場所を移し、アスカは今カフェにいた。
お詫びとは食べ物を奢ってくれることだったらしく、このまま売り飛ばされたら殺してやろうと物騒なことを思い警戒していたアスカは可愛らしいカフェに入るローに呆気にとられた。
あっという間に手を引かれながら店に入り、あっという間に席につかされ、あっという間にメニューを渡され、あっという間に注文したものが目の前に運ばれてきた。
「…"死の外科医"」
「ん?」
「ってあんたの事?」
「…………」
頼んだのはパフェ。
お詫びなのだから高いヤツを頼んでやる、とアスカにしたら大きすぎるパフェを選んだ。
パフェスプーンで生クリームを掬い食べていると、不意にここに来る時に周りが話していたことを思い出しローに問う。
パクリ、パクリと生クリームやアイスを食べているアスカをローは目を細め微笑ましそうに見つめながら自分はコーヒーを飲んでおり、その目線がアスカは若干気まずく感じていた。
チクチクとローからのそういう意味合いでの目線を感じながら思い出した問いをすれば、ローはにこりと笑みを深め肘をつくだけで答えない。
それは答えたくないからではないのをアスカは気づいた。
「………"死の外科医"って…ローの事、なの」
ローはまたアスカが『あんた』と言っていたから答えなかった。
それに気付いたアスカは『面倒臭いなこいつ』とちょっと酷い事を思いながらも言いなおし、言い直したアスカにローは頷いた。
「ああ…おれは"ハートの海賊団"の船長をしてる」
「ふーん…じゃあ、こいつらはあんた…ローのクルーなんだ」
「そうだ」
「このクマも?」
「ああ」
ここに来る間、人が少ないところから人通りの多い場所へと移り、みんなアスカとローをチラチラ見ていた。
周りの目線が気になったアスカの耳に『おい、あれ…"東の海"の"冷酷ウサギ"じゃねえか?』やら『あいつは"北の海"の"死の外科医"じゃねェか…珍しい組み合わせだな』と話しているのが聞こえ、少し気になったのだ。
ローは『ハートの海賊団』の船長らしく、ベポ達がキャプテンと言っていたから分かっていたため驚きはない。
チョッパーがいるが喋るクマも珍しく、近くの席で仲間達と楽し気にパフェやらケーキやらを食しているベポを珍し気に見ていた。
「おれもアスカの事が知りたいんだが…聞いてもいいか?」
「好きにすれば」
『ふーん』と呟きながらまたアスカはパフェを口に運ぶ。
まだ半分も食べていないがそろそろお腹が一杯になりそうだ…ルフィがいればあげるのに…、と思っているとローがまた質問してきた。
今度はアスカではなく、その周りの事だった。
「アスカは麦わら屋の仲間なのか?」
「麦わら、屋?」
変な呼び方をするローに首をかしげたが、それがロー独特のあだ名だと気づき一々反応すると進まない気がして触れないことにした。
とりあえずルフィの仲間かと聞かれアスカは頷いて見せる。
「麦わら屋とはどこで出会ったんだ?」
「どこでって言っても…ルフィとは幼馴染だから最初からだけど」
「…幼馴染?」
「うん…記憶喪失になった後拾われてルフィと同じ村で住んでたから」
「…………」
ローは幼馴染、と聞きピクリと眉を挙げた。
その表情は無表情にも近く、不機嫌さを見せる。
しかしアスカはパフェを完食しようと頑張っており気づいていない。
ルフィと幼馴染というのが気に入らず舌打ちを打つが、アスカの機嫌を損ねたらと考え気を取り直すことにした。
「アスカのところは女もいるんだな」
「ん?んー…うん、ナミと私とロビン。」
「あとは男か…タヌキもいたな、そういえば」
「そうだね、あとは男だね…あとチョッパーはタヌキじゃなくてトナカイだから」
「ペット、だったか?」
「んーん、船医」
「……船医?トナカイがか?」
「ヒトヒトの実の能力者だから…ドラム王国出身だし」
「ああ、なるほど」
「ドラム王国知ってるの?」
「ああ…医者の国だからな」
質問に答えるだけだが、ローはそれでもアスカの事を知れると機嫌は直っていく。
ただ、女3人、男5人という海賊団にしては女の数が多い麦わら海賊団にアスカもいるというのが気に入らなかった。
というよりかはその海賊団に男がいる…しかも親しい幼馴染という存在がいるというのが気に入らなかった。
因みに男5人という情報はブルックが仲間に入る前のW7での手配書による情報で、骨がそのあと仲間入りしたことはローは知らない。
そして、その男5人の中にチョッパーは入っていなかった。
ローがドラム王国の事を知っている風だからアスカは『はむ』、とパフェスプーンを加えながら首を傾げたが、ローの返した言葉に納得した。
アスカはあの時高熱で魘されて全く知らなかったが、チョッパーの出国は『偉大なる航路一とされる医療技術を持つ』とも言われている事をアスカは後で知る。
『そういえばチョッパーにそれを教えてもらって『チョッパーってすごい』って言ったらめっちゃ照れてたなァ〜』と思い出し笑いを浮かべ、その笑みにローは目を細めむっとさせる。
「…恋人は」
「?」
「恋人はいるのか」
ローはなんだか自分の口の中が乾いている気がした。
否、気のせいではないだろう。
不機嫌に装ってはいるが、実際不機嫌ではある。
だが、今は緊張していた。
キョトンとさせるアスカがどうしても見れず、ローは自然と目を伏せコーヒーを見下ろす。
ドキンドキン、と緊張で早まる鼓動を感じながらアスカが答えるのを待つ。
その間は正直生きた心地がしていなかった。
もし、アスカの口から『いる』と答えたら…ローは自分がどう行動するか分からなかった。
アスカはコーヒーへ目線を落とすローを見つめながら…
「いないけど」
そう答えた。
嘘偽りなしの答え。
アスカの言葉に伏せていた目線をローはアスカに向ける。
顔を見る限りローの問いの意義が分からないと言わんばかりに不思議そうな顔をしていたが…ローはそれを見てホッとしたが、すぐには信じられなかった。
「……本当か?」
「本当。」
「……隠しているのではなく?」
「隠す必要あんの?」
「……嘘ではないんだな?」
「…あのさァ…何疑っているのか分からないけどさァ…ルフィ達が恋人とかありえないから…あいつらを男として見た事なんてないし、あっちもこっちを女として見てないから…変な疑いやめてくれない?」
ローからしたら気になる事だが、初めて会った人間から恋人がいないことを疑われたアスカからしたら『なんであんたに教えなきゃいけないの』くらいしか思わないし、疑ってくるローに苛立つ。
だけどローと出会ってからどうしてもローを邪険にはできなかった。
それはアスカが一番不思議だった。
アスカの『ルフィ達を男して見ていない』という言葉やアスカの不機嫌な回答にようやく納得したのか、『そうか』と安堵の息をつきながらローはコーヒーを飲む。
そのローをアスカはじっと見つめ、その目線に気付いたローがコーヒーの入ったカップを置き『どうした?』と問う。
「…今更だけど…なんで私の名前知ってんの」
「本当今更だな……だから言ったろ?おれはお前を知ってるって…アスカの名前はお前が教えてくれたんだぞ?内緒だってな。」
「…じゃあベポ達は」
「あいつらはお前たちの手配書で知ってるんだ…良くも悪くもお前たちは有名だからな」
「有名?私達が?」
ずっと気になった事をアスカは聞く。
出会った時からロー達はずっとアスカを名前で呼んでいた。
それが気になった。
ローは消えた記憶の中で知り合ったらしいからそれは疑問には思わないが、ベポ達が親し気に話しかけてくるのも気になった。
聞けばローから聞いていたようだが、一番の理由はアスカ達の手配書だという。
有名だというローの言葉にアスカは首を傾げた。
一味全員周りの事は無関心だからなぜ有名なのだという感覚でしかない。
ルフィは3億の首だが、それ以上の首だっているのだ。
賞金で話題になっているとは思えない。
となると……考えても分からなかった。
本当に分かっていないようすのアスカにローは苦笑いを浮かべる。
「エニエス・ロビーの事だ」
「!」
頑張って食べた結果、あと少しで完食となったパフェをアスカはスプーンで掬った。
しかしローの言葉にアスカはピタリと手を止める。
その反応にローは目を細め、アスカは忌々しい猫科を思い出し『うげ』と顔を歪める。
「…それ、有名なんだ」
「ああ…なんたって世界政府に喧嘩を売ったわけだしな」
『麦わら屋はイカレてると有名だ』と零すローにアスカは幼馴染を悪く言われたが言い返せないため掬った物をローの口に入れ込んだ。
もう、パフェは食べられなかったようである。
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