(73 / 274) ラビットガール2 (73)

一方、アスカ達は…


「おい何だコリャウソップ!ナミさんの美観を損ねる!」


中身が入れ替わったメンバーの頭にそれぞれの顔のイラストが付けられていた。
それは入れ替わっていないメンバー達が混乱しないために作られたのだが…ナミとサンジ以外はノリノリだった。
ナミの体に入れ替わっているサンジは敬愛する女性陣の1人であるナミの美しくも愛らしい外観が損ねると文句を零し、フランキーの体に入れ替わってしまった運の悪いナミは『もうどうでもいい…』と投げやりになっていた。


「ちゃひげ〜〜?」

「そうだ!聞いたことあるだろう!おれの昔の通名だ!」

「知らねェなァ…アスカは知ってるか?」

「私も知らない」

「何だとてめェら!!」


入れ替わったメンバーとウソップのコントなどよそにルフィは拘束して逃げ出せないようにしていたボスの言葉に首をかしげていた。
ボスの名は『茶ひげ』と言うらしく、正確には名前というよりは通り名らしい。
しかしルフィはその言葉を聞いたことがなく首をかしげ、隣に居るアスカに一応聞くがアスカも首を振った。
ルフィとアスカの手は今だ繋がっている。
アスカの『家族』の話をして以来ルフィがアスカを離さないのだ。
アスカとルフィの中は幼馴染同士だからかこの海賊団で1番仲がいいのもあり、誰も気にもとめず、アスカを溺愛しているナミやサンジも、相手がルフィだからというのもあり注意することもなかった。
そのアスカの反対側のルフィの隣にはゾロが座り、ゾロは急に口を開いた茶ひげに怪訝とした。


「どうした…さっきまで固く口を閉ざしてた男が……」

「お前らはもうすぐ殺される。ローがおれを助けにきてくれるからな!!ウォッホッ!!おれはお前らの世代の海賊達が大嫌いだがローは別だ!」


ロー、という言葉を聞いた瞬間、アスカはピクリと反応した。
繋がっている手がきゅ、と微かに力が込められたのを感じルフィはアスカへチラリと視線を送る。
アスカの横顔は茶ひげに固定されていたが、表情は何の変化もなく、いつも通りの表情を浮かべていた。
だからルフィも気にも留めなかった。
…が、何かモヤモヤしたものを感じていた。
気に食わないというほどではないが、何故か気分が晴れないのだ。
だが、本人であるルフィでもそのモヤモヤが分からず、アスカに問い質すのも出来ず取り合えず茶ひげの話に戻す。


「何だ、俺達の世代って」

「知らねェのか!?バカめ!」


世間など興味がないルフィからしたら知らないのは当たり前なのかもしれない。
やはり首を傾げるルフィに茶ひげは声を上げた。


「2年前シャボンディ諸島に一堂に会した"12人の億越えルーキー"達に"黒ひげ"を加え…世間じゃあおめェらを『最悪の世代』と呼ぶんだ!!一時代の終わりと始まりの狭間に生まれた戦乱の運命を背負う問題児共!!!」


『世代』、というのは、どうやらアスカ達のことを指すらしい。
シャボンディ諸島での出来事は偶然だが必然である。
もしアスカが奴隷だった事がバレなくても、掴まったケイミーを助ける為きっとルフィは天竜人を殴り飛ばしただろう。
そこをルフィ達が後悔するわけではないが、その事件のせいでルフィ、アスカ、ゾロ、ローを含めた計12人は世間では『最悪の世代』と呼ばれているようである。
その事を初めて知ったアスカとルフィとゾロの反応は薄かった。
他人事のような反応を見せるアスカ達など気にも留めず茶ひげは続ける。


「"白ひげ"亡き後『新世界』へ飛び込んで海を荒らしに荒らし…!!大事件が起きたと思えば火中にいるのはいつもこの世代の海賊達だ!!"黒ひげ"!!キッド、ロー、ドレーク、ホーキンス!!おれの"茶ひげ海賊団"をバラしやがったのはバジル・ホーキンス!!あいつのお陰でおれは両足を失い海賊をやれなくなった…!!仲間も壊滅的命からがら逃げ出して辿り着いたのがこのパンクハザードよ!お前らここがなんだか知ってんのか!?――その昔は緑が青々と茂る生命の宝庫だったという…!」

「ここが!?」

「見る影もねぇな…」


茶ひげの言葉にルフィ達は目を丸くさせた。
茶ひげからパクハザードは昔灼熱と極寒の島ではなかったと言った。
緑があった普通の島だと。
しかしルフィ達が上陸した時から灼熱だった。
そしてその向こう側は極寒の地。
だから茶ひげの言葉には驚いてしまう。
驚く彼らを見て気分がよくなったのかニヤリと笑い更に続けた。


「ここは元々政府の科学者ベガパンクの実験施設で"兵器"、"薬物"の開発と実験が繰り返されていた場所だ…島にゃあ監獄代わりに一部の囚人達が連れて来られてモルモットの様に『人体実験』されていたらしい…!!―――ところが4年前ベガパンクが化学兵器の実験に失敗し、3つあった研究所の2つが吹き飛んだ!ここがその研究所の跡だ!!!」

「なるほど…道理でメチャクチャなわけだ…」

「爆発は高熱と有毒物質を撒き散らし、島の命という命を奪い去った…――だがその状況で政府の奴らは実験体の囚人たちを置き去りに1人残らず逃げ出して島を完全に封鎖しちまったんだ」

「…!」

「残された囚人たちは唯一形をとどめた研究所に立て籠もり島中に立ち籠める毒ガスから身を守っていたそうだ…死ななかった者達も強力な神経ガスのせいで主に下半身の自由を奪われとても未来に希望などはなかった…!―――だがそうして1年が過ぎた頃…この島へ降り立ったのが慈悲深き我らが"マスター"だ…!!彼は特殊な能力で島中の毒ガスを浄化し歩くこともできなくなっていた囚人達に科学力の足を与え…"部下として"受け入れてくれたんだ!!」

「うおーー!!マスター!!」

「マスタ〜〜!!!」


茶ひげの説明に感情的な部類にはいるチョッパーとフランキーが救世主のような"M"に歓声を上げた。
しかしそれ以外は茶ひげの言葉を聞いており彼らのような反応を見せることはなかった。


「おれがここへ上陸したのはそれから1年後…2年前の事だ……まだ有毒物質がかすかに残り息をすれば吐き気がした…もうおれには生きる力など残っちゃいねェ…人生ここまでと諦めた所へ現れたのがおれと同じ足を失った元囚人達そして…"M"!!!」


茶ひげはホーキンスによって重傷を負った。
しかし命からがら逃げたお陰でギリギリに生きていたが、行き着いた島は更に茶ひげ達を死に追い詰めるような場所だった。
もう部下と共に死ぬしかないと思った時に、茶ひげ達の前に元囚人達とマスターと呼ばれた男が現れたという。
茶ひげはマスターに救われた。
そして、ローにも。


「数ヶ月前…2人目の救いの神……七武海の称号を得たトラファルガー・ローが島にやってきた!!ローは自由に歩けねェおれ達に対して奴のその能力で足をつけてくれたんだ!!!生きた動物の足をな!もう二度と歩けねェと思ってたおれ達は喜びに涙がこぼれた!」


ローには動物の足をつけてもらったらしい。
だからアスカ達の前に現れたここの住人らしい人間全てが動物の足になっていた。
茶ひげの涙ながらの言葉に、やはり感情が豊かなサンジの体に入っているチョッパーと、チョッパーの体に入っているフランキーは同調したように感激し、感涙していた。


「やっぱトラ男はいい奴なんだ!おれも助けてもらったしな!!」

「ベガパンクってそんなにヒドイ奴なんだ…」

「研究所で見た羊足の奴らはあいつの能力か…」

「ケンタウロスも鳥女も…それで納得だ……だが待てよ、ドラゴンは?」


確かに、下半身の動物の謎は解けた。
まだローの能力を知らないナミ達だが、中身を入れ替えたりした所業から納得した。
というよりも2年前にも、そして中身が入れ替わる前や子供達を逃がしていた時にも、ローの能力をナミ達は少し見たことがあったのだ。
キッドは鉄を操るようだが、ローは海兵達の体を切ってくっ付かせていた。
中身が入れ替わる前でも体だけではなく船や岩や氷塊を引っ付けていたのを思い出す。
ウソップはルフィが仲間にしたがっていたケンタウロスや自分だけ見た鳥女の謎が解け、納得したように頷いたが、しかし…まだ謎は1つ残っている。
それが、ドラゴンである。
ドラゴンは架空の生き物だ。
ドラゴンになる悪魔の実があったのなら納得はいくが、どう見てもあれは生き物だった。
ただの蛇でもトカゲでもなく、『ドラゴン』という紛れも無い生き物。
ウソップの問いに茶ひげは怪訝とさせず『ドラゴンを見たのか』と受け入れる。


「アレは元々ベガパンクがこの島の護衛にと造り出した人工生物だ。どんな環境にも適応できる。確か…天竜人が気に入って名付けたとかで名前がある……忘れたが。出会ったらまァ逃げることだ凶暴だぞ。」

「わかった。(食ったけど…)」


ドラゴンはここでは受けれている生き物らしく、何でもないように忠告する茶ひげにゾロは顔色1つ変えず頷いた。
心の中でもう食べた事を呟きつつもそれを言ったら面倒になると思ったのか口には出さなかった。
顔色変えず頷いたゾロに同じくドラゴンを食べたウソップは『おま…』とゾロを見た。


(天竜人…)


アスカはある言葉を耳にした瞬間周りの音が消えた。
『天竜人』――その言葉にアスカは自分の体が硬直したのを感じた。
まだ…まだ、アスカは天竜人を恐れている。
隠していた焼印をナミ達に知られ受け入れられても…天竜人に攫われたら助けに来てくれると言ってくれても……アスカの心の底からの恐怖はやはりまだ払う事はできないようである。
天竜人の恐怖から、アスカは恐怖に震えた。
それを手を握っているルフィが1番に気付き、何も言わず手を強く握る。


「ル、フィ…」


ぎゅ、と強く握るルフィに気付いたアスカはハッと我に返る。
そして、周りが見えなくなったのに気付いた。
それに気付かせてくれたルフィにアスカは顔を上げ、ルフィもアスカへと目線を送る。
お互いやはり何も言わないが、それでもお互い何が言いたくて、何を求めているのかが分かっていた。


「………」


本当は、『ありがとう、もう大丈夫』と言いたかった。
だけどまだアスカはその言葉が言えなかった。
言える状況でも心境でもない。
それに言っても、きっとルフィは信じないだろう。
お互い心境の変化を誰よりも察する事ができるのだから。


「とにかくこの島で誰が偉いかわかったな?―――今や誰も寄り付かねェ…この『パンクハザード』は我らがMの所有地だ!ウォッホッホ!!喜べ!!"マスター"は今日も人類の未来の為研究を続けられている…!!その為にわずかばかり必要な…『実験体』にお前達はなれるんだ!決して逃げられやしねぇぞ!!!ウォッホッホッホ!!」


本人は脅しているようだが……如何せん、ルフィ達はどんな強敵を目の前にして逃げ出した事がない。
一般人の心臓を持つ3人以外は平然としていた。
だから茶ひげの脅しをゾロ達は右耳に入り左耳に抜けていった。

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