(37 / 274) ラビットガール2 (37)

奴隷として連れて来られた人間の海賊達も加わり、確実に魚人海賊団の数を減らしていく。
まだ幹部は1人も倒れていないがそれも時間の問題だろう。


≪魚人島上海『貯空庫』より王国全土へ!!≫


広場では死闘が繰り広げられている中、国営電伝虫により王国全土に緊急避難命令が届けられる。
広場に行かなかった魚人達はノアに騒然としており、一度しらほしを追い上へと上がっていたノアだったが何かトラブルがあったのか再び魚人島へ真っ直ぐに落ちてくきていた。
それは肉眼でも確認できるほどの距離まで近づいており、ルフィ達が戦ってくれているとは知らない町の国民達は慌てて荷物を纏め島を出ようと混乱している。
緊急避難命令のアナウンスは広場にいる者達にも聞こえており、ナミ達はまたノアがこちらに向かっているのかと上を見上げていた。
しかし、アスカだけは無表情で伸びたハモンドをただ見下ろしているだけで何も反応を見せない。



≪難しい事はいいからすぐやってくれ!!≫


「――!」



ただ、何も反応を見せなかったアスカだったがルフィの声だけは届いた。
ルフィの声にビクッと驚いたように肩を揺らした後ゆっくりとルフィがいるであろう頭上へと顔を上げて見上げた。
その表情は先ほどの冷たく淡々とした表情ではなく、ルフィという幼馴染の存在に安堵している表情だった。


≪おい麦わら…≫


警備隊がルフィに魚人島を頼むという言葉を聞き町にいる国民達は戸惑いの声を零す。
しかし疑問を口に出しても広場にいない国民達に答えてくれる人物はおらず、困惑していた国民達の耳にフカボシの声が届く。


≪ホーディ・ジョーンズの…、……正体が分かった…!!≫

「…!!」


ホーディの正体が分かったというフカボシの言葉に誰もが目を見張り息を呑んだ。


≪ホーディの"正体"って!?兄ほし!!≫

≪ホーディは…!!"環境が生んだ"バケモノだ…!!!≫


ルフィの問いにフカボシは力を振り絞り叫ぶ。
その叫びはルフィにも、アスカ達にも、国民にも、父や兵達にも届いている。
それを知っているのか知らずか…フカボシは更に続けた。


≪『新魚人海賊団』は怨念が作り上げたバケモノ達だ!!先人たちの恨みが忘れ去られる事を恐れ人間達への怒りが冷める日を恐れ…!!生き急ぎ!己の聖戦が正しくある為人間がよい者でない事を願っている!!血を欲するこいつらは魚人続の"平穏すら"望んではいない!!!≫


フカボシはノアを止めるため、ホーディを止めるためルフィと共にホーディと立ち向かいホーディと直接接触する時に聞いた答えを思い出していた。


― 過去お前の身にどれ程の事があった!!?人間は一体お前に何をした…!! ―


フカボシはあまりにも人間への恨み・憎悪にホーディにそう質問を投げかけた。
そして、ホーディから帰ってきた答え…それは…





― なにも ―





ただ、それだけだった。
そして続けて『自分は人間に捌きを与えるべく天に選ばれ力を得た』…ホーディはそう答えた。
その言葉にフカボシは全てを悟る。


≪こいつらの恨みには『経験』と『意志』が欠如している!!実体のない…空っぽの敵なんだ…!!!≫


人間がホーディに対して何かをしたわけではない。
ホーディはアーロンをはじめとする先人によって人間への恨みや憎悪が膨れ上がっていた。
先人達の恨みをホーディ達の世代が強く増幅させて引き継いでしまった。


≪手遅れだったんだ…!いつしか疎通を失った『魚人街』はまるで切り離された『魚人島』の暗黒の感情!!我々は海底深い無法の溝に蓄積し続けた…!!いびつな"怨念"に見て見ぬフリをし!!表面ばかりを整えて…!!前進した気になっていた!!!≫


町にいる国民達は逃げ出そうと走っていた。
フカボシの言葉を聞きながらも、必死に逃げ出そうと。
しかし1人、また1人と国民達は立ち止まりフカボシの言葉を耳に傾け空を見上げる。


≪手遅れだったんだ!!こいつらこそが!!母上が最も恐れていた存在!!!我らはまず…"内側"と戦うべきだった!!!母は魚人島の"怨念"に取り殺されたのだ!!あの人はそれに気付いていたのかも知れない…!!しかし私は心のどこかでまんまと人間を恨んでいた!!!死者の無念は死者のもの!!"怨念"は生きるものが勝手に生み出し増幅させる幻…!!僅かに人間を恨んだせいで見落としていた『魚人街』の怨念は…!気付けば我等では手に負えぬ程強大な力になっていた!!!このままじゃあ魚人島は"人間を恨む心"で我が身を滅ぼす!!≫


ノイズが所々混じるがフカボシは涙で声を震わせていた。
その声はアスカの耳にも十分届き、アスカはフカボシの言葉にじっと空を見上げていた。



≪麦わら…頼む…!!!≫



フカボシに名を呼ばれしらほしの手に収まりながらノアを追いかけ黙ってフカボシの話しを聞いていたルフィはフカボシに持つよう言われ渡された電伝虫からフカボシがいるであろう上へと見上げる。



≪過去などいらない!!!ゼロにしてくれ!!!この島をタイヨウから遠ざける…!!亡霊を消してくれ!!―――お前の手で!!魚人島をゼロに…ッ!!!≫




フカボシの悲痛な叫びにアスカは拳を握った。


≪兄ほし!おれの好きにしていいんなら…安心しろ!≫


そして、アスカの耳にルフィの声が届く。
アスカはただ顔を上げ、近づいてきているノアの影をジッと見つめる。
アスカには恐怖はなかった。



≪広場に降りた時から俺たちはジンベエと一緒に魚人島は誰にも傷つけさせねェって決めてるんだ!!全部任せろ!兄ほし!――友達じゃねェか!≫



ルフィが止めてくれる…アスカはルフィが死ぬことも失敗することもないと分かっているから怖がることはない。
ルフィの言葉はフカボシだけではなく、電伝虫から流れる声を聞く魚人島全土の国民や王、兵士達の心にも届いていた。
そして―――…


≪お伝えします!!新魚人海賊団船長ホーディも先程!!ルフィさんに破れました!!!≫


アスカはその言葉を聞き見上げていた顔を下げ、ゆっくりと目蓋を閉じ小さく笑みを浮かべた。

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