(36 / 274) ラビットガール2 (36)

「これは一体…」


雄叫びが響く戦場を右大臣達軍隊は唖然と上から見下ろしていた。


「状況を話せ!!お前達!この海賊達の数は何だ…!?」


今先ほど到着した右大臣達は全く状況が把握できずつい声を上げてしまう。
右大臣の目線の先には巨大な海獣が倒れ、ホーディ率いる新魚人海賊団の幹部やその部下達と戦うジンベエ、そして麦わら一味達がいた。
右大臣はこれまでの事を国民から聞き、神妙な表情を浮かべ戦場へ目線を戻す。


「……あい分かった…!委細承知した…!!―――全兵広場へ!!ジンベエと"麦わらの一味"に続け!!強大な敵を全て抑えて貰えれば残るは一介の戦闘員のみだ!!身を疑い無き罪を着せた一味に国を守られてはすでに面目など丸潰れ!!せめて敬意を持って彼らを援護せよ!!」

「「「はっ!!」」」


右大臣の言葉に兵達は一斉に広場へ降り立つ。
それを見送った後右大臣は国民達へと振り返る。


「そして物見の者は全員直ちにここを離れ島の外へ!」

「やだよ!!」

「!――何を…!女子供は特にだ!さァ行け!!」

「やだ!!」


兵達をミ喰った右大臣は次に国民を安全な場所に移そうと指示を出した。
しかしその指示を大人ではなく小さな子供達が首を振り、右大臣は目を丸くさせながらも更に声を上げる。
だがそれでも子供達は首を横に振ることはなかった。


「人間で海賊の"麦わらの一味"がこの島の為に戦ってくれてんのに目の前でおれ達が逃げ出す訳にはいかないよ!!」

「そうです!あいつらに助けを乞うたのは我々だ!!」

「何もできんがおれも奴らと運命を共にする!!」

「私もっ!!」

「おれもだ!右大臣!!」


子供達の言葉に大人たちも続く。
国民達の決意に残っていた兵達は感動しているように胸が熱くなる。
それは右大臣も同じなのだが、誰よりも我に返り慌てて首を振って感心していた気持ちを振り払う。


「感心しとる場合か!!急げ!お前達は広場へ!!」

「「「は、はっ!!」」」


我に返った右大臣の言葉にハッとさせる兵達は急いで戦場へと降り立ち先に向かった仲間と共に幹部以外の魚人を倒していく。
それを見送り兵達全員が戦場へと降り立った事を確認した右大臣は頑なに逃げようとはしない国民達に振り返る。


「よいか、伝達は義務だ!!ここにいるその他大勢の物見の者達にも私の言葉を必ず伝えろ!人それぞれ都合と考えがある!それでもここにおる者は勝手にせい!!」


そう国民達に告げながら右大臣は決して折れない国民達に今どう説得しようが逃げ出すという選択肢を選ばないのを察しながら部下達に続き戦場へと向かう。
義務だと聞いても尚、この場にいる国民達は誰一人逃げ出そうとはしなかった。



◇◇◇◇◇◇◇



「行けェ!『奴隷タンク』!!今度は向こう!!」



アスカはゼオと戦っていたのだが、聞いた事ある声と『奴隷』という言葉に反応し、こちらに投げられる鎖を掴みながら声のする方へ振り返る。


「――ッ!!」


アスカが振り返った先には傷だらけで首輪を付けられ鎖に繋がれている人間の海賊達がハモンドと大砲が乗っている台を担いでいた。
力尽き倒れる人間がいてもハモンドは構わず引きずったまま前へ進む。
その姿はまるで天竜人の奴隷のようで…アスカは怒りを抑えるようにゼオの鎖をグッと力一杯握る。


「フフ、人間の奴隷が珍しいか?」

「………」


グググ、とゼオも鎖を引っ張り不敵な笑みをアスカに向ける。
ゼオの言葉にアスカはハモンドからゼオへと目線を戻し、何も言わず黙ったまま睨みつける。
その表情は先ほどまでの戦いを楽しんでいるような表情とは違い無表情に近かった。
ただ、その表情の中に嫌悪感が見え隠れしており、ゼオは急に態度と雰囲気が変ったアスカに怪訝そうに、しかし同じ人間の奴隷を見たアスカの反応を楽しんでいるように目を細める。
力では互角かそれ以上のアスカにゼオは愉快そうに喉で笑った後アスカを引き寄せようとグッと力を入れて鎖を引っ張る。
しかしアスカはそれに気付いたのか引っ張られる直前に手を放し更にゼオから距離を置く。


「安心するといい…貴様は殺さずあの奴隷の仲間へと入れてやろう!」

「…………」


ヒュン、とアスカの手から離れた鎖を振り自分の手元へと戻す。
奴隷に反応するアスカを挑発するようなゼオの言葉でも、やはりアスカからの反応は何もない。
それでもゼオにとって無言こそが挑発に乗っている証拠となり愉快そうに笑う。



◇◇◇◇◇◇◇



アスカがゼオと睨み合っているその時、ワダツミはサンジに任せジンベエは側で戦っていたロビンへと声をかける。


「ニコ・ロビン!」

「!」

「人間の奴隷達を解放できるか!?」


ロビンはジンベエに声を掛けられ敵に技をかけながら振り返る。
自分を見るジンベエの横顔は怒りだけが浮かんでおり、ロビンはジンベエの言葉にサングラスの奥で目を見張った。


「いいの?彼らすでに魚人島を恨んでるわよ?」

「恨んで向かってくる『海賊』なら叩き潰す!――じゃが今奴らは『人間』ですらない!!ホーディ達の"天竜人のマネごと"など見てはおれん!!」

「…いいわ、任せて!」


ロビンはハモンドが現れ人間を奴隷として使っているのを見て脳裏にアスカが真っ先に浮かんだ。
それは2年前に聞いたアスカが天竜人の奴隷だったからだろうが、同じ人間として人間以下に扱われるのを見てしまってはいい気分ではない。
チラリとゼオと戦っているアスカへ目線を移せば後ろ姿だがアスカの様子が目に取るように見え、ジンベエの提案に乗った。
ジンベエがアスカの過去を知っているかは不明だが、ジンベエの言葉も確かに一理あると思ったのだ。
ロビンは自分の為、仲間の為とその場から離れ奴隷の海賊達を解放するために動き出す。
まず、ロビンは首輪のカギを持っている魚人を探し出した。
そして…



「え…」

「錠が外れた…!!」



ガシャン、と重たい何かが地面に次々に落ちる音が戦場に響く。


「な…!?オイ!何事だ!!誰だ奴隷達の錠を外したのは…!!」


自分達の首輪が外れたのを見て海賊達は目を丸くさせる。
ハモンドが連れている奴隷達の他に戦場で戦いを虐げられている奴隷達全員の首輪が外れ、魚人達は驚きが隠せなかった。


「うわ!どうした奴隷共ォ!!」


首輪が外れた事で恐れる物はなくなったとハモンドを運んでいた奴隷だった海賊達はすぐに台もろともハモンドを投げ飛ばす。


「お前か!?なぜおれ達を助けてくれたんだ…!?」


能力を使ってロビンは魚人から首輪のカギを奪い全ての首輪を外した。
同じ人間、という繋がりがあるだけで仲間でもなければ縁もないロビンの行動に海賊達は目を丸くさせながらロビンへと振り返る。


「色男の頼みは断れないの、お礼ならジンベエ親分に。」


ジンベエ、という名前を聞き海賊達は後ろを向き敵と戦っているジンベエへと目線を移す。
海賊達の表情は恨みなどではなく、ただ戸惑いだけが浮かんでいた。
それにロビンは小さく笑みを浮かべていると突然背後から網が投げられ、突然のことで避けれずロビンは捕まってしまった。


「てめェ!勝手なマネを…!!」

「…ッ!」


海楼石ではないにしろ網の目があまり細かくないためロビンは網から出ることが出来ずにそのまま後ろへ倒されてしまう。
不覚を取ったと悔しげに眉をひそめるロビンの視界に何かが横切る。
正確に言えば仰向けに倒れていたロビンを跨ぎ何かがハモンドに向かっていったのだ。
それを認識する直前にロビンの耳にハモンドの声が届き、身動きが取れ難いながらもハモンドの方へ目線を向ければそこにはハモンドの頭をウサギの手で掴み地面に思いっきり叩きつけているアスカがいた。


「アスカ…!?」

「…………」


その威力は強力で、叩きつけられたハモンドを中心に大きく地面が凹んでいた。
腕力なら一味の誰にも劣らないアスカによってハモンドは倒れる。
ゼオと戦っていたはずのアスカが一瞬にしてハモンドの方へ駆け寄っていたことに呆気に取られていたロビンの元にその辺に放たれ主人同様見た目に反した力を発揮し魚人達に恐れおののかしている下僕ウサギが数羽跳ね飛びながら駆け寄ってくる。
そして下僕ウサギ達はロビンの網を歯で粉々に粉砕していく。
普通の人間ならば網をブチブチと破くウサギに恐怖するがもうアスカとその下僕達に慣れたロビンは恐怖することなくただ背を向けて気を失っているハモンドを見下ろすアスカを見つめていた。


「アスカ…」

「………」


髪で顔は見えなかったが少し横を向いたアスカの表情は冷たく淡々としていた。
ロビンはそんなアスカにただ名前を呼ぶしか出来なかった。


「アスカ君…?」


その様子をジンベエも離れた場所で見ており、アスカの様子がいつもとは違う事に気付いたのか不思議そうな目でアスカを見つめる。

36 / 274
| top | back |
しおりを挟む