(247 / 293) ラビットガール (247)

アスカはルフィの提案通り、みんなに全てを話す事にした。
もう知られたというのもある。
触れたくない話だというのもあるが、気を使ってもらうのもアスカの負担になると思いルフィはルフィなりに考えて提案した。
その提案をアスカは呑み、不安の中ルフィを待っていた。
緊張と恐怖に激しくなる心臓の音を聞きながらそれを落ち着かせる為にブレスレットになっているシュラハテンを握り目を瞑る。


「アスカ!連れて来たぞ!」

「ッ!………うん…」


ルフィが入ってきた後、ゾロ達も部屋に入りベッドに座っているアスカの周りに集まる。
みんなアスカが起き上がっているのを見てホッとしていた。


「アスカ!大丈夫か?辛いトコとかあるか??」

「大丈夫…ありがとう、チョッパー」

「本当に大丈夫なの?我慢とかしてないでしょうね?」

「大丈夫だってば…ナミは大袈裟なんだよ」


医者として心配するチョパーと過保護なナミにアスカは苦笑いを浮かべる。
例え苦笑いでもアスカが笑った事にナミだけではなくみんな安心していた。
そんなみんなをよそにアスカは言い辛そうに俯く。


「それで……あの…話って言うのは…」

「アスカ、無理して言う事もないんだぞ?」

「ううん、言わせて…もう、隠し切れないし……」


首を振るアスカにチョッパーは何も言えず、ルフィはベッドの脇に座りアスカの手を繋ぐ。
アスカもルフィの手を握り返し深呼吸して顔を上げる。
顔を上げたアスカはもう弱弱しい表情ではなく、いつものアスカに戻っていた。


「私ね…天竜人の奴隷だった…でも買われる前の記憶がないの…」

「!」

「気付いたら森の中にいて、人買いに連れてこられて…あの…恐い人たち…あのオークションの人達に暴力を振るわれてた……あの人達は私達奴隷を品や物としか見てなくて…あのステージにいた人もそう…私、あの人に蹴られたり殴られたりされてて……怖かった……順番が来れば訳も分からずステージに連れてかれて…客席の人達も私達を物としか見てなくて…私…運悪く偶然来てた…あのチャルロス聖一家に訳も分からないまま買われて……ずっと…人間じゃなかった…私は……物だった…」


あの時を思い出しているのか、ルフィの手を握るアスカの手はひどく震えていて汗もかいていた。
ルフィはアスカの手を握り返すしかできず、アスカはナミが呟いた『物…』という言葉に頷く。
物…それは人に対して言う言葉ではない。
しかし天竜人や人を奴隷として飼っている金持ちにしたら当たり前の言葉で、それをこの世界は許している。
その現状に普通の生活をしてきたナミ達にとってぞっとさせる事だった。
アスカは驚きながらも黙って口を挟まず聞いてくれるナミ達に目を瞑り深呼吸を数回する。
そして、ルフィから手を放し、みんなに背中を向けて服に手をかけた。


「…ッ」


しかし少し服を上げてアスカは手を止める。
ここまで話せたのはルフィのおかげだし、整理して覚悟を決めたから。
だが今見せようとしている物――天竜人の紋章を見せる勇気はまだ揺らいでいた。
言うのと、実際その証拠であるものを見せるのは違う。
あの時は天竜人が無理矢理見せたが、アスカ自身、自ら見せるのもまた違う。


「アスカ…無理はしなくていいんだ…アスカが嫌ならしなくていいんだぞ?」


吐く息が浅くなり震え、服を掴んでいるその手も震えているのに気づいたチョッパーが優しく声をかける。
そのお陰でアスカは覚悟を決めることが出来た。
事情を知っても優しい人達がいることに気付いたのだ。
心配そうに見つめるチョッパーに『大丈夫』と返しながら深呼吸をしアスカは止めていた手で服を脱ぐ。


「――――、ッ!!」


誰かが、息を呑む気配を感じた。
恐らく…ルフィ意外の、全員。
アスカの背中にはくっきりと天竜人の奴隷の証が刻まれていた。
ナイフで付けた傷とは違うそれは…肌を焼いてつける…焼印。
火傷を通り越すその熱さにアスカは幼い…まだ今以上に幼い頃につけられたのだ。


「ごめん、こんなの見たくないよね…」

「ちが…っ!」

「いいの…言わなくていい……別に弁解が欲しいとか、否定の言葉が欲しいからじゃないから…私、ずっとこの紋章のせいで酷い目あってたからこんなことしか言えなくて……ホント、ごめん…」


言葉さえ失う仲間にアスカは嘲笑を浮かべる。
誰かが否定の言葉を零しかけたが、アスカに遮られてしまう。
静まり返る中、アスカは脱いでいた服を来てナミ達に向き直す。
正直ナミ達の顔を見るのが怖かった。
だからアスカは目を伏せたまま話を続ける。


「色々酷いことあったんだ…私は他の奴隷と違って気に入られたから怪我とかなかったんだけど…逆らえば同じように叩かれた…でも大人しくしていればいいってものじゃなかった…所詮お気に入りになろうがなかろうが…奴隷は奴隷…怪我はなかったけど………他の奴隷が…犬やピラニアとか…トラとかに…生きたまま食べられたりしてるところを、一緒に見たり…海軍ごっこって言って処刑されるところを見せられたり………処刑する側になって"アレ"と一緒に首を落とした事だってあった…」

「!」


ナミ達はアスカの言葉に息を飲んだ。
そんなみんなをよそにアスカは手の平を見つめ、その手は見るからに震えていた。


「まだこの手に奴隷達の首を切断するときの感覚が手に残ってる…まだこの手に奴隷達の血が付いて見えるの…」

「アスカ…」

「……大丈夫だよ、ルフィ…もう昔みたいに取り乱さないから…」


ルフィはアスカの手をそっと繋ぐ。
それにアスカは苦笑いを浮かべた後ナミ達に顔を向ける。


「私のパパ、四皇のシャンクスだって…言ったよね」


アスカの父親がシャンクスだと発覚したのはW7の時。
ナミ達は頷き、今なぜ父の事が出てくるのかと疑問に思った。


「…私とパパとの間に血の繋がりはないの」

「え…!」

「あいつ…天竜人は間違えて私を売って…そのあとも私は海賊と貴族の奴隷になってたの…でも、海賊の奴隷だった時…パパに助けられて…パパは私を娘として受け入れてくれた…」


不安だったアスカの表情が少し和らいだ。
アスカの脳裏には父であるシャンクスが浮かんでいた。
父を思えば優しく受け入れてくれたフーシャ村の人達が思い出し、ルフィやエース、ダダンや山賊たち、ガープやミコト…そして、もうこの世にはいない、サボも。
ただそれだけだが不思議とアスカに勇気が湧いてくる気がした。


「だから…私は本当のパパとママが誰なのかも…他に兄弟がいるのかもわからないし…家族が生きているのかも、死んでいるのかも分からない…」


本当の家族…それが本当にいるかはアスカには分からない。
だけど本当の家族には興味がなかった。
今の家族が…周りにいる人達の中で暮らすアスカは幸せだと思っていたから。
親はなくとも子は育つ…この言葉通り、子供は生んでくれた親がいなくても生きていける。
だからか、アスカの表情がやっと和らぎ、ナミ達も少し安心する。


「奴隷の時の事は正直、まだ怖い…夢だって見る……でも…でもね、私…それでも幸せって思えるの」

「え?」

「ルフィ達と会って家族っていう存在を知って、奴隷だったのを知ってて受け入れてくれた村の人達…そんな人達がいるって分かっただけでも私は幸せ……それにね、今、ナミ達に会って私…楽しくて仕方ないんだ…ナミ達と出会って仲間っていう存在を教えてくれて、色々冒険して……奴隷の時には思ってもみなかった…」

「…私達もよ」

「ナミ?」

「私達もアスカと出会って冒険して、笑って、泣いて、助けたり、助けてもらったり……一緒にいてとても楽しいわ…」

「ナミ…」


ナミの言葉に今度はアスカが目を丸くする。
そして周りを見渡すと、ナミの言葉に誰もが頷いていた。


「そうだぜ!アスカちゃん!!おれァアスカちゃんが居なかったら生きていけないんだ!!」

「それ言いすぎ…」

「お!おれもだぞ!!おれもアスカと一緒に冒険するのが好きだ!!!」


サンジもチョッパーもナミに続き、他のメンバーも後に続けてアスカに声をかける。
それを唖然としながらアスカは聞き、目を丸くしながらアスカの瞳からはポロリと自然に涙が溢れ出て頬を濡らしていく。


「アスカちゃん!?」

「どうしたの!?どっか痛い!?」

「っがう…っ」


突然の涙に本人も周りも慌てる。
アスカは手で涙を拭うも涙が溢れに溢れてしまう。


「違う…嬉しくて……私恐かったからっ…知られるのも恐かったけど…何より言葉にして思い出すのが恐かった……でも…それ以上にみんなの言葉がとても嬉しくて…ありがとう…私、みんなの仲間でいていい?」

「なに当たり前なこと言ってんだ!アスカはこの先もずっとおれ達の仲間だろ!?」


ウソップの言葉にアスカはさっきより涙が溢れ顔を手で覆ってお礼を言い続けた。
ルフィ達はそんなアスカを暖かく優しげな目で見守っていた。



****************



あれから涙も止まり、アスカは肉体関係の話を除いた全てを話してスッキリしたのか、背もたれにもたれ笑みを浮かべていた。


「大丈夫?やっぱり辛いんじゃ…」

「んー、まぁ…ちょっと緊張して疲れたかな…」

「なら休みなさい…このバカが大問題起こしたからこれからが大変よ?」

「あで!」


問題を起こした張本人、ルフィがナミに殴られて頭にタンコブを作る。
するとルフィが目を輝かせてベッドに乗り出しアスカに詰め寄る。


「そうだ!!!おい!アスカ!!アスカに会いたいって言ってるおっさんが居てさ!!!シャンクスを知ってんだって!!!行こうぜ!!」

「え…あ!ちょ…急に引っ張んないでルフィ!!」

「あ!!こら!ルフィ!!!」

「ルフィー!コラー!!」


チョッパーとナミがアスカの腕を引っ張って一階へ降りていくルフィの背中に声を上げて止めようとするもルフィは無視して、というか聞こえないのか姿を消す。
2人の姿が消え、ナミは腰に手をやり『もう!』、と溜息をつく。



「休ませろって言ったばっかなのに!」

「まあまあ、ナミさん…」

「嬉しいんだろ?平然とメシ食ってたが1番心配してたのはルフィだったからな。」

「…まぁ、そうだろうけど…」


プンプンと怒るナミをサンジが宥め、ナミはゾロの言葉にまだ不服なのか表情は納得してなかった。



****************



「おっさーん!!」


ルフィはアスカの腕を引っ張ったまま走って降りていき、レイリーに駆け寄った。


「ん?おお、キミか…そんなに慌ててどうした?」

「あ!アスカちん!もう大丈夫なの?」

「うん、頭打って気絶しただけだから…」

「ニュ〜それはよかった!」


ケイミーもハチもパッパグも背中の焼印を見ているはずなのに普通に接してくれる事にアスカは自然に笑みを浮かべる。
アスカの笑みをレイリーは目を細めて見つめていた。


「キミがシャンクスの娘さんかな?」

「?うん…そうだけど…ルフィ、誰?この人」

「紹介が遅れたね、私はシルバーズ・レイリーだ。」

「ふーん」

「おっさんはな!あのロジャー海賊団の副船長だったんだってよ!」

「え、エースのパパの副船長なの?この人」

「おう!そんでな!シャンクスもその船に乗ってたってよ!」

「パパも??」


アスカは目を丸くし、レイリーを見た。
レイリーはアスカの反応にクツクツ笑い酒を口に運ぶ。
アスカは驚きながらルフィがレイリーの隣に座ったのでその反対のレイリーの隣に座る。
興味津々で見つめる瞳にレイリーは昔、2人と同じ年齢の船員を思い出しルフィとアスカの頭を撫でる。


「はい、ジュースでよかったかしら?」

「あ、うん…ありがとう」

「キミの事はシャンクスから聞いているよ…会いに来てはキミ達と黒蝶の話ばかりしていたからね。」

「お姉さまの話も?」

「ああ、彼女はとても魅力的だから彼が惹かれるのは仕方ない事だしな」

「おっふぁん、姉ふぁんのこふぉふぃってんふぉか?」

「ルフィ飲み込んでから喋って。」


アスカは食べながら喋る1つ先のルフィを半目で見つめる。
ルフィの言葉が理解できたのか、レイリーは頷いて見せた。


「知ってるとも。もう昔だがまだ彼女が大将になる前に会ってね…新聞でもたまに顔がでるがとても美しく成長していた。」

「お姉さま…元気かなぁ…」


ミコトと会ったのは大分前なため、テーブルに肘を付いて頭に思い浮かんでいく。
それを見たレイリーはアスカを優しげな目でジッと見つめ、その目線に気付いたアスカは首を傾げる。


「すまない…いや、シャンクスに似ていると思ってな…彼女を思う顔つきがまったく一緒だったよ」

「む…私の方がお姉さまを幸せに出来るもん!」

「ふぁふぇ…」

「ルフィは黙ってて!」

「ハッハッハッハ!そうか!すまなかった!」


対抗しようと顔を上げたルフィにアスカはウサギを顔に貼り付ける。
ルフィは息が出来ないしご飯食べれないしでもがくがウサギは退く気はないらしくキューキューと愛らしい声で鳴き、アスカは鼻を鳴らす。
そんな2人を見てレイリーは可笑しそうに笑った。

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