(3 / 274) ラビットガール2 (3)

「いやあ、もうアスカちゃんの顔が見れなくなるのは寂しくなるねェ…」


アスカは店主の言葉に目を細めて小さく笑う。
1年半前、アスカはレイリーと共にシャボンディ諸島に帰って来ていた。
アスカの覇気は覇王色ではないため基本をクリアすればそれなりに修行も終わり、レイリーと共に帰る事になったのだ。
1年半もルフィと離れることはなかったアスカは最初は心配そうにそして後ろ髪を引かれる思いだったが、ルフィとの誓いを信じレイリーと共に船に乗りシャボンディ諸島へ帰る。
再会を楽しみにアスカはシャッキーのお店を手伝っていた。
しかし、シャッキーとレイリーの知り合いというこの酒場の店主が人手が足りないからとアスカを貸してくれと頼み込んできた。
シャッキーは人手が足りないという事でアスカが承諾したら構わないと言ってくれたのだが、問題はレイリーだった。
レイリーはシャンクスの娘であるアスカを孫娘のように可愛がり、ナミとサンジ、そしてジンベエと並ぶほどの過保護組である。
そんな可愛い孫娘を酒場という男の目が多い場所で働くのを許すのは反対だった。
シャッキーの店はどんな強面な男でも拳1つで黙らすシャッキーも、そして自分もいる。
自分達が目の届くところにいるから同じ酒場でもシャッキーの店を手伝うのも反対はしなかった。
しかし何とかシャッキーとアスカの説得によりレイリーは落ち、アスカは仲間と再会する1年半という条件付きでその知り合いの酒場で働く事になった。

その約束の日である今日、アスカはこの酒場を辞める。
店主は無愛想で不器用ながらも一生懸命働いてくれたアスカがこの諸島を去っていくのを寂しく思いながら封筒を渡した。


「これ、今月のお給料だ。」

「…ありがとう」


アスカも寂しいと思っているのかどことなく気落ちしているようにも見える。
店主はアスカが2年前に消息不明となり今では死亡説さえ出ている"麦わらの一味"の副船長(仮)である"冷酷ウサギ"だとは雇うときにレイリー達から聞いた。
その店主は驚きもしたが、仲間達の消息を聞こうともせず、ただ1人の少女に戻ったアスカを受けれいてくれた。
そんな優しい店主にアスカも懐き、離れることがとても寂しく感じる。
しかし、ここに留まることは考えられなかった。


「寂しくなるが……アスカちゃんは海賊だもんな…1つの場所に留まることはしないか…」

「うん…」

「元気でな、アスカちゃん…病気なんてなるんじゃないぞ?」

「うん…」


1年半だけ一緒にいたが店主はアスカを本当の娘のように可愛がってくれた。
アスカも店主の事が好きだった。
だから店主と別れるのが辛くてつい俯いてしまう。
そんなアスカに店主は小さく笑い、1年半前に比べて長くなった髪を撫でてやる。
アスカは頭を撫でる店主にゆっくり顔を上げると店主と目と目が合い、店主は更に笑みを深めた。


「死ぬんじゃないぞ…」

「うん…」


アスカはまた同じ返事を返す。
しかし、今度は俯かず店主の目をしっかりと見つめ頷いた。
頷いたアスカを見て店主は眩しそうにアスカを見つめる。



◇◇◇◇◇◇◇



店主と別れ、アスカはシャッキーのぼったくりBARに戻る。


「アスカ…っ!!」

「わ…っ!」


カラン、と音を立てながら扉を開けるとアスカの目の前におっぱいが視界一杯に映る。
胸ではない。
おっぱいである。
アスカは柔らかくて暖かい物が顔一杯に押し付けられ、息も出来ず息苦しさにもがく。


「アスカ!!あなた大丈夫なの!?怪我はない!?痛いところは!?傷とか残ってないでしょうね!!?」

「〜〜〜〜ッッ!!」

「あらあら…ナミちゃん、アスカが息が出来てないわよ?」

「え?…ああ!ご、ごめん!!アスカ!!」


顔に押し付けているおっぱいの持ち主はナミだった。
ナミはアスカを今か今かと待っていたようで、2年ぶりに見るアスカに抱き着いて来た。
そのためアスカは息苦しくなってしまいペチペチと抱き着いて来たナミの腕を叩くが、ナミは2年ぶりのアスカに感激し、心配した反動で気付いていない。
シャッキーに言われ気付いたナミは慌ててアスカを放し、アスカはナミのおっぱい攻めから解放され一気に酸素を吸い込む。


「な、なみ…」

「〜〜っアスカ…!!」


けほ、と咳き込みながらアスカはナミの胸から顔をあげ、苦しさで涙目になりながら見上げた。
自分の抱擁を受け豊満な胸から顔を出すその様子は2年前と同じで、ナミは涙目となっているアスカに言葉を詰まらせながら泣いていると勘違いし抱きしめ直す。
しかし、先ほどのように力任せではなく、加減をしているのでアスカはナミの胸に顔を押し付けることもなく苦しむ事もなかった。


「アスカ!怪我はないわよね!?」

「う、うん…もう治った。」

「な、治った!?…ということは怪我はしたっていうことよね…!ルフィの奴!何してたのよ!!私のアスカに怪我をさせるなんて…!!」

「いや、ナミ…あんな戦場で怪我を負わないのはお姉様だけで…」

「安心して!アスカ!!私がルフィに一発入れてあげるから…!!」

「うん、だからね、ナミ…あの状況じゃ怪我してない方が可笑しくてさ…」

「大丈夫!2年間の間私も強くなったし!言い訳なんて言わせないわよ!!」

「………うん…そうして…」


アスカの事になるとナミは変らず暴走を始める。
それは2年前も同じ事で、その暴走が更に酷くなった気がする…とアスカは言う言葉全てを遮られ諦めながらそう心の中で呟いた。
そして、アスカは『なんか今のナミなら誰にも負ける気がしない…』と続けて呟く。


(でも…懐かしいな…)


2年、そして1年半はルフィや仲間と会うことも会話することも出来ずアスカは寂しい日々が続いていた。
レイリーやシャッキー、店主や常連客などシャボンディ諸島でも知り合いもでき、本当に心の底から寂しいとは思わなかったがやはり旅を続けてきた仲間とは違う。
ナミの顔、声、温もり…アスカがずっと待ち続けたモノである。
アスカは再会を噛み締めるように笑みを浮かべながら自分からナミへと抱きついた。


「アスカ…?」

「ん、なんでもない…けど……ナミと再会出来て嬉しい…」

「ふふ、アスカはなんだか甘えん坊になったみたいね」


寂しかった、とは口にしていないアスカだがナミは口にしなくても言葉にしなくても自分に抱きついてくるアスカの様子でアスカが寂しかったのだと悟る。
顔は見えないがアスカは笑っているような気がして、ナミは自分も嬉しそうに目を細めアスカの身体を抱きしめ返した。

そんな2人をシャッキーとレイリーは微笑ましそうに見つめ、お互いの顔を見合い笑みを深める。

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