(53 / 274) ラビットガール2 (53)

クジラと共に海の中から脱出したルフィ達は休憩の時間を取る間もなく慌しく動いていた。
辺り一面の真っ赤な海、そして真っ赤に燃え上がる炎。
どういう原理かは分からないが海が燃えていた。


「だから!良く聞いてルフィ!!」


ゴロゴロと空の機嫌は最悪で頻繁に雷が落ちていた。
燃えている海からも拒絶されているように波が荒く何度もサニー号は宙を舞う。
そんな中、ルフィがまた無茶を言い出しナミが必死に言いくるめようと雷の落ちる音に負けない声で叫ぶ。


「あの島は3本ある指針、どれも指してないの!!異常な『新世界』においても異常よ!!」


ルフィは少し離れた場所に見える島に興味を持ってしまい、どの指針にも指されない特殊とも言える島に上陸しようと言い出した。
新世界においても島には全て磁気があるはずである。
それなのに指針はあの島を指す事なく別の場所に向けて指されていた。
それだけでも異常だと分かる島にナミ達が行きたがるわけがない。
しかしそんなナミ達の意見を素直に聞くルフィではなく、既にルフィの意識は全てあの島に集中していた。


「何でもいいから上陸するぞ!だって見えてんだぞ!?もう指針なんかどうでもいい!!」

「無理よ!これ以上近づけない!!―――だって"火の海"よ!!?」


辺り一面まさに文字通りの火の海であるこの海で寄り道している暇もなければ上陸している間にサニーが燃えないという保証はない。
ナミは航海士として、一般常識のある人間として、これだけは譲るつもりはなかった。
が、ナミの言う事を素直に行くのならこれまでの航海は幾分かはマシで、もっと早くに新世界に入っていただろう。
ルフィは決して首を縦には振らず、困ったナミは船長の幼馴染であるアスカへと助けを求めた。
しかしアスカからは無言で首を振られ、『諦めた方がいい』と言われたナミは肩をガクリと落とす。


「おいルフィ、残念な知らせがある。…せっかく釣って来た深海魚だが、切り出した分を除いて海で全部丸コゲになった。」

「ギャアアア!!」

「魚が海で燃えたァ〜〜!!?」


最もルフィが逆らえないであろうアスカの助けもなくなったナミはとにかくルフィが何を言おうが安全圏の場所まで移動しようと考える。
好奇心があるのは良い事だが命を削っても行きたいかと言われれば好奇心も何も興味の一欠けらもないナミからしたら即答で『NO』である。
そんなナミとナミの心の仲間であるウソップ、チョッパーの危険なモノは避けて通るという本能を持つ3人を余所にサンジの言葉にルフィは叫び声を上げ、釣った魚が海で燃えてコゲていくさまを見てウソップも声を上げる。


「船も時間の問題だ!!」

「いや!サニーはスーパー敗けねェ!!」

「敗けなくてもおかしいでしょ!?この海!!見てあの魚の骨!骨!!骨!!!」

「――え?呼びました?」


ウソップの叫び声とサンジの言葉に落ち込んでいたナミも周りを見渡す。
そこには自分達が釣った魚だけではなく、周りには多くの魚の骨が浮かび上がり、ナミは危機感を本格的に覚える。
骨というキーワードにブルックが反射的に反応したその瞬間、ダイニングから電伝虫の鳴き声が聞こえ、ルフィは階段を上がりダイニングへと入りアスカもルフィに続く。
そこには泣き出している電伝虫がいた。


「おーい!コレなんだ?電伝虫が泣き出した!!おい!どうした!?ハラでも痛ェのか!?」

「バカ、そりゃ『緊急信号』だ!誰かが助けを求めてんだよ!」

「助け…?だったら取った方がいいんじゃない?」


電伝虫が泣き出すなど今までなかったルフィは慌てて駆け寄り声をかけるも電伝虫は泣いてばかりで泣き止む素振りを見せない。
呆れたようにサンジが教え、そのサンジの言葉にアスカは首をかしげルフィは電伝虫の背にある受話器を取ろうとした。


「待ってルフィ!『緊急信号』の信憑性は50%以下よ!海軍が良く使う"罠"の可能性も高いの!出て盗聴されれば圏内に私達がいるとバレるわ!」

「流石ロビン!おいルフィ!ここは慎重に考えてから――…」


サンジとアスカの言葉に受話器へと手を伸ばそうとしたルフィにロビンが慌てた様子で止めに入る。
『緊急信号』はルフィ達は初めてだが、長い間政府から逃げていたロビンは何度も『緊急信号』を聞き、何度も危機に陥った海賊達を見て来たからルフィを止めに入り、ロビンの冷静さに感心しながらもウソップも止めようとしたのだが…


「もしもしおれはルフィ!!海賊王になる男だ!!」

「早いし喋りすぎだァ!!!」


ロビンとウソップの引きとめも虚しくルフィは止める前に受話器を取ってしまった。
その上受話器を取って数秒でルフィは自分が麦わら海賊団だとバラしてしまい、ウソップの激しい突っ込みを受ける事になる。
アスカは取った方がいいと言っていたがロビンの言葉をちゃんと聞いていたため、人の話を聞かず受話器を取ったルフィに溜息をつく。


≪助けてくれェ〜〜!!!≫

「…!」


受話器を取った電伝虫は目をパチリと開け、ウソップの突っ込みを遮るような叫び声を上げた。
罠なのかそうではないかは分からないが第一声が助けを求める言葉に周りは目を見張る。


≪あァ…寒い…!ボスですか…!?≫

「いや、ボスじゃねェぞ…そこは寒いのか!?」

≪仲間が…!次々に斬られてく…!!――サムライに殺される…!!!≫

「おい!お前名前は!?そこどこだ!?」


罠だろうが何だろうがルフィは助けを求める電伝虫に話しかけた。
電伝虫からは名前は何も出ず、出た言葉は―――



≪『パンクハザード』!!!≫



どこかの島であろう名前だった。
それからずぐに斬られたであろう生々しい音と共に電伝虫は切られ、眠りにつく。


「「「うわああああ〜〜!!やられた〜〜!!!」」」

「…!、事件の匂いがするぞ!」

「やられたっつってんだろ!!!事件だよ!斬られたよコイツ!!」

「――…今のも演技で…"罠"かもしれない。」

「冷静ェ〜〜〜!!カモン!」


ズバ、と斬られた音共に切れた電伝虫にウソップとチョッパーとブルックが悲鳴を上げた。
この場にいるのは3人のほかにルフィやアスカやロビン、サンジ、ゾロだが、3人以外平然としている。
ルフィに至ってはあからさまに斬られたというのにハッとさせたかと思えば名探偵のように呟き、早速ウソップとチョッパーに突っ込まれていた。
そんな3人をよそにロビンがまた冷静に分析し、ブルックがギターを弾く。


「"侍"っていやァ…ブルック…」

「ええ、その"侍"でしょう…『ワノ国』の剣士の呼び名です。」

「『ワノ国』?」


しゅんとさせるブルックだったがゾロに問われゆっくりと頷いた。
アスカはブルックの『ワノ国』という言葉に首をかしげ、聞いた事がないであろうアスカにブルックは説明する。


「『ワノ国』は他所者を受け付けない鎖国国家です…『世界政府』にも加盟していません。"侍"という剣士達が強すぎて、海軍も近づけないのだとか…」

「そんな国あんのか…!?」

「…?」


鎖国しているというのだからアスカだけではなくウソップ達も知らなくて当たり前で、ウソップは『ワノ国』という鎖国国家や侍が強すぎて海軍が近づけないというのを聞き驚きが隠せなった。
ただ、アスカは『ワノ国』という言葉に既視感のようなものを覚え首を傾げる。


「だが『ワノ国』じゃねェ…『パンクハザード』っつってたぞ!あの火の島か!?」

「相手が小電伝虫なら念波が届くのはせいぜいあの島との距離ね…」


話は既に電伝虫から『ワノ国』に逸れていたが、外で聞いていたフランキーが疑問を投げかける。
それに答えたのはロビンであり、ロビンも外に出て炎の隅から見える島を指差す。


「よし!今の奴助けに行くぞ!!」

「やだァ〜〜っ!!!」

「もう多分手遅れだ!!」

「サムライこえ〜〜!!」

「私もコエー!!」


ルフィは良くも悪くも疑う事のない性格である。
そのため罠だと思われる電伝虫からの緊急信号を信じてしまう。
人を疑う事のないのがルフィのいい所だが、付き合わされる身にもなって欲しいというのが自称非戦闘員の本音である。
アスカはルフィの声とナミ達の叫びで思考の海から我に返りとりあえず厄介ごとに全身ドップリと浸かる事が決定した事に深い溜息を付いた。



◇◇◇◇◇◇◇



ザザ、電波の乱れのような音が黒い電伝虫から流れ、『パンクハザード』と叫んだ後悲鳴を上げ、電伝虫はプツリと切れる。
それを聞いていた女性が慌てた様子で電伝虫から離れ自分の横を通り過ぎる男に振り返った。


「スモーカーさん!今の…!!」

「くそ…一体どういうルートを通りやがったんだ……確立は3分の1、普通はそのはずだが…」


男…スモーカーは部下であるたしぎの声をよそに新世界のログポースを見下ろし舌打ちを打った後ぼやいた。
その背後には海賊を箱の上に乗せ火をつけ熱さでもがく様を見て大笑いしているG−5達が騒ぎ、それをたしぎが咎めていた。


「魚人島から示される指針は『リスキーレッド島』、『ライジン島』、『ミストリア島』のどれか3つですものね…ルー君だったら必ず1番針がブレているこの『ライジン島』を選ぶとわたくしも踏んでいましたのに……流石ルー君ですわ」


するとコツコツとミコトがヒールを鳴らしながら階段から降りてきたのが見え、スモーカーは機嫌を降下していく。
機嫌が悪くなる夫にミコトは目を細め微笑み手を火達磨になり踊るようにもがく海賊へと向けスッとスライドさせるように横に動かす。
するとそれに合わせるように海賊の体から火が消えていき、G−5達は目を丸くさせ驚き、たしぎは目を見張ったままミコトへと振り返る。
たしぎの視線を受けながらミコトは笑みを深め…


「海賊でキャンプファイアー?まあ…いやだわ…」


笑みをそのままにそう呟いた。
休暇中とは言え大将のその呟きにG−5は顔を真っ青にさせる。
たしぎもやりすぎなG−5をミコトが叱ってくれると思いホッとさせた。
しかし…


キャンプファイアーなど生ぬるい事などせず…やるなら徹底的におやりなさい。


ミコトは咎めるどころか更に最悪な言葉を投げかけ、G−5は大将の承諾を得たと喜んで次の海賊を連れ出した。
たしぎは調子に乗ったG−5に慌てて止めようとするも火がついた男達は止められず、その発端となったミコトをキッと睨む。


「ミコトさん!!」


直属の上司ではないとはいえ、海軍の最高戦力であるミコトでも遠慮なく睨むたしぎにミコトは機嫌を損ねることなく愉快そうに『いいではありませんか』と微笑むだけだった。
ムッとさせるたしぎをよそにミコトはスモーカーの傍に歩み寄るとスモーカーの逞しい腕に自分の細く白い腕を絡ませる。
わざと胸を押し付けるミコトにスモーカーの眉間のシワは更に深まり、ミコトはその表情が堪らず愉快でくすくすと笑みを深めるだけだった。


「そう怒らないでくださいな…朝の挨拶もなくって?」

「…まだいたのかお前…」

「あら、それは挨拶ではありませんわよ?」

「…………」

「まあ、テレ屋さんなのですね、あなた」

「……………」


ミコトは今、スモーカーが思っている言葉を簡単に読むことが出来る。
『うぜェ…』――その言葉を今、スモーカーは浮べているのだろう。
しかしスモーカー然り、サカズキ然り…どうもこの手の男性をからかうのがミコトにとって楽しくて仕方ないのか笑みは深まるばかり。
ミコトが密着するのも自分をからかっているのだと知っているスモーカーはミコトの豊満な胸や女性らしい柔らかい体など気にもせず次に海賊を吊り上げ遠慮なく槍や剣で刺している(一応)部下達に指示を仰いだ。


「お前ら移動するぞ!『パンクハザード』へ向かえ!」

「ええっ!?でもスモーカーさん!『パンクハザード』は4年前の事故以来完全に封鎖された無人島です!人がいるなんて変ですよ!!」

「確かに、現在生物が住める様な環境じゃあねェ筈だが…手掛かりはそれしかねェんだ!!」

「えーーー!?スモーカー中将!あそこ立ち入り禁止だぜ!?知らねェの!?」

「てめェらが法律を口にするんじゃねェ!船を出せクズ共!!」

「へ〜〜い!!!」


スモーカーの指示に最初に反論したのはたしぎだった。
たしぎの言う通り、パンクハザードは4年前の事故で封鎖され政府から立ち入り禁止命令が出されていている場所である。
生き物全てが住める状態ではない、というのが封鎖の理由であり、本来なら人など住める場所でもない。
そんな場所に助けを求めるなどありえないのだ。
だが、実際スモーカーの言う通り手掛かりは『パンクハザード』という島の名前しかなく、盗聴している限り確立にルフィ達はその『パンクハザード』にいる。
長い間ルフィを追いかけてきていたスモーカーはこのチャンスを逃すつもりはなかった。
だからグズグズしている部下を叱り、パンクハザードへと向かった。

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