カチ、カチ、と時計の針の音でアスカは目を覚ます。
部屋に戻った後アスカは布団に籠っていた。
いつの間にか眠っていたのか、もそりと体を起こし時計を見れば時計の針が30分進んでおり少しの間眠っていたらしい。
「……いやな…ゆめ…」
アスカは夢を見ていた。
あの、奴隷の夢。
人でも生き物でもなかった夢。
ただの道具の夢。
最近あの二人の男の夢さえ見なかったため、はっきり覚えている夢は久々な気がした。
手を見れば悪夢を見たからか震えていた。
ベッドから降り船の外へと出れば、そこにはサンジ、ウソップ、フランキーはいるがルフィの姿がない。
あの時は青顔をし体を震わせ恐怖に耐えていたから覚えていないのだろう。
「アスカちゃん!もう平気なのかい!?」
「うん、もう大丈夫」
部屋から出て芝生甲板へ下りればアスカに気付いたサンジが駆け寄ってきてくれた。
小さく笑って見上げれば相変わらず女に弱いサンジはメロメロとなる。
「ルフィは?」
「ああ、あいつらならナミ達と島に行って楽しんでるんじゃないか?」
「ゾロもさっき1人で行ったしな」
「え?1人で?大丈夫なの?」
「…まぁ…このヤルキマン・マングローブに書かれてる番号に辿ればって行ってたから大丈夫だと思うが…」
「…案外番号間違えたりして………」
「まさかー…なぁ…?」
「ああ、まさかー………」
「「「……………」」」
ルフィが島に降りたことはなんとなく予想はしていた。
5秒とも同じ場所にいられず、更には冒険大好きなのだから新しい島を目の前にお留守番はありえない。
少し前にゾロも降りたと聞き、アスカは一瞬迷子確定という言葉が浮かび上がった。
しかしウソップの言葉に確かにとは思ったが…アスカの言葉にアスカも含めた4人全員の口が閉じた。
ありそうで怖い…4人は心の中で声を重ねた。
4人はしばらく無言が続いたが、アスカは出かけるため船に降りる。
「あれ?アスカちゃんも出かけるの!?」
「うん、ルフィを探しに。ついでに気分転換で散歩してくる。」
昔と変わらないのなら、今も世界貴族がいる可能性が高い。
だから本当は船から降りない方が安全は守られる。
だけど今すぐルフィに会いたかった。
会って、安心したかった。
サンジ達の返事も待たず、アスカは船から降り、ゾロ同様シャボンディ諸島へと入っていった。
人を避けて歩いていると、どうしても治安の悪い場所へとたどり着いてしまう。
それはすなわち人買い、そして賞金稼ぎが多くなっていくという事。
特にシャボンディ諸島は海軍本部も近いという事と、新世界へ入る海賊達が各自別ルートで航海してもここにたどり着くというのもあって、賞金稼ぎのレベルは高い。
ここに来る途中もアスカは絡まれていた。
「お前…!麦わら一味だな!!」
「"冷酷ウサギのアスカ"!!確かにこいつだ!!」
「へへ!!1億5000万ベリーの賞金首がノコノコ一人歩いているとはなァ!!しかも1億5000万もの賞金がついているからどんな大女かと思えば…ただの小娘じゃねェか!!」
しかし、アスカも伊達に未来の海賊王のクルーを…しかも無理矢理とはいえ副船長をしていない。
勿論、ここに来る途中絡んできた連中は全て沈めている実力はある。
流石にルフィやゾロ、サンジほどの強さはないが、その辺の雑魚には負けるほど弱くもない。
しかし能力がなければその辺の小娘以下だというのは自覚している。
アスカは背後からご丁寧に声を大にしながら現れた賞金稼ぎに苛立つ。
振り返って見て見れば大男が数人おり、グループで稼いでいるらしい。
正直この賞金稼ぎで何人絡まれたのか覚えてないほど、賞金稼ぎや人買いに絡まれてきたのだ。
能力を出すときは必ず、ぴょこんと出るウサギの耳としっぽを出しながらアスカはイライラしながら振り返る。
今のアスカの姿は、美少女の見た目にうさ耳うさのしっぽとくれば男心擽る姿となっており、賞金目的の男達の目が金ではなく色に変わっていくのを見た。
しかも絡んでくる男全員、である。
性関係に慣れているとはいえ、好き好んで慣れたわけではないから今のアスカの気分は悪いどころではない。
「うっひょ〜!おい!!見ろよ!!すげえー上玉!!」
「こりゃ他の女共も当たりかもしれねェな!!」
「異名からして能力は"動物系"…しかもウサギと来た!!こりゃラッキーだったぜ!!とっとと捕まえようぜ!」
「おい!じゃあよ!捕まえたらちょっとこいつで遊ばねェか?飽きたら売りゃァいいんだし!」
現代でも写真映りが悪い人がいるように、この世界の手配書も美女に映っていても実際はそれほど美女ではない場合もあるのか、振り返ったアスカの顔を見て男たちは明らかに興奮した顔を浮かべアスカは眉間にしわを寄せ不快感をあらわにする。
アスカは動物ばかり(しかも非人間の野生がほぼ、アスカ曰く透明の変態と猫科の変態は数には入らない)モテているから忘れがちで、更に付け加えれば同じ船に乗っているナミとロビンが美人すぎてまだ子供のアスカは眼中にされていないが…実はアスカは美少女である。
手配書<<実物、と期待した以上のターゲットに男達は興奮冷め止まぬままその手をアスカに伸ばす。
仲間の言葉にすでに男達の頭の中ではアスカを穢すことで一杯なのか顔が緩みっぱなしだった。
「…………」
アスカはこの目の前の男達のような下卑た目線を向けられるのは珍しくはない。
どうやら自分は幼いころから変態ホイホイなのか、ロリコンどもに目を付けられやすかった。
アスカを保護し父となってくれたシャンクスと別れルフィと共にコルボ山にいた時も女と見れば赤子でも欲情する男どもに何度も手をかけられかけ誘拐されかけた。
勿論、その男達は丁重にアスカや、ルフィ、エース、サボに追い返され倍にして仕返しされたが…それでもロリコン変態野郎どもの数は減らなかった。
だからアスカだけは自分の国を作らずダダン達と寝床を一緒にしていたという理由もあったのだが。
アスカは『ルフィから離れた途端にこれか…』と襲われているというのに余裕を保ち溜息をつく。
「可愛がってやるかな〜!」
ぐへへ、とありきたりな変質者の笑い方をしアスカを穢すことで頭をいっぱいにさせている大男の毛むくじゃらな手がアスカに伸ばされ、触れようとしていた。
アスカは溜息をついた後、伸ばされた大男の腕に手を置き、タン、と軽く飛び上がる。
「へ?―――ッブ!!」
アスカが自分の腕に触れ飛び上がっても体重を感じさせなかった。
違和感があったが、それを疑問に思う前にアスカの蹴りが大男の顔面にヒットしたのだ。
ヒールだったら恐らく片目を潰されたであろうその衝撃に耐えられず、大男は一発で気を失い仰向けに倒れた。
「お、おい!!」
「てめェ!このクソガキがァ!!」
大男が倒れる寸前に、アスカは大男の顔を弾くように離れ着地する。
仲間が仰向けに倒れ気を失うのを見てカッとなった仲間達は少女の姿のアスカを無傷で捕まえられると思い収めていた武器を手に取る。
銃を得物としている大男の一人が先行としてアスカに向かって銃弾を放つも軽々と避けられ一気に間合いを詰められてしまい…腹に一発蹴りを入れられ気絶する。
(よわっ!)
先ほどから思っていたが、ここにいる賞金稼ぎや人買いは一発二発食らわせばすぐに気絶するほど弱かった。
というよりかはアスカが強いのだが、それにアスカが気づくことはないだろう。
もう一人…剣をアスカに向けて振り下ろすが、その剣をアスカはそのまま片足を軸に回し蹴りで剣を蹴り飛ばす。
「ま、待て!!待ってくれ!!悪かった!!謝るから…ッ!!」
剣をひと蹴りで手から蹴り飛ばしたのを見て仲間の大男は顔を青くさせ手を振って待ったをかけようとする。
しかしここに来るまで数え切れないほど絡まれ苛立っていたアスカが待ってくれるはずもなく、アスカは飛び上がって回し蹴りを一発入れる。
右の上段の回し蹴りを食らった男はそのまま吹き飛び気絶した。
「―――!」
着地し、全ての賞金稼ぎを倒したと思ったアスカは背後からの気配に前方へと飛び退く。
するとそこには別の賞金稼ぎが現れ、アスカがいた場所には網がかかっていた。
「チッ!外したか…!」
どうやら同業者の大男たちを伸していくアスカを観察し、賞金稼ぎは隙を突いたつもりらしい。
舌打ちを打つ男の手にある網からアスカは嫌な気配を感じ、無意識に『海楼石』と呟いた。
その呟きに男はニヤリと笑う。
「そう!こりゃァてめェら能力者を捕まえるための海楼石入りの網だ!!海楼石入りだから高かったんだぜ〜!!」
『その分稼がせてもらってるけどな!!』、といらない情報と共に入ってきたその情報にアスカは嫌そうに眉間にしわを寄せる。
海楼石に人一倍弱いアスカはその気配ですでに力が抜けそうな気がしてならなかった。
男は一度失敗したがまた網を引きブンブンと振り回して勢いをつける。
まるで漁をしているような男にアスカは不快感を深めた。
ヒュン、と網が投げられアスカはその男の懐に入ろうと足に力を入れる。
男は能力者を無効化させる海楼石をある意味神格化しているように見え、アスカはハンッと鼻で笑う。
「海楼石入りの網を使おうが隙だらけじゃ意味ないじゃないんじゃない?」
そう呟きながらアスカは男の懐へ入り込みアスカは腹に一発、拳を入れる。
腹に殴られた男はツバのようなものを吐き出した。
この男もアスカはすぐ気絶すると思っていた。
だがその気の緩みが仇となる。
男から離れようとしたアスカを―――男が抱きしめる形で拘束した。
ガシリと抱きかかえられアスカは息を呑む。
硬直したアスカをよそに抱きしめている男はクツクツと笑う。
「へへ…!!つーかまーえた〜」
「…!!」
自分の体を犠牲に男はアスカを捕まえる事に成功する。
アスカは突然の事で驚き、体が硬直しているのか動けずにおり、男の不衛生の体の匂いがアスカの鼻をかすめる。
そんなアスカに男は気を良くし思いっきりアスカの匂いを嗅ぎ、香水臭い女とは違うアスカ自身のその匂いに男は更に首筋に鼻を近づかせ匂いを嗅ぎ続ける。
男は久々の女の体に調子に乗り、抱きしめて拘束している腕一本をそのまま下へと移し…―――アスカの小さなお尻を鷲掴みする。
その瞬間アスカの体にぞわりと悪寒が走った。
「ひ…っ!」
猫科の彼に無理矢理体を開かされてから、久々の快楽に体は思い出し熱っぽい触れ方に簡単に体が熱くなるようになった。
小さなアスカのお尻を揉む男にアスカは小さい悲鳴を零す。
それに気を良くした男はニンマリと笑い『売る前に楽しませてくれそうだなァ』と三下のようなセリフを吐く。
「この…ッ!!」
その言葉にアスカはカッとなり、力なら能力で突き飛ばそうとする。
しかし―――
「"ROOM"」
聞き慣れない声がアスカの耳に届いた。
その瞬間アスカを中心に半透明のドームのようなものが広がり、アスカは男に抱きしめられセクハラされているというのに突然自分たちを囲むように出てきたドームのようなものに意識を奪われた。
男はアスカに夢中で気づいておらず、抵抗なくしたアスカの体を撫で繰り回していた。
だが、
「"シャンブルズ"」
また聞き慣れない男の声がしたかと思えば、アスカの視界が一気に変わる。
男の何日も洗っていないと思われるほど汚らしい服しか映っていなかった視界だったのに…一瞬にしてアスカは男の拘束から逃れ、その男は何故か白クマに殴られていた。
「…?」
アスカは突然視界が変わり、ギュッと強く拘束されていたのが突然解放され足元をふらつかせて後ろに倒れそうになった。
それを誰かが腕一本で受け止め、アスカは尻もちをつくのを逃れる。
アスカはキョトンとなり目を瞬かせながら『アイ〜〜ィ!』と甲高い声で叫びながら自分にセクハラした男を蹴り飛ばしているオレンジ色の服を着た白クマを見ていた。
「キャプテンっ!終わったよ!」
「全員川に投げ捨てておけ」
「アイアイ〜〜!」
白クマを見つめていると、白クマはこちらを…正確に言えばアスカの斜め上へと振り返った。
唖然としているとアスカの頭上から不機嫌そうな低い声が聞こえ、アスカは恐る恐るその声の方へと顔を上げる。
そこには白い毛皮の帽子を被った青年がいた。
青年の命令通り白クマや後ろにいたであろう青年の連れの男達が賞金稼ぎや人買いの男を近くの川へと捨てはじめ、アスカはドボンドボンと重いものが川に落ちる音を耳にしながら青年を見上げていた。
その目線に気付いたのか、青年はふとアスカを見下ろし、アスカは青年と目と目が合う。
眠れていないのかその青年の目の下には隈が出来ており、顔色もいいとはいえない。
健康男子な麦わら一味の男性陣にはいないタイプの男だった。
「アスカ、怪我はないか?」
その青年はアスカの金色の目と目が合うと鋭い目つきを不意に和らがせ、フ、と笑う。
―――その青年の笑みを見た時…アスカは一瞬、あの夢に出てくる男の人の声が聞こえた気がした。
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