(260 / 293) ラビットガール (260)

「ウサギちゃん!ウサギちゃん!起きて!!」

「ん…」


アスカはボン・クレーに起こされ目を開けるとボン・クレーの顔がドアップで現れる。


「うわっ!!」

「ぐはっ!」


アスカは驚きついボン・クレーのの顔面を殴りつけてしまう。


「イッターイ!ひどいじゃないのよーーう!!」

「ご、ごめん…驚いちゃって……」


プリプリ怒るボン・クレーに謝りつつ辺りを見渡すとそこは檻の中でも拷問部屋でもなかった。
見たことの無い部屋にちゃんとしたベッドで眠っていた事に首を傾げる。


「ここってどこ?」

「分からないのよ〜インペルダウンなのは確かなんだけどね〜い」


2人はとりあえずこの部屋を出ようとドアを開けると近くの扉から人の楽しそうな声がし、自然と足がそちらに向いてしまっていた。
扉を開けるとそこは別世界だった。


「……………!え………!?」

「…!?」

「おォ!やっと起きたか兄ちゃんに姉ちゃん!!」

「ずいぶん寝てたな…飲まねェか!?」

「ニューカマーにカンパーイ!!」

「モニター観てたぜ!面白かったよ!!おめェらの珍道中!!」


扉の先は本当に別世界だった。
檻の中とは違い自由な格好や行動。
与えられる食べ物が限られてる檻の囚人に対し、ここの囚人達はお酒を飲み、好きなものを食べて楽しそうに騒いでいた。
そして何より男ばかりの監獄なはずなのに綺麗で色っぽい女性達が沢山居た。


「何ここ…」

「席へどうぞ!どのフロアから来たの?あなたは私達の仲間だったかしら??」


席に案内してくれると言ってくれた女性はアスカを見て首を傾げる。
男だらけの監獄の中に女はココだけだから仕方ないだろう。
しかしアスカは唖然とする中、『一緒にしないで…私そんな変な格好したことない…』と失礼なことを考えていた。


「ここどこ!?麦ちゃんは!!?」

「そうだった!!ルフィ!ルフィはどこ!!」

「脱獄した記憶でもある?」

「安心しなよ、ここはインペルダウンだよ」

「そんなわけナイでしょ!!私服で料理食って酒のんでって…楽園かっ!!そうよあちし達は…狼に襲われて…立ち上がった麦ちゃんの不思議な力で助けられて…そのまま意識を…じゃあこれは夢の中!?それともあのまま凍死してここは…あの世!!?」

「あら…お目覚め?よく眠ってたわね…かれこれ10時間くらい…」


混乱していると誰かが話しかけてきて振り返ると見たことある色と格好にアスカは目を丸くする。


「あ…」

「10時間!?何言ってんの!?アンタ誰!!?」

「私の名はイナズマ…失礼しちゃう!私が凍死寸前のあなた達三人をここへ運んであげたのに…!」

「その時はありがとう」

「いいえ、どういたしまして!」

「三人って事は…!麦ちゃんもここにいるの!?どこ!?無事なの!!?あんた達看守!?ここどこ!!?」

「まぁ落ちついて…あの方が教えてくれるわ」


アスカはイナズマにお礼を言いながら『この人男じゃなかったっけ?』と思っていたが、ボン・クレーの言葉にイナズマはステージへ指差す。
すると明かりが落ち、辺りは暗闇に包まれる。


「お!…ライトが落ちた」

「始まるぞ…!ステ−ジが!!」

「前へ行きましょう」


周りは何か始まるのを知っているのか、わくわくしてステージの方を向いていた。
イナズマに言われ、2人は前へ向かう。
するとパッとライトが当てられ、巨体の人間が照らされる。


「よく眠れたかしら?キャンディボーイにキャンディガール…いいえ、Mr.2と冷酷ウサギのアスカ………ボンボーイにバニーガール」

「何??何であちし達の名前…」

「は?バニーガール?キャンディガール??」


呼び方に不満を覚えるアスカはつい声が低くなる。
しかし柄が悪くなったアスカと唖然とするボン・クレーをよそにその人物は背中を向けたまま続ける。


「ん〜〜…よく来たわね…ここは…ここは…インペルダウンの下水道から…"在るハズのない道"を進むと辿りつく…囚人達の…楽園〜〜〜〜ナ!!ンフフ!何でもあるわよ?楽しんで!お酒も武器もゲームも…何より…自由があるわ!」


クイクイと腰をくねらせながら言う人物にみんな盛り上がる。


「ン〜〜…そうそう今日も看守達は騒いでる『囚人が消えた』『魔界へ引きずり込まれた』ってね!…でも残念…み〜〜〜んなここにいるわ!!ン〜フフ…ここが…"魔界"じゃないかって?フフ…しいて言うならオカ"マ界"!誰も知らない…裏社会へようこそ!!ここはインペルダウンレベル5.5番地!囚人達の秘密の花園!!ア〜〜〜っ!!!『ニューカマーランド』!!ヒィ〜ハー!!!」


ライトはステージに全体に当てられ、全員目をそらしたくなるような格好をしていた。
その中心にはさらに目をそらしたくなる男(?)がノリノリで踊っている。


「何コノ変態軍団!!」

「キャー!イワ様〜〜!!」

「え!?イワ様……!!?」


伝説のオカマの名前にボン・クレーは目を丸くして踊るイワンコフを見る。
するとイワンコフは眩暈を起こしているようにふらふらとふらついていた。


「ふぅ…あァ…ちょっとテンション上げすぎて…ひ…貧血をおこ…おこ…」

「イワ様大丈夫〜〜!?」

「起こさなーーーい!!!」

「起こさねェのかよっ!!一本とられたよ!!!」


イワンコフはヒーハーと両腕を上げて観客も盛り上がる。


「ン〜フフフ!ウェルッ!カマーーーー!!我が『ニューカマーランド』へ!ヒーハー!ハッハハ〜〜〜〜〜!!」

「もしかして…ア…アンタが…イワさん…!?」

「あ〜〜〜らヴァナタ!ヴァターシを知っ〜〜てるっつーの!?」

「ちょっとちょっと!"イワさん"だなんて気易いわよ!!」

「そうだぜ!キングオブニューカマー『イワ様』だゼェ!」

「おだまり!キャンディーズ!!小さい事ナブルにこだわるんじゃないわよ!呼び方ナブルなんて小さな問題!名前なんて何でもいい…"ウンコ"でもいいわ……………ウンコはイヤ〜〜〜!!!!」

「いやなのかよっ!一本とられたよ!!」


イワンコフはここでは神のように崇められているらしく、馴れ馴れしくするボン・クレーに注意する。
しかし本人であるイワンコフはそんな事きにせず再び盛り上げる。
そんな憧れの人を目の前にボン・クレーは唖然としていた。


「この人が……"奇跡の人"…!あちしがずっと…敬愛し続けた人………!!」

「人違いなんじゃないの?」


アスカが失礼なことを言い出すと突然後ろの扉が乱暴に開かれた。
扉には厳つい男が大砲を持ちイワンコフを睨みつけていた。


「エンポリオ・イワンコフ!!てめェは元々『カマバッカ王国』の女王だったらしいな……!!15年も昔…!一国の王だったおれの親父が…『カマバッカ王国』に足を踏み入れ…オカマになって帰って来た!!国も家庭も崩壊し…!王族のおれは海賊に身を落とした!!ここに敵がいたとは!!この転落人生の落とし前今こそつけて貰うぞ!!!」


わざわざ説明をつけて大砲をイワンコフに向けるとイワンコフは焦りだす。


「アガッ!アガガガガガガ…!!や…やややめなさい!!そんな武器持ち出して!!危ない!危ないっタラバ!!!死んじゃう…!!!当たったらし…し……死んじゃわない!!!!」

「死なねェのかよっ!一本とられたよ!!!」


慌てているイワンコフをよそに男は大砲を撃ち、砲弾はポーズを決めているイワンコフへ向かっていく。
しかし砲弾が当たる前にイワンコフが片目を瞑った瞬間砲弾が跳ね返り男に当たった。


「え…!?」

「でた!イワ様のただのまばたき!!『デス・ウインク』!!」

「ン〜〜フフフ!」

「ま…まばたきで砲弾を押し戻せるの!?」


その技にボン・クレーが隣に居たアスカに振り向くと自分と同じく唖然とした顔をしていたアスカが表情そのままで首を振る。
そうしているとイワンコフがいつの間にか男の目の前まで移動していた。


「うゥうわァ!!」

「"エンポリオ・女ホルモン"!!!!」

「ぐァア〜〜〜!!ああっ!てめェ…!まさか…!!」

「ヴァナタの父上は女になりたかった…それでいいじゃない」


男はイワンコフに指を刺され何かに気付き顔を青ざめる。
すると次第に男の体が小さくなっていき…


「オォ…やめろ!な…失くなる!!」

「母二人!娘一人!何だっていいじゃないの!!仲良くおし!!!」

「やめて!キャ〜〜〜っ!!!は……!恥ずかしいっ!!」


男は女となり体を隠しながら出て行った。


「ヒーハー!恥ずかしがっタブルじゃあまだ"ニューカマー"への道のりは遠いわねっ!!」

「"男"が…"女"になった……!!まさに"奇跡の人"…!!本物だわ!!!」

「男だって女だってオカマだって好きなものになればいいじゃない!!性別なんてそんなボーダー!!ヴァターシは…いえ…!ヴァターシ達は!!とうに超越しているっ!それが新しい人類!!"ニューカマー"!!ここは自由の園!!『ニューカマーランド』!!!」


イワンコフのその話を聞き、アスカはおん…な?が出て行った扉を見つめながら(なら私男にしてもらおうかな…男になってお姉さまと結婚して…グフフ)とオッサンのようなことを無表情で思っていた。
アスカがオッサン化しているといつの間にかボン・クレーがステージに上がってイワンコフに頭を下げていた。



「"奇跡の人"エンポリオ・イワンコフ!!お会いできて光栄よう!会えてよかった!!ホントによかった…!ぶしつけながら!頼みがあるのよう!!」

「?」

「マゼランの毒にやられたダチの命を救って欲しいのよう…!!解毒剤はもう作れないレベルでリミットはどんどん近づいてくる…!!救ってくれるならあちし何だって!!」

「麦わらボーイの事かしら?」

「「!?」」


ルフィの事を助けてもらおうと頭を下げるボン・クレーをアスカが見つめているとイワンコフはルフィの事をしていることに2人とも目を丸くする。


「ヴァターシらは囚人なんだよ…ケガしてる奴を見たからって誰でもせっせと介抱する程お人好しじゃない…!ヴァナタ達の体…なぜ治療してあるかわかるかい?」

「?」

「その麦わらボーイが切に頼むからよ!!」

「え!?麦ちゃんが…!!?」

「ルフィ…」

「己が死にそうな時に…あのセリフは出ないよ!監獄にも友情という花は咲くんだねェ…それを聞いて何もしなきゃ人の皮を被った鬼さね!麦わらボーイの治療はもう10時間前に始めてるわ!」

「「ホント!?」」

「手荒だけどね…洞窟の奥に閉じ込めて絶え間なく叫び続けて今10時間………!!あと2日はかかる」

「!!?」

「……………」


ルフィの状態を思い出したアスカは目を伏せる。







イワンコフに案内されて来たのは洞窟だった。
その洞窟に入る前からルフィの声を聞こえていてアスカはボン・クレーの腕に手をやり何とか正常に保っていた。


「10時間もこうやって叫んでるのう…!?麦ちゃん……!!」

「『気力』と『ホルモン』…これで人間の体は"バイタルフォース"を発揮するナブル」


洞窟にはルフィの聴いたことない叫び声だった。
何をされているか分からないが、ルフィは何かに耐えて叫ぶ。


「ヴァターシは麦わらボーイの潜在するナブル"免疫力"を過剰に引き出し猛毒と戦える体に改造したわけ…体の内部では異常な速度で破壊と再生が繰り返される……!その苦しみに耐え抜いた時のみ…彼は命を取り止める……!!心配なら覗いてごらんなさい」


イワンコフに言われてボン・クレーは覗き見の小窓から中を見る。
するとルフィを見に行っていたボン・クレーが物凄い混乱して転がってきながら戻ってきた。


「し…し…死んじゃうわよう!!!体が裂けで△◎×◎@※★☆※◎…!!いえ!も"う死んでる…!!ひどい!!助けで!!麦ちゃんを助けてあげて〜〜〜!!!鎖を解いて血を止めて…!あの姿どうにか………!!」

「やかましいっ!!!」


イワンコフにしがみ付いていたがイワンコフに一喝されて殴られてしまった。
吹き飛んで倒れたボン・クレーにアスカは駆け寄って抱き起こす。


「だから今助けてんじゃないのよ!!命ナメんじゃないよ!」

「!」

「一度は死ぬと決まった運命に逆らう事がどれ程の事か!ヴァナタわかってんの!?ヴァターシは神や仏じゃないんだよ!"奇跡の人"!?ヴァナタ達がヴァターシを何と呼ぼうと勝手だけど…他人にすがりついてるだけのバカを救えた事はない…!貧困に倒れそうな国も戦い敗れ死にそうな国も…ヴァターシはそいつらの生きる"気力"に問いかけただけ!奇跡は諦めない奴の頭上にしか降りて来ない!!"奇跡"ナメんじゃないよォ!!!!」


イワンコフの言葉にボン・クレーとアスカはルフィの方へ顔を向け、助かると信じることしか出来なかった。

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