(17 / 274) ラビットガール2 (17)

「さあ着いたぞ!!」


アスカ達はタクシーから降り、向かった先はセレブの町、ギョバリーヒルズで一際目立っていた屋敷だった。
その屋敷はどうやらパッパグの家のようで、その家を見れば2年前パッパグが人気デザイナーだと言っていた事を思い出させる。
その屋敷の1階は店となっており、タキシードを着た魚人達がパッパグを見て頭を深々と下げ『お帰りなさいませ!ご主人様!!』と野太い声でそう言葉を零す。


「だから!!この店高すぎじゃない!?そりゃ服はカワイイけど…!!」

「誰か騒いでるね…クレーマーかな?」


中へ入る直前、誰かが店の中で騒いでいる声が聞こえた。
アスカはその声に聞き覚えがあり、小首を傾げながらパッパグを先頭に店に入るとそこには…


「じゃぁ1万ベリーにしなさいよ!」

「そんな殺生な!!お客さん半額以下じゃないですか!!」


そこには数時間前に別れたばかりだったナミがいた。
アスカはナミの姿を見てどこか納得したように頷き、アスカの隣に居たウソップは『あいつか…クレーマーは…』と呆れていた。
ルフィもナミに気付き、手を振ってナミを大きな声で呼ぶ。


「え……ルフィ!アスカ!!あ!!ケイミーじゃない!!」


ナミもその声でルフィ達に気付きムッとさせていた顔を嬉しそうな笑みへと変え、ケイミーとの再会に更に嬉しそうに笑みを深めた。
店員は主であるパッパグの姿にホッと胸を撫で下ろし、助けを求めようと振り返ったのだが…


「ちょっと!ここあんたのお店なんだって?何よこの値段!!ボッたくり!?まけてよ!」

「い、いや…ブランド価格というか…おれ人気デザイナーだから…」


振り返った先には困った客に頬を抓られ抵抗もないパッパグの姿だった。
この国では人気デザイナーと知られ誰もが憧れているというパッパグへの仕打ちに店員は驚きと抓られる主への悲痛な声を上げた。


「水くせ事言うな!おめえらには2年前の大恩がある!!何でもタダだ好きなだけ持ってけ!!」

「タダ!?ほんと〜!?」


『タダ』だと聞いたナミは目を輝かせ、そして輝かしく笑う。
2年前の恩義とはケイミーが奴隷にさせられそうになったのを止めてくれた恩である。
それにトラウマライダーズからも救ってくれた恩もある。
大恩があるのだ。
あるのだが……


「ムッシュお店空っぽです!!」

「手加減ナシだな!!!」


ナミ達はその言葉に店中の服全てを袋に詰めた。
確かに恩がある。
大恩が、ある。
しかしさすがに全部持っていかれると思ってもみなかったパッパグはその遠慮のなさと手加減のなさに驚愕せざるを得ない。
因みにやはりアスカはナミにより荷物を持っていなかった。


「アスカ!船に帰ったら早速着替えましょ!」

「え゙……私も…?」


ナミの隣で相変わらずの無表情で立っていたアスカだったが、タダで可愛い服を手に入ってご機嫌なナミの言葉に顔を引きつらせる。
自分から1歩身を引くアスカなど気付かずナミはご機嫌に頷いた。


「勿論よ!!この私がアスカの分まで貰ってないと思った?2年経って体も成長したんだから年相応の格好しなくちゃ!!せっかく花の19歳なのよ!?」

「………」

「あ…でも…そうねェ……そんな格好男どもの目の毒だからここで着替えちゃいましょう!」

「ええーー!!」


アスカの今の格好はフカボシが用意した男物のTシャツとただ布を巻いてあるだけの姿だった。
裸でも平気なアスカは男の魚人や男の人魚の目線など気にもせずここまで来たらしい。
ナミはその格好を見て『というよりも…その格好、どうしたの?』とどう見ても男物の服を着てズボンを穿いていないのを見て目を光らせる。
その姿はさながらローとエッチした事を知ったレイリーのように恐ろしかった、とアスカは後にロビンのそう愚痴っていた。
フカボシの事を話せばナミの暴走が更に拍車がかかってしまうとアスカも知っているためどうにか誤魔化すことに成功する。
ミコトは二年を経てようやく成長期となり、今まで胸があるかないか分からない程度しか胸がなかった。
しかし今ではAからDへと変わり、くびれも出来、肉付きもほどよくついているというまさに大人の女性になろうとしていた。
まだ成長途中だが、恐らくナミやロビンのようになると思われる。
ナミも再会してまず気づいた変化がそれだった。
髪も伸びたし、雰囲気も少し大人になってきていた。
しかし何よりはっきりと見て取れる変化が胸だった。
抱き着いたとき、むにっと柔らかいものに気付き、アスカの体を観察してみれば出るとこ出て引っ込んでるとこは引っ込んでいた。
ナミは思った…『あ、やばい』と。
今まで幼稚体系だったせいで猫科の変態とか透明の変態とかモブロリコン変態とか変態とか変態にしか目を付けられなかったアスカだが、二年たって体も成長し、更に魅力が増した今…変態以外に目を付けられるのではないかとナミは思った。
そしてこうも思う…『アスカは私が守る!』と。
『まずは羞恥心を覚えさせなきゃ!!』と裸を見られることに抵抗のないアスカに羞恥心というものを教え込もうとした。
アスカは既に決定済みで引っ張るナミに『うげー』、と苦虫を噛み潰したような表情を隠さずニコニコ顔のナミに向ける。
しかしそんなアスカに負けては麦わら一味の航海士などできず、ナミは嫌そうな表情を浮かべるアスカの腕を掴みルンルン気分で試着室へ向かった。


「さて…どれを着ようかしら?」

「ナミが着ないんだからそれおかしくない?」


試着室の前でドン、と大きく鈍い音を立てさせながら荷物を置くナミの言葉にアスカは呆れながら深いため息交じりに突っ込んだ。
しかしやはりアスカで着せ替えが出来ると楽しくて仕方ないと気にもしていなかった。
そんなナミに逆らえないと諦めたのかアスカはもう一度溜息をついた後肩をすくめ、下手な服を選ばれたらたまったものではないと自分も服選びに参加する。


「じゃーん!これなんてどう?」

「それ、露出低いじゃん」

「低くていいじゃない!!大体アスカは露出しすぎなのよ!!」

「ねえ、ナミ…私の能力覚えてるよね?」


袋から取り出したのは袖フリルのポンチョにボーダーのキャミ、そして極め付けにはロングのジーンズ。
可愛いのは可愛い。
アスカも普通の女の子だったらこの服を着てみたいとは思うだろう。
しかし、アスカは能力者である。
アスカはナミに自分の能力を話したこともあるため、分かりつつ聞くとナミからは『勿論よ!!』と輝かしい笑みを絶やさず頷かれた。
それにホッと胸を撫で下ろしたアスカだったが…


「でも、これとそれとは違うじゃない?若い女の子が肌を出してたら体が冷えて冷え性になっちゃうわよ!」

それ、そっくりそのままナミに返す。


ナミは勿論アスカの能力を知っているし、覚えている。
アスカはウサウサの実を食べたウサギ人間であり、主なアスカの戦闘手段は言ってしまえば実力行使。
悪く言えばただの暴力である。
いわば鉄拳である。
ここだけ見れば祖父とも言えるガープに似ていると言えるだろう。
しかしその為には素手よりも能力を使った方が数倍威力が上がり、素手ではアスカもその辺の娘と変わらない強さである。
だから殴るも蹴るも飛ぶも逃げるも追いかけるも何するにもアスカは手足をウサギにする必要があった。
手足を、体をウサギにすれば必然的に服も破れ、結局服をまた買わなければならなくなる。
小さい頃は制御できずよく服を破き姉や祖父に買ってもらっていた。
シャンクスを忌み嫌う姉、ミコトの意向で決してシャンクスからのお金には手を出さず、妹や孫娘として可愛がっているモンキー家は嫌な顔をせず服を大量に買って与えていた。
そしていらない情報だがアスカの服を買う際には必ず一着二着はルフィも服を買ってもらっていたという。
しかし流石のアスカも愛しのお姉さまやおじいちゃんとして慕うガープのお金を使わせているのが申し訳ないと思ったのか必死に自分の能力を制御し、ギリギリ服を破らないようにできた。
その結果が今の露出へと繋がってしまったのだが…ナミはその事を知らないだろう。
アスカは自分よりもナミ方が年上だが、ナミもナミで"若い女の子"の類に入るため真顔ではっきりと親のようなことを呟くナミに突っ込んだ。
むしろナミの格好を見て突っ込んだ。
しかし、そんなツッコミもやはり浮かれているナミには利かなかった。
もうアスカはそんなナミに溜息しかでない。
アスカは知らない…女の子らしいことが苦手でどっと疲れが襲う自分の後ろで『おい…あのアスカが溜息ついて諦めてるぞ…!』『ああ!そんなアスカ見んの初めてだ…!』『そういえばそうですね』『やっぱナミこえェんだな!!』『ああ!こえェ!!ナミにだけは逆らえねェ!!』『ナミさんもですが、まあ、あれですよね…ルフィさんもウソップさんも私もみんな男性陣全員アスカさんに勝てませんけどね。』『…………』『…………』とルフィ達がコソコソアスカに聞こえないように小声で話していることを…


「大体こんな町でどう戦闘が起こるっていうの?せいぜい小競り合いが限度じゃない?」

「そうだけど…でも何もないって事…ルフィがいるんだからないでしょ?」

「まあ、そうだけどさ…じゃあこれはどう?」

「うん、だめ。」

「え〜…」


次々と出される服をアスカは全て却下していく。
話しながら出された次の服はキャミだった。
そう、キャミだったのはいいのだが、下はフリフリのスカートで長い。
『え?ナミってわざと?わざと選んでるの??』とアスカは真顔でそう呟く。


「じゃあ…これでいい…」


むっと唇を尖らせながら取り出した服はノースリーブのワンピースだった。
その上レギンスも用意されアスカは首を振りかけたがこれ以上付き合ったら過労死するとただ首を振って却下していただけのアスカはそう思い渋々頷いた。
スカートと言えばウォーターセブンの船大工に会いに行く際に留守番させられた時の事を思い出し、それと同時に某猫科のセクハラ男を思い出してしまう。
忘れたくても忘れられないあの男を思い出してしまい、アスカはそれを振り払うように頭を思いっきり振る。
丁度試着室に入りカーテンを引いたため誰もその突然の意味不明な行動を見ることはなかった。


(いやな奴を思い出した……お姉様を思い描いて消去しよう…)


あの時の純情を奪った憎しみは深い。
真っ裸でも平然とし、むしろ堂々としてるお前が何が純情だ、と誰かの突っ込みが聞こえるがとりあえずアスカは愛しのお姉様を思い描いて上塗りしようとした。
しかし…


(な…っなんでローが出てくるわけ!?)


もわんもわ〜ん、と髪の長い愛しのお姉様が美しい笑みを浮かべ周りを光らせながら自分に手を振っている姿を順調に思い描いていたのだが、何故か途中からローへと顔が変っていってしまった。
女性の中の女性のお姉様がなんでローに変るんだ…!!、とアスカは突然ローが出てきた為か混乱しており試着室の壁へ頭を何度も叩きつける。


「アスカ!?どうしたの!?」

「な…なんでも…ない…」

「なんでもないなら壁に頭突きしないと思うけど…」


壁は幸いな事にコンクリートや硬いものではなかったため血が出ることはなかったが、アスカはそれなりの痛みはあったのか、頭突きする音に何事かと慌ててカーテンを開けたナミに涙目を向けながら首を振る。
アスカが『本当になんでもないから…』と何度も問い詰めても首を振るだけなためナミは諦めるしかなく渋々カーテンを閉めなおした。


(うん…なんでもないし……会えるのずっと先だと思うし…もう考えるの止めよう…)


海は広い、しかし繋がっているからいつか会えるだろう…その言葉を2年間ローと離れていたアスカの記憶に残っていた。
すぐに思い出せるほど鮮明に。
首をもう一度振り、アスカは着ていた服を脱いでワンピースを上から被って着る。
その後レギンスを穿いた後、ワンピースについている胸元の紐を交互につけ蝶々結びをしようとするもすぐに手を止めてしまった。


(ロー…どこにいるのかな…)


ローの事を思い出してしまえば寂しさも積もり、忘れようと、考えるのを止めようと思っていたアスカだったがやはり考え思い出すのはローのこと。
結んでいた手もピタリと止まり、寂しげに目を伏せる。


「アスカ?」

「!――え…な、なに?」

「着れた?」

「あ、うん…」


しんみりとしていた時、中々出てこないアスカを心配してかナミが遠慮がちにカーテンを掴み中を覗きこむ。
アスカはナミの声で我に返り、ハッとさせ慌ててリボンを結ぼうとした。
しかし慌ててしまっては結べるものも結べず、そしてアスカ自身器用な方ではないため中々リボンが結べなかった。
そんな珍しく慌てるアスカの姿を見てナミはくすりと微笑みを浮かべアスカを自分の方へ体を向けさせ代わりにリボンを結んでやる。


「まったく…成長しても不器用な所は変らないわね。」


アスカがどんだけ不器用なのかは仲間として一緒にくらしていく中で掃除や料理などで十分ナミも知っていた。
2年経って体が成長し髪も伸びたが中身は変らないアスカにナミは笑みを深める。


(そうだ…今はローを忘れよう……今は…ナミ達と一緒にいられる幸せを噛み締めなきゃ…)


アスカは微笑を深めるナミに釣られるように小さく笑いそう思う。
今、ローを想っていてもここにはローはいない。
いないものを想っても仕方ない、とアスカは今のような人に取ったら日常でどうてもいい時間を噛み締め、いつでも思い出せるようにとローを記憶の奥へと仕舞いこんだ。

しかし、アスカは知らないだろう。

この島を出発した先の島でローと再会することを。

そして、もう1人……

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