サンサンと太陽がアスカとルフィを照り付ける。
日差しはそれほど強すぎず、しかし弱すぎず…丁度いい日差しにアスカもルフィもだらけていた。
しかし、順調にいっているような船旅も世の中それほど甘くはない。
「はー、今日もいい天気だねー」
「そうね」
「こんな気持ちいい日なのになァ…この船旅はひとまず遭難って事になるな!」
「そうね」
「まさかこんな大渦にのまれるとはな」
「そうね」
「迂闊だった」
「迂闊だったね」
アスカ達は只今大渦に飲み込まれグルグルと周っていた。
航海知識などない2人の出航はしばらく上手くいってはいたが、海というものは甘いものではなく、早速ルフィとアスカに牙を剥く。
現実逃避なのか、それとも危機感がないのか…多分後者であろう2人は大渦に慌てふためくことなく身を任せるようにただ船に座っているだけだった。
「助けてほしいけど誰もいないし…まー、のまれちまったもんはしょうがないとして…泳げないんだよねーおれ。アスカ、おれを背負ってくれな!」
「いや、私も能力者だから泳げないんだけど。」
「あ!こんな大渦の場合泳げようが泳げまいが関係ねェか!」
「ねェ、ちょっと…話し聞いてる?」
人の話を聞かない幼馴染にアスカは溜め息をつき、そして…
慌てる様子もない2人はなんの術もなく海に沈んで行った…
そしてアスカとルフィが海に呑み込まれてから数十分後…―――コビーと海賊達は海に浮かんで運んだタルの中から行き成り人が出てきて目を丸くしていた。
その人物とは、呑み込まれる寸前に咄嗟にタルに入って生き延びたルフィである。
ルフィは寝ていたのか海賊たちがタルを開けるよりも早く目を覚まし蓋を壊しながら出てきた。
突然人が出てきたのと、『よく寝たーっ!』という言葉に驚き、その場にいた海賊たちは尻もちをついてしまう。
目を覚ましたルフィは周りを見渡し、見慣れない男達に首を傾げる。
「誰だ?お前ら」
「「「てめェが誰だ!!」」」
三人の海賊はルフィが出てきた事にも驚きだが、呑気なルフィの言葉に一斉に突っ込んだ。
今どういう状況なのか分かっていないルフィに凄んでいると、金棒が飛んできた。
金棒は倉庫を破壊し、そのままの勢いでタルも中にいたルフィも一緒に転がって行く。
海賊たち三人は金棒に顔を真っ青にし、そんな男達の背後にふくよかな女性の影が浮かぶ。
「お前達!この海で一番美しいものは何だい?」
「アルビダ様っ!!も、勿論レディー・アルビダ様でございます!」
「そうだよ。そのアタシに楯突こうってのかい?」
女性の影…海賊たちがアルビダと呼んだ女性は顔をこれでもかと真っ青にさせる部下達をギラリと睨み、アルビダの問いに三人は身に覚えがなく、首を傾げる。
そんな三人にアルビダは声を上げた。
「とぼけんじゃないよ!!船まで聞こえる大声で『よく寝た』って叫びやがったのはどいつだい!!?」
どうやらルフィの叫びは離れた場所にいたアルビダにも聞こえたようで、それを三人がさぼっていると思ったらしい。
あらぬ罪を掛けられ殺されたくはない三人は必死にアルビダに先の事を報告した。
その報告にアルビダはピクリと片眉を上げる。
「何…?まさかアタシの首を狙った賞金稼ぎじゃないだろうねェ…!コビーめ!あのガキ裏切りやがったね!」
「しかしこの辺りで名を聞く賞金稼ぎといやァ…」
「バカな!あの男は今海軍に捕まってると聞いたぞ!?」
「本物なら逃げ出すくらいわけないさ!あの悪名高いロロノア・ゾロならね!!」
周りを見渡せば部下三人はいても下っ端のコビーが居ない事に気づく。
部下達の報告からしてアルビダはコビーが裏切ったと思い、ギリッと奥歯を噛みしめ顔を憎悪に歪めた。
その頃、ルフィと共に飛ばされたコビー達は…
「あの、大丈夫ですか?怪我は?…随分吹き飛ばされちゃいましたけど…」
坂のお蔭でアルビダ達から大分離れた場所にいた。
周りを木に囲まれた森の中で、コビーは樽から顔を覗かせているルフィに問い、コビーの問いにルフィは笑う。
「ああ、大丈夫!なんかびっくりしたけどな!おれはルフィ!ここどこだ?」
「あぁ、ここは…」
「……ちょっと…ルフィ、うるさい…」
コビーがルフィの問いに答えようとしたその時、ルフィが入っているタルの中に新たな人物が顔を出す。
「おー!アスカ!起きたか!!」
「起きたか、じゃないよ…ぅあー、頭にタンコブが出来てる!やっぱタルに入るんじゃなかった…」
「あの…」
「…誰?ってかここどこ?」
出てきたのはサラリとした髪に金色の瞳を持つ愛らしい少女だった。
どうやってタルに2人も入ったのか、中はどうなっているのか非常に気になるところである。
タルからアスカが出てきて、その後ルフィもタルから出る。
二人のマイペースさにコビーは苦笑いを浮かべた。
「この海岸は海賊"金棒のアルビダ"様の休息地です。僕はその海賊船の雑用係コビーといいます」
「ふーん、そうか。実はどうでもいいんだけどなそんなこと」
聞いといてルフィとアスカはさほど興味なさそうに返事をしながら、2人は渦で壊れた船の代わりになる物はないかとコビーに聞いた。
コビーは船はないかと聞かれると、あると答えた。
その船のある場所へと案内してもらったのだが…
ルフィとアスカは目の前の物を見て唖然とする。
「なんだこりゃ棺桶か?」
「いいえ、きっと廃棄処分にされるはずの船よ」
「一応…船です。ぼくが造った船です…2年かかってコツコツと」
「2年かけて?で…いらねぇの?」
2人の前に出てきたのは手作り感満載の船?らしき物だった。
どう見ても廃棄処分に出されるはずの船なのだが、どうやらコビーが作ったもので、要らないのかと問うルフィにコビーは頷く。
「はい…いりません。この船はここから逃げ出したくて造ったんですが、結局僕にはそんな勇気ないし…どうせ一生雑用の運命なんです…一応やりたいことあるんですけど…」
「じゃ逃げればいいじゃねェか。これで」
「ム…ムリですよ!ムリムリ!!もしアルビダ様に見つかったらって考えると足がすくんで…!怖くてとても…!!」
コビーはルフィのあっけらかんとした言葉にこれでもかと首を振る。
そしてこれまでの経由を二人に話した。
コビーは2年前、釣りに行こうとしたのだが間違えてアルビダの船に乗ってしまったらしい。
「あれから2年…殺さない代わりに航海士兼雑用係として働けと…!!」
「あんた、ドジでバカなのね」
「そのうえ根性なさそうだしなー!おれお前嫌いだなー!」
コビーの経緯を聞き、アスカは無表情で、ルフィは笑いながら毒を吐く。
コビーは二人の攻撃に泣きながら笑うしかなかった。
「でも…その通りです…ぼくにもタルで海を漂流するくらいの度胸があれば…あの…ルフィさんとアスカさんはそこまでして海に出て何をするんですか?」
「私は何になるとかないわ。でもお姉様がコイツを心配してお身体を壊したらいけないからついて来てるだけ。」
「なんだよそれー!それだけの為について来てんのか!?」
「そうよ。一にお姉様。二にお姉様、三・四もお姉様で五もお姉様よ!!!お姉様の為じゃなかったら好き好んで遭難確立100%のあんたと一緒に旅なんて出ないわよ!!!」
「へいへ〜い」
ついてきた理由にルフィは不満げな表情を浮かべる。
相変わらず人の姉にぞっこんな幼馴染の姉贔屓にも聞き飽きたルフィは適当に返し耳に指を突っ込んでほじっていた。
それはいつものやり取りなのが知り合ったばかりのコビーにも分かり、笑ってごまかした後、コビーはルフィへと目を移す。
「ルフィさんはどうなんですか?」
「おれか?―――おれは海賊王になるんだ!!」
コビーとしては何となく聞いてみただけである。
アスカの理由からあまり期待はしていなかった。
しかし、コビーはルフィの言葉に度肝を抜かれる。
海賊王になるというルフィの決意は決して生半可な決意では言える者ではない。
いや、言うのは簡単だが、ルフィのように自信たっぷりに言えるものではない。
コビーはルフィの決意に言葉を無くした。
「ぼくにも…やれるでしょうか…!!死ぬ気なら…」
コビーはルフィの夢を否定した。
馬鹿にはしていないが、海賊王なんてそう簡単に成れるものでもない。
努力しても出来ないものもあるとコビーはしつこく無理だと言ったのだが、否定されるのもだが無理だと言いすぎなコビーにルフィはカチンと来た。
何となくで殴るルフィにコビーは頭にタンコブを作る。
だが、ルフィの『夢のために戦って死ぬなら別にいい』と言う言葉にコビーは言葉を失った。
そして…ぽつりと零す。
コビーの言葉にルフィもアスカもコビーへ目をやり、ルフィは小首を傾げる。
「ん?何が?」
「ぼくでも…海軍に入れるでしょうか…!!!」
「海軍?」
コビーは涙ながらに語る。
コビーは幼い頃から海軍に入るのが夢だった。
しかし現実は甘くなく、彼は間違えて無理矢理とは言え、海賊となってしまった。
海軍になりたい彼にとって、今の状況は辛いのだろう…ぽろぽろと涙があふれ出る。
「ルフィさん達とは敵ですけど!!海軍に入って偉くなって悪い奴取り締まるのが…ぼくの夢なんです!!!小さい頃からの!!やれるしょうか!!?」
「そんなの知らねェよ」
「いえ!!やります!!!どうせこのまま雑用で一生を終えるくらいなら!!海軍に入る為命を賭けてここから逃げ出すんです!!そして、アルビダ様………アルビダだって捕まえてやるんです!!!」
「誰を捕まえるって!?コビー!!!」
「―――ッ!!」
コビーは海賊になったばかりとは言えルフィとアスカを目の前に海兵となって海賊を取り締まると啖呵を切る。
アスカは将来敵になるであろうコビーの決意に拍手を送る。
だがその拍手をコビーが聞く前に女性の声が森に響き、金棒がコビーの作った船を壊してしまった。
「このアタシから逃げられると思ってんのかい!!?そいつかい?お前の雇った賞金稼ぎってのは…ロロノア・ゾロじゃなさそうだねェ…最後に聞いてやろうか…この海で一番美しいものは何だい…?コビー!!」
その声は噂していたアルビダだった。
アルビダはふくよかな体で顔はそばかすだらけだった。
お世辞にも美しいとは言えないアルビダの言葉に、コビーは決意してもやはり長い間折られた心はそう短時間に治りはせず、アルビダの機嫌が損ねないよう無理矢理笑う。
「え…えへへ、そ、それは、勿論…」
コビーはアルビダの問いに『勿論、アルビダ様です』と答えようとした。
この答えが一番アルビダの機嫌を損ねず、正解だからだ。
だが…
「誰だこのイカついおばさん」
「この海で一番美しいもの?決まってるじゃない!!!お姉様よ!!!いいえ!お姉さまは世界一美しいわ!!!」
アルビダなんて聞いたこともない2人は当然正解を答えられるはずがなかった。
いや…正確に言えばそれは答えではないのだが、とにかく、コビーは媚びらない2人の(特にアスカの)言葉にサーッと自分の体全ての血が引いていくのを感じた。
「ルフィさん!アスカさん!!訂正して下さい!!この方はこの海で、一番…一番……」
アルビダに本当の事を答える2人にコビーは慌てた。
顔を真っ青にしながら必死に訂正させようとしたのだが、コビーは先ほどのルフィの言葉を思い出す。
己の夢のために死ぬのなら構わない、という言葉。
それを思い出し、コビーはいつもの言葉が出なかった。
そして、
「、―――――ッ一番イカついクソばばあですっ!!!――はっ!」
コビーはアルビダへの言葉を詰まらせた後、決死の覚悟で心から思っていた事を叫んだ。
コビーの言葉にルフィは大笑いし、アスカはうんうんと頷き、アルビダの部下達は顎が外れたように口を開けて顔を青ざめ、そして、アルビダは…
「―――ッこのガキャーー!!」
――怒り狂っていた。
いままで逆らう事もなく自分を持ち上げていたコビーの言葉にアルビダは頭に血を上らせる。
怒りのままに振り下ろされる金棒にコビーは自分の死を悟ったその時―――
「よく言った!下がってなコビー!!」
振り下ろされる金棒に思わず目を瞑り頭を庇った時、コビーの前にルフィが出てきた。
コビーはルフィの言葉に目を丸くし、ルフィは何をするでもなくそのまま振り下ろされる金棒を頭に直撃してしまう。
「ル、ルフィさん…!!!」
頭に金棒が直撃したルフィをコビーは死んだと思った。
それはコビーだけではなく、幼馴染のアスカ以外は全員そう思っただろう。
アスカはルフィが打撃に効かないと知っていたから平然としていられ、慌てるコビーの隣で冷静に頭に金棒を叩きつけられたルフィを見ていた。
鈍い音を立て頭に金棒が叩きつけられたルフィだったが、ゴム人間ゆえに痛みはなく、ニッと笑った。
「効かないねえっ!!ゴムだから!」
「!―――そんなバカな!!アタシの金棒が…ッ!!」
金棒にはトゲがついており、女とも思えないその力も相まってアルビダの攻撃は強い。
しかしそれ全てゴムである体には効かず、金棒が直撃しても立ち続け更には喋る事も出来るルフィにアスカ以外が驚愕した。
ルフィは驚く周りをよそにグッと拳を握り…
「"ゴムゴムの銃"!!」
伸びる手でアルビダを殴り飛ばした。
その力にアルビダの巨体は吹き飛び、アルビダの部下達は無敵だと思っていた船長の敗北に唖然としていた。
そんな唖然とする部下達をルフィは振り返り、コビーを指差す。
「コビーに一隻小船をやれ!!こいつは海軍に入るんだ!!黙って行かせろ!」
アルビダがやられるほどの敵に誰も刃向う事はなかった。
コビーはルフィの言葉に今度は感涙の涙を流し、アスカは今のルフィがアルビダに負けるはずがないと自信を持っていたのか満足げに小さく笑った。
ルフィの迫力にアルビダの海賊は冷や汗をかき頷き、頷き小船を用意しはじめる海賊達にルフィは満足気に笑った。
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