新世界。
前半の海とは違い過酷さを増す海に、その船はあった。
白いクジラを模した大きな船。
その旗にはドクロマークが掛かれており、そのマークから四皇の一人『白ひげ』の船だというのが一目でわかる。
新世界にも穏やか海というものが存在する。
その穏やかな海の中、白ひげの船員たちはそれぞれ忙しなく動いていた。
それはいつもの光景で、白ひげ一番隊隊長であるマルコは不備がないかと忙しく動くクルー達を見つめていた。
すると…
「失礼」
ふわりと美しい女性が現れた。
「!――お前…!!黒蝶…!?」
それは本当に突然だった。
上空から落ちてきたわけでもなく、離れた船から飛んできたわけではない。
パッと現れたのだ。
勿論、四皇のクルーとしてその絶世の美女が誰かだなんて分からないマルコではなく…絶世の美女―――海軍大将黒蝶の突然の訪問に目を丸くした。
「何しに来やがった!!」
周りのクルー達もなんの知らせもなく現れた美女に一瞬だけ呆気に取られていたが、マルコの声でハッとさせ全員海軍大将の姿に剣を抜き、その剣を大将・黒蝶に向ける。
その殺気やマルコ達の声で船内にいた者たちも気づき黒蝶を囲むように配置につく。
1人の美女を、あの白ひげのクルーの男達が寄って集って睨みつけ剣を向け殺気を向けている…その姿が黒蝶から見て滑稽であった。
その滑稽さに我慢できず黒蝶はクツクツと喉を鳴らして笑う。
しかし喉をクツクツと笑いながらも上品さは欠けていないが、マルコをはじめとする各隊長、そしてクルー達にとったら敵であるという時点で耳障りでしかない。
特に隊長クラスの幹部達は黒蝶の見た目に騙されるものは少ないため余計に。
苛立った気配も勿論感じている黒蝶は周りを見渡した後、一番隊の隊長であるマルコへ目を戻す。
「かの四皇…"白ひげ"の海賊達が寄って集ってか弱い女性を囲み睨みつけるだなんて……白ひげの教育はどうなさっておられるのかしら?不躾ではなくって?女性に優しくなさらないとモテませんわよ?」
「うるせェよい!なにふざけた事言ってやがる!!大将であるお前には当然の対応だろうがよい!!大体不躾ならてめェがそうだろうがよい!!」
船長を馬鹿にし侮辱する黒蝶の言葉にマルコはいきり立つ。
だがそれはマルコだけではなくクルー全員がそうだ。
自分たちの船長、白ひげを『親父』と呼び慕う。
だからこそ今の言葉で簡単に火が付いた。
それを黒蝶は分かっていたから、揶揄うつもりで述べたのだ。
白ひげは四皇の中でも穏健派に入るだろう。
海賊なので穏健も何もないが、同じ四皇である『ビック・マム』や『カイドウ』に比べれば大人しい海賊団である。
まあ、黒蝶にしたら穏健だろうが過激だろうが揶揄えて面白いならどれも一緒なのだが。
今にもブチキレそうなマルコの反応に黒蝶は愉快そうに目を細め口を開きまた言葉を投げかけようとした。
しかし―――
「黒蝶オオオオ!!!」
「―――!」
死角から影が降って落ち、黒蝶に向かって剣を振り下ろされた。
しかし黒蝶を常に守っている傾世元禳が盾にその鋭い剣は黒蝶に触れることすらなかった。
影はギチギチと力を入れ傾世元禳を貫こうとするも一ミリも刃が入らないのを察し、カキンと甲高い音を立て弾かれたように退いた。
着地するその影にマルコは声を上げる。
「やめろ!!コテツ!!勝手に動くな!!」
影の正体は…零番隊隊長、コテツ。
コテツはマルコの声が聞こえていないように目の前の海軍大将・黒蝶を睨みつける。
その鋭さは目線だけで人を殺せるほど強く、そんな目線を向けられている黒蝶はコテツを見て目を丸くし唖然としていた。
「コテツ…?……―――!、まあ…!まあまあまあ!!コテツではありませんか!」
まだ剣を納めないコテツにマルコは舌打ちをつき無理矢理押さえ込もうと、着地した後ろにいた三番隊隊長であるジョズに取り押さえるよう口を開きかけた。
だが、それを遮るかのように驚きから帰った黒蝶の声が響く。
黒蝶はまさに素で驚いているように目を丸くしコテツを見た。
コテツは相変わらず黒蝶を睨みつけており、胸元で手と手を合わせ嬉しそうに笑みを浮かべる黒蝶に奥歯を噛みしめた。
「なんてことでしょう!あなた生きていたのね?」
「…貴様のせいで死にかけたが…おかげさまでな」
「あなたの事、探していたのよ?…インペルダウンへ搬送していた途中にいなくなるんだもの…心配してましてよ」
「ッ、嘘をつけ!!お前がおれを心配…!?相変わらずその口は薄っぺらい嘘ばかり吐くようだな…!!その減らず口を二度と叩けないよう切り刻み海王類のエサにしてやる…!!」
コテツと黒蝶の会話を聞き、マルコ達はどよめきたつ。
コテツが黒蝶と知り合いだと知らなかったらしい。
しかしコテツの様子から見てあまり親しそうには見えない。
コテツは黒蝶に何か恨みがあるように見えた。
その恨まれている黒蝶はコテツの言葉に目を丸くしたが、愉快そうに笑った。
くすくすと愉快そうに笑う黒蝶にコテツはカッとなり怒鳴り声を上げる。
「何がおかしい…!!」
「やぁねェ…コテツ、あなたがわたくしに勝てるとでも思って?―――この、海軍大将・黒蝶に。」
「…!」
「あなた…海軍本部の最高戦力、舐めていません?」
くすくすと笑われて腹立たしかったが、黒蝶の言葉に息を呑んだ。
先ほどまで愉快そうに笑っていた黒蝶だったが、突然雰囲気を変えた。
冷たい眼差しを浮かべながらも微笑みは絶やさない黒蝶に更に周りも緊張感を増した。
マルコ達も四皇という地位にいる船長のクルー。
大将ごときに怯えるほど軟ではないが、下手に動けなかった。
どちらかが動けば戦いが始まる…そう思いマルコも動くに動けなかったその時―――
「グラララ!!誰かと思えば海軍大将の小娘じゃねェか!えれェのが来やがったなァ、おい!」
特徴ある笑い声がその場に響いた。
その瞬間幹部以外のクルー達が息するのも辛いと思っていた空気が一変した。
その声の主であり、この船の主―――白ひげが現れ、黒蝶は白ひげの姿にコテツから白ひげへと視線を変える。
「親父!」
「そう騒ぐな、マルコ」
「だがこいつは大将だよい!!」
「だからだろうが。若ェがこいつは海軍大将だ…おれに危害を加える意味をよく知っているはずだ」
「…ッ」
マルコは船内から出てきた船長に駆け寄り、庇うように前に出る。
それを白ひげが止め、マルコは返す言葉もなく後ろに下がる。
これがまだ平の海兵なら話は別である。
しかし黒蝶は若くして海軍大将となった女。
実力だけで大将になれるほど海軍も甘くはない。
世界政府、四皇、七武海…これらが揃って初めて海の秩序は守られる。
その秩序の一角をこのタイミングで欠けさせるほど、海軍本部は馬鹿ではない。
それを分かっているから白ひげは刀も持たず無防備な姿でのこのこと現れたのだ。
ナースを引き連れ現れた白ひげの言葉に黒蝶は目を細め笑みを深めた。
「お初にお目にかかります、"白ひげ"エドワード・ニューゲート…わたくしは大将・黒蝶を名乗らせていただいている、モンキー・D・ミコトと申します」
「モンキー・D…?」
白ひげ用の椅子に座り点滴をナースに打ってもらい、全ての点滴を打ち終えたのを見て白ひげはナースを船内に引っ込めた。
それは無防備だとしてもいつ黒蝶とやり合うか分からないため避難させたというのもある。
白ひげは黒蝶の自己紹介にピクリと眉を上げ、黒蝶を見下ろす。
白ひげが何に引っかかったのか気づいている黒蝶はにっこりと笑みを深め、それが答えとなった白ひげは突然大きく笑い声を上げた。
「お、親父?」
グラララ、と大きな声で笑いだす白ひげにマルコをはじめとする黒蝶以外の全員が驚き戸惑いを見せる。
そんな息子たちをよそに白ひげは『そうかい』と黒蝶を愉快そうに見下ろした。
「おめェあのガープの孫か!」
「はい。おじいさまが昔お世話になりました」
「グラララ!!あのガープからこんないい女が生まれてくるとはなァ!世の中何が起こるか分からねェもんだ!!」
白ひげも海軍大将の顔くらいは知っている。
特に黒蝶はその容姿からよく新聞に取り上げられてもいたから余計に。
しかし異名と顔は知っていても本名まで出てくるものは珍しい。
そのため黒蝶の本名を知らなかったのだ。
いい女、という言葉に黒蝶は『まあ』と零し白ひげと笑いあう。
その場は先ほどの殺気立った雰囲気とは全く異なっていた。
「で?そのガープの孫が何しにきた?あいつのお遣いじゃァ、ねェんだろ?」
しかし、その白ひげの一言で再びその場に緊張が走った。
黒蝶は敵陣に一人立っているというのに平然としており、白ひげからの圧にも動じず笑みを深め白ひげの問いに答え、自身がここにきた本来の目的を告げようとした…その時――
「お、親父!!親父!!!」
「なんだ」
「"赤髪"が親父に会わせろと…!!」
見張り番だった船員が慌てた様子で白ひげに駆け寄り、報告する。
黒蝶から目を離さず息子に問う白ひげだったが、船員からの言葉に息子へと目線を送ったあと黒蝶へと戻した。
マルコやジョズ達は白ひげを見つめていた。
今、海軍大将である黒蝶がいるのだ…白ひげがどう対応するのかが気になった。
しかし、白ひげは案外簡単に赤髪を通した。
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