(41 / 274) ラビットガール2 (41)

アスカを連れ、フカボシが向かったのは宴の間とは少し離れた今はあまり使われていない部屋だった。
そこは海水はなくアスカを包んでいたシャボンは海水から出るとはじけて消えた。


「それで…何の用?」


そっと床に降ろされたアスカは自分より背の高いフカボシを見上げ、小首を傾げながらフカボシの用件を聞き出そうと声をかける。
フカボシはアスカに見上げられ、自分が連れ出したとは言え2人っきりの空間に珍しくも緊張していた。
心臓が壊れるんじゃないかと思うほど鼓動の音が早く聞こえる。
しかしそれは気のせいではなく、確実にフカボシの心臓は緊張で速さを増していた。


「用、というのは……その…」


この部屋に連れてくるまで…いや、戦いが終わってから何度も何度もその用というモノをどう伝えようかと心の中で練習していた。
心の中ではすんなりと言える言葉が本人を目の前にしてしまったら一文字も出てこず、フカボシは口篭り真っ直ぐに自分を見上げてくれるアスカから目線を逸らしてしまう。
そんなフカボシにアスカは更に不思議に思い首をかしげる。
しかしフカボシが何を伝えたいのかを急かさず待つが、それが更にフカボシの緊張に輪をかける事になる事は知らないだろう。


「フカボシ王子?」

「ぅ…その……用というのは、ですね……その………なんというか……」

「?」


待っていても中々言い出そうとしないフカボシにアスカはついに急かすように声をかけてしまう。
名を呼ばれたフカボシはハッとさせ、言わなくては、と自分を追い詰めてしまう。
その為歯切れが悪くなっていく。
逸らしていた目線をアスカに戻せば首を傾げるアスカがフカボシの視界に映り、フカボシはその愛らしいアスカの仕草に自分の顔が赤らむのを感じた。
直視ができない、と再びアスカから目を逸らし、口を閉ざす。
その場に再び沈黙が落ちた。


(こ、このままでは埒が明かない…っ!)


顔が赤くなっているのを自覚しながらもフカボシはこのまま何も言わずにいられないと腹を決め、逸らしていた目線をアスカに戻す。
アスカを見たことで決心が揺らぐがそれに耐えガシッとアスカの小さく華奢な両手を掴み、アスカは突然自分の両手を握り締めるフカボシの行動に目をまん丸と開け驚愕の表情を浮かべたままフカボシを見上げた。


「アスカさん!」

「は、はい…」


決意を固めたフカボシは緊張し表情を強張らせていた。
そんなフカボシのまるで危機が迫るような雰囲気に押されたのかアスカは何故か敬語になってしまっていた。
アスカもフカボシの緊張が移ったかのように顔どころか身体もガチガチにさせているのに気付かず、フカボシは固めた決意でなんとか先程から言えなかった用件を言おうと口を開く。




「こ…婚約を……、っ私と結婚を前提に付き合っていただけませんか…!!」




フカボシの一大決心の言葉がその場に響き、そして次第に消えていく。
顔を真っ赤にさせるフカボシの言葉にアスカは唖然として何の反応も出来なかったのだ。
目を丸くさせたまま固まったアスカにフカボシは何も言わずアスカの返事を待つ。


「…………」


しかしいくらフカボシがアスカの返事を待ってもアスカからの返事は中々こない。
それはそうだろう。
今、アスカの脳内では『結婚』というキーワードを耳にした瞬間から再起不能になっていたのだ。
それもこれもルフィの姉であるミコトがスモーカーと結婚したからで……この場合相手がスモーカーだからではない。
大事なのは自分達の大好きな大好きなミコトが自分達になんの相談もなく男と結婚したからである。
アスカとルフィは海賊、ミコトは海軍だから相談もなにもないのだが、むしろアスカはミコトがもう自分達の姉ではないということが気に入らなかった。
そんな脳内細胞が死につつあるアスカに気付かないフカボシは返事が来ないことに不安、そして王族と海賊、魚人と人間の婚約に不安を思っているからだと勘違いし、グッとアスカの手を握る力を強める。
そのお陰でアスカはハッと我に返り暗闇から光ある現実の世界へと帰ってきた。
我に返ったアスカは顔を上げ、自分を見下ろすフカボシの悲しげな笑みに息が止まるような気がした。


「不安…ですよね……人間と魚人ですし…なにより王族と海賊だ…」

「…………」

「別にアスカさんを縛ろうとは思っておりません……貴女は海賊…自由奔放な海賊である貴女を縛れるはずがない…」


アスカは再起不能になる前のフカボシの言葉を思い出し、ポツポツと呟くフカボシの言葉を遮る事なく聞く。
フカボシは不安なのか声は緊張で震え、アスカの手を握っている手も微かに震えていた。
握られている手を見つめた後アスカはフカボシへ目線を戻す。


「突然の事で戸惑っているのでしょうね……すみません…でも…私は貴女と出会ってからこの気持ちは強くなるばかり…過去、私達王族の中に人間はいない…その不安もあると思います……でも麦わらや貴女のお陰で私達魚人を縛り付ける呪いは徐徐に解け始めています……海賊を辞めてここに留まってくれとは言いません…旅が終わってからでも構わない……貴女の気が済んだ後でも構わない………私は待っています…ずっと、ずっと貴女だけを…」

「フカボシ王子…」

「もう一度…言います……結婚を前提に付き合ってほしいのです…」


海賊という者は法の他に人に縛られるのを嫌うように見える。
婚約というモノで縛っているもののフカボシはこの海に留まって欲しいとは思っていない。
最終的にこの島に来て自分を愛してくれるのならどこへ行こうと引き止める気もなかった。
ずっと…アスカと出会い恋に落ちてからずっと考えて行き着いた結果がこれだった。
行き成り告白されて頷く女性でもないというのも分かっているつもりだ。
しかしまたいつ来るかも分からないのにこのままこの想いを秘めたまま来ないかもしれない人を待つのはイヤだった。
想っているだけで十分だと…この想いを胸の奥に閉じ込め我慢が出来るほどフカボシはロマンチックな性格でもない。
残された時間の中答えが出ればよし、しかし答えが出なくても自分を意識してもらいいずれ返事が来ればよし。
このまま想いが風化するよりもYESでもNOでもどちらでも構わなかった。
フカボシのその想いが通じたのか、真剣な表情を浮べるフカボシを見上げていたアスカの小さな愛らしい口がゆっくりと開かれた。
しかし…


「ルフィ様、フカボシお兄様とアスカ様…何をしていらっしゃるのでしょうか…」

「さあ…あ!もしかして2人で内緒の宴会か!?肉あるか!?」

「まあ!内緒の宴会!?なんだかドキドキします!」

「むう…」

「くだらねェ…」

「ってかアスカに告白たァ…なんとも悪趣味な王子サマだなオイ。」

「あら、そうかしら?アスカ可愛いじゃない」

「「おれからしたら凶暴ウサギの親分にしか見えねェ」」

「ふふ、そう?」

「ちょっと!押さないでよ!!2人が見えないじゃない!!」

「おま、無茶言うなって!!こんだけの隙間にこんだけの人数がいんだぞ!?」

「大体何でてめェらまで来るんだよ!!アスカちゃんの救出はおれとナミさんに任せとけっつったろ!!」

「いや、お前何も言ってないだろ…ただ嫉妬の炎燃やしてただけだろ。」

「ほっほっほ!フカボシの奴め!中々いい人を見つけんと思ったら人間の女性が好みだったとはこれまた1本取られたんじゃもん!」

「てめェ…!アスカちゃんは誰にもやらねェぞ!!アスカちゃんはなァ…!アスカちゃんはおれとけっあべしっ!」

「黙ってて!サンジ君!!アスカ達に気付かれるじゃない!!大体誰が誰と結婚するですって!?私は絶対許さないんだから!」

「でもナミ…フカボシ王子は海賊じゃねェし王族で金持ちだぞ?アスカが海賊でいることも理解あるしさ!どこが駄目なんだ?いつもナミが言ってる条件に合ってるじゃねェか!」

あぁ?

「ヒーー!!こえェェ!!ごめんなさい!!!」

「おい!チョッパー!!押すな!押すな!!微妙なバランスを保っていたおれ様の超絶なる体制がくずれってギャーーー!!」



「…!」

「!」


アスカがフカボシに返事を返そうとしたのだが、突然扉が開かれ大きな音を立てて大勢の人が部屋へ雪崩れ込んできた。

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