(42 / 274) ラビットガール2 (42)

アスカとフカボシは目を丸くさせ雪崩れ込んできた人物達へと振り返る。


「ナ、ナミ!?サンジ!ウソップ!チョッパー!フランキー!ルフィにゾロに…ジンベエまで…!」

「ち、父上にしらほし!?どうしてここに…!?」


振り返った先にはルフィ達が折り重なって倒れていた。
幸い一番下は身体の大きいネプチューンとしらほしだったため普通サイズのルフィ達が潰れることはなかったが、2人は覗き見をしていたナミ達につい声を上げてしまう。
ナミ達はバレた事に笑って誤魔化そうとするが誤魔化しきれる状況ではないため、乾いた笑い声だけがその場に響き虚しく消えていく。
しかしその虚しく消えていった笑い声に続き、起き上がったルフィの怒鳴り声が響く。


「兄ほし!アスカ!!ずりィぞおめェら!!2人だけで肉を食う気だな!!」

「は?…いや、肉を食べようとはしてないが…っていうかなんで麦わら達や父上達がここに…」

「そうです!フカボシお兄様!アスカ様!ずるいです!!しらほしとルフィ様も混ぜてください!!」

「いや、だからな…」

「フカボシ!よくやった!!人間とは言えやっと念願の孫の顔が見れるじゃもん!!わし初孫は女の子がええんじゃもん!!」

「まっ…孫とか気が早いにも程があります!父上!!――ってそうじゃなくてですね…!!」

「ちょっと!!アスカになんて事言ってくれたのよ!!知ってる!?それ地上じゃセクハラっていうのよ!!告白なんてアスカにするなんて信じられない!!いくら王族だからって全て許されると思ったら大間違いなんだからね!!大体金だけで責務ばっかりしててアスカを寂しい思いさせるような王族なんて認めないわよ!!アスカは夫婦円満で貧乏でもなく金持ちでもないそれなりの家庭の元で私と幸せに暮らすのよ!!」

「もうお前何がいいんだよ…」

「結局どう転んでも駄目なんじゃねェか…」

「おれも賛成だ!ナミさん!!アスカちゃんは料理が上手くてタバコを吸ってていつも黒いスーツを着てて金髪で片目を隠してる男と釣り合うんだ!!その辺の男となんて釣り合うはずがねェ!!」

「おめェも大概アレだよな…ナミと同類だよな…」

「っていうかそれほぼお前だろ…」

「アスカ君が幸せならわしは……〜〜ッやっぱ駄目じゃ!!アスカ君!考え直すんじゃ!!エースさんからアスカ君を任され早2年…フカボシ王子には無礼極まりないが…フカボシ王子はエースさんから知り合った時から言われているアスカ君に似合う男とは到底当て嵌まらん!!悪いことは言わん!やめておくんじゃ!!」

「おいおい…散々な言われようだな……一応お前のとこの王子だろ?」

「むしろおれァ…ルフィの兄貴っていう奴の出したアスカに似合う男の条件が気になるんだがな…」

「あー…あのエースだからなァ……多分ナミと同じような条件だと思う…」

「いや、むしろエロコックと同じ条件だろ…」


ルフィはまだアスカとフカボシがみんなに隠れて宴会をしていると早とちりしているのか目を吊り上げて怒っていた。
ルフィに懐きに懐いているしらほしも同じく勘違いしており自分も混ぜろと言い出し、その上ネプチューンもまだ答えを貰っていないのに初孫の性別までリクエストしだした。
そんな父に顔を真っ赤にさせながら慌てだすフカボシだったが、ナミがルフィよりも更に凄い剣幕でフカボシを睨みつけ詰め寄る。
ナミの出す条件がコロコロ変わっているのは同じ時間を共有しよく熟知しているが、それに当て嵌まる人物が現れるや否や今度はランクを下げ条件を変更していた事にウソップとゾロはつい突っ込んでしまう。
しかしなんの罪悪感もなく全てを綺麗さっぱり条件をリセットするナミに逆に清清しく感じるのは気のせいだろうか…
そんなナミに便乗してサンジも条件を繰り出すが、その内容はもろに自分だった。
今まで難しい顔をし黙っていたジンベエも我慢できず王子であるフカボシに不躾だと分かりつつも断ってくれと心の底から願う。
そんなジンベエの言うエースのアスカと結婚できる条件にフランキーは気になったらしくポツリと呟くも、生前エースと短くも知り合っていたウソップとゾロに分かりきった事を聞くなと言われてしまった。
シスコン、ブラコンを地で行く彼(故)は多分ナミとサンジと同類なのだろう。
静まり返っていた部屋はルフィ達の登場により一気に騒がしくなり、ガヤガヤと煩い部屋にアスカは肩を揺らしていた。


「あーもーー!!うるさーーい!!」


そしてついに我慢できず声を張り上げてしまう。
アスカの声に騒がしかったその部屋に以前の静けさが戻る。
全員がアスカの方を向けばアスカはムッとしていて誰がどう見ても不機嫌この上ない。


「なんでナミ達がここにいるわけ!?」

「え!?…えっとー…それは…」

「な・ん・で・!」

「うっ…」


不機嫌な表情をそのままにアスカは白状させるのに手っ取り早いナミを問い詰めるように詰め寄った。
普段はナミの方が詰め寄りアスカが渋々言うことを聞くのだが、やはり最終的にはアスカに勝てるものは誰もいないようで、ナミは冷や汗をかきながら必死に誤魔化そうと目線を泳がす。
いつもならナミのピンチに誰よりも駆けつけるサンジも相手がアスカなため、そして自分もアスカに勝てる自信がないため、ハラハラさせるだけで助け出そうとはしない。
…いや、出来なかった。
眉間にシワを寄せて睨みつけるアスカにナミはついに誤魔化し切れなかったのか観念しここに来た経由を話し始める。


「フカボシ王子がアスカに声をかけた時からなんとな〜くそれかなァって思って…」

「で?」

「そんで後をついて来ました…」

「…で……なんでこんなに大人数なの…」

「それは…私と同じで王子とアスカに気づいてたサンジ君とジンベエちゃんと王様がソロ〜とついて行ったら隠れて肉食うのか!ってルフィもついてきて…ルフィがついて来るもんだからしらほしもついて来ちゃって…」

「で?ゾロ達がいるのは?」

「ルフィがより多くの肉を獲得しようと連れて来ました…」


ナミは抵抗もなく嘘偽りのない真実を述べる。
芋づる方式で増えていったためここまでの人数になったらしい。
ナミの言葉に浮かれた話しになんの興味も無いゾロ達がここにいる事にアスカは納得する。
因みにゾロとフランキーとウソップはルフィに強制的に連れてこられ、ロビンは面白そうだからとついて行き、チョッパーは皆がどこかへ移動するから慌てて自分もついて来た…と、いう訳である。
ナミによるとついて来なかったブルックは未だマリアとの共演に夢中らしい。
アスカは芋づる方式で増えた人数の多さとナミ達の過保護さに溜息しか出てこない。


「敵はもういないのに何を心配する必要があるの?」

「だって…心配なのは心配なんだもの…」

「アスカちゃん…ナミさんもおれも…アスカちゃんが可愛いからつい心配してしまうんだ……だからそうナミさんを邪険にしないでくれないかな……そう!!責めるのならばこのおれを!おれを責めてくれ!!」

「もう…しょうがないなぁ…ナミは…」

「〜〜っアスカ…!!」


サンジは親に怒られた子供のようにしょんぼり肩を落とすナミを見てフォローを出した。
しかしさあ!責めてくれ!、と言わんばかりのサンジにアスカは例の如く無視を決め付け、溜息をつきつつも許してくれたアスカにナミもサンジのフォローなど聞く耳持たず感激してアスカに抱きついた。
そして何故か自分がどれほどアスカを愛し、ナミを愛し、ロビンを愛しているのかを語り始めたサンジにゾロ、ウソップ、フランキーは哀れみの視線を送ったという。
ルフィはここには肉がないと気付き既に宴に戻っており、しらほしもルフィの後を必死で追いかけ、2人の姿はこの場から消えていた。


「ねえ、アスカ…」

「なに?」

「その…答えなんだけど……受け取るの?」

「………」


アスカに許しを貰い嬉しさのあまり抱きしめていたナミだったがフカボシの告白をまだ答えていないのに気付き怖ず怖ずとアスカを見つめる。
ナミの問いはフカボシの耳にも届いており、ナミの問いに口を閉ざすアスカを不安げな目で見つめていた。


「ナミ…悪いけど……これは私と王子の問題だと思う…だから……2人っきりになりたいの…」

「……そう…そうね…不粋だったわね…ごめんなさい……」


告白に第三者が関わるべきではないということはナミも分かっていた。
本人がどう返事を返そうがその場に本人達以外の人間がいては不粋にしかならない。
面白半分ではないにしろ第三者が首を突っ込む問題ではない。
それはナミにも分かっていたが、やはり心配性なのか不粋と分かってても気になってしましつい行動を起こしてしまった。
ナミはアスカに言われ出っ張った事を後悔しているのか声を落とし悲しげに笑う。
アスカはそんなナミの笑みに罪悪感が湧き上がるが、当人同士の問題に首を突っ込んでほしくないと思った。
ナミやネプチューン達が出て行った後の部屋にはやはり沈黙が落ち、痛いほど静まり返っていた。


「ごめん…ナミ達が…」

「あ…いえ……父上やしらほしもいましたし…こちらこそすみません…」


扉を閉めた音を聞きながらアスカはもう野次馬で邪魔されないようウサギを扉の前に配置させ、自分と同じく父達を見送っていたフカボシに振り返る。
フカボシも父や妹が邪魔をしてしまったからと戸惑いながら謝る。
その後2人は口を閉ざし何度目か分からない沈黙が続く。


「それで……返事、なんだけど…」

「!…はい…」


最初に沈黙を破ったのはアスカだった。
アスカは気まずそうにフカボシから目線を外し小さく呟く。
沈黙が続く中アスカの小さな声はまるで声を張り上げたように大きく聞こえる。
フカボシはアスカの言葉に一気に緊張感が戻り無意識に背筋を伸ばしてアスカの返事を待つ。


「……ごめん…あなたとは付き合えない…」

「…そう…ですか……理由を、お聞きしても?」


当たって砕けろ、という覚悟で告白したフカボシだったがやはり断られるのは辛い。
一瞬悲しげに眉を顰めたが平然を装いせめて理由だけでも、と震えそうになる声を何とか押さえながら聞く。
フカボシの問いにアスカは少し沈黙が続いたがゆっくりと口を開ける。


「……好きな、人がいるの…」

「…っ!」


理由はあらかた予想はしていた。
フカボシは自分をこれほどまでに魅了するアスカだから好いている人や好かれている人がいても可笑しくないと、頭の端では思っていた。
しかし、思って予想をするのと実際本人から聞くのとはショックさの深さと大きさは違う。
フカボシはアスカの言葉に息が詰まるのを感じ、何も言えなかった。
フカボシの反応は俯いていても手に取るように分かってしまい、アスカは『ごめんなさい…』とぽつりと呟いた。


「な、にを謝る必要があるのですか…」

「………」

「貴女はとても素敵な女性だ…想い、想われている方がいらっしゃるのは当然の事……謝らないでください…」

「……うん…ありがとう…」


フカボシが無理をしている事はアスカからでも目に見えて分かる。
でも、それでもまた謝ってしまっては気丈に振舞っているフカボシに失礼だとアスカはお礼を言った。
俯いているのは変らないがそれでも謝るのではなくお礼を言うアスカにフカボシはどこか救われた気がした。
お礼を告げるアスカにフカボシは目を細め『いいえ…』と弱弱しくも返事を返す。


「貴女に想われている方の名前を…聞いても?」

「え…」

「ただ振られるだけでは悔しいですからね…せめて貴女の愛を一身に受けておられる幸運の男性の名前だけでも知っておきたいのです」

「王子…」


フカボシの突然の言葉にアスカは顔を上げた。
アスカが見上げたフカボシの表情は泣きそうだが無理に笑っており、アスカは胸が締め付けられそうになる。
振ってしまったという罪悪感があってかアスカは自分の心の中にいる一人の男の名を呟いた。


「ロー…トラファルガー・ロー」


静まり返っている部屋ではアスカの口から出たその名前は大きく響き、そしてどんな言葉よりも重くフカボシの耳に届いた。

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