(242 / 293) ラビットガール (242)

いきなりケイミーの値段が5億へと跳ね上がり、会場は静まり返る。


「何それ……!いきなり…全然足りない…!!!」


いくら億を持っていても、2億ではあと3億足りず、唖然とする。
静まり返るその会場の中、チャルロスの父のロズワードは溜息をつく。


「チャルロス、またムダ遣いを…お前の水槽にはピラニアが飼ってあるだろうえ」

「追いかけっこさせて遊ぶんだえ!人魚は世界一速いんだえ!お父上様!」


もう誰も買えないだろうと意気込むチャルロスは席に着き頭の中はピラニア達と鬼ごっこするケイミーが浮かんでウキウキだった。


≪か……会場…言葉を失っておりますが……えー…一応!5億以上!ありますでしょうか!!なければこれで早くも打ち止めという事に…≫


そう聞くが誰も札を上げることはない。
当然である5億以上会ったとしても相手が天竜人なら諦めるしかないのだ。


「何とかできねェかなーー!!何か方法ねェかなァ〜!なー!サンジ〜〜!!こんなのねェよ…!金で友達連れてかれるなんてイヤだよ!!こんなの!!」

「マズイな…!これは予想だにしてなかった!金で解決できるならと身を引いたら…状況は悪化しちまった!」

「ニュ〜!おれこうなったら力付くであいつを海へ逃がす!!」

「バカいえ!あの首輪どうすんだ!ケイミーが爆発しちまう!!」

「だったら……あの首輪のカギを何とか…」


持ってきたのは2億…アスカもナミ達のお金があるからと思っていたのにいきなり3億も足りないとなれば絶望しか感じられなかった。
一気に5億ものお金を出すチャルロスにアスカは怯えも恐怖も吹き飛び唖然としていた。


≪時間いっぱいです!それでは本日の大目玉!"人魚"のケイミーは世界貴族チャルロス聖の5億ベリーにて!!≫

「やったえーーーー!!!!」

「まったく…人魚なんぞに5億も無駄に使いおって……!!」

「チャルロス兄様は人魚と"アレ"だけには執着を持ってるアマス…言っても無駄アマスよ、お父上様」


チャルロスを、天竜人を相手にするには分が悪く、誰も5億以上の金を出す気にはなれなかった。
静まり返る会場が、これ以上の値上げはないと知らせ、ディスコは売買の終了を告げた。
人魚を競り落とした事に大喜びするチャルロスに呆れるようにロズワードが溜息をつく。
アスカは唖然とし、顔を手で覆い絶望に苛まれ、これからずっと死ぬまでケイミーも自分と同じ苦しみを味わうのだと思うと涙が溢れてしまう。


「…………っ」


鳴き声が小さくとも零れてしまうアスカにローは何も言えず、丸まっている背中に手をやるしか出来なかった。


「まるでこの世の縮図だな…とんだ茶番だ 帰ろうぜ」

「ああああああああああ!!!!」

「ん?…何だ」


どこからか悲鳴が聞こえ、その声にキッドは帰ろうとしていた足を止める。
アスカは聞き覚えのある声に顔をあげた瞬間、会場の入り口から何かが突っ込んできた。


「騒がしいな…」


客達が騒ぐ周りにロズワードは鬱陶しそうにする。
後ろから懐かしい声にアスカは立ち上がり振り返る。
そこには砂埃の中からルフィとゾロが現れ、そのそばにはトビウオと、トビウオライダーズの男一人がいた。
トビウオは衝撃からすでに気を失っている。


「何だお前!もっとうまく着陸しろよ!!」

「できるか!!トビウオだぞ!?おめーが突っ込めっつったんだろ!!」

「だからとにかく乗れって…言うがお前らサニー号に戻るのに…何をそんなに急いでんだよ…ここどこだ?」


ゾロはまた迷子になっていたのか、現状が分かっていなかった。
客たちは突然の乱入者に困惑し、キッドはルフィに気付き帰るのをやめる。


「あっ!ケイミー〜〜〜!!!!ケイミー!!探したぞ〜〜!!!よかったーー!!!」

「ちょ…ルフィ!!」


もうルフィはケイミーしか見ておらずアスカの存在も止める声も気付かず一直線にケイミーへと向かっていく。
それをハチがルフィの体を掴み止めにかかるがルフィはイノシシの如く止まらなかった。


「ちょっと!待て麦わら!!何する気だよ!!」

「何ってケイミーがあそこに!」

「いるけど爆薬首輪がはめられてる!!連れ出せねェんだ!!それに今"天竜人"がからんできてて…」

「関係あるか!!!」

「きゃああ〜〜〜〜〜〜っ!!!」


そのままハチも引きつられ、ついもう一本両腕を出してしまった。
それを見た女性客が悲鳴を上げる。


「え…あ……」

「魚人よ〜〜〜!気持ち悪い〜〜〜!!!」

「何!?魚人!!?」


ハチが魚人だと気付いた客達は騒ぎ出す。
だがルフィはそれすら気付かず兵達を殴り飛ばしてケイミーの元へ向かう。


「何で魚人が陸にいるんだよ!!」

「やだもーーー!!何この肌の色!何その腕の数…!!」

「こわいわ!存在がこわい!近よらないでーーー!!」

「海へ帰れ化け物ーーーー!!」

「あっちへ行け!」


罵倒の他にも物を投げる者まで現れハチは抵抗せずただ自分の身を守っていた。
その光景を見てサンジ達は唖然とする。


「どういうこったよ…こりゃ……」

「ロビンの言った通りだ……この島では魚人族と人魚族が……『差別』を受けてるって…!」

「え!?ケイミーも!?ハチも!?」


ナミの言葉に耳を疑っていると銃声が2発会場に響いた。


「「「!!!」」」


そこにはチャルロスがハチを銃で撃ち、ハチが血を流して階段で倒れているところだった。
ナミ達が唖然としている中、チャルロスはハチを仕留めたと大喜びする。


「むふふふ!むふーん!むふーん!当たったえ〜〜っ!!魚人を仕留めたえ〜〜!!」

「ハチ!!」

「は〜〜あ、撃たれてよかったわ!近づいて何か病気でもうつされたら大変だもの!!」

「何か企んでたに違いない!所詮脳は魚だろう」

「…………」


客たちの言葉を耳にしながらルフィはハチを撃ったチャルロスを睨む。


「お父上様!!ご覧下さい!魚人を捕まえましたえ!自分で捕ったからこれタダだえ!得したえー!魚人の奴隷がタダだえ〜〜〜〜!!タ〜ダ〜タ〜ダ〜タコがタダ〜!!」

「……!」


チャルロスの言葉についに頭に来たルフィはチャルロスに向かおうとするもハチに止められてしまう。
ハチは仰向けになり激痛が走る中、過ちを犯そうとするルフィを必死に引き止める。


「待っ…てくれ゙…ハァ…麦わら…!」

「!」

「だめだ…ハァ…ハァ…怒るな…おれが…ドジったんだよ…ゲホ!…目の前で誰かが撃たれても!天竜人には逆らわねェって……約束しただろ…!どうせおれは海賊だったんだ……!悪ィ事したから…その報いだ……ハァ… ハァ…ゴメンなァ…ご…ごんなつもりじゃなかったのになぁ…!ナミに…!ちょっとでも償いしたくて…おめェらの役に立ちたかったんだけども゙…………」

「ハチ…!」

「やっぱりおれは昔から…何やってもドジだから……!本当にドジだから……結局迷惑ばっかりかけて…ハァ…ハァ…ゴベンなァ〜〜…!!」


ハチがかすれる声で喋っていてもチャルロスはハシャイでいた。
はしゃぐチャルロスは視界の端に懐かしい色を見つける。
それは昔『飼っていた紫色のウサギ』と同じ色の髪を持った女だった。
チャルロスはこちらを睨むルフィなど目もくれずその脇にいたアスカを見つけ目を丸くしていた。
チャルロスと目と目があったアスカは恐怖が蘇りガタガタ体を震わせる。


「ぁ……」

「み!見つけたえ〜〜〜!!!お父上様見つけたえ!!!わちしのウサギを見つけたえ!!!」

「え…ウサギって……」

「!」


チャルロスの言葉でルフィがアスカに気付き目をまるくしていると、チャルロスはアスカのところまで駆け寄って腕を掴む。


「…!!」

「ん??」


引っ張ってもアスカが動かないのに気付き、チャルロスが振り返るとローがもう片方のアスカの腕を掴んでチャルロスを睨みつけていた。
チャルロスは当然それに眉をひそめ、アスカはローの行動に目を丸くしていた。


「なんえ!?下々のくせにわちしに逆らうんえ!?」

「…………」

「……ろ……――ァい…!!」

「!」


中々離さないローにチャルロスは苛立ち、掴んでいたアスカの腕の力を入れ、ローが痛がるアスカについ力を緩めてしまったその隙に思いっきり引っ張った。
ローはふいにとは言え手を離してしまったことに眉をひそめる。
チャルロスは引っ張られた力が強く階段で倒れていたアスカを抱き起こし父、ロズワードと妹のシャルリアに見せるように高く上げる。


「お父上様〜〜!!ご覧くださーい!!わちしのウサギがようやく見つけましたえ!!!」

「ち、ちが…ッ!」


持ち上げてみせるそれはまさに物を親に見せびらかす姿。
アスカは否定しようとしても声が奪われたように出てくれなくて悲鳴すら上げられない。
そんなチャルロスにルフィが声を上げる。


「おい!お前!!!アスカを離せ!!!アスカはお前のじゃねェ!!!!」

「ルフィ…!」


突然仲間を『わちしのウサギ』と呼び大喜びする天竜人に、ナミ達は状況が読めず唖然としていたがルフィの声に我に返る。
ルフィは顔を青くさせるアスカを見てチャルロスを睨む。


「なんえ!?生意気な〜〜!!!このウサギはわちしのだえ!その証拠に…!」

「え……!やだ…っ」

「まさか…!!」

「!―――ッやめろォ!!!お前ェ!!!!!」


チャルロスはアスカをルフィが自分の物だから返せと突っかかっているように見えたのか、証拠を見せようとした。

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