(63 / 274) ラビットガール2 (63)

ローが優勢だったその場はミコトとスモーカーによって逆転した。
ローは隙を突かれスモーカーに押し倒されてしまう。
ローの能力は自然系ではなく、超人系なため、押さえつけられてしまえば逃げ出す事は出来ない。
もうローは掴まるしか道はないと海兵達は確信した。
ミコトとたしぎは何も言わず、ただ2人の戦いを見守っている。


「――ッ!!!」


ググ、と力を入れられ力一杯地面に押し付けられ首を絞められるローへスモーカーは持っていた十手を突きつけるように振り下ろす。
ローはその十手を見た途端ゾクリと背筋に嫌な何かが走ったのを感じた。
スモーカーの十手はそのまま思いっきり地面に向かって落とされる。
本来なら十手を突きつけられたローが伸びているはずだった。
しかし…


「いやなエネルギーを感じる…海楼石だな、その十手の先…!!」


ローは咄嗟に能力でスモーカーから逃げ出した。
スモーカーの十手の先に能力者ならイヤでも分かるエネルギーをローは感じていた。
それは海楼石で出来ており、ローは自分が咄嗟に逃げ出さなければこの海楼石を突きつけられそのまま拘束され、本部に突きつけられていただろう事は予想しなくても分かった。
ローは再びスモーカーの後ろへ回り刀を振りかざす。
そのローの気配と殺気にスモーカーは振り返り様にローの刀を受け止めた。
その瞬間、海兵達の後ろに立っていたオブジェが岩ごと真っ二つに切られてしまう。


「おわァ〜〜!!危ねェ〜〜〜!!払った剣で"オブジェ"がきれた〜〜〜!!」

「軍艦が落ちて来るぞォ〜〜!!!」

「遠慮無く逃げよう!おれたちゃァ邪魔だァ!!!」

「大佐ちゃん!ここ離れるぞ!!」

「え!?―――あっ!」


斬られたオブジェや岩は宙に浮く事なく海兵達の上に落ちてくる。
海兵達は自分達の手に負える相手ではないとスモーカーの言葉に甘えサークルから出ようと慌てふためく。
倒れているたしぎの下半身と上半身を拾い、ただ落ちてくる物を避けることなく2人の戦いをジッと見つめていたミコトに『黒蝶さんも!!ここは危険だ!!離れるぞォ〜〜〜!!!』と声を掛ける。
ミコトは海兵達の声に『ええ』と冷静に頷きゆっくりと振り返り、サークルに向かって歩き出す。
その間ミコトは一切振り返る事なく歩き…ミコトの上に落ちてくる小さな破片たちはミコトを避けるように地面に落ちていった。


非難場所と言えば氷塊しかなく、何とか全員氷塊の上に到着した。
雪が積もっているためあまり滑ることはなかったが、滑らないとも言えるため一時非難にしか過ぎない。
後はもう何もせずただスモーカーが勝つのを待つしかなく、全員が固唾を呑むしかなかった。


「軍艦が木の葉みたいに…!」


サークルの外は安心とはいえなくても取り合えず斬られ体が余計にバラバラになることは避けられる。
サークルの中から大きな破壊音が響き、時々破壊音と共に刀の甲高い音が零れて聞こえる。
混乱する中、ようやく全員の体がくっ付き、上半身と下半身を元に戻したたしぎはゆっくりと起き上がる。


「…海賊は……海賊…」

「…………」


最初こそ海兵達はまさかこんな事態になるとは思っていなかった。
いるにせよ立ち入り禁止を無視した侵入者を捕まえるだけと簡単に思っていた。
それが現れたのが七武海のトラファルガー・ローで、しかもスモーカーと激しい戦闘を繰り広げている。
本来なら本部に連絡して応援でも何でも寄越してほしいところだが、肝心の電伝虫はサークルの中な上にローの側にあるため連絡すら出来ない。
周りには軍艦など船はなく乗って逃げる事もできない。
まあスモーカーを置いていくなど誰も考え付く事はないが。
ミコトはたしぎの唖然とした呟きに気付き、夫と七武海の戦闘からたしぎへと視線を落とす。
唖然とし座り込んでいるたしぎはミコトの視線には気付かない。
ミコトは視線を寄越しただけで何も言わず、再びサークル内の戦いへと視線を戻した。



◇◇◇◇◇◇◇



一方、ルフィ達は大きな物音を耳にしていた。


「すげー音がした…サンジ達かな……」


ルフィは斬るような冷たい風を顔に受けながら音のした方へ顔を上げる。
しかしその先は真っ白な雪景色しかなく、何もない。


「おいワニタウロス、本当にウチの仲間達の事知らねェのか?」

「黙れ。おれは何も口は割らん。」

「いいよ、じゃあもっと早く走れ!」

「屈辱だ…こんな若造に…!!この追い剥ぎどもめ!!」


ゾロがワニの下半身を持つケンタウロス…ボスへ問うもボスは頑なに口を割らない。
それが何十回も繰り返され、もうルフィは問うのを諦めたのかボスの頭を軽く叩きスピードを速めろと呟いた。
あれからルフィ達はケンタウロス達を全て倒し、自分達の分のコートを剥ぎ取った後ボスであるワニのケンタウロスを拉致した形で移送手段として連れてきた。
力の差を見せ付けられてしまえばボスは逆らう事できず言う事を聞くしかなかった。


「アスカ、気分はどう?」

「大分ましになった…でもまだダルい…」

「厄介ね、あなたのその体質…」


気を失っていたアスカは暫くして目を覚ました。
目を覚ませば寒い風ではなく暖かい何かに包まれており、起き上がればコートを着ているのに気付く。
アスカはルフィから気を失っている間の事を聞き『なるほど』と呟きコートどころか耳当てとマフラーと手袋が付けられ、その暖かさにホッと安堵の息をつく。
ロビンの心配そうな問いにアスカは手袋に覆われている手を握ったり開いたりとしながら曖昧な答えを呟く。
自分も能力者だからアスカの辛さも充分分かっているが、アスカは人よりも弱点に弱い。
それも気を失うほどに。
今はいいが戦闘中の事を考えればこの体質は厄介しかなかった。


(なんで私だけこんなに海楼石や海に弱いんだろう…ルフィやお姉様やロビン達だって同じ能力者なのに私ほど弱いわけじゃないのに…)


手を見つめながら、アスカは自分の体質を恨めしく思う。
自分が海楼石に弱いのは昔から自覚していた。
特にあの山賊に襲われた時に海楼石を付けたまま生活をしていたから余計に他の能力者との違いに違和感を感じていた。
しかし、考えても結局今も今までも答えは出なかった。
だから、これは体質だと諦めるしかない。
記憶といい、体質といい、アスカは諦める事ばかりだ。


「なあ…あれって軍艦じゃねェか!?」


アスカはルフィが何かに気付き声を上げたことによって思考から帰ってくる。
ルフィの声にアスカ達は顔をあげ、ルフィが指差す方向をボスの背から覗き込めばそこには悲惨な姿になっている軍艦があった。


「ほら!!これ軍艦じゃねェか!」

「じゃあ海軍が来てんのか!?」

「ええ!?さっきまでここには何も…!!」


ルフィが目指した場所、そこはサニー号が移された場所のはずである。
それが激しい戦闘の跡が転がってあり、サニー号ではなく何故か海軍の軍艦が粉々にされていた。
ブルックは合流するまではサニーと軍艦ではない船があっただけでここまで悲惨な状況ではなかったはずだと声を上げた。
しかし近づけば次第に人影に気付き、ルフィとアスカはその人影に目を丸くさせた。


「あれ!?お前…!!」


小さかった人影も近づいていくにつれハッキリしはじめ、ルフィは久々の人物に嬉しそうに笑い、アスカは驚きのあまり声が出ない。


「麦わら屋……――アスカ…」


人影…ローは聞き慣れた声にハッとさせ顔を上げる。
そこには自分が足を与えたワニのケンタウロスに乗りこちらに向かって来るルフィと―――2年前、別れたっきりのアスカの姿があった。

ローは久々のアスカに目を細める。

その瞳はとても優しかった。

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