(274 / 293) ラビットガール (274)

ビスタが鷹の目を引き留めている間、アスカは先に行かせたルフィと合流しようと走っていたとき――


「えっ!?」


アスカの体が宙に浮かび、何かに引っ張られる感覚に襲われる。
グイッと強く引っ張られアスカは目を丸くしていると誰かに抱き留められた。
ポスンと軽い衝撃に反射的に目を瞑ってしまったアスカが目をあければ、目の前には…


「フッフッフッ!おいおい、リサ、おれに挨拶もなしか?」

「…!!」


七武海であるドフラミンゴがいた。
アスカはドフラミンゴの能力で引っ張られそのままドフラミンゴの腕の中に納まったようである。
小柄なアスカを大柄なドフラミンゴが片手で抱き上げており、突然七武海に抱かれるアスカは目をまん丸にしてドフラミンゴを見上げた。
ドフラミンゴは目をこれでもかとまん丸にさせ、金色の目で自分を見るアスカに機嫌よく笑い声を零し、どこか宥めるような手つきでアスカの頬を指の背で撫でる。
その手は異様に優しすぎてドフラミンゴと初めて会うであろうアスカは戸惑いが隠せない。


「さっき相手にしてもらえず拗ねてるのか?フフ!そりゃすまねェことをしたな…だが、再会の喜びは後の方が大きいだろ?それにおれとしては面倒臭ェのをとっとと終わらせてお前との再会の喜びをじっくり味わいたかったんだ」


先ほど、くまと一緒に居た時妙にドフラミンゴと目と目が合っていた。
それも革命軍の幹部であるイワンコフと注目を浴びている海賊団の船長であるルフィのオマケとして見るのではなく…しっかりとアスカをアスカと認識した目だった。
アスカはドフラミンゴの言葉が全く理解できなかったのと同時に…デジャヴを感じた。
それはシャボンディ諸島でローと会った時である。
ローもドフラミンゴも誰かと勘違いしているような口ぶりだったが、まだローは自分をちゃんと名前で言っていたから納得は出来たが…ドフラミンゴから出た『リサ』という名前はアスカも知らない。


「あれから何年になるか…長い間お前を探していた」

「…………」

「ディスコからお前が"奴隷"だったと聞いた時は腸が煮えくり返る思いだったが……しかし…よく、マリンフォードまで無事で来れたな」


ドフラミンゴが誰と勘違いしているかは分からないが、アスカは下手に動けなかった。
ローの時とは違い、相手は七武海。
クロコダイルやジンベエやモリア、鷹の目と同等の力を持つ海賊…できれば相手をしたくはないというのは真っ当な意見。
しかし黙って勘違いされるほどアスカはお人よしでもビビリでもない。
そう思ったのだが…頬を撫でていたその手で戦いで荒れた前髪を撫でるように優しく直してくれるドフラミンゴにアスカの脳裏に一瞬ある光景が浮かんだ。
その光景とは…誰かに頭を撫でてもらっている自分の姿。
その浮かんだ自分は嬉しそうな表情を浮かべ、誰かに頭を撫でられていた。


「…っ!」


その脳裏に浮かんだ光景がとても暖かくて、懐かしくてアスカは受け入れるように目を瞑った。
大人しくドフラミンゴに撫でられていたアスカだったが、遠くからの爆発音にハッとさせ、ドフラミンゴのその手をパシンと音が出るほど強く叩いて払う。


「おい、リサ…?」


じたばたと暴れて解けるほど実力も力も差が縮まっているとは思っていないが、だからと言って何もしないのも性に合わない。
暴れ出すアスカにドフラミンゴはやっぱりビクともしないが、不思議には思ったようで心配そうな目でこちらを見下ろす。
そんなドフラミンゴをよそにアスカはドフラミンゴの胸元を押して抵抗する。
ここで能力を使えば楽なのだが、今のアスカにはその頭がなかった。


「おい、どうした?」

「―――ッ、は、放して…!!」


グッグッとドフラミンゴからしたら弱い力で抵抗するアスカにドフラミンゴは戸惑いを見せるが、アスカの言葉に怪訝さも見せた。
眉間にしわをよせ『何を言ってるんだ?』と零すドフラミンゴにアスカは必死に抵抗する。
嫌がるアスカを見てドフラミンゴは心底分かっていないように首を傾げた。


「どうした、リサ…何をそんなにへそを曲げてるんだ…―――ああ、もしかして迎えに来なかったことを拗ねてるのか?すまなかった…まさかおれもお前が奴隷になっていたなんて思ってもみなかったんだ…お前を奴隷にしたカス共はおれが後で殺しておいてやるから……だからお前への詫びはこの後帰ってからなんでも聞いてやるから…な?だから大人しく戦争が終わるまで待ってろ」

「……ッ」


抵抗をするアスカの体をドフラミンゴは抱きしめてやる。
戦場なのにふわりと香るドフラミンゴの香りにアスカは一瞬息を呑んだ。
懐かしいと思ったのだ。
どうしてか、七武海の海賊を…アスカは心から懐かしいと…逆らえないと思った。
宥めるように頭を撫でるドフラミンゴの大きな手にアスカは絆されるかのように力を抜く。
ドフラミンゴはそっとアスカの頬へ手を伸ばし、包むように覆いながら顔を上げさせる。
顔を上げさせられ見上げる七武海の一角の顔は優しかった。
しかしその表情にさせているのは『アスカ』ではなく『リサ』という存在。
アスカはそれが自分ではない事にズキリと心を痛めた。
違うと言いたいのに、胸が詰まって言えず、アスカはついにポロポロと泣き出してしまう。
ドフラミンゴは泣き出したアスカの目元を指で涙を拭ってやる。


「すまなかったな、リサ…ずっと迎えに行けなくて……ずっと独りぼっちにさせてしまって……だけどもう寂しい思いなんてさせやしないからな…ずっと一緒にいてやる…もう、邪魔なんてさせやしない」


アスカが泣きだしたのは寂しかったからだと思ったのか、ドフラミンゴはここが戦場だと忘れてしまいそうになるほど優しい声で慰めてくれる。
そのドフラミンゴの優しさをアスカはすっと受け入れた。
まるで昔からドフラミンゴに優しくされるのが当たり前のように。
アスカは目を瞑りドフラミンゴを受け入れようとしたその瞬間―――ガキン、と甲高い音がアスカの耳に入りアスカは我に返る。


「――――!」


ドフラミンゴの温かい温もりが一瞬にして冷えた。
そう思った瞬間、目の前が真っ白に染まる。
よく見ればそれは…顔を大きくした一匹の下僕ウサギだった。
突然現れたウサギにドフラミンゴはアスカを離してしまい、その間をウサギがストンと着地した。
そのウサギは何かを食べるように普通では考えられないくらいの大きさに変わって口を大きく開け、アスカとドフラミンゴの間をパクンと食べた。
何を食べたのか…空気を食べたようにしか見えなかったが、アスカはそのまま尻もちをついてしまった。


「ジェニファー!?なんでお前がここに…!?」


ドフラミンゴがもぐもぐと何かを食べながら普通サイズの大きさに変わっていくウサギを見て忌々しそうに呟いた。
その名前を呼んだらしい部分はタイミング悪く爆音で聞こえなかった。
アスカはもぐもぐと頬を膨らませ自分とドフラミンゴの間にちょこんと居座るウサギの後姿を唖然と見ていた。


(このウサギ…どこかで…)


自分が出そうと思って出したわけではないそのウサギの後姿をアスカはなんとなく見たことがあるような気がした。
ウサギの能力を得てから自分が出したウサギを見分けることができるようになったアスカだが、このウサギは何となく身に覚えがあるような気がしてならなかった。
過去出したウサギだろうかと思っていると…アスカは思い出した。


「お前…あの時の…」


―――記憶を失くしたばかりで森に置き去りにされていたあの時のウサギだと。
しっぽとお尻しか見えなかったが、目の前にどてっと座っているウサギのお尻としっぽは確かにあの茂みに消える時のウサギだった。


「てめェの主人はもう死んでるはずだぞ!どうしてお前が出てこれる!!"契約"はすでに消えているはずだろうが!!」


ドフラミンゴもウサギには見覚えがあるのか、アスカの時とは違い鬼のような形相で睨みつけていた。
アスカは唖然としてたが、ドフラミンゴの怒号に我に返り、慌ててドフラミンゴから離れようと立ち上がって走る。


「!―――リサ!!待て!!」


それに気づいたドフラミンゴが手を伸ばしかけたのだが、ぴょこん、と対峙していたウサギがアスカを庇うように前に出た。
そのウサギをドフラミンゴはバラバラに刻み殺した。
しかし、ウサギの足であっという間に消えたアスカを捕まえることはできず、ドフラミンゴはギリ、と歯を噛みしめ忌々しそうにバラバラとなったウサギの死骸を睨みながら呟いた。


「また…!また…おれからリサを奪うつもりか!!!―――エイルマー!!」


ドフラミンゴの声はアスカには届かず…爆音や人の声でかき消されてしまった。

274 / 293
| top | back |
しおりを挟む