(14 / 274) ラビットガール2 (14)

その血は人魚に抱き抱えられ胸元に顔を押し付けられたサンジの鼻血だった。
サンジは押し殺していた興奮が爆発したようで、ルフィ達は王子達にバレた事よりも大量の血を出したことへの焦りで3人は岩陰から姿を現す。
ルフィ達が姿を現したのを見て、手配書と照らし合わせ本人だと知った王子はアンモナイツを出動させた。
チョッパーはゴンドラから出てきたアンモナイツを見て慌てて岩に横になって気を失っているサンジの前に立つ。


「ちょっと待ってくれ!!!不法入国は悪かったよ!!でも捕まえるのは後にしてくれ!!その前に今すぐ誰か…!献血してくれねェか!!? このままにしてたら!もう数十分で仲間が死んじゃうよ!!!血液型は『S型RH−』!!ちょっと珍しいけど!!この中に誰かいないか!?それとも魚人や人魚は流れる血が違うのか!?」

「…!!」


チョッパーはもうストックが無いと輸血を人魚や魚人達に頼む。
しかし、チョッパーの言葉に魚人や人魚達は言葉を詰まらせ、表情を硬くしそんな人魚達に気付かずルフィ達も輸血してくれと声を張り上げた。


「おい!頼むよ!誰か!…お願いします!サンジに血やってくれ!!」

「急いで!誰かいねェか!?」

「こんなバカな死に方ねェ…!誰か!!」


しかし…誰も名乗り出る者も、自分は違うと呟く者はいない。
あんなに楽しげに遊んでいた人魚達も気まずそうにチョッパー達から目を逸らすだけだった。


「チョッパーちん!人魚も魚人も人間と同じ血液だよ!輸血もできる………だけど…」


唯一チョッパー達に声を掛けてくれたのはケイミーだった。
ケイミーは自分の血液型は違うけど…、と伝えた後人魚も魚人も人間も同じ血液だと伝える。
しかし、その後は言いにくそうに口篭ってしまった。
そんなケイミーの後をある魚人が続ける。



「ハモハモハモハモ!!!」

「…!!」

「人間共がァ〜〜!!バカ言ってやがるぜェ〜!!クソみてェな"下等種族"のてめェら人間にィ!血をくれてやろうなんて物好きはこの魚人島にはいねェよォ!!そんなものを差し出せば人間を嫌う者達から"闇夜の裁き"を受ける!!」




ケイミーの言葉に続いたのはルフィ達が不法入国者となった原因の魚人だった。
その魚人…ハモンドは高笑いを上げながら誰も輸血しない理由を叫ぶ。
その間でもサンジから血は止まらない。
そんなサンジを見てハモンドは馬鹿にした言い草と笑いを止めようとはしなかった。


「ダラダラと大量に血を流し何もできずに死に耐えればいい…!!この国には古くからの法律があるのさ!!『人間に血液を分かつ事を禁ず』!!」

「何だって…!!?」

「これはいわばお前ら人間の決めたルールさ!!!長い歴史において我らの存在を化け物と恐れ…!血の混同をお前達が拒んだ!!魚人島の英雄"フィッシャー・タイガー"の死も然り!!種族構わず奴隷解放に命を張った男が…!!後の流血戦の末血液さえあれば確実に生きらえた命を…いとも簡単に落とした!!心なき人間達に供血を拒まれ……死んだ!!!そんな部下1匹の命なんか諦めてお前ら俺達と"魚人街"へ来い!!新魚人海賊団船長『ホーディ・ジョーンズ様』がお前らをお呼びだ!!」


ハモンドは法律で人間に血を分ける事を禁じているとはっきりと答えた。
その声や言葉はルフィ達人間だけが聞こえたわけではない。
人魚も魚人もこの場にいる全員に届いていた。


「おい…法律か何か知らねェが頼むよ!!!誰かいねェか!?『S型RH−』!!礼なら何でもするからよ!今はとにかくコイツの命を救ってくれ!!!」


ハモンドの言葉は全員に届いていた。
だから余計ウソップの願いは聞き入れられず誰もが口を閉ざしてしまう。
その間でも仲間の命は馬鹿げた理由で消えかけており、ウソップとチョッパーは口を閉ざす魚人や人魚達にグッと拳を握る。


「力尽くで連れてくぞ!!"打瀬網"!!!!」

「お前らの言う事は……聞かねェって……」


誰も一歩も動かないのをハモンドは可笑しそうに高笑いしながら言うことを聞かないルフィ達を力ずくで連行しようとバズーカから網を出し、捕まえようとした。
しかし―――


"ラビット爆弾"!!

「―――!!!」


ルフィは自分の横を白い物が3つ通りすぎたと思ったその瞬間、パチン、という音と共にハモンド達3人が突然爆発した。


「な…なんだ…!?」

「えー!?爆発した!?なんで!?」

「あの技は…」


驚いたのはルフィ達だけではなく、その場にいた魚人や人魚達もルフィ達と同様目を丸くさえ唖然としていた。
ハモンド達は突然爆発し、身体を黒コゲにさせ黒い煙を立てながらゆっくりと地面に倒れる。
その様子を誰もが言葉なく驚愕しながら見つめていた。
ただ、ルフィだけは見たことのある技、そして爆発する前に聞いた懐かしい声に首をかしげ後ろへとゆっくりと振り返る。


「全く…話し聞いてるだけで虫唾が走る。」

「―――ッアスカ〜〜!!!」


振り返った先には離れ離れになっていた幼馴染、アスカが立っていた。
ただその姿は離れ離れになった時のキャミソールと短パンではなく、ケイミーが着ているのと同じマークのついた服に下はロビンのような布を巻いていた。
ルフィは服が違うのに気付かないほどアスカの姿に安堵と嬉しさで破顔し、手を大きく振る。
ルフィの言葉にチョパーとウソップも我に返りルフィと同じく振り返る。
2人の目線の先には確かにアスカがいた。
気を失っておらず服が違うアスカが。
しかし、その場所は何故か王子という魚人達が乗っていたゴンドラの上にいた。
相変わらず偉そうな態度は変らないが、アスカは機嫌が悪そうにハモンド達を見下ろす。


「馬鹿の言葉なんて耳障りなものね…その口、縫ってやろうか」

「「いや!止めてください!本当に!!」」


ゴンドラから軽々と降り立ったアスカの言葉にチョッパーとウソップは再会の喜びの言葉を投げかけるよりも突っ込みをアスカに投げかけた。
どこから出したか不明だが針と糸を出すアスカにウソップとチョッパーはこれ以上関係を悪化させないでくれ!!と必死に止める。
2人に引っ付かれ止められてはアスカは(鬱陶しいため)止めるしかなく、渋々針と糸をその辺に投棄する。
アスカは周りを見渡した後倒れてるサンジに歩み寄り側にしゃがみ込んでつんつん、と頬を突っつく。


「で、どうしてこんな面白い事になってるの?」

「いや…それが…」


ゴンドラにいたから知っていると思っていたが、どうやら知らないようで、チョッパーは簡単に短くサンジの今の状況を教える。
アスカは血を流し続けるサンジを見て呆れたように見下ろした。


「…馬鹿じゃないの」

「だよな…そう思うよな…」

「でも!馬鹿でも何でも!!サンジが死ぬなんておれヤだぞ!!」


アスカにつんつんと頬を突っつかれているサンジはどことなく嬉しそうだった。
気を失ってても女の子に触れられているのが分かるサンジにアスカは微かに眉にシワを寄せ静かに指を離す。
理由が馬鹿だろうが何だろうがやっと再会できたのにまた別れてしまうのは嫌だと必死なチョッパーの言葉にアスカはチョッパーからサンジへ目線を戻し『私もだよ』と呟いた。


「ルフィちん達〜〜!!」

「…!」


『さて、と…』とアスカは立ち上がり、唖然と自分を見つめる周りを見渡す。
王子の1人…フカボシと目と目が合ったその時、頭上からケイミーの声が響き、その場にいる全員が上を見上げた。
そこにはフカボシ達の乗り物であるリュウグウ号がルフィ達の側へと近寄ってきており、その上には海へ飛び込んで姿を消していたケイミーが乗っている。


「サンジちんを乗せて!!町へ行こう!!」

「ケイミー!」

「町の港には人間の人達もいっぱいいる!!急いで!!」


ケイミーの言葉にルフィ達は頷き乗り込もうと走る。
勝手に王族の乗り物を使うケイミーに警備の者達は慌てて咎めるが、ケイミーからは後で返すと返されてしまう。


「アスカさん…海賊だったんですね…」

「………」


アスカも乗り込もうとしたが、ふと目線に気付き後ろを振り返った。
そこには硬い表情を浮かべるフカボシが立ちアスカを悲しげな目で見つめていた。
アスカはフカボシの言葉に目を伏せたがすぐにフカボシへと目線を戻す。


「騙すつもりはなかった…って、言ったら言い訳にしかならないよね…」

「………」

「でも……助けてくれてありがとう…あなたとの時間楽しかったし…あの言葉、とても嬉しかった…」

「…っ!!」


小さく笑みを浮かべるアスカにフカボシは目を見張る。
アスカは嘘は言っていない。
確かに海賊だと言わなかったのは捕まりたくないからであり、嘘をついた事になる。
だがフカボシやその弟達といた時間は久々に楽しいと思えるほど有意義だったとアスカは思う。
上から目線なのは治らない悪い癖だがアスカ本人は治そうとも思わない。
それにあの言葉とは『主人には決して返さない』という言葉だった。
奴隷時代…逃げ出そうという気力すらなかったが、誰も同情はしても助けだしてくれなかった。
保護しようとしてくれなかった。
だからアスカはフカボシの言葉がとても嬉しく感じたのだ。
フカボシは照れ笑いではなく本当に嬉しいと見て取れるアスカの笑みに目を丸くさせ『じゃあ…』と手を小さく上げ自分をしつこく呼ぶルフィのいるリュウグウ号へ飛び上がって乗り込むアスカを見送った。



◇◇◇◇◇◇◇



「兄上ー!兄上〜!!」


アスカ達の姿がなくなってもフカボシはぼうっとアスカが消えていった方向を見つめていた。
弟のマンボシやリュウボシが交互に兄の顔の前で手を振っても気付きもせずただアスカが去っていった方を見つめている。


「アスカさんが…海賊…」

「だから言ったミファソラシド〜!」

「おいらは気付いてたぜ〜!あれほど言ったのに兄上が違うって言うから〜!」


手配書を見ればアスカがあの麦わらの一味であり赤髪のシャンクスの娘であり"冷酷ウサギ"と異名をもつ女海賊だということは目が悪い者以外なら分かるだろう。
しかし、この兄はどんなに言っても『アスカさんが海賊?そんな馬鹿なことがあるはずがない。いい加減な事を言うな』と頑固なまでに否定し、今まで楽しくおしゃべりをしていた。
流石長男、と言うべきか…ちゃんとやるべき事はしているため誰も文句は言えなかった。


「アスカさんが海賊…あの…"冷酷ウサギ"…?」

「そうそうラシド〜!あの人間は海賊なんだシド〜!」

「…そんなアスカさんも…ワイルドで…可憐だ…」

「「…………」」


リュウボシとマンボシは兄の呟きにこう思う。

『こりゃもう駄目だ。』

と。
―――頬を染め、フカボシが見つめるアスカの手配書には『ALIVE ONLY』と書かれていた。

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