アスカは着慣れない服を着ながらの戦闘に嫌気が差しなり投げやりになっていたその時、入り口のベルが広場に鳴り響く。
「は…っ!!きっとフカボシ王子だ…!!!」
右大臣がベルの音に誰よりも早く反応する。
ベルが何度か鳴る中、右大臣の言葉に唯一この状況に悲観的なウソップは顔を青くさせ、アスカは聞き覚えのある声にスカートを少し摘まんで不満げに愛らしい柄のワンピースを見ていた顔を上げる。
兵達が王子の帰りに表情を明るくさせある場所に一斉に目線を向けた。
そこにはベルがなりプルプルと鳴く電伝虫があり、その相手とは確実に王子達だろう。
ナミ達が取るか取らないか仲間とアイコンタクトを取っていると悪い意味でもいい意味でも行動力のある人物の1人であるゾロが無言でその鳴く電伝虫へ歩み寄り受話器を取ってしまった。
「…誰だ?」
「わーーっ!!お前が出るなーー!」
「フカボシ王子ーー!!お助けをーッ!!」
「黙ってろ!てめェら!!」
律儀にも受話器を取ったゾロだったが、後ろで縛られている兵達が助けを求め叫び、その声の大きさにゾロはつい怒鳴ってしまう。
その兵達の声は広いこの場所に大きく響き、アスカは人より少し耳がいいためその煩さに両耳を塞ぐ。
受話器の向こうにいるフカボシは聞き覚えのない声に怪訝そうに眉を顰める。
≪・・・私です!フカボシです!そちらで何が起きているのですか!? 今すぐに"連絡廊"を下ろし"総門"と王宮の"御門"を開けてください!≫
「開けたらどうなる…そいつはできねェ。」
≪…!≫
フカボシの言葉にざわめきが大きくなるがゾロはフカボシ達に助けを求める兵達をよそに拒否を示す。
後ろではウソップが訳を話せと必死に声を上げ、その隣にはケイミーが恐怖に涙し、パッパグが共犯になりたくないと泣き叫ぶ。
しかしそんな悲しき鳴き声などゾロに無視されてしまい、パッパグの懇願などよそにフカボシはその聞き覚えのない声にようやく兵ではないことに気付き声を低く呟く。
≪…"麦わらの一味"のどなたでしょうか?≫
「フカボシ!そやつは"麦わらの一味"の三刀流の剣士!懸賞金1億6千万ベリー!"海賊狩り"の………
ゾリじゃ!!」
「
ゾロだよ!!」
その聞き覚えのない声に麦わらの一味だと気付いたフカボシの問いに答えたのはゾロではなくフカボシの父でありこの国の王であるネプチューンだった。
…が、ネプチューンは当たり前のようにゾロの名を言い間違え、やはりゾロに突っ込まれてしまう。
「聞こえただろう。ネプチューンを含めこっちは大量の人質がいる…こいつらの命が惜しけりゃあそっちで俺達の出港準備をしろ!!必要なのはコーティングしたウチの海賊船サニー号、後は残りの船員…暗黒女1人、ロボット1台、たぬき1匹、エロガッパ1匹だ。」
「あ!ゾロ!お金は10億ベリー…」
「やめろ!てめェ!クラァ!!」
「エ…エロガッパって…!!ヨホホ!ツボ!!私それツボ!!ヨホホ!!」
「はぁ…もうどうでもいい…」
ゾロの条件にナミは1つ付け足す。
初っ端から貧乏海賊団な自分達に必要なもの…それはお金だった。
某1名暴食家がいるためそこは譲れない。
ブルックはエロガッパという呼び名がツボに入ったのか爆笑し、アスカは動きにくい服に絶望している表情を浮かべ大袈裟に落ち込んでいた。
それはまるでペローナの能力を受けた時のように…
≪愛らしいウサギはいらないのですか?≫
「は?愛らしいウサギ…?」
まさかアスカもいるとは考えつかないフカボシはゾロの述べていった名の中に心を鷲掴みし持ち帰って姿を消したウサギ…アスカの名がない事に少し疑問を持った。
フカボシ視点ではアスカは決して無情でも冷酷でもないように映り常にキラキラと眩しく写っている。
そのため、ゾロが上げた名前?の中にアスカがいない事を首を傾げる。
しかし肝心のゾロからは言っている意味を理解しているようには感じられず、フカボシは『ああ、いえ…なんでもないです…』と誤魔化した。
もし、ここにアスカがいなかったらゾロはアスカの事を『冷酷非道無敵女』とでも言っていただろう。
≪条件は分かった…君たちが仲間全員と速やかにこの国を出ていけるよう手配しましょう…――引き替えに人質は全員無事に返してもらうぞ!≫
≪兄上!?≫
≪…他に術がない…我々にとってもこの"連絡廊"だけが竜宮城への唯一の通路…他は何重ものシャボンでガードされ侵入不可能だ…≫
フカボシがゾロの…海賊の条件を全て呑んだ事に弟達は慌てて咎めるよう兄の名を呼ぶ。
しかしフカボシの正論に返す言葉もなく口篭ってしまった。
そんな弟達の気持ちも十分に分かっているからこそ気落ちする弟達や兵に何も言わずゾロへ『1ついいか、ゾロ君…』と声をかける。
≪こんな状況でコレを伝えるのは不本意だが…ジンベエの義理を欠く訳にはいかない……元『王下七武海』"海侠のジンベエ"より"麦わらのルフィ"、アスカさ…ゴホン!……"冷酷ウサギのアスカ"へ……君らがこの島に到着したら伝えて欲しいという伝言を2つ預かっている。≫
「ジンベエか…」
「ジンベエ親分…」
「ジンベエ…」
"ジンベエ"という名に落ち着き始めていた周りがまたざわめきだす。
ウソップも"ジンベエ"という名に反応し、入り江で聞いたルフィがジンベエと友達だと言うことを思い出しゾロ達に伝え、ケイミーもジンベエを知っているのか『海賊だけど信頼のある凄い人』だと褒め称える。
ケイミーの言葉通り周りの反応を見ればその信頼度は見て取れるだろう。
先ほどまでどうでもよさ気に俯きいじけていたアスカは『ジンベエ!?』と下僕ウサギ達を消し先程まで仕舞っていたウサ耳をピンと立てさせ顔を上げる。
その表情はパァァ、と花が咲き乱れたように眩しかった。
「ゾロ!貸して!」
「お、おい!アスカ!」
"ジンベエ"と聞いたアスカはゾロの持っていた受話器を奪い取り、無理矢理代わってもらう。
受話器を奪われたゾロは目を見張りアスカにまるで邪魔だと言わんばかりに押し退けられ後ろへ数歩下がってしまう。
文句を言おうと口を開きかけたゾロだったが、アスカの方が早かった。
「今ジンベエって言った!?」
≪!――アスカさん!?≫
フカボシはアスカの声に受話器の向こうで目を丸くさせる。
ゾロと代わったのかとフカボシは心を鷲掴みして持っていったアスカの突然の登場に息を呑む。
そんなフカボシに気付かずアスカは再度『今ジンベエって言ったよね!!』と確認し、フカボシは戸惑いながらも頷く。
≪は、はい…ジンベエと言いましたが…≫
「今ジンベエはどこにいるの!?」
≪なぜ…あなたがそれを気にするのです…?≫
「なぜって…ジンベエが好きだから?」
≪す……す…っ!?≫
「?」
この場合、アスカの言う好きは親愛である。
LIKEである。
決してLOVEではない。
しかし約2名誤解した者がおり、その1人が今アスカと会話をしているフカボシ王子である。
フカボシはアスカからの好きをアイラブユー、と言っているように脳内変換されており、脳裏ではジンベエと愛しのアスカが抱き合っている光景が浮かんでいた。
因みにその周りには花が咲き乱れキラキラと更に光っている。
そして、もう1人…
「す……好き…ですって…!?」
フカボシと同じくLIKEではなくLOVEと勘違いしてしまったのはナミだった。
顔を俯かせわなわなと肩を震わせるナミに嫌な予感しかしないウソップとブルックは静かにナミの側を離れ、ケイミーとパッパグは何故2人が離れるのかウソップとブルックを目で追いながら疑問に思う。
しかし、その疑問はすぐに解けることとなる。
「アスカーーっ!!」
「ひ…っ!」
ゴオオ、と一瞬にして炎を纏ったナミが鬼のような顔を上げアスカの名を叫ぶ。
アスカはビクッと肩を揺らしゆっくりとナミへ振り返ると小さな悲鳴を零す。
アスカが悲鳴を零す事に普段のゾロならば『珍しいな』と思うところだが、ゾロもゾロでナミを直視してしまったため顔を青くさせ無言でナミから目を逸らしゆっくりと標的であるアスカの側から離れる。
しかし、それはゾロだけではなかった。
ズンズン、と怒りに任せて大股でアスカに近づくナミのその形相に魚人達もゾロと同じ…いや、それ以上に顔を青くさせ必死に顔を背いている。
「アスカ!!あんたジンベエとどういう関係なの!!」
アスカに歩み寄ったナミは鬼の形相をそのままにガシッとアスカの薄い肩を掴み、逃がさないように力を入れる。
アスカは顔を逸らしたらいけない…そう野生の勘が言っており逸らしたくても逸らせない。
顔をこれでもかと青くさせるアスカなど気にもせずナミは見えない相手に恨みの念を込め、『どういう関係もなにも…協力してくれた人?』と答えようと言いかけたアスカを遮り声を上げた。
「好きってどういう事!?好きって…好きってなに!?なんなの!?好き…?どうして!?何が!?どこが!?どういうところが!?地位が!?元とは言え七武海の地位が好きなの!?年収は!?年収いくらの男なの!?言っておくけどね私は年収100億の男じゃないと許さないわよ!!いい!?100億よ!?100万でも100ベリーじゃなくて100億!!!それに七武海といえば立派な海賊よね!!それに元というと辞めたのよね!!七武海を辞めて今無職よね!!いい!?無職の男なんて碌な男いなんだから止めておきなさい!!大体魚人よ!?魚人!!もしアスカがジンベエと結婚したら私とアスカが離れ離れになるのよ!?離れ離れって分かる!?あのシャボンディ諸島で別れたのとは違うのよ!?それにきっとジンベエはアスカが自分より私のことが好きだからって嫉妬して私とアスカを引き離すのよ!!そうよ!!きっとそう!!そうに違いないわ!!大体ここにいられない男と結婚してこれからどうするの!?あなたまさかジンベエの海賊団に入るんじゃないでしょうね!!許さないわよ!そんな事!!ルフィが許しても!神が許しても!ベルメールさんが許しても私が許さないわよーーー!!!」
≪そうです!!ジンベエとどういう関係なんですか!?確かにジンベエは素晴らしい!人柄もよく信頼も厚く魚人街の出身とはいえ礼儀も持ち合わせ文句のない人物です!!それは認めましょう!!しかしあなたとジンベエの歳の差は大きい…!!一緒になってもいいことはありませんよ!?あなたは年上が好みなんですか!?だったらすぐ側にいるでしょう!!今!この場にいないがあなたの前にいる男が…!!≫
この間、2人はノンブレスである。
アスカは2人の暴走に挟む口もなく困ったように表情を浮かべて顔を近づけるナミを見つめる。
もう心の中は泣きそうだった。
目の前の過保護モードナミに一杯一杯なのか何故フカボシも暴走するのか、という疑問を思う余裕もない。
しかし余裕がないだけでちゃんとフカボシの言い分も聞いていた。
2人からの言葉攻めにアスカは珍しく戸惑いの表情を崩さずにいる。
しかし兵達は当事者ではないため思いのほか冷静で『なぜフカボシ王子が…!?』と誰もが首を傾げた。
≪「アスカ(さん)!!ジンベエとはどういう関係(なの)(なんですか)!!?」≫
「ぅ…べ、別になんでもないってばーっ!!」
戸惑いを強くするアスカなどお構いなしに2人は更にアスカを問い詰める。
受話器の後ろでは『あ、兄上〜!』とアスカ以上に困った声が聞こえるが今のアスカには届かない。
アスカはついに我慢できず声を上げ、そのアスカの声はイヤに広間に響き渡り木霊する。
木霊が何度か繰り返しに響き消えていった後も数秒は時間が止まったようにその場は静まり返った。
「……本当に?」
≪嘘偽りなく…ジンベエとは何でもないのですか…?≫
「な、なんでもないってば……ジンベエはエース救出に手を貸してくれて助けてくれたけど…恋愛の意味で好きじゃないってば…普通に好きなだけだもん…」
「……そう…」
≪……そうですか…≫
はぁ…、と安堵息が受話器とナミの口から漏れる。
アスカはナミが項垂れ、力を抜くのを感じ、同じく安堵の息をつきホッと胸を撫で下ろす。
レベルアップしたナミの過保護さには流石のアスカも敵わなかったようだ。
それを見てウソップ、ゾロ、ブルックは暴走しているナミには決して逆らうのは止そう…そう心を1つにした。
ナミは『よかった…』と呟きながらゆっくりとアスカを抱きしめ腕の中に閉じ込め、それを見たゾロはナミが元に戻ったことに疲れたように溜息をつきながらアスカの手の中に納まっている受話器を取り返し、用件を聞き出そうと口元へ持っていく。
「ルフィは今ここにはいねェが…俺から伝える……言え。」
受話器の向こうの相手…フカボシも安堵の息をついていたがゾロの言葉に我に返り、表情を引き締める。
≪1つ目は……『ホーディと戦うな』―――もう1つ!『"海の森"で待つ』!!この2つだ。≫
「…海の森?ホーディ?」
ジンベエの伝言を伝えたフカボシはゾロの出した条件を満たすため電伝虫を切りその場を離れる。
何も言わなくなった受話器を眠りについた電伝虫に戻しながらゾロは"海の森"、そして"ホーディ"…この2つのキーワードに怪訝そうに眉を顰めた。
この中で唯一ジンベエと関わりが深いアスカへ目線を送るがゾロの目線に気付いたアスカも電伝虫の方へやっていた目線をゾロへ向け『分からない』という意味を込め首を振る。
ゾロは首を振るアスカから目線を電伝虫へ戻した。
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