シャボンディ諸島の中で一番繁盛しているだけあってそのヒューマンショップは威圧感を放っていた。
しかしアスカはそれだけではない。
ここから先は人を人とも思わない人たちのたまり場なのだ。
それも過去、商品として舞台に立っていた店である。
威圧感うんぬんではなく、恐怖からアスカは迫力を感じていた。
「どうした」
「……………」
ローは手を引っ張っていたアスカがヒューマンショップの入り口前で立ち止まり店を見上げている事に気付く。
振り返って見た店の看板を見上げるアスカの顔色は悪く血の気がない。
ローの手を握る手の平には汗が掻かれ微かだが震えていた。
それまでアスカがどこか怯えているのに気づいてはいたが、声をかけても『大丈夫』だとしか言わなかったため無理矢理連れ出すのをやめるわけにはいかなかった。
初めて足を止め、ローは心配になったのかアスカの顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「だ…大丈夫……行こうっ!」
「あ、あぁ……」
心配なのはローだけではなくベポも同じで、心配そうにベポが後ろからアスカの背を見ていた。
何となくそれが目に入りながらローが問えばアスカはハッと我に返り、店に入っていく。
中に入るとすでに人が入っていた。
アスカは周りを見渡して天竜人が居ないのを確認し、ホッと息をつき席に付くが、無意識なのかすぐ逃げれるようにと空いていた後ろの方に座った。
会場は既にほぼ満席状態で、アスカは店に入った瞬間から心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいに強く脈打ち続けており、すでに心臓の音しか聞こえていない。
アスカの横にローが座りその周りをベポ達が好きな席に座った。
相手は名の知れた海賊だからか、他の観客たちは避けて座っている。
(あまり変わってない…)
そう思いながらアスカは拳を握る。
アスカはここを知っている。
ここはシャボンディ諸島で、アスカが最も来たくなかった場所だった。
アスカはここで天竜人で買われ地獄以上の思いをしてきたのだ。
売買が始まるまでの間、アスカは俯いてローの手を握っていたがローが手を離してしまい不安気にローへと顔を上げる。
ローは離した手をアスカの肩にやり引き寄せ、もう片方の手でアスカの震える手を繋ぐ。
その行為にアスカは目を丸くしローを見つめるがローは優しげな目をして見つめていた。
男の優しげな目に慣れていないアスカはすぐ目を逸らし俯くが、縋るものはなんでも縋りたいと思うほどアスカに余裕はないのかローに体を預ける。
ただそれだけなのに、少しだけ気分が楽になった気がした。
「これは…!ロズワード聖!シャルリア宮!!」
「!!」
スタッフの声とその言葉にアスカは体をビクリとさせた。
体は異常なほど震わせ、冷や汗をかき過呼吸に近い呼吸を繰り返す。
ローはそれを見て眉をひそめ、アスカの手を握る手を強くする。
その間も天竜人はスタッフに案内され店内へ入ってくる。
「いらっしゃいませ!!会場ではヒザつき等の作法無礼講に願いますが…」
「構わんえ。競りにならんからな」
「ありがとうございます!ではVIP席へ!!」
「チャルロス兄さま遅いアマスね……」
「グズな"人間"などに乗るからだえ…乗るなら魚人に限る。腕力が人間の10倍あるからな」
そう言いながら天竜人は俯くアスカを通り過ぎ席に着く。
天竜人が通り過ぎるまでアスカは生きた心地がしなかった。
「『天竜人』……!『奴隷』に『ヒューマンショップ』…」
(わっ…!あいつ…"南の海"のキャプテン・キッド!!)
周りの客はその男を見てどよめきだし、傍に居た男の話を聞き後ろを振り返るとそこには真っ赤な髪と瞳を持つ目立つ男…億越えの賞金首を持つキャプテン・キッドが立っており、その後ろにはキッドにも負けないような派手な男達が立っていた。
「欲をかいた権力者の純心に比べたら世の悪党の方がいくらか人道的だ…クズが世界を支配するからクズが生まれる……こんな事もわからねェか。おれ達は悪気がある分、かわいいもんだなキラー」
「違いない…」
「面白ェ奴がいたら買って行こうか、ハハハ…!」
冗談か、本気か…キッドが笑っているとクルーが不意にロー達に気付く。
傍にいたそのクルーが船長であるキッドに声をかける。
「キッドの頭、アレを…」
「ん?見た顔だな…」
「"北の海"の2億の賞金首、トラファルガー・ローだ…ずいぶん悪ィ噂を聞いてる」
「行儀も悪ィな…」
ローもキッドに気付いているのか横目で見つめいつも通りの不敵な笑いを浮かべ中指をキッドへ向けた。
その挑発にキッドは同じく不敵な笑みを浮かべるもローの隣に居る少女に少し目を見張る。
「あれは…"東の海"の"冷酷ウサギ"じゃねェか…なんであいつと…?」
ローの隣にいるのは"麦わら海賊団"の一味であるはずのアスカ。
ハートの海賊団との繋がりもなさそうなアスカとローとのツーショットに怪訝さを見せる。
アスカは名前を呼ばれても一杯一杯のため、振り返る余裕もなく俯いたままだった。
その時スタッフが舞台へ上がる。
「それではみなさん!長らくお待たせ致しました!!まもなく毎月恒例1番グローブ!ヒューマン大オークションを開催致したいと思います!!司会は勿論この人!歩くスーパーバザールこと〜!!Mr.〜〜〜〜〜ァッ!ディスコ!!!!!」
「どうも皆様!!今回も良質な奴隷達を取り揃える事ができました!皆様ラッキー!本日は超目玉商品もございます!お好みの奴隷をお持ち帰り頂けます事を心よりお祈りしております!!それでは早速オークションを始めましょう〜!!!」
その声はアスカも聞き覚えのある声。
顔を上げると見なくても思い出せる顔の男。
ディスコが営業スマイルで登場する。
あの男にも何度恐怖したか分からないほど脅された記憶も鮮明に覚えていて、今笑っている顔も奴隷達の前では険しくしていると思うと体をより震わせる。
それでもアスカはケイミーを見逃すことのないように俯きたい顔をあげ、しっかりとステージを見つめていた。
しかし耐えられないのかローの手をギュッと力を入れる。
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競が始まりアスカは振るえる体と息を整えケイミーが出てくるのを待つ。
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