船内は異様に静かだった。
ただ、ブルックが紅茶を飲む音と海中の音だけが静まり返るその場に響く。
全員がブルックの言葉に固まっており、特にルフィとアスカは息をしていないんじゃないかと思うほどブルックを見つめて小首をかしげていた姿のまま固まっている。
「ブ…ブルック!!」
「はい?」
そんな重たく冷たい空気の中、海獣が横切る時の水を切る音に我に返ったナミが慌ててブルックの名を呼ぶ。
まったくもって空気など読む気のないブルックはナミに名を呼ばれ紅茶から口を放しナミへ顔を向ける。
その顔には本当に…ほんっっとうに分かっていない表情を浮かべていた。
「あんた!!なんで今…!っていうかなんで言うわけ!?」
「なんでって…おめでたいことではありませんか。」
「いや…めでたくねェだろ…」
「え?なんでですか?」
『仲間の身内が結婚した…それはとてもめでたいことですしお祝いするべきなのでは?』と首を傾げるブルックにナミと同じく我に返ったウソップがどう説明したらいいか分からず、そして純に祝おうとしているブルックの無い瞳で見つめられぐっと言葉を呑み込む。
「ね……姉ちゃんが…け…………け…結婚…?」
「あの、ね…ルフィ…アスカ…これはその…」
「これはあれだ!噂なんだ!!噂!!だから…」
「はい、結婚しました…新聞でも書かれていたんですが…見ませんでしたか?」
「ちょ…!ブルック黙ってろ!!」
ブルックの言葉が…『結婚』という単語を耳にしたルフィとアスカは固まった後ゆっくりと俯く。
俯いているためルフィは帽子のツバで表情が窺えず、アスカも前髪で表情が窺えない。
ずっと黙ったまま固まっていたルフィがどもりながらもぽつりと呟き、その小さな呟きに必死にナミ達がフォローに回っていたのに再びブルックがそんな2人のフォローを一言で切り刻んでしまう。
「け……結婚……………結婚…?誰とだ…?え…姉ちゃんが結婚…?誰と?どこの馬の骨とだ…?」
「「う、馬の骨!?」」
「確かスモーク…あれ?スモーモ?」
「スモーカー中将ね。」
「ああ!そうです!!スモーカー中将!!」
ルフィが…あのルフィが『馬の骨』という言葉を口にした事にウソップとナミは驚きの声を揃える。
まさかあのルフィから『馬の骨』という高度な単語が出てくるとは…!!、と2人はもう誤魔化しきれないと現実逃避する。
そんな2人をよそにブルックはアスカとルフィの姉だというミコトの夫の名を思い出そうとしていたが、どうも男には興味がこれっぽっちもないブルックは名前が思い出せなかった。
そんなブルックにこの一味の頭脳であるロビンがブルックの代わりに名を答えた。
ブルックは中々名前が出てこないわだかまりがロビンのお陰で消え、パチン、と指を鳴らし笑う。
ロビンも答えたことによってその場の凍り付いていた空気も元通りになり『おれも新聞で見たことあるぞ!!確か1年前だった!!』とチョッパーが手を上げて答え、『1年前っていやァ…新聞見てた鷹の目が荒れてたな…』と酒を飲みながらゾロが呟く。
しかしルフィはスモーカーという名前に聞き覚えがないのか首を何度も傾げ腕を組む。
アスカは未だそのまま固まって動き一つしない。
「スモ……スモーカー…?」
「
ケムリンの事よ、ルフィ。」
「ああ!ケムリンか!!………――――ってなにィィィィィィィ!!!!?ケ、ケムリンと姉ちゃんが結婚したァァァァァァ〜〜!!!?」
ルフィがケムリンという名前で呼んでいる事を知っているロビンは首をかしげるルフィに訂正し、ロビンの言葉にスモーカーが誰なのか思い出したのかポン、と手を叩くが次の瞬間目をこれでもかと丸くさせながら大音量で驚きの声をあげた。
そんなルフィにウソップとチョッパーは『反応おそッ!!』と突っ込む。
「なんでケムリンと姉ちゃんが結婚なんだよ!!どうしてだよ…!!!」
「知らねェよ!!こっちが聞きたいわ!!」
「ゆるさ〜〜〜ん!!ぜってェーー!ゆるさ〜〜ん!!じいちゃんは何してんだよ!!どうして姉ちゃんが結婚なんだよ!!――おい!!アスカ!!お前も何か言えよ!!姉ちゃんが結婚なんだぞ!?結婚!!おめェ結婚って知ってるか!?結婚っていやァ!……あー……結婚なんだよ!!」
「「知らねェのかよ…!!」」
愛する姉が結婚した…しかもその相手はライバルというより因縁があると言ってもいいほどの男、スモーカーだった。
戦争の時もやりあいハンコックに助けられながらもからがら逃げたがルフィは助けてもらわなかったらこの世にはいない悔しさよりも姉を取られた悔しさに怒り狂っている。
しかし怒り狂うルフィをよそにアスカはずっと固まったまま黙っており、そんなアスカにルフィは珍しくも怒鳴るように声を上げた。
だが――
「きゃあ!アスカーーーっ!!?」
――アスカはルフィに肩を掴まれ揺らされた瞬間フラッと後ろへ倒れてしまった。
「き、気絶してやがる…!そんなにショックだったのか…」
慌ててチョッパーがアスカに駆け寄り診断するとただ気を失っているだけだった。
姉が結婚しただけで気絶したアスカにウソップからは『どんだけショックだったんだよ!』と突っ込みが入る。
あれほど冷静で冷酷でロビンに続きあまり動じないアスカが姉の結婚に気を失ってしまった…彼女の中でのミコトがどう美化されているのか、ゾロは興味が沸いたが聞いたら聞いたで煩くなるのを2年前から知っているため聞く勇気は、ない。
しかしルフィ達は知らない…
「兄助!いた!前!麦わら!!」
「見りゃ分かっちゃうっつーのよォ!おバカさんめー!ケヘヘヘ!!今度こそ船に乗せてちょうだいよォー!!」
カリブー兄弟とその一味の海賊船が追って来ていることを…
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