(48 / 274) ラビットガール2 (48)

サンジのアスカラブにはもう慣れたルフィとゾロは暴走するサンジを止めようとはせず、事の発端というか原因であるアスカも呆れたように肩をすくめるだけでサンジを宥めることもしない。
しかし免疫のない国民と左大臣はオロオロとどうしたらいいのか分からなくなってしまう。


「全く…ペコムズ!!何をやっているのでソアール!女の取り合いに時間を潰す訳にはいかんでボン!!」

「!…タマゴ!だがよ…!」

「今はお菓子の取立てでソワール!!惚れた女など後で頂けばいい!…それとも…お茶会に遅れたらその理由をママに言えるのか?」

「ゔ…!」


ギャアギャア叫ぶように言い争う2人を止めたのはサンジの仲間でもなく、ペコムズと共にお菓子の取立てに来た同じ戦闘員だった。
アスカ達はその新たな人物の方へ目線を配るとそこには足が異様に長い男がいた。
足長族である男は黒いティーカップに入っている紅茶を飲みながら惚れた女に夢中な同僚に溜息をつく。


「平和的に解決しまソワール。お茶会は4日後だボン…明日の朝船を出せば…――まあ、間に合うでジュール」

「また変なのいるな…誰だお前!!」

「ん〜…ボンにちは。半熟者海賊団の面々……手前タマゴ男爵と申しまソワール!!」


変な口調だが、タマゴ男爵と名乗った男は帽子の上にティーカップを置く。
そのティーカップも帽子になっているようで、カップが落ちたり中の紅茶が零れることはなかった。
そしてタマゴはゆっくりと立ち上がる。


「名前だけでも覚えておいてシルブプレ………ところで黄身達…今この工場で作ったお菓子を口にしたと話していたが?」

「そうなんだよ!あるんならもっと食いてェな〜!」

「…それがないから困っているのだボン……工場にある大きなマークは我らがボス、大海賊シャーロット・リンリンの海賊旗なのでソワール!あれによってこの島が『四皇』"ビッグ・マム"のナワバリである事を示している!!――つまり、魚人島は今、"ビッグ・マム"の名で守られておるのだボン。」

「いい奴なんだなー!会ってみてェなー!"ビッグ・マム"かァ〜」


立ち上がれば長身なタマゴに目を丸くする。
ゾロに至っては『コンパスか』とつい突っ込みが入る。
ルフィは魚人島を守っているというビッグ・マムに会いたいと工場にある海賊旗を見上げていたが、そんな呑気なルフィにタマゴは溜息をつく。


「勘違いするな、これはビジネス。…『毎月10トンのお菓子』、これと引き換えにあの旗は貸しているんだボン」

「10トン!?」

「そうとも…ママは何より甘いお菓子が大好きなのでソワール……魚人島のお菓子は特にママのお気に入り…――だから待とう…明日の朝まで…」

「いいえ!!男爵!ご説明した通り工場内の巨大調理器が壊れていてそれを治すのにも日数が必要で…せめて2週間…」

「それは無理でソワール。」


ルフィ達が来る前にもペコムズとタマゴに1日では無理だと説明したのだが、それを快く受け入れてくれるような人物ではなく、ビッグ・マムもそれを許さないだろう。
タマゴが考えもせず首を振った事にペコムズと冷戦状態だったサンジはペコムズからタマゴへと睨みつける。


「オイタマゴ!!待ってやりゃいいじゃねェか!!」

「そんなに金玉小せェ野郎なのか…"四皇"ともあろう海賊が…」

「野郎ではない…ママは女性の大海賊であるブプレ…キンタマはついてないと存ジュール!」


サンジに続き、ゾロも続ける。
しかし真に受けたタマゴはビッグ・マムは女性だと表情を変えず告げる。
そんなタマゴにサンジはやっぱり女性のビッグ・マムを自分好みに想像しちょっぴり頬を染めていた。


「じゃあお菓子が遅れたらどうなるの?」

「この協定は決裂する!!後日ビッグ・マム海賊団の猛者共がこの『魚人島』を滅ぼす事になるブプレ!!」

「な…!?」

「魚人島を滅ぼす〜!?バカかお前ら!!お菓子で国が滅んでたまるか!!この島は今助かったばっかだぞ!」


アスカの問いに答えたタマゴの言葉にその場にいた全員が目を丸くし驚愕した。
ただのお菓子如きと言ったら悪いが、何の罪のない国を1つ滅ぼすというビッグ・マムにルフィはムッとさせ声を上げ、アスカは父親や白ひげとは違い人情の欠片も無いビッグ・マムの話しに無意識に眉間にシワをよせる。
しかしその時、瓦礫の上に置いてあった電伝虫が鳴り出し、ざわめいでいた声はピタリと止む。


「きっとママだガオ…!さっき状況を知らせといた…!」

「え…!ビ、ビッグ・マム本人から!?」


先程とはルフィ達が来る前のことだろう。
ビッグ・マム本人から電話が来たと静まり返っていた国民達もまたざわめきだし、背筋を凍らせる。
ビッグ・マムはよほど恐ろしい海賊らしくタマゴとペコムズはお互い電伝虫を取れと譲り合うばかりだった。


「もしもし。」

「「オイ!!!」」


中々電伝虫を取らない2人をよそに鳴り続ける電伝虫を取ったのはビッグ・マムの部下達ではなく、ルフィだった。
何の躊躇もなく電伝虫を取ったルフィにペコムズとタマゴは慌てて止めに入るが既に時遅しである。


「お前!ビッグ・マムか!?」

≪……タマゴじゃないね…ペコムズでも……誰だい?≫

「おれはモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!!」

≪モンキー・D……?≫


聞き慣れない声にビッグ・マムは受話器の奥で首を傾げる。
四皇と数えられている大海賊を受話器越しとは言え目の前にし臆することなく名乗り、あまつさえ"海賊王"と言い切るルフィにゾロはにやりと笑い、サンジも小さく笑いながらタバコの煙を吐き出し、アスカは諦めたように溜息をつき肩をすくめた。
そんな3人などよそに受話器の奥のビッグ・マムは苗字でルフィがガープの孫で、2年前の戦争を引っかきまわした人物であると思い出したように『ああ』と声を零す。
ビッグ・マムの言葉など興味の欠片も無いルフィはフン、と鼻息を荒くし続ける。


「お菓子はねェぞ!!」

≪!!≫

「おれが全部食った!!」

≪!…やっぱり本当にないのかい!?10トンあったハズだが…!≫

「10トン全部食った!!」

「む、麦わらさん…!!そこまで…ッ!」


ルフィとしては庇っているつもりではないのだろう。
たかがお菓子で国を滅ぼすというビッグ・マムに頭に来ていたのだろう。
しかしそれでも国民には魚人島を救い、そして今ビッグ・マムからも救ってくれるようにしか見えず四皇に喧嘩を売るルフィに慌てて止める。
しかし国民の止めなどルフィは気にもせず怒鳴っており、仲間であるゾロ達は元々止める気はない。
ナミやウソップがその場にいたのなら国民達と一緒に止めただろうが、生憎ここには事流れ主義と売られた喧嘩は買う主義な奴らしかいない。


≪バカだね…ウソつくんじゃないよ……魚人共を庇ってるねェ、お前…≫

「でも食ったのは本当だ!!そんな約束のお菓子だったって知らなかったんだ!!」


10トンものお菓子を1日やそこらで食べきる人間など自分以外にいない。
それは当たり前だがそう思う。
だからビッグ・マムは信じる事はなかった。
しかしルフィは本当だと怒鳴り散らしていたが一応悪いとは思っているのか約束のお菓子を食べたことを少しだけ…本当に少しだけ詫びる。
そして、背負っていた財宝が入っている袋を乱暴に首から降ろす。


「おれ達今いっぱい財宝持ってるからよ!!これ全部やるよ!!お菓子の弁償する!」

「ちょっとルフィ…」

≪財宝なんざ食えるか!!おれは甘いお菓子を食べたいんだよ!!≫


お詫びに財宝をやる、と言い切るルフィにただ成り行きを見ていたアスカはルフィを止めようとした。
しかし頭に血が上っているルフィは何の為に財宝を取りに来たのか忘れているようでアスカの制止など聞く耳持っていなかった。
財宝だと聞けば大概の人間はそれで機嫌を直すだろうがビッグ・マムは違っていた。
財宝はお菓子じゃないと怒鳴り、タマゴはルフィから4つの袋全てが財宝だと聞き慌ててルフィから受話器を取り上げる。


「ママ!!タマゴです!!ちょっと冷静に…!!数日前"キャプテン・キッド"のガキが我等が傘下の海賊船を2隻沈めやがったのでボン!損害はデカく、実はここの所少々まとまった金が必要だったのですボン!!ここは1つ2週間程お菓子の楽しみを取っておき、今はこの富で今回の失態を許してやるのが得策かと存ジュール!!菓子ならばなるべく甘く美味なものを帰り路に買ってまいります!!」

≪―――ふざけんじゃねェよ!!タマゴ!!みっともない発言をよくも…!!欲しい物を妥協する海賊がどこにいる!?≫

「す…!すみまソワール!!」


キッドの名を聞きアスカはピクリと反応する。
あの時シャボンディ諸島に集まったルーキーの名を何となく覚えていたのだ。
それはキッドだけではないが、キッドの名を聞きローの事を思い出し無性に寂しさが襲いアスカは顔を俯かせた。
そんなアスカなど誰も気付かないまま、ビッグ・マムはタマゴの言葉にワラワラと身体を震わせ怒りを爆発させる。


≪――とは言え…ハハハ……このおれに楯突くそのガキに興味が沸いた…望み通り今回の件…標的を魚人島から"お前達"に替えてやる!!≫

「…!!?」


怒鳴り声が魚人島に響き、ビクッと国民達は肩を揺らす。
しかし一息つき、ビッグ・マムは冷静さを取り戻したのか小さく笑って見せた。
国民達は自分達のせいでビッグ・マムの標的がルフィ達へと変わった事にざわめく。


≪モンキー・D・ルフィ…!!覚えたからね!!来な!!"新世界"へ!!≫

「おう!!待ってろ!!おれもお前に用ができた!!」

≪?≫

「お前なんかに危なっかしくて預けられねェ!!"新世界"でお前をブッ飛ばして!!―――魚人島はおれのナワバリにするからな!!!」

≪…!!≫


ルフィの言葉に国民やペコムズとタマゴは驚愕し、ざわめきは大きくなる。


「あの野郎…四皇に喧嘩売りやがった…」

「まあいいじゃねェか…強い敵ほど燃えるもんはねェ。」


ざわめきが大きくなるのを耳にしながらサンジは呆れたように呟く。
しかし顔には笑みを浮かべ、本気で呆れ返っている様子はなかった。
逆に四皇に喧嘩を売ったことを楽しんでいる様子にも見える。
ゾロは隠す事なく勝気な笑みを浮かべ、ゾロの言葉にアスカは溜息を大きく吐き出す。


「強い敵ほど、ねェ………じゃあ、ナミも燃えるの?」

「「……あ…」」

「……どうすんの、財宝…」

「……………」

「……………」

「……………」


アスカの言葉に財宝の存在の後ろにいるナミの存在に気付き、サンジとゾロはさきほどまでの笑みを消し、サーッ、と一気に真っ青な表情へと変える。
黙り込む2人にアスカも地獄絵図を思い描いているのか口を閉じるしかなかった。



か、帰りたくねェ…



言いたい事を言ってスッキリさせるルフィの背後で3人はそう心の中で呟いたという。

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