(6 / 263) ラビットガール2 (6)

「スッッッゲ〜〜!!」


17番GRにあるサニー号が停泊している島へとやって来たチョッパーはある物を見て目を輝かせ驚きの声を上げた。


「お前ロボじゃーん!ビーム出んのかよ〜!ミサイル出んのかよ〜!何と合体するんだよ〜う!!」

「落ちつけチョッパー!!興奮で死んでしまうぞ!!」


チョッパーはある物…仲間であるフランキーを見て興奮していた。
それも無理のない話しである。
今のフランキーの姿は男のロマンが詰まっていた。
特にチョッパー、ルフィ、ウソップの憧れが集結しているようなものである。


「そう!男達の夢と感動を乗せて今!あいつが…あいつが動き出す!そいつの名は〜"アーマードおれ"!」


2年を経てフランキーの姿は大幅に変っていた。
2年前より人ではなくロボットに近づいており、本当に人なのかと疑いたくなるほど。
しかしロビンとアスカの反応が薄かったのが不満だ…、フランキーは後にそうチョッパーとウソップに愚痴る事になる。
再会したロビンには『変らないわね、フランキー』と言われ、アスカからは『へぇ』と一言だけしか貰っていない。


「しかしフランキー、そんなデカイ手じゃ精密な大工作業はできねェんじゃねェか?」

「何の話かね。」

「「―――っ!!!」」


ウソップは大きすぎる手を見て大工作業が出来ないか心配そうに見つめる。
しかしそんなウソップの言葉を聞いたフランキーはジャキン、と手の平から細い手を出す。
その場にアスカがいたらこう言っていただろう…『もう人じゃないじゃん。』と…


「ロビーン!」

「ナミ!元気そうね!」


手から手を出したロボ…ではなくフランキーにチョッパーとウソップは盛り上がり、そんな3人をよそに荷物を取りに行っていたナミが戻ってきた。
騒がしい中ただ船縁で静かに3人を見つめていたロビンに声をかけ手を振る。
ナミの声にロビンは顔をあげ、手を振り返す。


「何の珍プレーなの?あの体は…」

「ふふ、さあ…理解できない。」


微笑みながら理解できないと切って捨てるロビンの毒舌も相変わらずで、ナミは苦笑いを浮かべながらコーティング船の感触に驚き声を小さくあげた。
ぷにぷにしており、なんだかゼリーの上にいるようでナミは楽しげな笑い声を零す。


「あら、アスカは一緒じゃないの?シャッキーからアスカはナミと一緒にいるって聞いたけど…」

「それがシャッキー達と1年半も一緒に暮らしてたから名残惜しいみたい…」

「そうね…アスカは特に可愛がられてるみたいだし……あの子はあんな冷静でも優しいところがあるから…」


ロビンもアスカを妹のように思っているようで、ちょっぴりフィルターが掛かっていた。
もし優しい子ならば可愛い可愛いプリティなウサギを足蹴りにしたり爆破させたりクッションにしたり食べたりは、しない。
決して、しない。
もしゾロがいてフランキーがロビンの言葉を聞いていたらきっと『お前ら気は確かか』と真顔で言うだろう。
彼らから見たアスカと、ナミとロビンから見たアスカはきっと違う。


「君達!」

「!、レイリーさん!シャッキー!!」


孫娘を可愛がる孫馬鹿の冥王の姿を思い描いているとその張本人であるレイリーとシャッキー、そしてシャッキーと話しながらアスカが現れた。
アスカはあれから着替えたのか短パン姿という2年前とそう変らない姿だったが、上の服がキャミに変っていた。
やはり能力が能力だからか腕出しなのは変らないが、2年前では背中を隠す服を常に着ていたアスカだったがナミ達に背中の焼印を見せた、そして過去を話した事で吹っ切れたのかもう隠す事はしなくなったようである。
その分髪は長く伸び、背中を隠していた。
心境が少し変った事を示すアスカの格好にロビンとナミは一瞬目を見張ったが、嬉しそうな笑みへと変える。
そのアスカは荷物など一切なく、反対にレイリーとシャッキーが荷物を持っていた。


「少々島の状況が忙しなくなってきたぞ」

「え…?」


船に乗り込み、アスカの荷物が入っているカバンを置きながらのレイリーの言葉にナミは目を丸くし、ロビンも小首を傾げる。
そんなナミ達にレイリーはその理由を教えた。


「海軍が!?」

「ええ、ニセ者のモンキーちゃん一味を本物だと思って大きく動き出してるの…軍の通信を盗聴したから間違いないわ」


忙しなくなった理由とはこの諸島に続々と海軍が上陸していると言うことだった。
2年前の戦争を機に"新たな"元帥が新世界へと本部を移したためシャボンディ諸島は海賊やゴロツキが多く上陸している。
居ついたものも多く、治安は更に悪くなっていた。
そんな中偽者の麦わら一味が大っぴらに仲間募集をチラシで張っていたためそれを知った海軍が動き出したのだ。
2年の間海軍も人材を増やし、新人も多く入って来た。
そして2年という長い年月で姿が変ったと海軍の者達は思ったらしい。
偽者を本物と勘違いし、今海軍はその偽者が集まっている広場を覆っているらしい。
それを誰よりも先に聞いたアスカは『いい気味。』と鼻で笑っていた。
よほど疎ましく思っていたようである。


「ブルックちゃんにもライブ会場の電伝虫で状況は伝えてあるわ…もうすぐこっちに向かって来るはずよ」

「ほう…スターの座を捨てて来るか……やっぱりあいつは骨がある!」


ブルックは何故か大スターとなってこの諸島へ舞い戻ってきた。
それを聞いた時、アスカはまず『なんでスター?』と素直に思ったとか…
暗い場所から一気に明るく輝かしい場所へと這い上がったブルックだったが、スターの道を歩む事なく海賊として再び地に足をつけるという。
フランキーはそんなブルックに感心したように声を零す。


「ナミちゃん、君が航海士だな?コーティング船の操作を教える。しっかり覚えろ!」

「あ…はい!頑張るっ!!」


船の航海士がナミだと言うことはアスカから聞き、レイリーはナミにコーティング船の操作を教えるため声をかける。
普通の船とは扱いが違う船の操作にナミは出来るだけ覚えようとグッと拳を握り、シャッキーの隣で荷物を受け取り地面に置きながらアスカが拳を握り気合を入れるナミに『頑張れ〜』と応援の声をかけるとナミのやる気がアップし、そして何故かレイリーの教える気合も入った。
そんなナミとレイリーの似たもの同士に突っ込む者はもう誰もいない。(慣れた的な意味で。)


「おう!何だ何だ!?急に緊迫してきたな!!でもレイリー!肝心のルフィがまだなんだが…!」

「大丈夫。ルフィならもう上陸している。」

「…!!」


ナミに色々操作を教えていたレイリーにウソップはまだルフィがいないと慌てて出航させようとしているレイリーを止めた。
しかしレイリーの言葉にウソップだけではなく全員が嬉しそうに笑う。


「他の2人とは連絡がつくのかしら。」

「ああ、一度ここへ来たサンジには子電伝虫を渡してある。今ゾロと一緒だと連絡もついた。」

「そう…よかった……早くしなきゃ海軍はもうすぐそこよ。連絡がつかないのはモンキーちゃんだけね…だけどビブルカードを君達に渡しておくわ。彼はコレを頼りに来るでしょう?」


そう言いながらシャッキーはアスカにビブルカードを渡す。


「海岸に面した"42番GR"がいい…そこに船を回し全員を集めろ。少々慌しいがそれぞれの"2年"を乗り越えていよいよ再出発の刻だ!!」


ナミに短時間で操作をあらかた教えてレイリーは船から下りてシャッキーとアスカの所へと向かう。
船は42番GRへ向かう為ナミ達が忙しなく動く。


「アスカ…」

「レイリー…シャッキー…」

「寂しく、なるわね……アスカ…」

「うん…」


レイリーがアスカの側へと歩み寄り、アスカは別れの時が近づいているのにシャッキーとレイリーの顔を見つめる。
1年半…レイリーは2年だが、2人と過ごしてきた日々を思い寂しさに自然とアスカの声は沈んでしまう。
それはレイリーとシャッキーも同じなのか、孫娘として可愛がっていたアスカの出航に2人は悲しげに、しかし微笑ましく見つめる。
あまり表情を動かす事のないアスカがあからさまに眉を下げて自分達の別れを悲しんでいるのを見てレイリーは目を細めアスカの頭に大きい手を乗せた。


「やっと仲間と海に出れるんだ…そんな表情はよしなさい…」

「でも……でも…レイリーとシャッキーと別れるのは寂しいよ…」

「アスカ…」


頭を撫でられたアスカはレイリーへ顔を上げる。
その表情は泣き出しそうで、そんなアスカにレイリーは苦笑いを浮かべ小さくアスカを咎めた。
しかしレイリーの言っている事はアスカも分かっていたがそれでも寂しい気持ちは隠すことは出来ない。
特にこの2人には2年の間本当に孫娘のように、娘のように可愛がってくれたから余計だろう。
レイリーに色々な事を教えてもらった事、シャッキーと色んなお店で買い物をしたり一緒にお風呂に入った事、何年経っても自分が年頃の女の子というのを自覚せずレイリーと一緒にお風呂に入ろうとしてレイリーに本気で怒られた事、何故か怒られて拗ねたアスカにシャッキーが美味しいジュースやデザートを作って機嫌を直した事…思い出せばきりがないほどの思い出がある。
1人寂しくないように2人が気を使ってくれたのもあるが、それでも可愛がってくれる2人をどんなに怒られてもアスカは嫌いになれなかった。


「アスカ…元気で……絶対死なないで…」

「うん…大丈夫だよ、シャッキー……」


しかし、それはアスカだけではなかった。
シャッキーも、レイリーもアスカを本当に、心から愛し可愛がっていた。
無表情ながらも色々な素顔を見せてくれたアスカ。
自分達を本当の祖父母として慕ってくれたアスカ。
両親はもうシャンクスがいるため親代わりにはなれないが、それでもアスカと一緒にいた時間は2人にはかけがえのない日々となっていた。
シャッキーは涙を溜め、それを誤魔化すようにタバコの煙を吐き出してアスカを抱きしめる。
タバコとシャッキーの匂いがアスカの鼻をかすめ、アスカはもうこの匂いも温もりも感じることができなくなることに更に寂しさを積もらせる。
泣くのを我慢しているシャッキーの声は微かに震えており、そんなシャッキーの声を耳にしながらアスカも泣くのを我慢しシャッキーの背中に腕を回して自分もシャッキーに擦り寄り抱きついた。


「どんなに離れていてもアスカは私達の大切な存在だ……仲間の他にも私がいる、シャッキーがいる…シャンクスがいる……決してアスカは1人ではない。……それを決して忘れてはならない。…いいな?」

「うん…」


シャッキーと抱き合うアスカにレイリーは愛しげに目を細め、抱きしめられたままのアスカの頭を優しく撫でてやる。
レイリーの言葉にアスカはシャッキーの胸元から顔を上げ、しっかりと頷く。
昔とは違い自分の過去を知り、そして守ってくれる仲間の存在にアスカは更に強くなった。
それは力もだが内面も。
そんなアスカにレイリーは涙を溜めるもすぐに拭い『なら行ってこい!』と背中を押す。


「レイリー!シャッキー!!本当に…本当に色々ありがとう!!私また来るから!!ルフィが海賊王になったのを見たら絶対来るから!!だから待ってて!!」

「――ああ!待ってるさ!!だから絶対生きて私達に会いに来い!!」

「うん!!」


アスカはレイリーに背中を押され足元に置いていた肩に荷物をかけた後準備できたと声をかけてきた仲間の元へ駆け寄っていく。
船に乗り込んだアスカは見送るレイリーとシャッキーへ振り返り2人に聞こえるように声を大にして手を振る。
また戻ってくると約束するアスカにレイリーは目を見張ったが、すぐに笑みを浮かべ手を振り返した。
シャッキーも笑みを浮かべ、『楽しみにしてるわ!』とレイリーと同じくアスカに手を振り返す。

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