(201 / 293) ラビットガール (201)

サニー号はガープの追跡にも逃れ、青々した空の下にのんびりと浮かんでいた。


「釣れた〜〜〜!!」

「カッチョイイサメ釣ったぞ―――っ!!」


そのサニー号で釣りをしていたルフィとウソップはサメを釣り上げ喜び生簀に入れる。
生簀に入られた魚は水槽に入れられる。
その部屋にはロビン、フランキー、アスカがサンジの運ぶ飲み物を飲み寛いでいた。
アスカは水族館のような水槽の部屋は初めてで、目を輝かせて水槽の中を自由に泳ぐ魚達を見つめていた。


「ふふ、アスカ、楽しい?」

「うん、見てて飽きない」


フーシャ村にいた時もコルボ山にいた時も、こういう遊ぶ施設もなく存在すら知らなかったし、何よりアスカは能力者だから海の中を見たくても泳ぐこともできないため、海の中にいるみたいな気もして心躍らせていた。
新しい船にはしゃいで水槽に魚を次から次へルフィとウソップが入れるから余計に水族館みたいになりつつある。
そんなアスカにサンジの淹れたコーヒーを飲んで一緒に見ていたロビンが声をかける。
アスカは壁一面に張られている水槽に沿って置かれているソファに乗り込み、膝を立てて水槽に張り付いており、目を輝かせ水槽を見上げているその姿は年相応だった。
普段冷めている反応を見せるアスカの意外な一面に触れ、ロビンもサンジも思わず頬が緩んでしまう。
ロビンも、本当の意味で仲間になり心を許すことができるようになって…保護者、とはいかないまでもアスカを可愛い妹のように接するようになった。
以前もアスカを妹みたいに思ってはいたのだろうが、気を許せなかったのもありセーブしていたのだろう。
それがやっと心許せる人と出会いそのセーブしていた気持ちが解放され行動にも表情にも出てしまうようになったのだろう。
ロビンとサンジが微笑ましくアスカを見守っていると、アスカの目の前にまた新たな魚が入ってきた。
それも泡の範囲からして大物みたいである。


「また入って来たよ」


大物らしいそれにアスカは後ろにあるテーブルでコーヒーを楽しんでいたロビンに振り返り知らせる。
泡が消え姿を現したのは…なんとサメだった。
アスカの報告に『あら本当ね』と返し、ロビンはそのサメを見る。


「今度はサメね」

「な?いいだろ?この部屋」

「部屋はいいが…サメってあのバカ共!」

「おーい!!」


新しい船についている水槽に魚を入れるのが楽しいからと調子に乗ってサメまで入れたルフィとウソップは二階から一階へと降りてきた。


「サメ入って来たか!?すげーツノはえたやつ!!」

「ええ、入って来たけど…今まで釣ったお魚はみんないなくなっちゃったわよ?」

「ギャーーーーーっ!!!」

「共存ってもんを考えろ!当たり前の事だろうが!!」


当然サメなんて入れるもんだから先ほどバンバン入れていた魚をサメが全て食い尽くしてしまった。
共存を考えないルフィ達にサンジが怒鳴るが、ルフィは釣った魚を全て食べる気だったのにサメに食べられ怒り心頭だった。


「チキショー!!今日の晩メシにしてやる!!サンジ!丸焼きだ!!こんなアホザメは!!!」

「まて、素人め…せっかく新鮮な魚だ。寿司か…湯ざらしにして…辛い酢ミソでいくのもいい…天ぷらもオツだな…」

「んまほー!!腹へってきた!じゃあ、おやつに食おうぜ!」

「夜まで待て!」


食べるつもりだった魚を全部食べられプンスカと怒るルフィだったが…アスカはそんなルフィをよそに項垂れていた。


「アスカ…そんなに落ち込まないで…また獲ってきてもらえばいいわよ…」

「…うん」


水族館みたいで気に入っていたのに、サメを入れたおかげで閉店間際のような水族館へと早変わりしアスカは思いっきり肩を落とし項垂れた。
いつもならルフィとウソップに怒るアスカが、項垂れ落ち込むのを見て流石に見てられなかったロビンがアスカの隣に移動し慰めた。
ロビンの慰めにアスカは小さく頷きながら『とりあえずルフィとウソップのほっぺ思いっきり引っ張ってやる…』と呟き、ロビンは『ああ、よかった、いつものアスカだわ』といつものアスカに戻ってホッとしていた。
そこで『安心するとこ違わねェか?』、という水色の髪のおっさんからのツッコミは両者聞いていない。
因みに一番効くお仕置きの『食べ物を横取りする』という手段に取らないのは、ルフィが食べ物に執着を持っているからではなく…ただ単に人の分も入るほどの大きさの胃をアスカが持ってないだけである。
時折一人前も食べれないほど、アスカは小食であった。
ルフィがサンジの言葉でお腹を減らしているとゾロが海に何か浮かんでいるとの報告にみんな甲板へ集まる。


「なんだ?なんだ??」

「タル!?…見ろ!"宝"って書いてあるぞ!!もしかして『宝船』の落し物じゃねェか!?」

「「お宝!?」」

「残念、お酒と保存食よ」


宝かと期待した目をする3人にナミが違うと答え、ルフィが不満げに見つめる。


「何で見てねェのにわかんだよ!!」

「『海神御宝前』って書いてあるでしょ?それは『流し樽』といって誰かが航海の無事を祈って海の守護神にお供え物をしたって事よ『宝前』は"神様へ"って意味」

「なんだ…じゃ拾っても意味ねェじゃねェか…」


ナミの説明にルフィは肩を落とし、ゾロがせっかくの酒だからと飲もうとするがウソップに怒られてしまう。


「お祈りすれば飲んでもいいのよ?」

「おれは神には祈らねェ」

「波にもまれたお酒は格別に美味しいんだって」

「そりゃ味わうべきだ!!よし!乾杯するぞ!」

「飲んだ後は空樽にまた新しいお供えを入れて流すのが慣わしよ」

「「へー」」


ロビンの言葉にチョッパーとアスカが感心したように声を揃える。
しかし2人ともお酒は飲めないのでさほど興味はなさそうだった。


「開けろ開けろ!早く!!」

「おい!神様ー!!おやつ貰うぞーーー!!」

「空島で"神"をぶっ飛ばしてきたのはどこのどいつだよ…」


ルフィが空を見上げ忍者のように手を組んで神に頼み、そんなルフィにゾロが呆れたように突っ込まれる。
あの雷神が神になるのなら、もう天に祈る神はいない事になる。
とりあえず神とやらへ祈りルフィはタルをあける。
すると開けた瞬間…ポシュッ、と音をして何かが上がっていき、赤い光りがルフィ達を照らす。


「!?」

「何だ!!?」

「…赤い光……!?」

「まぶしい…」


上を向くルフィ達は首をかしげ、光りが収まるとタルへ目を移す。
ナミは慌てて下へ降りてくる。


「何!?どういう事!?」

「酒が飛んで光って消えた!!」

「"発光弾"よ」

「はっはっはっ!!海の神の呪いじゃねェのか?」


驚く中、ゾロは大笑いして不吉なことを言い、ロビンはどこか考えるような仕草を見せて呟いた。


「…ただのイタズラならいいけど…もしかして…この船はこれから誰かに狙われるかも知れない…」

「!」

「まさか…そういう罠なのか!?樽を開けた事でおれ達がここにいると今誰かに知らせちまったのか!!?」

「どこにも誰も見えないぞ!?」


ロビンの言葉にチョッパーは手すりに乗り望遠鏡で周りを見渡すが辺りは海ばかり。
ナミも周りを見渡すが、それよりも気圧の変化に気付き急いでみんなに指示をする。


「みんな持ち場に!!南南東に逃げるわよ!"大嵐"が来る!5分後よ!!」

「見えねェけどあいつが言うんだからまた急に来るんだろうな…ナミ!進路は!?」

「2時へまっすぐ!!」


ナミの指示通りみんな慌しく動いていると予想通り大嵐が直撃する。


「……!!ダメだ…完全に向かい風!」

「オイ!!この船の力はこんなもんか!?」

「そっか…!みんな!帆をたたんで!"外輪"出すわよ!!」

「おお、アレか!」

「うおー!アレかっこいいから好きだ!!やれー!!」


帆をたたみ、サニー号に搭載されている外輪を出して嵐の中を進む。
しばらくすると嵐は抜けるも霧の中に入ってしまったのか、周り一面深い霧で薄暗く見渡しが悪い。


「はあ…越えた…」

「越えたはいいが…何だこの海…まだ夜でもねェだろうに……霧が深すぎて不気味な程暗いな」

「……もしかして…例の海域に踏み込んだって事かしら…まだ心の準備が…」

「お!?もう魚人島に着くのか!?」

「いや!その前のオバケが出る海だ!!」


あの時いなかったウソップはみんなの言う例の海域というものを知らない。
だからこそ、ココロの話を聞いていなかったウソップはもう魚人島に着いたのだと喜んでいた。
そんなウソップにルフィがからかい、ビビリなウソップの反応に面白おかしくフランキーもルフィと一緒に恐がらせる。
まるで中学生のようなルフィ達にアスカは呆れたように肩をすくませた。


「そうだ、気ィ抜くなよ…まさにこの海域はもう…あの有名な"魔の三角地帯"」

「!?」

「…何もかも謎に消える怪奇の海だ…」

「え…オ…オバ…オババ…オバ…」

「オバケ出るんだ!ここの海!!」


ビビリにこの話はキツすぎたのか、あっという間に汗がドッと流れる。
そんなウソップにルフィは笑ってウソップの代わりに答えたが、当然ウソップは思いっきり怯えた。


「ふざけんなーーーー!!何だみんな知った風だな!おれァ聞いてねェぞ!!そんな話!!」

「ココロばーさんが教えてくれたんだ!生きたガイコツがいるんだぞ!!」

「そりゃお前のイメージだろ…ムダにビビらせてやるなよ……いいかウソップ…この海では毎年100隻以上の船が謎の消失を遂げる…さらに死者をのせたゴースト船がさ迷ってるってだけの話だ…」


ガイコツに会いたいのか、ルフィはものすごく嬉しそうにしていた。
怯えすぎるウソップにサンジは止めてやるもマッチに火をつけて余計怖がらせていた。
案の定ウソップは体を震わせ喚く。


「ギャアアアアアア!!いやだァ!!!先に言えよそんな事!!」

「言ったらどうしたんだよ」

「準備だ!悪霊退散グッズで身をかためねば!!」

「ウソップ!!おれにも貸してくれそれーーーー!!」


チョッパーも知っていても恐いものは恐いらしく、ウソップの足にしがみ付いて自分も貸してくれとねだっていたその時、深い霧の中から不気味な変な歌声が響く。


「?何だ…音楽……?」


その不気味な歌声にウソップは振り返ると…サニーより倍の大きい船が背後からゆっくり姿を現す。


「「「出たァ〜〜〜!!!ゴースト船〜〜〜〜〜〜!!!!!」」」


ロビン、アスカ以外は驚き、悲鳴を上げて幽霊船を見上げた。
声を上げるルフィ達をよそにその薄気味悪い歌は途絶えることはない。


「何なの!?この歌…」

「悪霊の舟歌だ!聞くな!!耳を塞げ呪われるぞ!!」

「え〜〜〜〜〜!!?」

「ゴーストが話しかけてきても耳をかすな!!応えたら海へ引きずり込まれるぞ!!悪霊は道連れを求めてる!」

「…この船に…誰が乗ってるっていうの…?」

「フン…敵なら斬るまでだ」

「いるぞ…なにか」


騒ぐチョッパーとウソップの声が負けじと響くなか、船はゆっくりとサニー号を横切り、次第に人影らしきモノが現れる。


「…ビンクスの酒を…届けに…ゆくよ…」


そこに居たのは人でも獣でもない…アフロを生やす人骨だった。
人骨は立って手すりからルフィ達を見下ろし、紅茶を優雅に飲んでいた。
人骨を乗せた船はゆっくりとサニー号の横を通りすがる。

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