(70 / 274) ラビットガール2 (70)

ドフラミンゴの声にミコトはスッと目を細める。
しかしそんなミコトを気にも留めず、ドフラミンゴは機嫌のいい声を零していた。


≪フッフッフッフ!久々だっていうのに冷てェなァ≫

「用件はなんですの」

≪そう急かすな…再会…とまではいかねェが久々なんだ、もっと話に花を咲かせようぜ?≫

「わたくしにはそのような時間はございませんの…夫が待っているので」

≪…夫、ねェ≫


ドフラミンゴと電伝虫越しとは言え、こうして話すのは2年ぶりである。
ミコトは黒蝶として戻り約一ヵ月後にはスモーカーと(一方的に)結婚し、サカズキから強引に無限有給休暇をもぎ取り、G−5に来たため、お互いすれ違いが続き会ってもいない。
別にドフラミンゴは海賊だが七武海なため海軍に会いにいっても警戒されるが捕まりはしない。
そもそもスモーカーやG−5達に自分が負けるなどありえないのだ。
だから会いに行ってもよかったが、何かと忙しい身だったためドフラミンゴも会いに行く事ができなかった。
正直何がなんでもミコトに会いに行って夫からミコトを略奪すればよかったと、今思えば後悔ばかりである。
が、略奪などいくらでも機会はあると開き直ったのも遠い記憶にある。
冷たいミコトの言葉の中にドフラミンゴはピクリと片眉を上げる。
ドフラミンゴはミコトに惚れている。
それはミコトも周りも知っている事であり、ミコトに言い寄るドフラミンゴの姿は海軍の人間は見慣れている風景でもあった。
傍から見たら決してミコトに相手にされていないように見えるが、ミコトはドフラミンゴを決して嫌ってはいない。
どちらかと言えば自分の気を懸命に引こうとしているドフラミンゴを好意的には見ていた。
しかしだからと言ってドフラミンゴへの気持ちが恋愛になるとは限らない。
先ほどまで機嫌よくしていたドフラミンゴが『夫』という言葉に機嫌を降下していくのを感じながらもミコトは『ええ』と何も触れずに頷いた。


≪本当にあの男と結婚したのか≫

「ええ、結婚式はしていないので結婚式の招待状をあなたに送る事はできなかったですが……新聞は見ましたでしょう?」


ミコトがリークしたわけではないが、どうしてか新聞にデカデカとミコトとスモーカーの結婚の記事が載っていた。
もみ消すことも考えたが、いくら大将であり美女で話題を集めている海兵の結婚記事とはいえ、結婚記事とは別の大騒ぎがスクープされれば人々の記憶の端に寄せられいずれは忘れられるだろうと思いやめた。
それに、意地になってこの話題に構ってしまうと逆効果なのもあるため、ミコトは放っておくことにした。
ドフラミンゴもその新聞でミコトが結婚したことを知ったのだろう。


≪お前ならあんな男ではなく、政府が選んだ男を選ぶと思ったが…≫

「わたくしだって人間です…人の言い成りにはなりたくはなかっただけですわ」


スモーカーを選んだと聞いた時、ドフラミンゴは信じられなかった。
ミコトは2年前でも気分屋だが政府に忠実だったはずである。
だからミコトに見合いの話を聞かされた時は都合のいい男を選ぶのだろうと思った。
もしその男と結婚してもドフラミンゴは奪う自信もあった。
きっとミコトは決してその男に心を奪われる事もなければ花を散らすのも許さないだろうと思ったのだ。
ミコトが恋や性行為に対して潔癖なところがあるのを長い付き合いの中でドフラミンゴは知っている。
そのためミコトは都合のいい男を選ぶと思っていたのだ。
そして、だからこそ決してテンプテーションで操ることが出来ない男を選ぶとは、思っていなかった。
仕事で帰れないと言えば相手もどんなに帰って来ない日が続こうがミコトは大将という座にいるため相手は渋々だが納得するだろう。
本来なら、ミコトにとってこちらの方が都合がいいはずだった。
しかし選んだのは政府の息がかかった男ではなく、テンプテーションで操ることも出来ない男…――スモーカーをミコトは選んだ。


≪なんであいつなんだ≫

「あの方に惚れているからです」

≪お前が惚れているのは赤髪だろ?≫

「あらまあ…よくご存知で」

≪お前と長い付き合いをしていればすぐに分かることだ。……なァ…どうせあの馬鹿犬なんかなんとも思っちゃいねェんだろ?だったらおれでもいいじゃねェか≫


ドフラミンゴは本気でそうミコトに告げた。
嘘偽りなく、ドフラミンゴはミコトを愛している。
ミコトに好意を持ちながらも他の女を抱き一途にミコトへ愛を向けないのが海賊らしさはあるが、本気で閉じ込めたいと思う女はミコトしかいない。
それなのにミコトが選んだのはシャンクスだった。
それでもドフラミンゴはミコトへの想いを捨てきれず、しかし黙って見ているだけではなくいつでも奪えるよう様子を見て来た。
ミコトは隙があるようで、入る隙などまったくない。
いくら甘い言葉を投げかけても、二番目でもいいと言っても、ミコトはなびかない。
そこがいい所だと思っているが、つまらなくもあった。
ミコトは不貞腐れたようなドフラミンゴの言葉に困ったように笑い『そもそもあなたは海賊ではありませんか』と呟く。


「確かに…あの方をわたくしは愛してはいませんし、あの方もわたくしを愛していません………でも、あの方には他の方にはないモノがあります…海賊を滅するという、強い思いが…政府を敵に回す事も厭わないほどの勢いをあの方は持っておいでです…そこに惹かれました」

≪……お前らしくねェな…≫

「それはわたくしも否定しませんわ…わたくしも最初こそ操り人形の夫と結ばれることを考えましたが……わたくしだって1人の女です…好きでもない男と一生を終えるなんて…そんな人生イヤですの…どうせなら"もしかしたら好きなるかもしれない男性"と結婚したいと思ったのです」

≪それがあいつか?お前になびくこともないあいつが、そうなのか?≫

「あら、人生分からないものですわよ?もしかしたらわたくしがスモーカーに骨抜きにされるかもしれません」

≪お前がか?ありえないだろ≫

「そう思いますか?」


ミコトは本心を全て話す。
いつも軽い男を装っているが、ドフラミンゴはこれでも頭のいい男であるのをミコトは知っている。
その頭脳で数多くの事業を成功させ、見切るところは見切ってきた男である。
人身売買も時代遅れだと感じれば躊躇なく切って捨てた男だ。
だからミコトはこういう時こそ本音で話す。
嘘で塗り固めてもどうせバレるのだから。
しかしだからと言って全て本音を話すというわけでもなかった。
嘘と本音が交じった方が本当に隠したいと思う嘘がバレる事がないのを、ミコトは知っている。
ミコトは本音を零した後、ふふ、と笑って自分を揶揄する。
だがミコトは色々な男や女を虜にしているが、ミコト自身が虜にされるというのはドフラミンゴからしたらありえないと断言できるほどの確信があった。


≪……おれなら絶対お前を幸せにしてやれると思うがな…≫

「ふふ、ありがとうございます」


ミコトはポツリと呟かれた告白に嬉しそうに笑みを浮かべた。
いつも軽い口調で言われるのと違い、この状況の言葉全てがドフラミンゴの本音だと知っていたため、ドフラミンゴの好意が純粋に嬉しいと思ったのだ。
傍から見ればドフラミンゴの一方通行のように見えるが、ミコトも内心満更でもなかった。
誰だって好意的な相手に言い寄られれば嬉しく思うのだろう。
ただドフラミンゴの性格上本気にしていなかっただけで、この時ばかりはドフラミンゴは自分の行いを悔やむばかりである。
しかし悔やんでも後には戻れず、ドフラミンゴは『まァ、いいさ…"今は"諦めてやる』と零すしかなかった。
ミコトはドフラミンゴの『今は』という言葉にくすりと笑みを深める。


≪そういやァ…用件がまだだったな≫

「あら、用件は冷やかしではなくって?」

≪フフ!冷やかしなんかする暇あったら今頃お前をスモーカーから掻っ攫っておれの部屋に閉じ込めてるさ≫

「まあ、怖い」


本気なのか冗談なのか分からないドフラミンゴの言葉にミコトはコロコロと笑う。
ミコトの笑い声にドフラミンゴは愛しげに目を細めながら、用件をポツリと呟いた。



≪――――――≫



その用件を耳に入れた瞬間、ミコトの顔から笑みが消える。
それと同時に2人の会話も切れ、その場は吹雪く雪風の音だけが響いていた。


「……それは…本当なのでしょうか…」

≪おれがお前に嘘を言うとでも?≫

「……………」


ドフラミンゴの言葉にミコトは耳を失った。
その内容はミコトにとって…いや、ルフィやアスカにとっても冗談で済ませれる話ではなく、ミコトはドフラミンゴのクツクツと零す笑い声に表情を険しくさせる。


「それを、わたくしに言ってどうするというのです?」

≪何も?ただお前が"コレ"欲しさに来てくれるのを期待しているだけさ≫

「……いやらしい人」


"それ"を自分が欲するだろう事はドフラミンゴではなくても思うだろう。
しかしミコトはドフラミンゴの言う期待に眉間にシワを寄せ低く呟いた。
その呟きからミコトの今の心境を察したドフラミンゴは『褒め言葉として受け取っておく』と笑うだけだった。

70 / 274
| top | back |
しおりを挟む