(188 / 293) ラビットガール (188)

「海軍…ッ!?」


その男は海軍だった。
『正義』のコートを羽織っているという事は将校クラスであり、あのバスターコールにもいた中将達と同じ力を持っているという事。
ルフィがまだ眠っているというのに厄介な相手に見つかったとサンジ達は思いルフィの前に出て庇う。
しかしその庇われているルフィの傍にいるアスカの様子は違った。
アスカは目をまん丸にして驚いてはいたが、すぐに嬉しそうな表情へと変わる。
海軍の男はグーグー眠るルフィに向かって襲い掛かりグッと拳を握り…


「起きんかァ〜〜!!ルフィ!!!!」

「「「!!!?」」」

「い!?痛ェ〜〜!!!」


サンジ達が庇う前に素早い動きで眠るルフィの頭に拳で殴った。
その威力は机が壊れるほどだが…サンジ達の驚く所は違う。
打撃を無効とするゴム人間に拳が聞いたのだ。


「痛ェ!?何言ってんだ!パンチだぞ!今の!!ゴムに効くわけ…!」

「愛ある拳は防ぐ術なし!!随分暴れとるようじゃのう!ルフィ!!」

「げェ!!じ…じいちゃん!!!」

「えェ!?じいちゃん!!?」

「おじいちゃん!!!」

「えええ!?お、おじいちゃん!!?」


海軍の男とは…ルフィとミコトの祖父であり、海軍中将のガープだった。
ガープが帽子を取ればどことなくルフィに似ていた。
サンジ達がルフィの『じいちゃん』発言に驚いている中…アスカが嬉しそうにガープの胸に飛び込む。


「ちょ、アスカ!!!?」


ルフィの『じいちゃん』発言も驚くが、アスカの『おじいちゃん』発言も驚いてしまう。
サンジ達の脇をすり抜け駆け寄るアスカをナミ達は止めようと手を伸ばすが、それよりも早くアスカはガープの胸に飛び込んでしまった。


「おぉ!!アスカ!!元気にしとったか〜!?おじいちゃんじゃぞ〜〜っ!!」


ガープもアスカの姿を見た瞬間に顔をデレッとさせ腕を広げて待っててやる。
アスカの華奢な体で飛びかかろうとも海軍で鍛えたその体が揺らぐことはなく、ガープはガッシリと孫娘のように可愛がっているアスカを抱きしめた。
それどころか頬擦りをしはじめ、サンジ達はガープの名を知っており、噂とは真逆の目の前の男に唖然としていた。


「おじいちゃんヒゲが痛いっ!」

「おお!すまん!久々にアスカに会ってじいちゃん嬉しくてのお!どうじゃ?病気などせんかったか?仲間に苛められてないか?ちゃんとご飯たべてるか?風呂もちゃんとは入れてるか?睡眠もとれとるか?ん?」


ジョリジョリとヒゲを押し付けるように頬擦りするガープにアスカは最初こそ久々の再会だし、フーシャ村にいた時も洗礼をうけていたから我慢したが、止めないと永遠と頬擦りすると分かっているため止める。
止められたガープは少々残念そうな表情を浮かべるが、ミコトからアスカが海を出て海賊になったと聞いてからずっと気になり心配になった事を問う。


「もう!一つ一つ聞いてってば!!病気は村を出た時の最初だけでもうしてないし、仲間とも上手くいってるし、ご飯だって食べてるし、お風呂も毎日入れてるし、ちゃんと眠ってるから大丈夫だってば!」

「そうか!そうか!!そりゃよかったわい!!!ぶわっはっはっはっは!!!」


心配してくれるのは嬉しいが、立て続けに聞かれると答えるほうは困ってしまう。
一つ一つ聞いてほしいっていつも言っているでしょ!、とぷっくりと頬を膨らませるアスカにガープは怒られたのに関わらずデレッデレだった。
デレデレ顔でガープも久々のアスカとの再会を嬉しそうにし、アスカを抱き上げて幸せに浸っていたが、ふとルフィに目線を戻す。


「ルフィ、お前わしに謝らにゃならん事があるんじゃないか?」


ルフィは祖父の拳骨に完全に目を覚まし、幼馴染を抱いて見下ろすガープを祖父の拳骨でタンコブができている頭を抑えながら上半身を起こす。


「"ガープ"って言ったら海軍の英雄の名前よ!」

「ルフィ!本当にお前のじいちゃんか!?」

「そうだ!絶対に手ェ出すなよ!!殺されるぞ!!おれは昔じいちゃんに何度も殺されかけたんだ!!」

「………!!?」


ルフィがじいちゃんと言ったとき、ナミ達は青雉と会った時の事を思い出す。
あの時もルフィは青雉から『じいさん』と言われ動揺していた。
そして今も…
ルフィがこれほど動揺するほどの人間なのかとサンジ達は警戒を高める。
そんなルフィの言葉にガープがムッと心外そうに眉を潜めた。


「おいおい人聞きの悪い事を言うな!わしがお前を千尋の谷へ突き落としたのも!夜の密林へ放り込んだのも!風船にくくりつけてどこかの空へ飛ばしたのも!全て貴様を強い男にする為じゃ!!!」

「…今…ルフィの底知れねェ生命力の根源を見た気がした…」

「最終的には友人に託しエースと共に修行させたが…目を離してみればこのザマだ……わしはお前を強い海兵にする為に鍛えてやったんじゃぞ!!!」

「おれは海賊になりてェってずっと言ってたじゃねぇかよ!!」

「赤髪に毒されおってくだらん!!」

「シャ…シャンクスはおれの命の恩人だ!悪く言うな!!」

「じいちゃんに向かって"いうな"とは何事じゃ!!」

「ギャーー!!!ごめんなさいっ!!!!」

(その赤髪、私のパパなんだけど……まぁ…いっか…)


ガープに抱き上げられているアスカを挟み二人は言い合いを続ける。
これもまたいつもの事なのでアスカは気にしていないが、慣れていないナミ達は困惑する。
ルフィの言い方に頭にきたガープはアスカを下ろしルフィの胸倉を掴み拳を上げる。
ルフィは小さい頃からガープの拳骨を食らっている為叫んで謝るだけだった。
そんな2人を見つつ、アスカは自分の父親を悪く(?)言われているのを黙っていた。


「ダメだ…!!あのじいさんに対する闘争心はすでに折られてる!!」

「大変だーーー!!ルフィが海軍に捕まったーーー!!!」

「ルフィー!!」

「「ぐがーーっ!!」」

「えーーっ!!?寝たァーー!!?」


先ほどまで殴り殴られそうだった両者が突然眠りにつき、サンジ達は唖然とし、驚く。
アスカはいつものことなので放ってどちらかが目を覚ますのを待っていると、今回はガープが先に目を覚ました。


「おお…!イカンイカン寝ておった!!」

「ぐがー!」

「ぬ……起きんかルフィ〜〜〜!!!それが人に怒られる者の態度かーー!!!!」

「ギャーーー!!!」

「だいたい貴様じいちゃんに対しその言葉遣いは何じゃーー!!!」

「ギャーーーーーーー!!!」

(((もう…勝手にやればいい……)))


ガープとルフィのやり取りを聞きながらサンジ達は呆れ、そう思ったという。
もはやガープが海軍だとか祖父だとか…目の前で繰り広げられているやり取りでどうでもよくなったらしい。
一通り殴り終えるとルフィを解放しルフィを殴ったその手でアスカの頭を撫でる。


「痛ェ…!」


痛がり涙目になるルフィを見てガープは溜息をついてルフィを見下ろす。


「そもそも"赤髪"って男がどれ程の海賊なのか解っとるのか!?お前は!!」

「……?」

「……!?シャンクス!?シャンクス達は元気なのか!?どこにいるんだ!?」

「元気も何も…!今や星の数程いる海賊達の中で…かの"白ひげ"に並ぶ4人の内の1人じゃ!!"偉大なる航海"の後半の海にまるで"皇帝"のように君臨するそやつらを世に『四皇』と呼ぶ!!この4人を食い止め力として『海軍本部』と『王下七武海』が並ぶ!!この"三大勢力"がバランスを失うと世界の平穏は崩れるという程の巨大な力!」


可愛い孫がシャンクスばかり言うものだからガープはちょっと腹立たしかった。
シャンクスシャンクスという割にはそのシャンクスがどれ程の人物なのか知っているような様子でもなく、ガープは孫と孫娘にシャンクスの今現在の立ち位置を教える。
アスカは別れてから聞く初めての父の情報に目を丸くしており、その様子をチラリと見たガープはアスカが知らないのならルフィも同じだろうと溜め息をついた。
ルフィは祖父の話を聞き、首を傾げながらシャンクスから預かった麦わら帽子を手に取って見る。


「よくわかんねェけど元気ならいいや!懐かしいな…」


首を傾げ、なおかつ『よくわかんねェけど』と言う幼馴染にアスカは半目で見つめ、耳を軽く引っ張る。
痛くはないが反射なのか『いてて』と零しながらルフィはアスカの引っ張る手に逆らわず頭を傾ける。


「本当に分かってないようだけど…パパは海賊達の頂点なんだよ?本当に会えるの?ルフィがパパに会いに行けないんだったらエースの所にでも寝返ろうかなァ…」

「なにィー!!大丈夫!!ちゃんとシャンクスと会う!!お前まで抜けるとか言うのやめろよなー!もーー!!」

「というかアスカはじいちゃんのところに帰って来い!」


パッと手を放すアスカにルフィは逃げ出さないようガッチリ手を握る。
その掴んでいるところは手首だったからアスカは手首の傷が痛み顔を歪め、その反応にルフィは『あっ!ごめん!』と謝りながら慌てて手を放す。
その隙を突き、ガープが目に入れても痛くないアスカを抱き上げぎゅーっと抱きしめる。


「じゃから赤髪なんぞが可愛いアスカを育てるのは反対じゃったんじゃ!!娘を捨てる奴がおるか!!!」

「おじいちゃん!パパは私を捨ててないってば!!」

「可哀想なわしのアスカ!!海賊なんか辞めておじいちゃんとミコトと三人で暮らそうの〜!」

「お姉さまと…暮らす…」

「お、おい!!アスカ!!?」


ガープは元々アスカをシャンクスの娘にするのは反対だった。
海賊なのもそうだが、根無し草だったのもある。
だが一番の理由は―――気に入らないのだ。
なんたって赤髪のシャンクスはアスカだけではなく血のつながったもう一人の可愛い孫娘であるミコトをも手に入れようとしているのだから、アスカもミコトも可愛がっているガープからしたら気に入らないどころの話ではない。
ガープはアスカの弱いところを知っているため、ミコトの名前を出す。
ガープの計算通り、敬愛する姉の名を出されアスカは揺らぎに揺らいだ。
それに焦っていると後ろのサンジ達が静かなのに気付いて振り返るとサンジ達は目を丸くしてアスカを凝視していた。


「おい、みんなどうした?」

「私の顔に何かついてる?」

「大丈夫じゃ!!アスカはいつも通り可愛くてわしの自慢の孫娘じゃぞ!!!」

「アスカの…父親って……」

「ん?パパ?パパはシャンクスって言うんだけど…何?」

「「「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!?」」」


その悲鳴は部屋中に響いた。

188 / 293
| top | back |
しおりを挟む