(60 / 274) ラビットガール2 (60)

スモーカーが率いるG−5達はある研究所らしい建物の正面入り口に到着していた。
そこでようやくガスマスを取っても平気だろうと言われ、G−5達は恐る恐るガスマスクを取る。
ガスマスクを取れば苦しさもなく、ただ口や鼻から吸われる酸素は冷たさだけ。


「ウソみてェだ…本当に島内はガスがねェ」

「入口の毒ガスの量は何だったんだ…!?」

「おれ達を歓迎したくねェ奴らの仕業だろう」


スモーカーとG−5達、そしてミコトも船から降りて上陸し、正面にある玄関の方へと向かった。
律儀にも玄関に備え付けられているブザーを鳴らし、誰かの応答を待つ。


「こんな扉軍艦の大砲撃ちこみゃあ開くぜ!スモーカーさん!へへ!!」

「何も律儀にブザー押して尋ねることねぇェよ!おれ達にビビってる奴なんか!!」

「ここは『立入禁止』の島だぞ!!誰だろうと逮捕だバカ野朗!!出て来ーい!!!」


立ち入り禁止とは、当然政府側である海軍たちも同じで、それを棚に上げて騒ぐ部下達をスモーカーは鬱陶しそうに横目で見つめ、たしぎはお馴染みに子供を叱るように彼らを叱った。
ミコトはただ楽しげに夫の部下を見つめるだけだった。
すると騒ぎに気付いたのか、ブザーに気付いたのか…扉がゆっくりと開けられていく。


「お…開いた!」

「観念したか!!海軍様だァ!!!」


扉が開いた事にスモーカーとたしぎは目を見張る。
人がいないとは思っていなかったが、まさかブザーに応対するとは思ってもみなかったのだろう。
スモーカーはそのまま何の音沙汰もなかったら強制突破する気だったらしい。
しかし、人がいると確信していたスモーカーや、海軍という大きな盾に大きな態度を取る海兵達も出てきた人物に驚く事になる。


「おれの別荘になんの用だ…白猟屋」


扉の奥から出てきたのは、最近"七武海"となったトラファルガー・ローだった。
厚い扉を少し開け、扉に体を預けるローの姿にスモーカーは微かに目を見張り、たしぎは驚いたように目を丸くさせ、海兵達は大袈裟とも言える驚きを見せる。
海兵達の悲鳴にローは不敵に笑みを浮かべるが、海兵達とスモーカー達の間に立つミコトの姿を見て微かに目を見開いた。
しかしミコトの笑みに直ぐに表情を戻し、スモーカーへと視線を戻す。


「"七武海"がなぜこんな所にィ〜〜〜!!?」

「帰ろうぜスモーカーさんっ!!コイツとは関わり合いになりたくねェ!!!」

「コイツは"七武海"になるために海賊の心臓を100個本部に届けた狂気の男だ!!気味が悪ィ!!!」


G−5の海兵達はローが七武海になった経由を聞いていた。
海賊の心臓を100個、本部に届け、ローは2年の間に七武海となった。
海賊とは言えそのやり方はあまりにも正常とも言えず、誰もがそれを聞きゾッと背筋に冷たいものが走った。
だから流石の問題児であるG−5達もローには関わりたくないのだろう。
たしぎは海兵達の言葉に顔を強張らせゴクリと喉を鳴らし、ミコトは何の反応もなくただ微笑んでいただけだった。
しかし部下の言葉をスモーカーが聞き入れるはずもなかった。


「ここは政府関係者も全て『立入禁止』の島だ……ロー」

「じゃあ…お前らもだな。」


スモーカーの言葉にローは不敵な笑みを深めるだけで焦りを見せない。
そんなローにスモーカーも何の反応も見せずたしぎへ視線を送ると、たしぎは頷き懐から電伝虫を取り出しスモーカーの隣へと歩み寄る。
カチリと電伝虫のスイッチを押せば電伝虫の口から助けを求める音声が出される。
最後に『パクハザード』と叫んで途切れたそれをたしぎは切り、改めてローを見つめた。


「島の名前…"寒い"という気候……声の主はこの島から信号を送ったことで間違いないのでは?」

「…………」

「"麦わらのルフィ"は知ってるな?2年前シャボンディで起きた天竜人ロズワード家の一件でお前と"キッド""麦わら"は共闘している…更には頂上戦争では"赤犬"に追われる麦わらを…お前は逃した…!!!」

「…………」


確認するたしぎにローは何も答えない。
そしてスモーカーの疑いの言葉でさえ、ローは口を閉ざしていた。
2年前の戦争はたしぎもスモーカーもその場にいたからよく覚えていた。
天竜人の事件は恐れもしらない愚かなルーキーとばかり思い気にもしなかった。
ただルフィにだけは『ああ、やっぱりやりやがった』とスモーカーは驚きもなくそう思ったという。
しかし戦争の時は違和感しか感じなかった。
いくら共闘したとしても、危険を冒してまでルフィ達を助けるほどの友情や絆が2つの海賊の間に生まれたとは思えなかったのだ。
ミコトはスモーカーの言葉に笑みを深めるも口を挟まずただ傍観を決め付ける。


「用件は何だ…緊急信号の捏造はお前ら海軍の十八番だろ」

「残念ながらこの通信は海軍で作った罠じゃない」

「どうだかな…おれも知らねェ話は終わりだ」

「つまらん問答はさせるな…研究所の中を見せろ」

「今はおれの別荘だ…断る」

「…………」


傍観はミコトだけではなく、たしぎも、海兵達も、2人のやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
2人の雰囲気からいつ戦いが始まっても可笑しくはなかった。
ローの言葉にスモーカーは目を細め視線を鋭くさせ睨む。
スモーカーの責める視線にローは気にも留めず、負けじと睨みつける。


「お前らが"捨てた島"に海賊のおれがいて何が悪い…ここにいるのはおれ1人だ…"麦わら"がもしここへ来たら首は狩っといてやる…話が済んだら帰れ」

「…………」


確かに、ローの言葉は正論である。
ガス爆発事件から政府はこの島を立ち入り禁止にしたが、捨てた島を誰がどうするかなど政府がどうこう言う権利はない。
今の今までローがこの島を別荘にしていたのに気付かなかったのが政府がこの島を捨てたという証拠だろう。
ミコトはローの言葉に『確かに一理ありますわね』とポツリと呟けば、聞こえていたスモーカーから睨みを貰い、ミコトは怯えることなくコロコロと笑いながら『あらごめんなさい?』と話に入り込んだことを謝る。
そんなミコトにスモーカーは嫌悪を強くさせるも、ローは無表情でミコトをチラリと見ただけだった。
冷たい空気を漂わせるその場で笑っているのはミコトだけで、全員が緊迫した雰囲気をかもし出していた。
しかし、外の凍てつく寒さにも負けない冷たい空気が落ちていたその時――…


「きゃあああああっ!!!」

「―――!!」


人の悲鳴が少し開けられた扉から聞こえ、それと同時にドタドタと何人かの足音も聞こえてきた。


「恐かったよ〜〜!!氷った人達〜!!」

「え〜ん!!」

「でも見てほら!!扉よ!ここから出られる!!!」

「やった〜〜!!」


よく聞けば声は大人の女性と子供達のようで、ミコトは子供の声に今まで微笑んでいた表情から一変させ目を丸くさせていた。


「ハチャ〜〜!!!外だ〜〜〜!!」


バーーン、と分厚い鉄製の扉をひと蹴りして開けたのは人間ではなかった。
普通の動物でもなかった。
それは大きく毛に覆われ太っているタヌ…ごほん、げふん、チョッパーだった。
着地したチョッパーの後ろからゾロゾロと何人が現れる。


「外…――っいや〜〜!!寒〜〜〜い!!!」

「やったぞーー!!」

「建物を出たぞ!!おうちに帰れる!!」

「パパとママに会える〜〜!!」


外に出られ嬉しそうに声を上げようとしたナミだったが、寒さから悲鳴に変わり、たしぎはナミの姿に麦わらの一味だと目を丸くさせた。
その次に出てきたのは大きさがバラバラな子供達だった。
ナミを含め子供達は到底吹雪いている外に出れるような服装ではなく、全員寒さに体を震わせた。
そして…


「ヘイヘイヘヘーイ♪フランキ〜♪ヘイヘイヘヘーイ♪タンクだぜ♪そこのけそこのけスーパーそこのけ〜〜!!邪魔するやーつは踏んでくぜ!!だけどお花はよけてくぜ〜〜♪ちょっぴり優しいフランキィ〜〜タンク〜〜〜!!!―――ス〜〜パ〜〜〜!!!!!!」


ナミ達の後ろの最後尾からはフランキーが現れた。
タンクとして変形(彼から言わせれば変態である)し膝に男の子を2人乗せ、肩にはサンジと何故か首だけの男を乗せて。
男の子2人はノリノリで歌を一緒に歌っていたが、肩に乗っているサンジと生首の男は恥ずかしそうにしていた。
ドーン、と最後を決めたフランキーに辺りは当然静まり返る。
が、ミコトは最後をしっかりと決めたフランキーと、ポーズを決めた子供達に『まあ素晴らしい』と褒め、手を叩き拍手を送る。
ローやスモーカーですら流石に唖然とし静まり返っている中、ミコトの拍手だけが響いていた。
拍手しか響いていないなど気付かずナミ達はふいに横に立っていたローに気付きハッとさせる。


「あ〜〜!!あんた見覚えある!」

「そうだシャボンディにいた奴だぞ!!」

「…………」


ローとは2年前、シャボンディ諸島で初めて会い、ナミ達は知っていた。
それに同じく2年前の戦争で船長であるルフィと仲間のアスカを助けてくれたのも新聞で見て知っている。
海賊団が違う為、海路も目的も何もかも違う為にローとの遭遇は極めて低いと思っていた。
当然そんなローがここにいる事は予想外で、ナミ達は驚きが隠せなかった。
ナミは寒さからチョッパーに抱きつきながらキッとローを睨みつける。


「まさか子供たちを閉じ込めてたのあんた!!?この外道!!この子達返さないわよ!」


扉の傍にいる、という事は、当然ここがローの所有する場所だと思うのは当たり前で、ナミはローが子供達を閉じ込めたと思い非難し、子供達は渡さないと睨みつける。
ナミの睨みに怯えるほど弱くはないローだったが、中から出てきた事に眉間にシワをよせた。
ナミはローに気を取られていたが、サンジは前方にいる人物にハッとさせた。


「!――どこの極悪人かと思えばてめェは!!スモーカー!!!――そしていつものカワイコさんにお姉様ァ〜〜っ!!」


サンジがまず目に映ったのは自分達の船長と因縁があるスモーカーだった。
サンジはスモーカーを見た瞬間、瞬時にそのスモーカーの部下であるたしぎを捜す。
スモーカーはルフィと因縁があるから覚えていたが、どちらかといえばたしぎの上司として覚えていたのだろう。
それと同時に少し後ろにいる絶世の美女であるミコトを見つけ、目をハートにさせた。
ミコトはサンジと目と目が合うと笑みを浮かべ手を小さく振る。
サンジはミコトに微笑を向けられ手を振ってもらえた事に今にも幸せすぎて気を失いそうだった。


「なぜここに子供たちが…」


サンジの反応よりもたしぎは何より子供達が扉の奥から現れた事に驚いていた。
唖然とさせる海兵達を余所にサンジは(ミコトとたしぎ以外の)海軍の姿に舌打ちを打つ。


「マズイぞ!!まさかの海軍だ!!――ここは無理だ!出口を変えよう!みんな中へ!!」

「わああ〜〜!って、あれ!?海軍ていい人達じゃないの!?」

「そうだな…じゃ、行け!!」

「やだ!!あの人達ヤクザみたい!!」


このヤクザみたいな海軍、とはスモーカー含んだG−5であり、たしぎとミコトはそこに含まれていないだろう。
しかし逃げ惑う立場の子供達は2人の女性よりも多くいるヤクザ顔の海軍しか目に映しておらず完全拒否を起こす。


「――、いるじゃねェか!!何が1人だ!!!」

「…いたな…今驚いてる所だ…」


スモーカーもまさかの麦わら海賊団と子供の登場に唖然としていたが、我に返り『1人だ』と断言したローを睨む。
ローも驚いたような表情を浮かべ反論せず頷く。
その隙にサンジは子供達を裏に回し、裏口を捜しに再び中に入っていこうとした。
それにたしぎが我に返り海軍を捕まえようと剣を構える。


「みんな!!"麦わらの一味"を捕らえます!!」

「あ…っ!!くそォ!圧倒された!よし行くぞ!大佐ちゃんに続け!!」

「おい!待て!」


たしぎの言葉に呆気に取られていた海兵達はハッとさせ、たしぎに続こうとする。
しかしスモーカーが止めようとするも動き出した人間は止まらず、ローは騒ぎを起こすつもりはなかったため、眉間のシワを深める。


「あいつら!面倒持ち込みやがって…!!―――"ROOM"!!!」

「…っ!!!」

「――"タクト"」


ローは逃げ出そうとするサンジ達、それを追い捕まえようとする海軍達を含め能力を使い閉じ込める。
"ROOM"で薄い膜のようなサークルでサンジ、スモーカー達を囲い、"タクト"で後ろにとめていた軍艦を浮べる。
ズズズ、と不気味で低い音をさせながら船は独りでに宙に浮き、ついでと言わんばかりに河底や水も浮かび上がっていた。
海兵達は頭上に浮き上がった軍艦にこれでもかと目を丸くさせ驚きの声を上げる。


「お前らもう島から出す訳にはいかねェ…人がいねェと言ったことは悪かったよ…!!!」

「ウオオ!やっぱコイツヤベェ!!」

「下がってろ!!」

「…!!」


自分達との実力の力量は計る事なく目に見えてローの方が強いと見て取れる。
噂に違わないローの力に海兵達からは悲鳴が上がっていた。
逃げ惑う彼らをスモーカーは声を上げた。
そのお陰か、混乱していた海兵達は少し冷静さを取り戻す。


「お前らごときじゃあ、手も足も…解体されちまうぞ!!!!」


得意の十手を手にスモーカーは目の前にいるローを睨みつけた。

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