全て、終わった。
新魚人海賊団の船長、ホーディはルフィによって倒され…幹部達もそれぞれ麦わらの一味により倒される。
激突直前だったノアも海王類により魚人島への追突を免れ、元にあった場所へと戻された。
「後生だからよォ!親分さん!!逃がしてくれよ!!」
ボスとも言えるホーディ、そしてその幹部達が破れ、後に残されたのは一介の海賊達だった。
人間の海賊も、魚人の海賊もすでに勝負がついており、逃げ出そうとしたのだが海賊達の目の前にジンベエが立ちはだかり足を止める。
否、正確にはジンベエと、ジンベエの背に回りゆっくりと海賊達を見渡す大蛇であるシュラハテンである。
バケモノ並の力の持ち主であるジンベエと本物のバケモノなシュラハテンを相手にするほど海賊達は力に自信もなくこの場から脱出することが出来なかった。
「何も全員打ち首とも言うておるまい!ネプチューン家の決定を待て!!シャボンで飛んで逃げようとする物は撃ち落とす!!」
≪では妾は出て行った者と、シャボンが割れた順から喰らうとしよう。≫
アスカの願いでジンベエの手伝いをしているシュラハテンは空腹だと言わんばかりに獲物を狙うように目を細め、魚人と人間の海賊を見ながら長い舌で口を舐めた。
その両者に海賊達はゾッと背筋を凍らせ、2つの大きく厚い壁に逃げることを早々に諦めた。
◇◇◇◇◇◇◇
残党達はジンベエとシュラハテンに任せ麦わら一味は全員集まっていた。
「おいチョッパー、大丈夫かお前…」
「ああ…大丈夫だ…」
サニー号の傍に集まったゾロ達の他にもクラーケンやメガロもおり、魚人島が救われたと広場にいる国民達の歓声がまだ広がっている。
「『怪物強化』使っちゃうと全身疲労で2・3時間歩けもしねェんだ…治療くらい出来るぞ!みんなケガはないか?」
「おめェに言われたくねェ。」
「ロビンちゃん!!おれも大技使ったからもうダメだ…!!ひざ枕してくれーー!!」
魚人島の外で戦っていたルフィ以外の全員の無事は確認が取れたのだが、ただチョッパーだけは歩くことも出来ずロビンに支えられていた。
それでも船医としてみんなの心配をしていたのだがゾロに突っ込まれてしまう。
ロビンの膝でぐったりとするチョッパーを見たサンジは大きな怪我も無く平気なのだがロビンの膝枕が欲しいが為に身体を引きずり仮病を使った。
…が、当然サンジの性格を熟知している仲間からは総無視である。
アスカはナミの過保護のお陰で体に傷などはなく、心配そうにロビンの隣でチョッパーを見ていた。
「王子達だ…!」
「向こうからも国王様も!!」
するとネプチューン達が帰ってきたのか歓声を上げて大喜びしていた国民が王や王子の姿を見て声を更に大きくさせる。
だが、王子達が連れているある人物を見えて笑みを消した。
歓声をどよめきに変えた国民達に気付いたアスカは顔を上げる。
そこには確かにネプチューンとフカボシ達がいた。
「あれは…」
フカボシやリュウボシ、マンボシの手には何かを…いや、誰かを掴んで運んでいた。
それがホーディとデッケンである。
そこでアスカは国民達が歓声からどよめきに変えた理由を知り、ゆっくりと降りてくるフカボシ達を目で追う。
父王のもとへと降りてきたフカボシ達は太く頑丈な鎖を2人にかけ固い錠をかける。
「皆さん!!ご安心を!!――もうこの者達を自由にはさせません!!」
ガチャン、と低くも高い音が広場に響き渡り、フカボシの言葉を聞くな否や先程より大きな歓声が沸き起こった。
もう魚人島や自分達からの危険は去った。
その安堵から出る声で広場は埋め尽くされる。
しかし――…
「え〜〜ん!!」
「おい、アレ!」
歓声が響く広場に甲高い女性の泣き声が混ざっていた。
最初は気のせいかと思っていたのだが、あまりにも声がはっきりと聞こえ、女性のことなら右に出る者はいないと自負するサンジがふと顔を上げる。
サンジが上空へと目線を送ると晴れ晴れとした青空に一点の何かが浮かび、サンジは慌てて仲間達に声をかけ空へと指差す。
ゾロ達がサンジの指差す方向へと見上げるとそこには魚人島の王女であるしらほしがこちらに向かって来ていた。
帰ってきたしらほしと、その王女の手にいるであろう海賊の船長に歓声を上げていた国民達も気付き誰もが空を見上げていた。
だがしらほしは笑顔ではなく、何故か泣き顔を浮べている。
「お助けくださいませ!!ルフィ様の血がお止まりになりませんっ!!わたくし達の為に無茶をなさって…!!」
泣き叫ぶしらほしの両手には気を失っているルフィがいた。
ルフィの身体よりも遥に大きなしらほしの手の平からはルフィの血だと思われる赤いものが指の隙間から滴り落ちていく。
見るからに危ないであろう容体にアスカ達は目を丸くさせ、ゆっくりと降ろされたルフィの元へと誰もが駆け寄った。
特に幼馴染でルフィを心の拠り所にしているところがあるアスカは誰よりも心配そうに、そして泣き出しそうに顔を歪ませながら誰よりも先にルフィへと駆け寄る。
「大変だ!ロビン!おれのリュックに止血剤が入ってる!!」
「今後の戦闘不安だな!オイ!船医!!」
「移動は任せて。」
「もーちょい左、左。」
「おかしな船医現れたぞ!」
麦わら一味の船医はチョッパーなのだが…技を使い身体が動かなくなってしまっているため、ロビンの助けを借りるしかなかった。
…が、そのやり方がまたロビンらしかった。
ロビンらしいというか…なんというか……ロビンは身体の自由が利かないチョッパーをうつ伏せにさせチョッパーのリュックを漁る。
それにウソップがすかさず突っ込みを入れる。
そして移動方法もまたロビンらしかった。
ロビンは脇下ではなく両頬を掴んで移動していた。
それでもチョッパーが突っ込まない為代わりにウソップが突っ込むこととなる。
アスカはそんなコントなどよそに止血剤を打たない方の手を握り血の気がなく顔色の悪いルフィを泣き出しそうにしながら見つめている。
そのルフィの手を握るアスカの手は微かに震えていた。
「ルフィ様お助かりになられますか!?」
「血は止まるけど流血の量がすごい…!血が足りねェぞ!」
まるで涙を我慢しているようなアスカの代わりに泣いてくれているようなしらほしの言葉にチョッパーは血は止まるとはっきりと答えてくれた。
しかし出血の量が酷いらしく、輸血するしかないと難しい顔で答える。
ルフィの血液型はF。
しかし船にルフィ以外Fはおらず、アスカはロビンとウソップと同じS型である。
チョッパーはルフィ以外にFはいない事に気付き広場の国民達にFはいないのかと声を張り上げ聞く。
しかしざわめくだけで手を上げるものはいなかった。
「あ…!そうだ!!この国、法律で人間に血ィやったらいけねェんだった!!」
「えー!?何その法律!酷いじゃない!!」
「わ…わたくし血液型違いますけど赤いです!!ダメですか!?」
「うん、よし!気持ちだけありがとな!」
チョッパーは以前サンジの事件で法律の存在を知り、ハッと思い出す。
チョッパーの言葉に知らなかったナミ達は驚愕し、つい声を上げてしまう。
島を救ってくれたのにその救ってくれた本人達を救い恩返しできないことへの罪悪感に国民達は酷く襲われる。
しかしその国民の上に立っているであろうしらほしの言葉に国民達は動揺を隠し切れなかった。
どよめきがアスカの耳に入っているはずなのだが…アスカの耳には全く届いていない。
否、国民達のどよめきだけではない。
(ルフィ…ルフィ……ルフィ…っ)
仲間の声すら届かず、アスカは自分の呼吸の音だけが耳に響き、瞬きもできずただ何も言わずのルフィを凝視しているだけだった。
ただ、ただルフィの名を心の中で呼ぶばかり。
サボが死に、エースが死に、そしてルフィまで失ってしまっては自分はどうなるか分からない。
アスカの脆い精神面はルフィによってギリギリに支えられていると言っても過言ではない。
サボを失い、エースを失い、ルフィを失い…アスカに残されたのは政府側である姉のミコトと、ルフィとミコトの祖父のみ。
父と母の顔も知らず義理の父の行方も知らず…アスカは支えてくれる者が側にいないと生きていける自信がなかった。
支えてくれる者…それは仲間達では代用できない。
仲間達は確かに大切で、掛け替えのない存在なのは変わりない。
だがルフィ達と仲間達では天秤にかけたときの重さが全く違っていた。
アスカはルフィでないとダメなのだ。
仲間ではなく、ルフィやエースやサボやミコトやガープやシャンクス………そしてロー。
この者達でないときっとアスカは生き長らう事はできない。
「…!」
泣くのを我慢していたアスカの手を誰かが握り返した。
ぐっと弱弱しくも強い力に握り返され、アスカはビクッと肩を揺らす。
手の方を見れば自分の手は確かにルフィの手を握っている。
けれどルフィは激しい戦闘、そして出血の量が酷く気を失っているはずである。
では、誰が自分の手を握り返したのか…アスカは考える事が出来ないほど呆気に取られていた。
すると何の反応もないアスカの手をまたルフィの手が軽く握り返した。
「…ッ」
アスカは自分の目でルフィの手が自分の手を握り返した事をはっきりと捉え、我慢していた涙が溢れ出た。
瞳から溢れた雫がポツリとルフィとアスカの手に零れ落ちる。
声を殺して泣くアスカは繋いでいる手からルフィの顔へと目線を移す。
だが、ルフィの表情は変っていない。
しかしそれでもいい、とアスカは思う。
無意識だとしても…まだ意識が回復してないとしても…手が動いたということはルフィがまだ生きていると言うことに繋がる。
アスカはそれだけでも十分に安堵することが出来た。
ルフィが生きていることに肩の力を抜いていたアスカは余裕が出てきたのか、耳にどよめきを遮るかのような力強い声が届きハッとさせ顔を上げる。
「わしの血を使え!『F』じゃ!いくらでもやるわい!!」
顔を上げ、声の方へと向くとそこにはジンベエがいた。
ジンベエは魚人に関わらずルフィに…人間に血を与えてくれるという。
自ら名乗り出たジンベエに国民達のざわめきは強くなる。
「でも法律…」
「わしは海賊じゃ。」
海賊は無法者。
法律など無意味なものにしかない。
ジンベエは暗黙にそう語ったように見えた。
しかし国民達は海賊ではないためどうしても法律に縛られてしまう。
そうして現れたのがジンベエだった。
国民達はジンベエの登場に一斉に歓声を上げる。
「ジ、ジンベエ!お前…!」
「ええんじゃ!!何が悪い!?」
「国王様…!!」
「古い法律もまた…"呪い"じゃもん…」
「………」
例え海賊だろうが何だろうが法律を破ろうとするジンベエに慌て止めようとする左大臣だったが、ネプチューンに止められてしまう。
振り返った左大臣はネプチューンの呟きに何も答えられず、ネプチューンの目線を伝うようにルフィ達へと目線を戻す。
「ジンベエ…」
ルフィの側に寄り添っていたアスカは歩み寄ってくるジンベエを涙で濡れた瞳で見上げた。
頬に涙の伝った痕が微かに見えるアスカにジンベエは安心させるかのように軽くアスカの頭を撫でた後アスカの反対側のルフィの横へと仰向けになる。
ジンベエの…魚人の腕を伝い、細いゴムの管から魚人の血がルフィの…人間の中へと入っていく。
その瞬間を国民達は固唾を呑んで見守っていた。
「アスカ…」
「…!」
緊張で静まり返っていたその場にルフィの声が響く。
ルフィが気がついたことに今まで口を閉ざしていた国民達から喜びと安堵の声が零れた。
「ルフィ…っ」
ルフィの声を誰よりも聞きたかったアスカは意識を取り戻したルフィに止まっていた涙が溢れ、零れる。
そんなアスカにルフィはまだ目を瞑っているままだが、アスカに答え、安堵させるかのように先程よりも強い力でアスカの手に握られている手の力を強める。
何も言わなくてもただそれだけでアスカはルフィの言いたいことが分かった気がして自分も答えるかのように手の力を強めた。
アスカが握る力を強めたのを感じながらルフィはアスカからジンベエがいるであろう方向へ少し顔を傾ける。
「ジンベエ」
「何じゃい…意識あったか…」
「なァ、ジンベエ」
「?」
ナミ達の喜びの声を耳にしながら、ルフィはジンベエに声をかけた。
そして――…
「おれの仲間になれよ!!」
ルフィはジンベエに向かいそう声を張り上げる。
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