その場は何とか落ち着き、今までの出来事をウソップが綺麗に纏める。
「―――つまり、初めから解明していくと…コイツが例の"ワノ国の侍"なんだ」
後ろにはウソップが生やした種で出来たホワイトボードのようなモノがあり、そこに分かりやすく絵も書いてこれまでの事をまとめていた。
そして下半身に顔が付いている男を指差し、本人から『ワノ国』出身だと聞きいており、ウソップは侍を指差した後、後ろで縛られているボスへと指差す。
「おれ達が拾った救難信号は"ボス"と呼ばれるあのワニタウロスへ部下から送られた信号だった…この侍がケンタウロス達を斬りまくった事が全ての元凶だったんだ。」
「しかし拙者は行方知れずの息子"モモの助"と"直葉"を救うべく邪魔する者を斬ったまで!!現に…見ろ!これだけの子供らがあの施設に閉じ込められていた!!きっとモモの助と直葉もまだ中に!」
侍はどうやら子供二人を捜しにこの島に来ていたようである。
息子達とはなんらかの理由で離れ離れになってしまい、息子達がこの島にいるのは確かだと断言していた。
大人達が会議中、暇を持て余し遊んでいた子供達数人が侍のその言葉に話に入って来た。
ここにいる子供達が全員なわけではなく、新しい子供もいて、部屋も別々に別けられていたらしい。
「だが問題は信号の後だ…何が起きた。」
子供達も全員ではないという言葉に『やはり!』と希望を見た侍にゾロがポツリと呟いた。
問いかけるゾロに嬉々として目を輝かせていた侍が眉間にシワをよせあっと言う間に表情を険しくさせる。
「さっきの男でござる!!周りの者達が"七武海"とはやしたてていた…」
「えーー!!?トラ男か!?あいつ"七武海"になったのか!?」
侍は脳裏にその時の事を思い出しているのか、屈辱だと言わんばかりに声を低くさせる。
そんな侍など余所にルフィとアスカは侍の言葉に目を丸くさせた。
ルフィとアスカは新聞は見ていなかったからかローが2年の間で七武海に加入したことに驚きが隠せず、ルフィは思わず声を上げてしまい、その隣に座っているアスカも声は上げなかったものの驚いたように目を丸くさせていた。
特に島に閉じこもって修行をしていたルフィとは違い、アスカは新聞を見る機会など沢山あったが、アスカがローとそういう仲なのを知っていた過保護なレイリーが隠していたのだろう。
「拙者あっという間に体を3つに斬られ…頭は施設へ、胴は置き去り、足は何やら猛獣のエサになる所……気配を頼りに逃げ回っていると何かにくっついたようで…」
「――それがドラゴンの後頭部だよ!」
侍の話を聞き、アスカ達はこの島で最初に出会った生き物であるドラゴンの事を思い出す。
確かにドラゴンの後頭部には侍の下半身が刺さっているようにくっついていた。
「そういや『七武海め』とか言ってたよな!」
「え?下半身でしょ?なんで喋るの?」
「ん?それもそうだな…」
「あァ、あれは屁でござる!!『元々拙者の特技でござブー』」
「屁だったのかよ!!!最悪だ!!!」
『そうでござブー』
「あ!!室内だとくせェ!!!」
「……、…」
ルフィもドラゴンに刺さっていた下半身を思い出し、その下半身が『七武海め』と叫んでいたのを思い出した。
その話にフランキー(ナミ)がふと疑問に思う。
フランキー(ナミ)の言う通り確かに口もない下半身が喋るのは可笑しい、と最初から下半身が喋ることに抵抗がなかったアスカ達も首をかしげた。
しかしその答えは簡単だった。
なんと、侍は口ではなくお尻から出てくる『屁』で会話していたようである。
あの時は室外だったため、屁だとは気付かなかったが、ここは吹雪を避ける為に入った施設…室内である。
屁だというのは間違いないようで…アスカはウサウサの実の影響で人より嗅覚が優れているためオナラ臭さに耐えられず鼻を押さえる。
そのためアスカは…
「ちょっとこいつ捨ててくる」
ぷっぷ、ぷっぷと調子に乗り屁で会話する侍に我慢の限界が来たようでアスカは立ち上がり鼻をつまみながら何も言わず侍の着物を掴み持ち上げる。
『捨てる』と真顔で呟き雪が吹き荒れる外へと繋がる入り口へと歩いていく。
「なっ!何をするのだ!!!女に持ち上げられるなどなんという屈辱…!!」
「わーー!!!ちょっと待てアスカ!!待ってやってくれ!!!」
「くさい」
「分かった!分かったからアスカ!もう屁で会話させないように言っておくよ!!だから外に投げ出すのはやめてあげてくれー!!凍え死んじゃう!!!」
侍はひょい、と軽い荷物のように持ち上げるアスカに驚きながらも男の自分が女(しかも少女)に持ち上げられた事にショックを覚え、あからさまに『ガーン!』という文字が浮かんで見える。
そんな侍など気にもせずアスカは吹雪きの方へと歩いていく。
それをウソップとチョッパーが慌てて止めに入り、2人の説得にアスカは渋々侍を離す。
「今…おぬしら……この
女子を、アスカ……――と、申したか…」
ちっ、と悪党のように顔を歪ませ舌打ちを打ちつつも離してくれたアスカに2人はホッと胸を撫で下ろす。
すると不意に侍が何かを呟き、アスカ達は侍へと振り返った。
「本当に…本当におぬし…!アスカと申したか!!?」
「それがなに」
侍は何故か『アスカ』という言葉に反応した。
侍は怪訝とさせるアスカを驚愕した表情で見つめ、否定しなかったアスカに信じられないと言ったように目を丸くさせ、マジマジとアスカを頭の天辺からつま先まで何度も見る。
「本当にアスカという女子がここにいるとは……確かに見せてもらった"シャシン"なる物に若干似ておる気もするが…だが髪も目の色も…いやしかしもしそなたがそうであればばここで出会えるなどなんと言う縁…!!―――おぬし、『仁』という男と『直葉』という女子を知っておるでござるか!?」
「じん?なおば?誰それ」
「もし、おぬしが本当にアスカならば…『仁』とはおぬしの"父親"の名!そして『直葉』はおぬしの"妹"の名だ!!」
「「「父親に妹!!?」」」
「…!?」
不躾にじろじろと見てくる侍にアスカは眉間にシワを寄せた。
別に見られるのはどうでもいいが、いかにも意味ありげに何度も頭からつま先まで見つめられてはアスカも鬱陶しく思うのは仕方のないことである。
しかし続けられた侍の言葉にアスカも、仲間達も驚きの声を上げた。
「ち、父親に妹って…!!アスカちゃんのか!?」
アスカの父親と妹だという男の名にルフィ達は誰もが驚いた。
アスカもまさか父親と妹が出てくるとは思っていなかったのか、驚き過ぎて言葉さえ失っている状態である。
「アスカの父親と妹がいるの!?ここに!?」
「直葉なら逸れてしまったので今ここにはおらぬが…実は拙者も父親殿はどこにおるのか分からぬのだ」
「そういや直葉って子とモモの助って子が行方不明とか言ってたな…」
「でも父親が分からないってどういうこと?じゃあなんであんたアスカの父親を知ってるのよ」
直葉の名前は先ほど行方不明と言っていた二人のうち一人の名なのは知っている。
どうやらこの施設にいるらしいのだが、問題は父親だった。
父親がどこにいるのか分からないのに、仁という男がアスカの父親だと知っている錦えもんに疑問を感じる。
しかし、当の情報元である本人の錦えもんは首をかしげていた。
「父親は母…アスカ殿の母君からの情報故…拙者は一度も仁殿にお会いしたことはないでござる」
「母親!?」
「おお…どんどんアスカの家族が判明していくな…」
父親と妹の情報を得てから、数秒で新たに『母親』が追加された。
もう母親まで出てくると驚きどころか感心してしまう。
(はは、おや…)
アスカは母親という言葉にピクリと反応する。
何故か『母親』という言葉を聞いてアスカは不快感を感じた。
「…?」
モヤモヤした何かが心を覆う。
胸元に触れるがアスカはなぜ母親に反応したのか自分自身でも分からなかった。
父親にも妹にも、何も感じなかったのに。
ただ、嫌な気持ちになったのは分かった。
「アスカのお母さんの事は知ってるのよね…名前とか…」
「…申し訳ないでござる…母君は一度しか顔を合わせたことがなかったゆえ…顔以外の事は分からぬのだ…」
「ええ!?じゃあ何も知らないってことと同じじゃない!」
「母親も知らねえ、父親も知らねえ…お前よくそれでアスカちゃんの両親の事を伝えようとしたな…」
「あ!いや!直葉なら!直葉なら分かるゆえ!詳しいことは直葉に聞いてくだされ!」
アスカの家族の事を言う割には、何も知らない錦えもんにアスカとルフィ以外がジト目で見る。
その視線が居た堪れなさすぎて錦えもんは冷や汗を流しながら、アスカの妹だという直葉に全てを託した。
知らない妹だという直葉に託されても、ナミ達は今すぐ知りたいのでジト目はやまない。
「…あんた、何も知らないのに意気揚々とアスカの父親の事教えてきたけど…一体何なわけ?ただアスカの両親がいるって伝えたいだけなの?アスカと初対面なのに?」
ナミのジト目ながらの言葉に錦えもんはハッと我に返り、『そうだった!』と叫ぶ。
洞窟なので叫び声が響きすぎて動物系能力者でなくても耳を塞ぐ。
動物系能力者であるアスカは自分に知らない家族がいたことにショックだったのか、微動だにしない。
そんなナミ達を他所に錦えもんはアスカと向かい合うように振り向く。
「そなたの母君から伝言を預かっているでござる!」
「伝言?」
「『直葉の保護をお願いします…そして決してワノ国には近づかないよう、ワノ国以外の場所で二人で協力し合って生きてほしい』―――そう伝えてほしいと拙者達に頼んでいたでござる」
その伝言に誰もが怪訝とさせた。
ワノ国は鎖国しているため、行きたくても行く手段がない。
みんなは伝言の意味が分からず怪訝とさせていたが、アスカは『母からの伝言』という部分に眉をひそめた。
何度も母という言葉にアスカは不快感を覚える。
眉を顰めるアスカをナミ達は振り返る。
みんな言葉にはしていないが、どう答えるのか気になっているようだった。
アスカは母だという不愉快な女からの伝言に答えるのではなく、仲間の視線に答える。
「…伝言は受け取った…でも、私は船を降りる気もないし、海賊だから子供を乗せて航海はできない…それに戦闘になった時庇いきれる自信がない……その妹だっていう子は保護するけどどこか安全の島の施設に預ける…これが私の答え」
アスカの答えにナミ達は『まあ妥当だな』と異論はなく頷いた。
彼らが伝言を頼まれたアスカが本当にアスカだとしても、そして直葉がアスカの本当の妹だとしても、一時的ならまだしもいつどこで命を落とすかもしれない海賊の船に子供を乗せることはできない。
そう答えながらアスカはチラリとルフィを見た。
先ほどから何も言わない彼の様子を見るに、連れて航海するのは無理だと判断した結果でもあった。
「ま、待つでござる!」
その判断にストップをかけたのは、錦えもんだった。
アスカの返答でこの話は終わりだという空気が流れたが、それはそれで困るのは錦えもんだ。
待ったを掛ける錦えもんに、アスカは『まだあんのかコラ』と言わんばかりにギロリと睨む。
可憐な見た目の少女とは思えぬ鋭い眼光に一瞬口をつぐんだが、負けじと叫ぶ。
「判断するのはまず直葉に会ってからにしてもらいたい!直葉の意見も聞いてほしいのだ!」
アスカ以外が、確かに、と思うが、アスカはそれさえ拒みたい。
直葉という子供と話をしたってぽっかりと空いた記憶はきっと埋まらない。
(記憶がないのに家族だなんだって…私にどうしてほしいわけ…)
記憶がないことに関して、もう諦めの域だ。
アスカと言う人間が存在するということは、父がいて母がいたのだろう。
ローの時もそうだった。
ローはアスカの事を知っているようだが、アスカは知らない。
相手が知っているのに自分は知らないということは、記憶喪失になったことがない人間から分からないが強いストレスになる。
そして不愉快にさせる『母』の存在。
アスカは寒いと装いながら腕を摩って苛立ちを誤魔化す。
そんなアスカにナミ達は気づいていなかった。
「そんなにアスカの両親や妹だっていうなら証拠はあるんだろうな?」
黙って聞いていたゾロがポツリと呟くように言った。
ナミ達は錦えもんの話を信じている前提で聞いていたが、言葉ではアスカの家族だと言えるがその確かな証拠は一つも見せられていない。
直葉という子供が母親の事を知っていたとしてもそれが証拠になるわけでもない。
確かな、記憶がないアスカ本人が納得できる証拠が欲しかった。
ゾロの言葉に、あっ、とウソップが思い出したように手を叩く。
「そういや写真を持ってるとか言ってなかったか?」
ゾロとウソップの言葉に錦えもんはぐぬぬと唸る。
その反応からしてゾロ達が望むようなものは出ないようだ。
「シャシンはある!…が、今はない」
「どういう意味だ?」
「母君から"シャシン"を預かっているのでござるが…そのシャシンは今、直葉が持っておるのだ…しかしそのシャシンから移し描いた絵を持っている!…しかし常に懐に入れておったゆえ、上半身がない今ではその証拠を出せぬのだ」
「じゃあもしかしたらその仁って人はアスカの父親じゃないって事もあるわけよね…」
「確かに名前が同じでも同一人物という事には繋がらないわね」
「でも、もし本当にアスカがその"ジン"って人の娘だったら…アスカはワノ国の出身って事だよな…あそこって確か鎖国されてるんじゃ…」
「まァ、この侍もこうしてワノ国を出ているんだ…もし本当にアスカちゃんがその男の娘でワノ国の出身だったとしても…何らかの形や方法でワノ国を出た――と考えるのが妥当だな…」
記憶がない以上、アスカが家族に会っても気づかないだろう。
ナミとサンジとウソップとチョッパーは、アスカに記憶がないのを2年前に知った。
記憶がないから可哀想だとは思っていないが、もし錦えもんが言う仁達がアスカの家族なら、そうであってほしいと思う。
自分たちが家族だと思ってはいるが、それでも本物の家族のぬくもりも大事ではある。
「……………」
ただルフィだけは口を閉じ侍と仲間の会話を聞いていた。
ちらりとアスカを見ればアスカも同じく口を挟む事なく会話を聞いているだけで、ルフィはそっとアスカの手を繋いだ。
「…ルフィ……」
「………………」
手袋ごしに触れられたのが分かり、アスカはハッとさせ手を握ってきたルフィへと振り返った。
ルフィは何故か何も言わないままで、珍しくも無表情に近い表情を浮かべていた。
それにアスカはルフィが何が言いたいのか理解した。
ルフィは怖いのだろう。
幼馴染がもしかしたらこのまま自分の傍を離れるのではないのか、という恐怖がルフィにあった。
誰もがアスカの家族の事を知りたく思い、出身も知りたがっていたが…ルフィはその逆だった。
もしかしたら本当の家族や出身が分かれば…家族と再会したアスカが母親の伝言通り、妹だという存在とこの船を降りるかもしれない。
いや、降りるとアスカが言っても、どんな事情があっても、絶対に許さないが、もしも、振り切って降りてしまったら。
大喧嘩の末、ウソップが降りた事件が頭によぎる。
もしかしたらアスカの家族が引きとめて2人の間を引き裂くかもしれない。
ルフィはずっと傍にいるのが当たり前だとばかり思っていた幼馴染が離れてしまうという恐れに襲われ、恐怖以外の感情など湧かなかった。
アスカはそのルフィの気持ちをすぐに察した。
そして、アスカも同じ事を思っていたのだ。
まだ見ぬ家族など記憶がないアスカにとって他人同然。
ルフィの傍を離れるなど今のアスカには考えられなかった。
アスカもルフィもお互い深く固い絆で結ばれており、お互い依存し合っている関係である。
それは自他共に認める事で…だからこそ新たな『家族』という情報に2人は困惑をし、恐れている。
不安を表すようにルフィが握っている手を強めると…アスカもルフィの言いたいであろう言葉に返すように、ぎゅっと握り返した。
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