(289 / 293) ラビットガール (289)

アスカはシュルシュル、と布の音と感触に目を覚ます。
顔を横へずらせばそこにはローがおり、ローは何か白く長い物を手に動いていた。


「起きたか?」

「……ろー…」


まだ眠たいのか呂律が回っておらずアスカはうつ伏せに横になりながらボーっとローを見つめる。
―――夢を見た。
懐かしい、エースとルフィとサボと4人で暮らしていたときの夢。
だからもっと沢山長く見ていたいと思っているたのに、意識は少しずつ目を覚まし始めてしまう。
睡眠は自分の思い通りにはなってくれなくて、少しずつ眠気も覚めてきたのかローが白くて長い物…包帯をアスカの腕に巻いているのが分かった。
ローに全てを委ねながら欠伸をし、不意に体に違和感を感じたがすぐにアスカは自分が今、裸だと思い出す。


(ああ、そっか…昨日……)


それと同時にアスカはローと一夜を共にしたのを思い出す。
誘ったのが自分だというのも。
治療を終えたらしいローは少し傍から離れ片づけをしており、それをアスカは寝返りを打って横を向きながらローの動きを何となく見る。
寝返りを打てば、まだ色々疲労がまだ残っているらしく、体がだるかった。
ポスン、とベッドに戻れば着替え終えていたローに頭を撫でられる。
片づけを終えたらしいローは振り返りこちらを見ていたアスカと目と目が合い、まさか自分を見ていたとは思っていなかったらしく驚いた表情を浮かべていた。
しかし、アスカと目と目が合いローは幸せそうな表情を浮かべていた。
アスカはそれを見てもまだ感情が追いついていないのか何も感じない。
しかし、心は温かくなっていくのを感じた。
これがなんの感情なのかは分からないが、嫌いな感情ではない。
枕に頭を預け横向きに寝ているアスカにローは近づき、ベッドの脇に座りアスカの頭を撫でる。


「体を横にするな…傷がひどくなるぞ?」


医者らしい事を忠告しながらもローは嬉しそうな顔を崩さない。
そんなローの忠告に従いまた仰向けにすればアスカはローの名前を呼ぶ。
ローは名前を呼ばれ『ん?』と優しい声で返事を返す。


「水か?」


喉が渇いたのかと問いながら水差しへと手を伸ばしかけるローにアスカは首を振る。


「ルフィは…大丈夫?」


アスカの言葉にローはピクリと反応し、優しかった目が少しだけ冷え切ったような目に返る。


「…麦わら屋ならまだ眠っている…生きるか死ぬかは麦わら屋次第だな…」

「……………」


ローの言葉にアスカは無言で返す。
ルフィが目覚めて安心したい…抱きしめたい、と思う反面このまま目が覚めなきゃいいのに、と思う。
目を覚まさなきゃエースを失ったの悲しさに狂う事はないのだから…


(本当…私って薄情者だ…)


アスカは一瞬でもそう思ってしまった自分が嫌いになる。
それと同時に自分の薄情さにも嫌気がさしてしまう。
自分は目の前でエースが息絶えても声をあげる事も、狂う事はない。
泣く事がなくなった今、アスカはエースにもルフィにもミコトにも後ろめたく思う。
ローに抱かれる事で甘える方法が見つからない自分を出来る事なら殺したい。
でもそれをしたらきっとルフィが壊れるだろうから出来ないし、何よりアスカは死ぬのを恐れている。
ルッチの時から成長のない自分にアスカは内心嘲笑を送った。


「辛いか?」

「……どっち?」

「両方だ」


アスカにローは優しく髪を撫でながら問う。
ローの言葉にアスカはローを見上げた後…少しだけ間を置いて口を開く。


「……体は別に辛くない…そりゃ体中痛いけど…でも、戦場に立つのは嫌いじゃない…戦場では誰もが本性を出すから…それが心地いい……けど…心が痛い…」

「……………」

「心が痛いのに…どうしてだろう…悲しいとあまり思えない……もしかしたらエースが死んだって思いたくないのかもしれない…」

「…人事のようだな……」

「うん…そうだね…」

「それもいいさ…悲しみに暮れても、狂ってもおれの想いは変わらないからな…」

「…………」


額にキスを送るローにアスカは黙って受け入れる。
しばらく顔中にキスしていたローは満足したのか、ゆっくりとアスカを起こして寝てる間できなかった部分の体の傷を治療し始める。


「い…っ」

「ああ…すまない…痛むか?」

「痛い…」


ローが触れたそこは赤犬のマグマで焼けた場所。
かすっただけだから、と火傷程度なのだが、広く火傷を負っていた。


「昨日のうちに冷やしておけばよかったな…」

「痕残る?」

「いや、大丈夫だろ…1ヶ月すると完治するから安心しろ」

「そっか…」


安堵するアスカを見てローは目を細め頬に唇を寄せる。
それを受け入れながらアスカはローを不思議そうに見つめる。


「ローって…キスばかりするけど…好きなの?」

「ああ…ただし、アスカ限定だがな……イヤか?」


そう聞きながらローはキスするのを止めない。
アスカは嫌がる素振りも見せずローの好きにさせながらローの首に腕を回した。


「分からない……でも…嫌いじゃない…」

「そうか…」


アスカの言葉にローは笑みを浮かべ、ゆっくりと押し倒す。

その後2人は今日も部屋から出る事はなかった。

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