王妃であるオトヒメを殺したのは自分である…
ホーディは確かにそう言った。
「そんな…!!じゃああの時の人間は!!?」
しかし国民達が伝えられていたのはオトヒメを殺したのはホーディではなく人間である…という事。
食い違っている自分達とホーデに誰もが困惑を隠しきれていない。
そんなどよめきに幹部であるゼオやダルマ達はクツクツと愉快そうに笑い声をもらす。
「フフフ…」
「気づかねぇのがバカなのさ!!」
ただ、知っていたのは幹部達のみらしく、同じ海賊団でも下っ端たちは知らされておらず国民達同様絶句していた。
「あの日…人間の海賊に金を渡して狙撃で署名箱に火をつけさせた…――そのスキにおれがオトヒメを狙い撃ち!そして雇った人間を撃ち殺し!犯人に仕立て上げた!!!」
「―――ッおのれ!!ホーディ貴様ァ!!!」
国王であるネプチューンでさえ気付かなかった事実。
それを愛する妻を撃った本人から告げられ、ネプチューンは声をあげ縛られているのさえ忘れホーディに襲い掛かろうとしていた。
しかし、今は束縛されている上にホーディの方が力が上なため、手も足も出せずホーディに襲い掛かること出来ぬまま撃水によって怪我を負わされてしまう。
王が撃たれ国民達は悲鳴を上げる。
それでもホーディは構わず王から王女であるしらほしへ振り返り続けた。
「邪魔だったんだよ!!!なぁしらほし!!!人間への復讐を"悪"とし…!!人間と仲良くしようと島中に振れ回り!!それを実現しかけたあの女が目障りだった!!!」
「やめろォ!!姫に向かって!!ムゴすぎる!!!」
ホーディの言葉に国民達は声をあげ、そして耳を塞ぐ。
ただただホーディは何も知らずのうのうと生きてきたしらほしに責め立てる様に更に声を上げる。
「お前の母親は死んで当然の女だった!!!だから殺したのさ!!犯人はおれなんだよ!!!!」
しらほしはそんなホーディの言葉をただ黙って聞いているだけだが…恐怖からか、はたまた悲しみからか、しらほしのその巨体は微かに震えていた。
そして、ゆっくりと俯かせていた顔をあげ…
「知って、ました…」
静かにそう呟いた。
「!?――しらほし…!!?」
「なんじゃと!!?」
しらほしの言葉に、ネプチューンやジンベエは目を丸くさせ…その場は静まり返る。
「おれがお前の母を殺したと…知っていたとはどういうわけだ!しらほしィ…!」
「…………」
静まり返るその場に再びホーディの声が響く。
しかし今度はバカにし、責め立てる声ではなく、低く搾り出すような恐ろしげな声だった。
気迫に押されそうになりながらもしらほしは涙をグッと我慢し震える声で続ける。
「事件から数年後…メガロがこっそり教えてくれました…!」
「!?」
「このコは元々ネプチューン軍のペット――"あの日"全てを見ていたのです…!」
数年前、しらほしはメガロに母を殺した犯人を教えてもらった。
それを知ったホーディはしらほしからメガロへ目線を移し、今までにないほどの鋭い睨みをメガロへ向ける。
しかし普段のメガロならば怯えるが、オトヒメを殺した張本人の前に怯える素振りを見せず自分もキッと睨みつけた。
「しらほし姫…!!ではなぜそれをわしらに…!」
「言えば!!――誰かがホーディ様をお恨みになると思いましたので…!それではお母様が悲しまれます!!お母様と交わした……最後の約束なのです…!!犯人様がどちらのどなたでも!決して憎んではいけないと…!」
「「「…!!」」」
ジンベエはしらほしが犯人を知って尚、誰にも言わなかった事に声を上げる。
なぜ、自分の胸の中に仕舞いこみずっと閉じ込めていたのか…と。
しかし、その疑問にしらほしは母の約束だからと言った。
母との最後の約束だから、誰にも犯人を言わず、憎まず、ずっと、ずっと硬殻塔に閉じこもっていたと。
硬殻塔はゲッテンのこともあるが、それだけでも辛いというのにしらほしは犯人が分かっていても、恨みたくても母の約束だからと誰にも打ち明けられずにいた。
ジンベエもフカボシも、妹や王女のその言葉に耳を疑い、そして想像できない辛さを抱えていたことに胸が締め付けられる思いに襲われる。
その王女の思いと言葉は国民も伝わり、誰もが健気な姿に言葉をなくしていたその時――
「ジャハハハハハハハ!!!」
その場にホーディの笑い声が響き渡る。
「笑うな貴様ァ!!!」
笑い声を上げるホーディにジンベエはキッと睨みつけ怒鳴り声を上げる。
しかしそんな縛られているジンベエなどに恐怖などなく、ホーディはジンベエなど目も呉れず愉快そうに笑い声を上げながらメガロを見つめた。
「メガロォ…!!お前よくこのマヌケ女を選んで話をしてくれた!!他の誰かならおれ達の計画は潰れていた!」
誰もが真実を知り、王女の1人で抱えていた辛さに言葉さえ出なかったのだが、ホーディは違った。
ホーディはそれでもしらほしが黙っていたことに笑いが止まらず、メガロにも話した相手の選択に褒め称えた。
しかしメガロは主人を侮辱し、笑いを上げるホーディに威嚇するように声を零しながら更に睨みを強くさせる。
ホーディはメガロの睨みなどよそにしらほしを見上げ、指をさす。
「いいか!しらほし!!この世じゃそれを"マヌケ"と呼ぶんだ!!お前がおれを憎まなかった事でこれからこの王国は滅びる!"お前のせいで"父も兄も!!お前も国民も全員が死ぬんだよ!しらほし!!!」
「…っ!!」
「違う!!耳を貸すな姫様!あんたのやった事は間違いじゃない!」
「ジャハハハハハ!!間違い以外の何だ!?」
「―――ッ!!」
自分のせいで兄や父だけではなく国民の命さえ消えてしまう。
そうホーディに言われしらほしは涙を更に溜めていく。
ジンベエはしらほしのせいではないと声を上げるが、そんな抵抗も笑いが止まらないとホーディは声を上げて笑いながら背後にいる王と王子達へ"矢武鮫"を向けて放つ。
無数の水滴が磔にされている王達に無情にも襲い掛かり、その攻撃に磔にしていた棒が折れ抵抗も出来ないまま王と王子達は血を流し地面に倒れる。
すると傷口から流れる血で見る見る血溜まりが広がっていく。
「ぎゃはははは!みっともねェ姿!」
抵抗も出来ない相手に無数の水滴の刃を向け、倒れる王や王子達を見て新魚人海賊団は笑い声を一斉に上げ、その場に下品な笑い声が響き渡る。
「お父様あ〜!!お兄様あ〜!」
しらほしは倒れる父や兄達の身体から血がこぼれ床を汚し身動きすらしない姿を見て我慢していた涙が溢れ出す。
しかし、笑い声に埋もれてしまい父達の目を覚まさせる事は出来なかった。
未だ、笑い声は止まらず国王達の無残な姿に国民達は声さえ失ってしまう。
「マダムシャーリー!帽子をかぶった海賊は…いつこの島を壊しに来るの!?」
「え…」
敵は11万。
そして頼みの綱である大騎士であるネプチューン、その息子達もやられてしまった今、国民に絶望が襲う。
このまま全員が殺され、この国は無法者の物になってしまうのかと誰もが考えたくはないがそう思ってしまう。
悲鳴を聞きながらも怪我の治療をされているシャーリーの元に子供達が駆け寄り、シャーリーはその子供たちから出た言葉に目を見張りゆっくり顔を上げる。
「それは…分からないよ……私の占いは…未来が見えるだけさ…明日かも…1年後かも…」
「おれ…!今がいいな!!」
「!?」
「今すぐここで大暴れしてくれたらおれ達も困るけど!あいつらも困るよね!」
「私も今がいい!王さまが殺されちゃうなんてやだー!」
「おれも!」
「ぼくも!」
子供達は目の前で慕う王達が殺されてしまうのを見ていられず泣き出す。
普通なら子供達の言葉を正そうとする大人達だが今ばかりはそれに頷くしかないと泣き叫ぶ子供達を宥めるよう頭を撫でてやる。
「お前達の言う通りだ…!」
「私もそれがいい!」
あれほどルフィ達を邪険にしていた国民達はホーディに滅ぼされ殺されるのならまだ海賊である麦わらの一味に滅ぼされ殺された方がいいと思うようになった。
そして…
「おい!"海賊麦わらのルフィ"〜〜!!!いつかこの島を滅ぼす気なら!今来い!」
「今すぐここで暴れろォ〜〜〜!!」
「島のどこかにいるんならすぐにここに来ォ〜〜い!!」
「麦わらァ〜〜!!!」
「"麦わら"!!!」
国民全員がルフィに声をあげる。
決して助けを求める言葉ではないが、ホーディには決してこの国を渡していけないと一団となりルフィを誰もが呼ぶ。
それを聞きながらホーディは国民を見上げ溜息を零す。
「呆れたぜ…ワラにもすがるとはまさにこの事……第一…シャーリーの占いは今回ばかりはウソだ。」
「虚しい叫びだな…」
「血迷ったバカ共を現実に引き戻してやろう!よく見ておけ!!先代国王ネプチューンの頭が飛び散る様をォ!!」
ホーディの言葉は国民の声によってかき消される。
しかし、側にいるゼオ達にはちゃんと聞こえていたのか頷き、ゼオはポツリと淡々と呟く。
そんなまさに藁にも縋る国民に現実を見せると言い出したホーディは倒れているネプチューンの側へ歩み寄り、止めを刺そうと腕を振り上げた。
「!――国王様ァ〜〜!!」
「父上ェ!!!」
麦わら、麦わら、とルフィを呼んでいた国民だったが、ホーディの行動にルフィの名を叫ぶのを止める。
自分達が思う悲劇がまさに起ころうとしている目の前でただ国民は王を助け出せず悲鳴を上げるだけだった。
しかし…
「ルフィ様ああ!!お父様をお守り下さい〜〜〜!!!」
しらひめがそう叫んだその瞬間、メガロの様子に異変が起こる。
しらほしの叫び声に合わせたようにビクッと身体を揺らした後、苦しげにさせながら口の中から何かを吐き出したのだ。
「恥知らずのリュウグウ王国は…!終わりだ…!!!」
ホーディがネプチューンに濡れた手を振り下ろそうとしたその瞬間、メガロの口から出てきたその物が一瞬にしてホーディの元へと向かう。
そして―――
「――ッオォ!!!」
ホーディはその物によって蹴り飛ばされ壁に激突する。
蹴り飛ばされたホーディがぶつかった壁は大きな音を立て粉々になりホーディの上から瓦礫が次々と降りかかってくる。
そして、そのメガロの中から出た物とは…
「あれは…!!麦わらのルフィだあああ!!!」
国民達が望んだこの国を滅ぼすかもしれない男…ルフィだった。
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