(30 / 293) ラビットガール (30)

ゴオオオ、と音がどんどん大きくなり、気づけばあたり一面真っ赤に染まっていた。
熱気が熱くて息を吸うごとに喉や肺が焼け付くような気がした。


「ッけほ!けほ!」

「大丈夫か!?アスカ!」

「えーす…あつい…」


火は予想以上に回るのが早く、エースは縄を必死になって切り、ルフィとアスカを連れてここから逃げようとした。
アスカは手を引かれながら周りを見渡す。
周りはゴミで溢れていた風景とは反対に、燃え続け、血のように真っ赤になっていた。


「……ッけほ!」

「ゲホッ…息が苦しい…苦しくねェ…!空気が熱い…熱くねェ!」

「なんとかなる!おれがついてる!!」


何処を見ても炎で真っ赤だった。
熱風だけでも燃えそうなほど熱く、まだ子供の三人には負担が大きすぎた。
炎で焼かれ見慣れた風景が変わり、秘密基地やダダン達の家の方向すら分からない中…エースはルフィとアスカを守ろうと必死になって逃げていた。
しかし…


「誰が逃げていいと言った!悪ガキ共がァ!!」


逃げ回っていると、自分達よりも早く逃げたはずのブルージャム海賊団が目の前に現れエース達は立ち止まる。
エースは火を起こしそのまま逃げたと思った人物が目の前に現れ目を真ん丸にして驚愕する。


「何で火事を起こした張本人がこんなとこに…!?とっくに逃げてるハズじゃあ…!!」

「だまれクソガキ!!絶望だよ!おれ達ァオイ…!!まさかの大ピンチだ。人間てのァおかしな生き物だな…不幸もどん底まで来ると笑っちまうよ!」


エースの言葉にブルージャムは心底嫌悪したような表情を浮かべた。
どうやら依頼主であるこの国の王にブルージャムも裏切らえ見切られたようで、退路を断たれたブルージャムは笑っていた。
エースは警戒しながらも今はアスカとルフィを逃がすのを最優先とし、笑い声をあげるブルージャムを相手をせず去ろうと後ろに走る。


「ルフィ、アスカ、行くぞ!」

「逃がすなァ!!」

「わ!!」


逃げ出そうとしたその先にはブルージャムの達が立ちはだかり、アスカ達は逃げれなくなってしまった。


「共に仕事をした仲間じゃねェか、おれ達は!死ぬ時ァ一緒に死のうぜ!!……貯め込んだ財宝の場所をまだ吐いてくれてなかったな。この日で燃えちまう前におれ達が貰ってやるから…さァ場所を言え!!」

「命が危ねェこんな時に財宝!?」

「じゃあ教えてくれるんだな?お前らが取りに行かねェならムダになる」

「……!!」


エースにとって第一はルフィとアスカ達だが、ブルージャムにとっては財宝が一番らしい。
エースは早くこの炎の海から脱出して弟と妹を助けたいというのにブルージャムの邪魔に眉を潜める。


「お前らが取りに行かねェんならムダになる」

「…………」

「バカ言え!あの宝はなァ!!エースとサボが…」

「…わかった、教える」

「エース…!?」

「エース!あれはエースとサボが長い時間かけて集めたんじゃねェのか!」

「サボも分かってくれる!!今はお前とアスカの…今はおれ達の命が大事だ!!」


このいつ燃え死ぬか分からない今、いつでもまた集めれるであろう財宝と自分達の命を天秤にかけ、エースは自分達を取る。
だが、天秤にかけるまでもなく、エースは自分達命を取っていただろう。
まず第一は生きている事であるのだ。
だからルフィもアスカも、エースの言葉に何も言えなくなってしまう。
そしてエースはブルージャムに宝の場所を教えたのだが…


「何すんだ!今場所は教えたじゃねェか!!」

「ウソという可能性もある…お前らもついて来い」


ブルージャムはエースを信じず、部下に3人を捕まえさせ、宝の場所を案内させようとした。
確かに言えば解放すると言っていなかったが、エースは一刻も早くここから逃げたくて仕方なく、たかが宝のために逃げれるチャンスを逃すつもりはなかった。


「フザけんな!そんな事やってる内に逃げ場がなくなる!!お前ら勝手に行けよ!!」


エースはブルージャムの勝手さに怒るが、銃を突きつけられてしまい一瞬目を丸くする。


「今のおれをこれ以上怒らせるな!!ガキの集めた財宝を頼りにしてでも…!!おれは再び返り咲いて貴族共に復讐すると誓ったんだ!!おめェらの"兄弟"もそうだろう!あいつらは己を特別な人間だと思ってやがる!そのほかの人間はゴミとしか見てねェ!!」

「サボはそんな事思ってないもん!!」

「そうだ!!サボはそんな事思ってねェ!!」

「同じだバカ野郎!!お前らとつるんで優越感に浸ってただけだ!!親が大金持ちのあいつに本来何の危機感がある!!?貴族の道楽に付き合わせされたのさ!腹の中じゃお前らを見下して鼻をつまんで笑ってたのさ!!」


サボを仲間と認め、想い、兄として慕っていたアスカとルフィはブルージャムの言葉に頭にきたのかカッとなって叫んだ。
エースは兄として厳しく、その分サボがルフィとアスカを甘やかせてくれた。
どっちも大好きな兄なのは変わりなく、ルフィもアスカもそんなサボの事を良くも知らないくせに悪く言うブルージャムに向きになって反論した。
エースも兄弟を馬鹿にした言葉に頭に血を上らせブルージャムを睨みつける。


「それ以上サボを悪く言うな!!」

「そうだ!!サボは自由になりてェだけだ!!」


サボを悪く言われルフィは自分を捕まえていた部下の腕に噛み付く。
痛みで部下はルフィを拘束できず、ルフィを落としてしまう。


「このガキ…!!殺してやる…ッ!!」

「!――ルフィ…!!」


ブルージャム達は国王からゴミ山を燃やせば貴族にしてもらえるという約束をしていた。
だが、いざゴミ山を燃やしてみれば脱出のために開けられるはずの門は固く閉ざされ、海に逃げようとしても海賊船は燃やされていた。
逃げ場がないブルージャム達は今、緊迫した状態だった。
その為ちょっとしたことで何をするか分からない者が多く、子供に噛みつかれたことで部下は頭に来てしまい、背中の鞘から刀を抜きルフィに向かって振り下ろした。
パイプを構えたが、鋭利な刃物では役に立たず、パイプを斬りその刃はルフィの皮膚を傷つける。
刀で切られたルフィは痛みに叫び、アスカはルフィを傷つけられショックに唖然としていた。
痛みにもがき苦しむルフィに部下はとどめを刺そうと再びルフィに刀を向ける。
それを見てアスカは我に返り必死に捕まっている中ルフィに手を伸ばし名前を叫んだ。
だがアスカが叫んでルフィの痛みが消えるわけでもなく、部下も手を止めるでもなく鋭い刃はルフィへと向かっていく。
アスカはもう駄目だと思った。
だが…




ルフィに手を出すなァーーーーーッ!!!




ルフィの危機に、エースは思わず叫ぶ。
エースが叫んだ瞬間海賊達は次々と泡を吹いて倒れ、アスカを捕まえている部下も気を失うように倒れアスカは部下の腕から解放される。
そして、ルフィを殺そうとした男もまた、気を失いその場に倒れた。
アスカは何が起こったのか分からなかったが、今は唖然としているよりもルフィの救出を最優先した。
血を流して倒れるルフィに駆け寄ったアスカを見て、ルフィは傷ついたが生きているのも見て、エースはホッと安堵する。
しかし、その瞬間気を失う部下に唖然としていたブルージャムが弟と妹の無事に安堵していたエースを蹴り飛ばし、逃げられないよう体を足で踏みつけた。


「何をしやがった!!胡散臭ェガキめ!!」


逃げれなくしたエースにブルージャムは銃口を向ける。


「エース!!!」

「やめろォ〜〜〜〜!!!」


ブルージャムが銃を撃とうとしたその瞬間―――…


「やめねェか!海坊主!!!エースを離しなァ!!!!」


――ここにいるはずのない、ダダンが現れた。
ダダンは炎の中から現れ大斧を手に二人の間に入ってブルージャムを止める。
ガキン、と音をさせ、ブルージャムの持っていた刀を弾き飛ばし、距離を置き、その隙にダダンの部下達がアスカとルフィに駆けつけた。


「ダダン…ッ!!」

「何でお前らここに!!」


独立すると宣言してから今まで顔も姿も見ていなかったダダン達にルフィもアスカも、そしてエースも驚いた表情を浮かべる。
しかしエースはそれでもすぐに我に返りキッとブルージャムを睨みつける。


「オイ!!ひディー傷だな、ルフィ!!」

「ドグラ…!」

「アスカも無事だな!よかった!」

「みんな…っ」


ルフィと、ルフィの傍にいたアスカにドグラとダダンの部下達が駆けつけ、ルフィの傷に思わず息を呑んだ。
周りを見ればエース、ルフィ、アスカはいるが、サボの姿がないのに気付く。
サボの事を問えばルフィがここにはいないと言い、引っかかる言い方に疑問に思ったのだが、とにかく今は生き延びる事を先決とさせた。
アスカもダダンの部下に抱き上げられ、助けが来たことで安堵したのか涙が溢れてしまう。
そんなアスカにダダンの部下は『もう大丈夫だ』と言ってアスカの背中を撫でてやり安心させ、その手にアスカはダダンの部下の服に顔を埋めすり寄った。
そんなルフィ達を余所にブルージャムとダダンは睨み合う。


「てめェ…コルボ山のボス猿だな…」

「山賊ダダンだ!!何の因果かこのガキ共の仮親登録されててね。さァて………逃げるぞ!!」

「「「ハイ!お頭!!」」」


ブルージャムと睨み合っていたダダンは戦わず、一目散に逃げる選択を選ぶ。
今の状況からして戦う暇はないと判断したとの事だろうが、何よりもダダン達は戦闘が得意ではない。
部下もそれに従うが一人だけブルージャムを睨みつけダダンの指示に従わない者がいた。
その者とは…


「エース!?なにやってんだい!!早く逃げるよ!!」

「おれは逃げない!!」

「はァ!?」


それはエースだった。
一向に逃げ出そうとしないエースにダダンが逃げるよう声をかけるも、エースはダダンに背を向けままで逃げ出す素振りも見せない。


「何言ってんだ!エース!おミー!そいつはヤミとけ!!ブルージャムのヤバさはハッタリジじゃーぞ!子供が粋がっていいレベルじゃニーんだよ!!」


ダダンの次にドグラが言ってもやはりエースはブルージャムを睨みつけているだけで逃げ出す気配を見せなかった。
山賊でも目の前の海賊の強さは耳にしているし、狂っている性格も知っている。
だから子供のエースが勝てるとは思っていなかった。
逃げようとしないエースに傷を負っているルフィが痛みに耐えながらダダンの部下の腕から逃げようとする。


「お…!おれも!!」

「ダメだ!ルフィ!!」

「エース!エーース!!」

「アスカ!お前も落ち着け!」


背を向けたままのエースにルフィも傷を負いながらも戦う気らしく、アスカはエースに手を伸ばして暴れる。
必死に2人を抱き上げている部下がそれぞれ落ち着かせようとするも2人はエースと一緒に戦うと言って聞かなかった。
そんな二人の前にダダンが塞ぎ、エースと同じく背を向けてブルージャムの前に立った。


「お前ら、ルフィとアスカを連れて先に行ってな!!」

「お頭!?」

「エースはあたしが…!!責任持って連れて帰る!!」

「お頭…」

「行け!!」

「は、はいっ!!お頭!必ず帰って下さいよ!!!」

「エースーー!!」

「エース!ダダン!やだ…エース!ダダンーーーッ!!!」


エースの頑固さは育てたダダンが一番よく知っている。
誰に似たのか分からないそのエースの頑固さにダダンは負け、自分だけエースと共に残り、部下達を逃がそうとした。
戸惑った部下達を叱咤し、部下はダダンの言葉にまだ戸惑いがあったもののダダンの言葉を信じ、後ろ髪を引かれながらもその場から立ち去るため走る。
ルフィとアスカは抱かれながら必死にエースとダダンに手を伸ばしたのだが…その手は2人に届かず、2人の姿は炎の中に消えた。

炎が燃え盛る中3人は対峙する。


「女に子供…少し腕に覚えがあるくらいで過信すると血を見るぞ。戦場で生き残るのは…『強者』と『臆病者』だ…『勇者』は死ぬと相場は決まってる…!!」


夜はまだ永い―。
アスカ達は安全所へ避難し、暗く冷たい夜空を照らす炎を見つめ涙する。

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