした。
アスカの姿がない事に疑問に思わなかったわけではないが、それよりも殴られる痛みでそれどころではなかったのだ。
アスカは必死に抵抗するも大人の力には勝てず、ズルズルと引き連れられながらルフィの前に放りだされ、ゴミを捨てるように放りだされたアスカは床に倒れてしまう。


「アスカ!!」

「ル、ルフィ…ッ!!」


床に倒れたアスカにルフィは駆け寄りたいが、自分も拘束されているし、何より大怪我をしていた。
芋虫のように動こうとすると傍にいたポルシェーミの部下が押さえつけルフィは大人の力にも勝てずアスカの名前を叫ぶ。
アスカも何をされるのか分かっているから恐怖し、必死にルフィの名を叫んだ。


「やれ。」

「はい」


お互い叫ぶ2人をよそにポルシェーミの一言でアスカはまず暴力を振るわれた。
大人の振り上げられた拳がアスカに向かって振り下ろされ思いっきり子供であるアスカの頭に叩きつけられる。
その勢いでアスカは床に頭を打ち付けてしまい、頭に大きな痛みと衝撃が走った。


「やめろお前ェーーッ!!アスカに手を出すなァー!!」

「じゃぁ言え。」


ルフィの頭にはまだ来たばかりのアスカの姿が焼き付いていた。
痩せこけ、一日中ベッドに入り、立とうとしても立てずにいる…アスカを。
だからこそアスカに対して暴力は振るえなくて、ルフィはアスカに甘い。
喧嘩しても結局はアスカの泣き顔に負けてしまうのだ。
無意識ながらルフィはアスカを守ろうとしていた。
しかしそんなアスカを目の前で殴られ、そして蹴られ、口からも鼻からも血が出ているアスカを見てルフィは涙を溜め必死に暴れアスカを助け出そうとした。
泣き叫ぶルフィにアスカを殴るのをやめる条件にエース達の居場所を聞き出そうとした。
ポルシェーミの条件にルフィは口を開きかけたが、それをアスカが叫んで止める。
ハッとさせアスカを見れば殴られあちこち顔を腫れさせ口や鼻から血を垂らしながらアスカは必死に首を振っていた。


「言っちゃダメ!!」

「アスカ!!!」

「言ったらもう信じてもらえない!!言ったら…!!言ったら友達になれないっ!!」

「……ッ!!!」

「チッ…おい!そいつの口塞いどけ!」

「へい!」


エースの居場所を教えるのは簡単である。
そして、人を裏切るのも。
だがルフィはずっとエースと仲良くなりたくてここまでついてきたのだ。
もしここでポルシェーミ達に居場所を教えればそれが全て無駄になり、エースやサボからの信頼も失われ、一生2人の友にはなれない。
それをアスカが止め、ルフィはハッと我に返り開きかけた口を閉じた。
口を閉じたルフィを見てポルシェーミは苛立ち、乱暴にアスカの胸元を掴み子供だというのに手加減せず殴り飛ばす。
その際力を入れすぎて服が破けてしまい、前が破けダラリとした服から肩が覗く。
今度は何も言わないよう口を塞ぐよう部下に命じ、部下は傍にあった適当な布を手にアスカの口を塞ごうと背を向けピクリとも動かないアスカへと手を伸ばした。
しかし部下は背中の服を掴み、動きを止めた。


「おい、どうした」

「………」


部下が動きを止めたのを見てポルシェーミが怪訝そうに近づけば、何故かポルシェーミも固まった。
ルフィは固まる大人達に首を傾げ、アスカは背中の服が取られた事に体を硬直させる。


「?」

「……ッ」

「く…くく…ハハハハ!!!」

「な、なんだ!?」


固まったままのポルシェーミが突然笑い出し、それに部下達は我に返る。
突然笑い出したポルシェーミにルフィは困惑し、アスカはポルシェーミの笑い声にビクリと肩を揺らす。


「まさかこんなところで天竜人の奴隷と出会えるとはなァ!!!」

「て、てんりゅうびと??なんだそりゃ?」

「……ッ」


ルフィは世間に疎い。
そのため"天竜人"という言葉に首を傾げた。
そんなルフィを他所にポルシェーミはうつ伏せになっていたアスカを仰向けにさせ顎に指をやり顔を上げさせる。
アスカは涙を溜めてポルシェーミを睨みつけるが身体が震えているので怖くはない。


「くくく!そんな身体を震わせて睨み付けても怖くねェよ…こりゃ上玉だな…高く売れるぞ!」

「売る!?駄目だ!!アスカは売り物じゃねェーーーっ!!!」


そう言いながらポルシェーミは部下に海楼石を用意させ、用意した海楼石をアスカの首に付ける。
完全に逃げ出さないための海楼石の首輪を付けられてしまい、海楼石に人一倍弱いアスカは自分の意志とは裏腹に体の力が抜けていく。
海楼石には様々な種類がある。
加工が難しいとされているが、今の技術で手錠や首輪などにされていたり、海楼石の武器までもがある。
その海楼石には濃度というものがあり、ただ能力を奪うだけの薄い濃度から、今のアスカのように体力をも奪う濃い濃度まで様々ある。
しかし、今アスカがつけられたその海楼石の首輪に体力をも奪うほどの濃度はない。
そのため力なく床に崩れ落ちるアスカにポルシェーミは『なんだお前海楼石に弱いのか』と海楼石に弱い体質の人間がいる事に驚いたが、それはそれで完全に逃げ出す心配もないだろうと気にもしていない。
それどころかアスカを売るというポルシェーミに声を上げるルフィに声を上げ笑い、ルフィに見せつけるように首輪の隙間から指を入れ持ち上げる。
中に浮いた状態のアスカは首輪によって首を絞められる形となり力が出ず満足に抵抗できず苦しげに顔を歪める。


「売り物さコイツはな!!特上の売り物だ!!!なんせ天竜人の元奴隷だからな!!!」

「アスカはそんな奴の奴隷じゃない!!アスカにさわるなーーっ!!」

「お前、知らないのか?天竜人というのは…」


天竜人、という名前すら知らないらしいルフィにポルシェーミは目を丸くして驚く。
そんなルフィに機嫌がいいポルシェーミが教えてやろうと口を開いたその時…



「「やめろーーーーーー!!!!!」」



扉を蹴り破り、エースとサボが奇襲してきた。
扉の前で見張っていた部下が扉と共に倒されながらポルシェーミにエース達を指さす。


「コイツだーーー!!ポルシェーミさん!」

「金奪ったのこいつですー!!!畜生!!!」

「エ…エ゙ーズーーーー!!!」


エースとサボの名前は有名だが、名前だけが流れ、容姿までは広がっていなかった。
だからポルシェーミは部下から聞かなければ奇襲しに来た子供二人がその当事者とは思いもよらなかっただろう。


「自分から来てくれるなら話は早ェ!!口が堅くて困ってんだよ!てめェのダチが!!」


ポルシェーミはエース達の登場に乱暴にアスカを投げ捨て剣を抜き、襲い掛かろうとしたエースの首を掴んで捕まえた。
グッと力を入れ首を絞めるポルシェーミにエースは苦しみに顔を歪めるが、サボの名を叫んだ。
その瞬間、サボは素早くポルシェーミの背後に回ってパイプで頭を殴る。
その攻撃によってポルシェーミの手がエースの首から離れ、エースは受け身を取って着地した。


「おい!!お前!!大丈夫か!?」


ポルシェーミを殴った後、サボは持っていたナイフでルフィの縄を切って脇に抱え、その後床に倒れているアスカへ駆け寄る。
だが、人より海楼石に弱いアスカは意識はあるようだが、薄らとしかないらしく、目を開いてサボを見てはいたが起き上がれなかった。
弱弱しく首を振るアスカにサボは仕方なくルフィの縄を全て切り、ルフィは自分で走らせることにし、アスカはサボが背負うことにした。


「逃げるぞエース!!」

「先に行け!!」

「!?――バカ!お前…!!」

「一度向き合ったらおれは逃げない!」


ルフィとアスカを救い出して逃げようとしたサボはいつでも逃げれるとエースに伝えた。
しかしエースは背を向けることなく、ポルシェーミに対峙すし逃げる素振りも見せない。
混乱している今が逃げるのに最適だというのにエースはサボが何言っても聞かず、サボはエースだけを置いて逃げることも出来ずアスカを降ろして自分もポルシェーミに立ち向かう。
アスカは海楼石のせいで動きが制限され、ダルさから立つのも億劫なために座り込んでサボとエースを見つめていた。
対峙する2人を睨みながらポルシェーミはアスカを視界に捉え部下に向かって叫ぶ。


「おめェらその女のガキだけは奪え!!!天竜人の元奴隷なんざそうそうお目にかかれねェ大物だ!!!!売ったらあの金以上だぞ!!」


ポルシェーミはこの子供を逃がしたとしても、元天竜人の奴隷だったアスカだけは逃がしたくはなく、部下にそう指示を出す。
部下達もその指示に混乱していたが、ハッとさせ、アスカに近い場所にいた部下の一人がアスカへと駆け寄り手を伸ばす。


「―――っ……!!!」

「アスカにさわるなァァ!!!!」


部下は海楼石で動けないアスカを抱き上げるが、それに気づいたルフィが痛みが走る身体なのにアスカを奪われまいと力を振り絞りポルシェーミの部下に向かって飛びつきアスカを抱き上げる腕を思いっきり噛みついた。
噛みつかれた部下は痛みに声を上げてアスカを放してしまい、ルフィは這いずってアスカの上に覆い被り、ポルシェーミの部下達を睨みつける。


「くそ…!!!」

「これで終わりだーーーッ!!!」


そして…ポルシェーミは二人の子供によって敗れた。

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