(50 / 274) ラビットガール2 (50)

「え〜ん!!ルフィ様達本当にもう行ってしまわれるのですか!?」


ナミにキツイ鉄拳を貰った3人もやっと回復し、ルフィ達はついに出航の時を迎える。
案の定ルフィ達が島を出て行くと知ったしらほしは大泣きし、手の平に乗っているルフィを涙で濡れた目で見つめ、涙声で叫ぶ。


「せっかくお友達になれましたのに…せめてあと1日…いえ!1週間…いいえ!!1年だけ…!!」


段々伸びていく日数にアスカは一国の王女に申し訳ないが呆れてしまう。


「お前は最初から最後まで泣いてんな、よわほし!」

「も…申し訳ございません…泣き虫やめます…」


ルフィからの呼び名が『泣き虫』から『よわほし』に変ったが決してここから改善していない。
それほどしらほしは泣きに泣き、泣き虫を止めると言いつつも涙を止めることも出来ず鼻を鳴らす。
そんなしらほしに女大好きサンジはトキメキ、目をハートにさせていた。


「ああ…!夢にまで見た魚人島の人魚姫が…!おれ達の出航に涙してくれる日が来ようとは…!!おれも1年くらいここに住みてェな〜〜!!」

「分かります!ヨホホホ!!夢の魚人島暮らしニューシングルにしました!!♪ワン!ツ!スリッ!フォ!朝〜〜!!起きたらグーッドモー人魚〜〜♪」

「名案だな…ぜひお前ここに残れよ、鼻血くん」

「誰を今そう呼んだマリモ!!!」


ウォーターセブンの時から魚人島の人魚達に憧れを見せていたサンジの目の前に、今…その人魚達の頂点に立っていると言っても過言でもないほど愛らしく美しい人魚の王女に引き止められメロメロの骨抜きにされていた。
それに同じく女性に弱いブルックが即席で歌を作り勝手に演奏を始める。
魚人島暮らしという単語を聞きゾロがサンジに振り返りながら名案に乗り、そしてやっぱりサンジは売られた喧嘩を買い2人の喧嘩が始まる。
もう2人の喧嘩には慣れているアスカ達は止めることはせず、未だブルックは即席で作った歌を歌い続けていた。


(国王様…やはり伝えねば…!!ルフィ君が『ビッグ・マム』に送った"玉手箱"は開けると大爆発してしまうと…)

(うむ…しかしアレを見ろ…)

(アレ…?)


蹴りやら刀やら歌やらが飛び交う彼らを見つめながら右大臣とネプチューンはコソコソと見送りに来た国民と兵達と出航間近のルフィ達に聞こえないように小声で話す。
しかし話そうと言う右大臣の言葉に頷きたいネプチューンだったが、チラリと喧嘩しているゾロ達から目線を外し――…


「もうダメだ…『四皇』に目をつけられた!!おれ達は新世界に死にに行くんだ…!!」

「これから手に入れたお宝は全部ビッグ・マムに送る事で許して貰えねェかなァ…!」

(『すでに爆弾を贈っている』なんてとても言えないじゃもん…)

(た、確かに…)


『四皇』に喧嘩を売ったと聞いた時から黒いモノを背負い地面とお友達なチョッパーとウソップへ目線を移す。
その跪き涙を流し死にに行くのだと嘆く2人を見て流石のネプチューンも右大臣も言い出すにも言い出せずにいた。


(――しかし10年前に仕込んだ爆弾…不発の可能性はないか?右大臣…)

(!――いやー国王ポジティブシンキング!!そうそう!竜宮城湿気多いですし!何もビッグ・マムが開けると決まった訳ではない!!…――では無事を祈る方向で!!)

「……ずーっとコソコソ話してるけど…何?」


言いたいがチョッパーとウソップの様子を見ていると言い出せず、コソコソと話すネプチューンと右大臣に気付いたロビンだったが会話の内容までは聞き取れず首をかしげて2人に振り返る。
…がネプチューンと右大臣が必死に首を横に振ったため聞くことは出来なかった。



◇◇◇◇◇◇◇



残像が出来るほど魚人島の王と右大臣がロビンに必死で首を振っているその傍らでナミは左大臣から受け取った記録指針に目を丸くする。


「え!?なにこれ…!」

「『新世界』で使う"記録指針"だ…やるから持って行け。」


驚きが隠せないナミをよそに左大臣は『たった1本の指針で航海しようとはかなわんわー…』と溜息混じりに呟くが、そんなチクリとくる左大臣のぼやきなど気にも留めずナミは新世界で使うという記録指針を見つめていた。


「指針が3つもある…何で?」

「"偉大なる航路"前半の海で使ってきた"記録指針"を覗いてみよ」

「…?」


左大臣にそう言われ肌身離さずつけている記録指針に目線を落とすと指針が少しずつ動いていた。
ナミは"記録"が貯まったと思っていたらしく、その驚きは大きい。


「あ…!もう"記録"は貯まったと思ったのに…少しずつ動いてる…!」

「貯まっておるとも…ここからの"記録"は半日で貯まる……"偉大なる航路"は次の島から出る『磁気』を"記録指針"に記憶させそれを頼りに航海をしてきたハズ…しかしこの先後半の海には『海流』『気候』に加え、今まで唯一信頼してきた『磁気』までもが変動する島がある…航海中完全に磁気を失う島さえあるのだ。」

「え!?そんなんじゃ島に辿り着けないじゃない!!」

「1本の指針ならばそれで遭難だ…しかし3本ある方はどうだ?」


左大臣から海流、気候、そして磁気までも失う島があると聞きナミは耳を疑った。
麦わら一味は後半の海に行った者はおらず、唯一知っているであろうアスカは奴隷だった身と、幼かったせいで記録指針という物が必要な事も知らなかった。
ナミは覗き込むように新しい3つの記録指針に群がるルフィ、ウソップ、チョッパー、ブルックをよそに左大臣に指差す新しい記録指針へと見下ろす。


「1本はこっちの"記録指針"と同じようにブレてるけど…他の2本は安定してるみたい…」


ナミが見下ろした新しい記録指針は3つの内1つは前半の海でお世話になった記録指針と同じくゆらゆらと揺らいでおり、他2本は安定してどこかの島を指していた。


「3本の指針はそれぞれ別々の島の磁気を記憶する…――つまり、進路は3本の航路の中から己の"勘"で選び進む事ができるのだ…選び方が命の分かれ目とも言える!優れた航海士はその僅かな針の動きでより安全な航路をかぎ分ける…単純に分かる事は針の動きが異常な程辿り着く島の危険度は高い!磁場を動かす程の"異常"が島で起きているという事だ…!」

「えっ…え〜〜!!やだ!それ!!そんなのわかんない方がいい!!」

「なぜだ?より安全な航海をせねばこの先命が…」

「危険が分かる〜〜!?ダメだ!壊せ!その"記録指針"…!!」

「どれどれ?」

「「!――はっ!!」」


危険が分かるなら回避もできるという左大臣の言葉は確かに正しい。
しかしナミとウソップは自分達の船長がどんなに冒険好きかを知っているためそんな危険度が丸分かりな記録指針は正直、要らない。
しかし、そんなナミとウソップを尻目にしらほしの手の平に乗っていたルフィが首だけを伸ばし、ナミに絡みつく。
傍から見ればろくろ首なのだが…それ以上の恐怖をナミとウソップはこれまでに体験しているためそう恐怖はない。
怖いのはそう…別の恐怖である。


「その真ん中のすげー針が揺れてる島!面白そうだな〜!!」

「い〜や〜〜っ!!」

「聞いてた〜〜ッ!!!」


冒険好きの血が騒いでいるのかわくわくした表情で輝かしい笑みを浮べたルフィの言葉にナミとウソップは悲鳴に似た声をあげる。


「ルフィ!!あんた黙ってなさいよ!!これからは私が進路を決めて行く!!」

「バカ言え!!おれが船長だぞ!!」

「「頼む船長!!航海士の意見に耳を傾けてくれ〜〜!!」」


ルフィが求めるドキドキわくわくな冒険は、ビビリトリオのナミ、ウソップ、チョッパーにとって何度も死ぬ覚悟を決めなければならない冒険である。
前半の海でもそうだ。
どれほど命失う覚悟と恐怖を覚えたか…どれほどルフィの暴走を止められず悔やんだか…
それを分かち合えるのはこの船でこの3人しかいないだろう。
ビビリと自称してても度胸はあるブルックも、美女でも幼い頃から修羅場を乗り越えてきたロビンも、そしてこの船でチョッパーの次にパッと見なら無害そうなのだが中身は残酷無比なギャップ持ちのアスカも…事流れ主義な所があるため相談役にもならない。
ただ、アスカは一生のお願いの如く頼めばボディガードにはなってくれるのでその辺は安心である。
…ナミ達が一体いくつ一生のお願いを持っているかは不明だが……


「よーし!お前ら!!出航準備整ったぞ!浮上操作も習ったァ!!行くか!?」

「行こう〜〜!!!」


怯えるナミに『怖がるナミさんカワイイな〜』とタバコの煙を器用にハート型にさせるサンジだったが、目線の先にいるナミは目を吊り上げろくろ首のルフィの長い首を遠慮なく掴んで叫んでいた。
サンジの近くにいたアスカはサンジの呟きを聞き『えっ…』と思わずサンジを見上げてしまった。
サンジの目は一度チョッパーに見てもらうべき…アスカは失礼ながらもそう本気で思う。
首を絞められてもルフィは冒険がしたいがために反対するクルーに目くじらを立てており、後ろで必死で泣きながら頼み込むウソップとチョッパー、呑気に歌を作って歌うブルックには気付かずナミと口論していた。
――が、次にはフランキーの出航という言葉に一瞬にして機嫌を直したのかナミ同様目を吊り上げていた顔はいつもの眩しい笑顔へと戻っていた。

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