(64 / 274) ラビットガール2 (64)

ルフィはジンベエの次に恩人であるローに会えて嬉しく思う。
まさかジンベエと再会し、1年も経たないうちにローにも会えると思っていなかったのか驚きも含まれていた。
ルフィよりもアスカが早くボスの上から飛び降り、雪に足を取られながらローへと駆けていく。
その後をルフィも続き、ゾロ達は降りず3人の再会を見守っていた。


「ロー!!!」

「アスカ…」


アスカはローに駆け寄り、ローは足を雪に取られながらのアスカを若干心配そうに見つめて待ってたやる。
ただ、ローは心の底から嬉しそうに出来ない理由があり、複雑そうにアスカを見つめるしかなかった。
冷めているとゾロとフランキーに定評のあるアスカの珍しい行動にロビンは微かに目を見張った。


(あら…)


ロビンはアスカの慌てて駆け寄る姿を見送った後、ローへと視線を送る。
ローの表情は変わってはいない。
しかし見る人が見れば分かるほど僅かな変化があった。
ローのアスカを見る目は転びそうなアスカを心配しているように見え、その中には微かに優しげな視線も見える。
きっと普段なら気付かない僅かな変化だろう。
ただロビンが気付いたのは偶然で、アスカを妹として愛しているからなのもあったのかもしれない。
当然ゾロ達も仲間としてアスカを好きでいるのは否定しないだろう。
しかし正直言って自分達のクルーのサンジを除いた男性陣は恋愛関係には滅法疎い。
断言できるほど、疎いのだ。
だからこそこの場ではロビンにしか気付かれていなかったのかもしれない。


(これは…ナミが荒れるわね…)


最初はジンベエのようにただ救ってくれた間に懐いた、という考えも捨てきれなかった。
しかしそれにしてはあまりにもローの視線が優しく、アスカの声色が嬉しそうなのだ。
ロビンに背を向けている為、アスカの表情は見えないからその考えはまだ捨てきれないが、ロビンの中では恋愛感情があるのだという予想が強い。
それと同時に、自分が気付いたということは当然自分以上の愛を向けているナミには一発でバレるという事。
ナミだけではなく、サンジにも早い段階でバレるだろう。
そうなったら確実に嵐が到来するのは避けられない。
アスカが本気ならばもしかしたら避けられる嵐かもしれないが…
ロビンはナミとサンジに比べてアスカに甘くもあるがそれなりに自由を尊重している。
だからアスカが本気なら応援だってするであろう。
ただ、可愛い妹分を取られて面白みがなく少し意地悪してしまうかもしれないが…そこは可愛いアスカをあげるという事で許してもらうしかないだろう。
しかし今はやっとアスカにも春が来たらしい事を喜ぶ姉として、黙って見守る事にする。


「ロー…なんでここに…」

「ちょっとな…」


アスカはロビンに関係を気付かれたなど思いもせず、ゆっくりと走っていた速さを緩めローの前に歩み寄り立ち止まる。
アスカもまた心から嬉しく表現できないものの、ローがこの政府の立ち入り禁止の島にいる事に疑問に思い首をかしげた。
ローはそんなアスカに曖昧な答えを呟き、そっと刀を握っていない方の手をアスカに向けて伸ばしかけた。
しかしアスカに触れる寸前で何故か止まり、伸ばしかけた手を引っ込める。
アスカはローとの再会に気を取られていたのかローの手には気付かず、その間にアスカに続けて駆け寄ってきたルフィが到着し、ローは完全に手を下げて感情を隠す。


「こんなトコで会えるとは思わなかった!よかった!!あん時ゃ本当にありがとう!!…あれ?喋るくまは?」

「…生きてたもんだな、麦わら屋…だがあの時のことを恩に感じる必要はねェ…あれはおれの気まぐれだ。」


アスカの隣に立ち止まったルフィのお礼にローは表情1つ零さず首を振った。
ただベポの事は答える事はなかった。
アスカはローと長い間共にいたわけではないが、どこかローがいつもと違う事に気付く。
それと同時にボスの後ろに乗っているウソップが雪の中誰かが倒れているのに気付き、そんなウソップ達を余所にボスは小声でローに助けを求めた。
しかしボスの助けはローには届いていないのか、無視されたのか…ローは何の反応も見せなかった。


「おれもお前も海賊だ忘れるな。」

「ししし!!そうだな!"ワンピース"目指せば敵だけど…2年前の事は色んな奴に恩がある!な!アスカ!!」

「え…あ、うん…」

「ジンベエの次にお前に会えるなんてラッキーだ!!本当にありがとうな!!」


アスカは考え込んでいたのか、ルフィに声を掛けられハッとさせ慌てて頷いた。
アスカの様子を怪しむ事なく頷いた事にうれしそうに笑みを浮かべルフィは改めてローにお礼を告げる。
恩を感じる必要がないと言ったのにお礼を呟くルフィにローはもう何も言わず諦めた。
その時、少し離れた場所から数人の足音が聞こえ、アスカは音の方へ顔を向ける。


「ルフィ、あれ…」

「ん?」


アスカの視界に映ったそれにアスカはルフィの服を摘まみ指差す。
アスカに声を掛けられたルフィは指差された方へ視線を送れば何となく見慣れた人物が2人の目に映る。
ただローは横目で見つめるだけだった。


「スモーカーさんっ!!!」


その人物、それはいつも自分を追って捕まえようと躍起になっているスモーカーの後ろに常にいた女海兵だった。
ルフィは名前は興味ないため覚えていないが、姿は何となく覚えがあった。
女海兵…たしぎは慌てた様子で雪が積もっている地面を走り、倒れている人物…スモーカーに駆け寄った。
そこでルフィとアスカはようやくスモーカーが倒れている事に気付く。


「おいマズイぞ!ルフィ!アスカ!!海軍だ!!」

「ああ!!」


たしぎの後ろから追いかけるように走る男達の姿はどう見ても海軍には見えないが、数人の帽子にはひらがなで『かいぐん』と書かれていた。
海軍の登場にウソップは慌ててルフィとアスカに声を掛け、ルフィは取り合えず答えたがこちらに来るたしぎ達に構える。


「大佐ちゃん!どうした!?」

「スモやん無事かァ〜〜!?」


急に走りだしたらしいたしぎを追って海兵達は既に消えたとは言えサークル内の戦場へと足を踏み入れる。
最初こそ恐る恐るだったが戦闘が止んだと分かれば誰もが走る速さを早めたしぎを追う。
ルフィはたしぎが向かった場所に見慣れた人物を捕らえ目を丸くさせる。


「やっぱケムリン達じゃねェか!!懐かしいな〜〜!!!」

「ルフィ…あんた…友達じゃないだから…」


自分達とスモーカー達の関係は疑う余地もなく敵同士。
しかも愛しい姉を奪っていった憎っくき男である。
だがどう見てもフレンドリーに声を掛け手を振るルフィにアスカは呆れてしまった。
本来ならたしぎはルフィとアスカを見て捕まえようとするのだが、倒れているスモーカーの事に頭が一杯だったのかルフィに目もくれずスモーカーへと駆け寄る。


「胸に…穴が…―――っよくも!!!」


うつ伏せに倒れているスモーカーを仰向けにさせ無事を確認しようとしたたしぎだったが、スモーカーの胸に穴がぽっかりと開いているのに気付き唖然とし、寒さとは別に震える手でスモーカーに触れる。
しかしその原因がすぐにローだと我に返ればもうたしぎの感情は恨みしかない。
たしぎは元に戻した刀を抜き、怒りに任せローに向かっていった。


「おいおい…よせ、そういうドロくせェのは嫌いなんだ。」

「―――!!!」


しかしローは焦る事なく向かって来るたしぎに刀を突きつけた。
ナミ達と同じくその突きつけた刀はたしぎには触れず、たしぎとスモーカーの体からハートが伸ばされ、一瞬にして仕舞われた。
ドサリと倒れたたしぎに海兵達は焦りの声を上げる。


「たしぎちゃァ〜〜ん!!!」

「畜生!!2度までも!!!」

「スモやんも倒れてるぞ!!!」


上司2人が倒れ海兵のどよめきは強くなる。
ローが何かした事はアスカ達も見えたが、一瞬過ぎて何をしたかは分からなかった。


「ルフィ!!アスカ!!急げ!!ここはヤベェ!!」

「うん!!――そうだ!おい!トラ男!!ちょと聞きてェ事があるんだけど…」

「…研究所の裏へ回れ」

「…!」

「お前らの捜し物ならそこにある…また会おう…――互いに取り返すべきものがある」


とにかくウソップ達は厄介なスモーカーが倒れている間に逃げようと思い、ボスを走らせる。
ルフィとアスカに声を掛ければルフィ達も頷くも、ルフィは仲間の事を聞こうした。
しかし最後まで言う前にローに遮られ、はっきりとナミ達がいるとは言わずローは遠回しに答えた。
アスカは『捜し物』とはナミ達の事だと察し、首を傾げるルフィに手短に答え、アスカの言葉に納得したルフィは腕をウソップ達の方へ伸ばす。
アスカも足をウサギにし飛び上がってボスの上に飛び乗り、ふとローへと振り返る。
丁度ローは室内へと入ろうとしていたところだったが、ローもまたアスカへと振り返り、2人は目と目が合う。
しかしそれ以上何もせず、ローとアスカはお互い何も言わずそのまま別れてしまう。



◇◇◇◇◇◇◇



ガゴン、と重たい音を立てながらローはアスカ達を見送り室内に戻って硬く扉を閉めた。
その音に唖然としていた海兵達は我に返り上司のいない今、海兵達は取り合えず麦わらの一味を捕らえようとした。


「撃て!あいつ"麦わらのルフィ"だぞ!」

「"冷酷ウサギのアスカ"もいる!!」

「お待ちなさい」

「…!!!」


捕まえようとしても既に小さくなりつつあるルフィ達を追いかけるも間に合わず、海兵達は銃を放った。
衛生兵達は素早くスモーカーとたしぎへ駆け寄る。
しかし銃の音が響く其の中、ミコトの声が止める。
銃声よりも小さいミコトの声だが、海兵達を止めるのに充分で、後ろからゆっくりと歩いてきたミコトに振り返る。


「でもよ!黒蝶さん!!!麦わらが…!!」

「今の状況で彼らを追うのはいい判断ではありません。…それよりもスモーカーとたしぎの治療を優先なさい。まずは寒さと吹雪を凌げる場所を探し、2人を安静にさせるのが先です。―――海賊などこれから先捕らえる機会は幾度もあります」

「「「り、了解!!」」」


ルフィ達を逃がし悔しがる海兵達にミコトは冷静に咎める。
スモーカーもたしぎも気を失っている為ここには自分しか指示を出せる人間はいないと思ったのか、大将として夫の部下に指示を出す。
いつもにこやかに笑いスモーカーの側にいたミコトの空気が一変し、大将黒蝶としてのミコトの表情と雰囲気に思わず海兵達は敬礼した。


「…………」


自分の指示通り動き出す海兵達を横目にミコトはただただルフィとアスカが去っていった方向を見据えていた。

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