『ああ、通してやれ』、と簡単に赤髪の乗船許可を出した白ひげに船員は呆気に取られていたがすぐにハッとさせ船長命令に従う。
「親父、いいのかよい…まだ黒蝶がいるっつーのに…」
「まあ、構やしねェよ…小娘も四皇二人を相手にするほど馬鹿じゃなさそうだし、何よりあの小娘は争うために来たわけじゃねェみてェだしな」
「………」
マルコからしたら同じ海賊でありながらも敵である赤髪よりも海軍である黒蝶の方を警戒していた。
赤髪は古くからの知り合いみたいなモノだが、黒蝶とは今日初めて会う。
お互い新聞や手配書で名前や顔は見聞きしてはいるが…こうやってお互いが顔を合わせ生身を見るのは初めてなのだ。
そのため噂でしかお互いの事をしらず、黒蝶がどういう性格なのかも読めない。
白ひげとのやり取りを見ていると一見大人しそうな感じはするが…コテツとのやり取りを見ている限り、黒蝶は力押しでくるとも読める。
どちらにしろ、警戒しないわけにはいかない存在である。
マルコがそう思いながら睨むように黒蝶を見れば、黒蝶は眉間にしわをよせ不機嫌な表情を浮かべているのが見えた。
それをマルコは己の不利な状況をやっと理解したのかと思った。
しかしそれはすぐに間違いだと知る。
「船長!!"赤髪"を迎えます!」
シャンクスの船が前方から現れ船をつけ、赤髪シャンクスのみを乗船させる。
その部下の言葉にマルコは黒蝶への警戒を忘れないようにしながらも別の人物への警戒も高め、ついでに部下たちに警告することにした。
「くるぞ、"赤髪"が」
「若ェ衆は下がってろい、身が持たねェぞい!」
「え…身が持たねェってのはいったい…」
「いいから奥へ行ってろいっての!」
「??」
まだシャンクスと会ったことのない新入りはマルコの言葉が理解できず首をかしげる。
そうしている合間にもギシッ、とシャンクスが階段を上りこちらへと近づいているのが分かった。
ビリビリと肌を刺すような気配に気づいているのはマルコやジョズなどの隊長クラス、そして数人の部下たち。
それに気づいていないのは最近入った者たちだけだった。
すると耐えきれなかった一人のクルーが突然倒れ、その倒れた一人に続くように次々と仲間が気絶していく。
「え!?お、おい!!お前らどうした!?何が起こってんだ!?」
「ああ…もう手遅れかい……騒ぐな、気ィ失っているだけだい」
「半端な覚悟じゃあの男の前で意識を保つ事さえできねェ……相変わらずスゲェ"覇気"だ」
ジョズの言葉を聞きながらマルコはチラリと黒蝶を見る。
黒蝶は周りが倒れていくのも気にもしておらず平然と立っていた。
(当たり前か…伊達に大将を名乗ってねェってわけだねい)
そもそもこんな事で気を失うなら、白ひげの前に立ち堂々としていない。
気に入らない女だが、実力は偽りなしのようで…マルコは内心舌打ちする。
そうこうしているとついにシャンクスがこちらに到着したようで、すでに意志の弱いものは全て気を失ってしまっていた。
「失礼、敵船につき少々威嚇した。」
「てめェの顔ァ見ると"あの野郎"から受けた傷が疼きやがる」
そう言って真っ赤な髪を持つ男、シャンクスが白ひげの元へと現れ、白ひげは目を細めニヤリとさせる。
シャンクスが自分に近づいていると気づいた黒蝶は無駄だと分かりながらも傾世元禳で顔を隠す。
ズルズルと大きな酒瓶を引きずりながら近づき、船員たちを気絶させたことを詫びたシャンクスは視界に見覚えのある後姿を発見する。
その後ろ姿は誰だと分かるほどずっと恋い焦がれた姿であり、その瞬間シャンクスはここが敵船だということを忘れ、その後ろ姿の…黒蝶のところへと近づいた。
「なんだ、ミコトもいたのか?」
「……人違いではないですか?わたく…私、ミコトという名ではないですが」
「なに言ってんだ!ミコト!!どうみてもお前だろ?おれがお前を見間違うわけねェだろ!!なんだよなんでここにいるんだ?ついに海軍を辞めたのか?だったら白ひげじゃなくておれの船に乗れよ〜!歓迎するぜ!むしろ結婚しよう!!」
「……ですから、人違いだと…」
「
あ、ルフィだ」
「えっ!?ルー君!?どこ!?―――――あっ…」
傾世元禳で顔を隠している黒蝶に声をかけるシャンクスだが、黒蝶は決して頷かず人違いだと押し通そうとした。
が、それは簡単に破られた。
弟の名前を出され黒蝶は隠していた傾世元禳を下ろしてしまい、指さす方を見た。
しかしここは新世界…まだ弟は新世界には入っていないことに黒蝶は…ミコトはハッとさせ気づく。
『あっ』と声を零し口を手で覆い、ミコトはそろりとシャンクスへ振り向く。
振り返った先の男は二カッと眩しい笑顔を浮かべ、ミコトは顔を引きつりながら今再会したように装う。
「……あらお久しぶりですわね、"変態"」
「久しぶりだな!ミコト!!」
「四皇同士が会うなんて危険なマネしてまでしてなぜあなたがここに?」
「それはこっちのセリフなんだがなァ…どうして四皇の船に海軍大将が乗ってるんだ?まさか本当にやめたとかじゃないよな?だったらおれの船に乗―――」
「―――りませんわ。仮に海軍を辞めたとしても絶対にあなたの船になんて乗ってたまるものですか」
「ですよねー」
マルコ達は困惑した。
シャンクスとミコトがあたかも友人のように仲睦まじく話しているのを見て誰一人言葉を失った。
しかも海軍大将であるミコトが四皇の一人を『変態』と罵っているのに関わらず、その『変態』と罵られているシャンクスはにやにやと笑っており気分を害した様子はない。
マルコが知るシャンクスは敵だが人柄はいいとは思っている。
温厚な方でもあるだろう。
だがいくらなんでも『変態』と呼ばれてニヤニヤするほど人は良くないとは思う。
というよりはマルコだったらいくらミコトが美女でも『変態』と呼ばれた時点でイラッとするだろう。
会話を聞いているとどうやら知り合いらしく、それもまた唖然としてしまう。
海軍大将が、敵対関係にある海賊…しかも四皇と和気あいあいと話している姿は違和感しか感じられなかった。
シャンクスのペースに呑まれた事に悔しいのかむすっとさせるミコトにシャンクスは『まあまあそう怒りなさんなって』と片腕しかない腕をミコトの腰に回し密着する。
そのシャンクスの様子にマルコは『ん?』と思った。
「どこであれ、おれはお前に会えて嬉しいけどな」
「どこであれ、わたくしはあなたに会えて最悪な気分ですけどね」
「はは!そう照れるなって!」
「照れてません!!というか引き寄せるふりしてセクハラしないでくださいっ!!!」
「ん〜?でも嬉しいんだろ?」
「セクハラされて喜ぶ女性がいますか!!いいからっ!!いいかげんっ!はな、しな、さい!!」
シャンクスの腕が腰に回りグッと引き寄せられたミコトだったが、そのシャンクスの手がさわさわとミコトの腰をいやらしい手で触れ、ミコトはカッと頬を赤く染める。
まだ変態と罵るシャンクスのクルー達の前ならば我慢も出来たが、今ここは白ひげの船。
海軍大将としてのプライドがあり、敵船の中男にセクハラされているのを見られるのは出世街道を渡ってきたミコトには耐えられなかった。
覇気を纏っているため能力で放すことも出来なかった。
ミコトは覇気を使用することはできるがシャンクスとは違い覇王色の覇気ではないために、覇王色の覇気の持ち主であるシャンクスには敵わない。
久々にキレそうになりながらミコトは腰に手を回し尻も触ろうとする男の手をペチペチと愛らしく叩くしかできなかった。
いい加減ヒールでサンダルのその足を踏んだろうか!!、と思い実行しようとしたその時―――強い殺気にミコトはハッとさせた。
「オイオイ…ミコトに当たったらどうしてくれるんだ?」
ミコトが殺気に気付いた、ということは…もちろんシャンクスも気づいており、シャンクスはミコトの腰に手を回したまま飛び退いた。
ミコトとシャンクスがいた場所にはある男がいた。
「コテツ!?お前、なにやってんだよい!!」
その男はコテツだった。
流石は四皇と言う所だろうか…白ひげの隊長の剣を易々避けた。
コテツの突然の行動にマルコは声を上げる。
それでもコテツはギロリとミコトを…シャンクスを睨んでいた。
「コテツ、やめとけ」
「…………」
両者睨み合い、その場は凍り付いたように冷たく緊張が走っていた。
両者いつでも殺し合えると言っても過言ではないその空気を白ひげが一掃させた。
流石に船長命令は絶対なのか、コテツはシャンクスを睨みながら渋々戻っていく。
その隙にミコトもシャンクスから逃れ、シャンクスは離れるミコトに残念そうに見送った。
そんなシャンクスに白ひげは呆れたような目で見下ろす。
「おめェは何しにここにやってきたんだ?女にセクハラするためか?」
「まさか!ミコトがここにいるのは予想外だったからちょっと羽目が外れてしまっただけさ」
「ちょっと羽目を外してセクラハされるこっちの身にもなってみてください…いい加減にしないとインペルダウンに飛ばすわよ」
そう言ってミコトは手をシャンクスに向ける。
ミコトの能力を知っているシャンクスはニキュニキュの実を使い本当にインペルダウンに飛ばせる事を知っているため手を上げて降参ポーズを作った。
「オイ!赤髪!てめェ何しにきやがった!!いい加減用件をいえよい!!」
「お!一番隊のマルコだな?お前ウチに入らないか?」
「うるせェよい!!」
中々用件までたどり着かず、イライラが積もったマルコが赤髪に用件を聞くが、逆に軽い勧誘をされ腹立たしさも倍である。
イライラが積もるマルコの肩をジョズが叩いて慰めるが…慰めにはなっていなかった。
そんなマルコ達をよそにシャンクスはようやくここに来た目的を果たそうと白ひげの前に出て手に持っていた大きな酒瓶を持ち上げて白ひげに見せる。
「療治の水を持参した。戦闘の意思はない。話し合いたい事があるんだ」
「"覇気"ムキ出しにして現れる男の言い草か、バカヤロウ…グラララ!」
話し合いがあると言いながらも覇気で息子たちを気絶させた男の言い草に白ひげは笑った。
「親父…おれ達ァ…」
「ああ、戦争はしないらしい…二人にしてくれ」
「おれ達は構わねェが…」
とりあえず話し合いたいという気持ちは通じたらしく、白ひげは息子たちに少し離れるよう言い聞かす。
赤髪ならばそう大きな騒ぎにはならないと知っているためジョズは白ひげの命令に従おうとは思ったが…若干、一名…邪魔しそうな輩がいるのだ。
その一名にジョズはチラリと目線を送り、ジョズの言いたいことを察した白ひげもその一名に目をやる。
シャンクスは二人の目線に気付き、その若干一名…ミコトへ振り返った。
「…ミコト」
「……分かりました…」
ミコトも二人の目線に気付いているのか、シャンクスに頷いて見せ、ジョズ達と共に下がっていった。
簡単に引き下がったミコトをマルコ達は怪訝としていたが、それはミコトがシャンクスの用件を知っており、それは自分と同じだと分かっていたからである。
ミコトは敵陣で一人、シャンクスと白ひげの話し合いが終わるのを待っていた。
ミコトは海軍大将だからか、周りの海賊たちからの目線は鋭く、普通の人間なら居心地悪く感じるだろう。
しかしミコトは平然としていた。
「…あんたは何しに来たんだい」
話している内容は、下がっているマルコ達には聞こえない。
静まり返っている中、マルコは赤髪よりもミコトを警戒していた。
ミコトはマルコの問いにミコトは少し間を置いた。
「……あの人と、同じです」
「あの人……って赤髪か…?」
「はい」
「じゃァあんたは話し合いしにわざわざ敵陣にきたってわけかい?」
「ええ」
「……海軍本部最高戦力のあんたが四皇と敵意なしに話し合いかい?……気は確かかよいあんた…」
赤髪で聞かずじまいだったが、聞いてみると本当に敵意ない話し合いだったらしい。
白ひげの読みに『やっぱり親父はすげェ』とか思いながらも海軍本部の最高戦力が敵である海賊と話し合おうと思うその思考に呆れてしまう。
これは下手をすれば戦争を起こしかねない事態であるのだ。
呆れるマルコにミコトは肩をすくめてみせる。
「あら、そうかしら?海軍の勢力の中に七武海がいるでしょう?彼らも海賊ですわよ」
「だがあれは利益と引き換えに従っているだけだろ…うちは四皇なんだがねい…」
「だから話し合いができるじゃないですか」
「は?」
「世界政府が本気で四皇と戦おうと思わない限りわたくし達海軍とあなた方四皇はお互い接触はしない…それは暗黙のルールです…それなのに海軍最高戦力個人で四皇にそうそう喧嘩を売れますか?本部に知れればクビでも大将の座を下ろされるだけでは済まされませんわ…それは白ひげも重々承知の上でしたから話し合えるんじゃないですか」
「……そんな覚悟の上で…あんた、親父になにを話そうとしてたんだい」
ミコトがわざわざ軍艦を連れてこなかった理由も、個人一人で来たという理由も理解した。
だが、そんな危険を冒してまで繋がりが一切ないであろう白ひげに会いに来る理由が分からなかった。
シャンクスと同じ理由だというその内容を何気なく聞くも…ミコトは笑みを深めるだけで何も言わなかった。
その瞬間天が割れ―――話が決裂したことを知る。
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