(19 / 293) ラビットガール (19)

「お前…悪ィクセだぞエース!本物の海賊相手に"逃げねェ"なんて!何でお前はそう死にたがりなんだよ!!」


ルフィとアスカを救出したサボとエースは海賊から逃げ切ることが出来たのだが、エースはサボに怒られていた。
上の服を破かれたアスカはサボの上着を掛けられ、体が重く感じながらも泣き続けるルフィの隣に座る。
泣くルフィと違ってアスカに表情はなく、体操座りをして膝の上に組んでいる腕に顔を埋めていた。


「…………」


怒られているエースと言えば、サボに怒鳴られ口をへの字にしてムスッとさせており、まだグチグチと口うるさく文句を言うサボから顔を逸らして不機嫌さを露わにする。


「…はァ…こんな事しちまってブルージャムの一味はもうおれ達を許さねェぞ。この先追われる…」


エースの態度もそうだが、こらからの事を思うと溜息が出てしまう。


「恐がった…死ぬ゙がどぼどっだ」

「うるせェな!いつまで泣いてんだ!!おれは弱虫も泣き虫も大っ嫌いなんだよ!!」


エースがサボに怒られている間もルフィは怖かったらしく泣き続けた。
サボに手当をしてもらって体中包帯だらけで、顔も絆創膏やらが貼られており、涙を流せば傷にしみて痛い。
しかしまだ子供のルフィにあの拷問は辛く、普段それほど泣かない子供のルフィでも涙が止まらなかった。
サボに怒られイライラしていたエースは八つ当たりでルフィを怒鳴り、ルフィはエースに怒られキュッと口を思いっきり閉じ泣き止もうとする。


「あ゙り゙がどゔ」

「「…………」」

「たす…助げでぐれで…ウゥ…」

「てめェ!!」

「おいおいっ!礼言ってるだけだ!!」


泣き止んでルフィはエース達に助けてくれたことを頭を下げてお礼を言うのだが、頭を下げたルフィだがまた泣き出してしまい、エースが殴りかかりそうになるのを慌ててサボが抑える。
サボに止められ舌打ちを打ちながらエースはキッとルフィを睨んだ。


「大体!お前らなんで口を割らなかったんだ!!あいつは女でも子供でも平気で殺す奴らだ!!」

「喋ったらもう友達になれねェ」

「なれなくても死ぬよりいいだろ!!何で、そんなに友達になりてェんだよ…おれと!お前らおれにどういう目に遭わされた!?とうとうここまで付いてきやがって!」

「だって他に!頼りがいねェ!!」

「!!」


ポルシェーミの噂は子供のエースでも知っているが、新参者のルフィとアスカはまだ知らなかった。
それでも拷問をされ殺されそうになったのに口を閉じ続けたルフィにエースは声を上げる。
しかし、ルフィの言葉にエースは目を見張った。
ずっと黙って腕に顔を埋めてたアスカはルフィの言葉に少しだけ顔を上げる。


「フーシャ村には帰れねェし!山賊は嫌いだし…!!お前を追いかけなかったらおれ達は一人になる!一人になるのは痛ェより辛ェ!!」

「そいつがいるだろ!!」

「アスカは数に入んねェ!!」


ルフィの言葉にエースは顎でアスカを差す。
しかしルフィにとってアスカはいつも一緒にいた妹のようだから、一緒にいるのが当たり前になっていた。
アスカとルフィはお互い『居て当たり前』なのだ。
それを言えばエースはグッと口を閉じる。


「お前ら、親は…」

「じいちゃんと姉ちゃん以外いねェ…じいちゃんも姉ちゃんも海に出てるし…アスカは父ちゃんしかいねェけどもう戻ってこねェ」


親の事を聞かされ、ルフィは祖父を思い出す。
父と母の記憶はない。
姉であるミコトは父や母の顔を覚えているようだが、生憎とルフィは生まれてから物心をつくころまでずっと父も母もいなかった。
いたのは海兵として忙しい身の祖父と、たまに勉強でいなくなるがいつも一緒にいてくれた姉だけ。
しかし姉は既に海兵になり暫くは帰ってこない。
最近になってアスカが来たが、そのアスカの父ももう村には帰ってこない。
アスカ達の事情に、エースは俯く。


「…おれがいれば辛くねェのか…おれがいねェと…困るのか」

「ゔん」

「お前らは…おれに生きててほしいのか…」

「!?、当たり前だ!!」


この言葉がどんな言葉よりも緊張した。
ただ生きていてほしいのかと問いかけるだけなのに、辛くなくて困るのかと聞くだけなのに…エースの無意識に拳を握っていたその手は汗を大量にかいていた。
ルフィは強く頷き、その回答にエースは俯いていた顔を上げルフィと、そしてエースの言葉に地面を見つめていたその目をエースへ向けていたアスカへと向ける。
じっと真っ直ぐ見つめてくるルフィとアスカの目にエースはくすぐったく感じ、それを誤魔化すように頭をかく。


「そうか…でもおれはお前らみてェな甘ったれ嫌ェだしな…」

「甘ったれてねェよ!!おれは強ェんだ!!」

「強い?どこが強いんだ?男のクセに泣いてんじゃねェか!!」

「トゲで殴られた事あんのかお前ェ!!!おれは7歳だぞ!!お前みたいに10歳になったら絶対泣かなェしもっと強ェ!!」

「おれは7歳でも泣かなェよ!!バーカ!!一緒にすんな!!」

「おれは誰よりも強くなるんだよ!!すげェ海賊になるってシャンクスと約束したんだからな!!!」


エースとルフィは何故か口喧嘩が始まった。
それを見てサボはエースがルフィとアスカを認めたことを察した。
サボもアスカも2人の喧嘩を仲裁をすることはなく、サボはボソッと呟いた。


「なー、ところでよ…おれに一つ問題ができた。おれは今までこのゴミ山に住んでたけど…今日をもっておれ達4人完全に海賊達に命を狙われる事になりそうだろ…」

「……………」

「……………」

「……………」


サボの言葉に誰もが口を閉じる。







―――そして、話し合った結果、サボもダダンのところにお世話になろう、という結果になった。
海楼石を付けられたままのアスカは歩くことが出来るまで回復はしたが、その足は覚束ず、歩く速さも遅い。
最後尾を歩くアスカに見かねたサボがアスカの手を取ってダダン達がいる家まで連れてきた。
サボはダダンと会い、突然今日から一緒に住むというサボに唖然としていたダダンと一方的に握手する。


「よう!ダダンだろ?おれはサボ」

「おめェもよっぽどのクソガキだと聞いてるよ」

「そうか…おれもダダンはクソババァだと聞いてるよ!」

「余計な情報持ってんじゃねぇよ!!」


こうしてサボは一緒に暮らすようになった。
コントのような流れを見ていたルフィはアスカの手を引っ張りダダンへ駆け寄る。


「なァ!!アスカの首輪取ってくれよ!どんなに取ろうとしても取れねェんだ!それにおれも触れると力でねェし!」

「首輪だァ?」


家に戻る途中も三人は何度も首輪を取ろうとした。
だが、どんな刃物でも首輪は取れないし、頑丈過ぎて壊すことも出来ず、そして能力者であるルフィが触れると力が出なかった。
ダダンはルフィの言葉にアスカの首を見るが、その首にある首輪を見て眉をひそめる。


「こりゃァ、海楼石の首輪だね…アスカ、お前能力者だったのか」

「かいろうせき?」


まだ子供のルフィ達は海楼石という物を知らない。
首を傾げるルフィにダダンは簡単だが説明してやる。


「悪魔の実の能力者の力を一時的に奪うことができる品物さ…硬度はダイヤモンド並と言われていてそうそう壊せる物じゃねェ。」

「そんな…じゃぁアスカは…」

「…ガープに頼めば何とかなるかも知れねェが…」


海楼石は鍵がない限り外れない。
そう伝えればルフィはあからさまにしょんぼりし、アスカも俯いてしまう。
落ち込む二人にダダンは冷たく突き放すことも出来ず、優しくアスカとルフィの頭を撫でた後、いつまでも外にいるわけにはいかずひとまず全員家に入れた。
サボの件は反対してもどうせ住み着くと諦めたらしい。


「お前らに何があったとかは聞かねェし聞きたくもねェが…とりあえず今日は着替えて寝ちまいな。」

「…………」


家に着いたのは夜も遅い時間。
食事を用意するにも4人は疲れ果て食欲もない。
ダダンの言葉にアスカは静かに頷いて、サボの上着を着たまま部屋に入っていく。
その様子にダダンは首を傾げながらアスカを見送った。


「どうしちまったんだ、あいつ…」

「よっぽど怖かったんじゃニーですか?」

「なァ、"てんりゅうびとのどれい"ってなんだ?」

「「「!!」」」


いつものアスカとは違い落ち込んでいるのか静かなアスカに不思議がっていると、ダダン達はルフィの言葉に硬直した。
ダダンはゆっくりとルフィを振り返る。


「どこでそれを…」

「あいつらがアスカを見てそう言ったんだ!アスカが奴隷なはずねェのに!」


『しつれーな奴らだ!!』と怒るルフィにダダンは目を丸くし、ガシッとルフィの肩を掴むように手を伸ばす。


「それ本当なんだろうね!?」

「うん…あいつらが言ってた」

「ルフィ、本当に本当かい?背中は見たのか?」

「――見たよ」

「!」


ダダンの反応にルフィは目を丸くしながらも頷く。
それでもやっぱり信じきれずにいるダダンは何度も同じ質問をした。
背中を見たのかという問いに答えたのは、ルフィではなく…エースだった。
エースの言葉にダダンはルフィからエースへと振り返る。


「ポルシェーミが言ってた…"天竜人の元奴隷はお目にかかれない大物だって"…どういう意味だ?なんで天竜人の奴隷だったら大物なんだ?」

「…………」

「?、おい…」


世界貴族のことは分かる。
天竜人も誰もが知っているだろう。
でもまだ子供のエース達にとって天竜人の元奴隷がどれだけの価値があるのかはまだ分かっていなかった。
ダダンはエース達に見つめられ重く閉ざしていた口を開けた。


「"天竜人の奴隷だから"…それ以上説明できない」

「どういう事だよ…意味わかんねェよ!なんで天竜人って奴の奴隷だったからってアスカが売られなきゃならねェーんだ!?アスカは売りもんじゃねェー!!」

「お、おいルフィ…!」


ダダンに詰め寄るルフィをサボが宥める。
ルフィ達の会話は部屋にいたアスカにも届いており、布団を被りアスカは耳を塞いで身を守るように縮ませ、恐怖に耐えていた。

――その後、アスカはどんなに誘っても外には出ず、能力者ではなくなったアスカは草もまずくて食べれずウサギも呼べずにいた。
だがルフィとエースとサボが懸命に獲物を分け与えてくれた御蔭で空腹には困らなかったが、三人の気遣いがアスカに重くのしかかった。

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