(78 / 274) ラビットガール2 (78)

連続した爆発音は暫くすると止んだ。
しかし山彦のようにエコーとなって爆音が響いており、その音も暫くすると消えていった。
ザク、と雪を踏みながらアスカはちょこんと転がるチョッパーに歩み寄る。


「…………ちょっと………やりすぎた…?」


きゅ〜、と気を失っているチョッパーをアスカは静かに抱き上げたのだが……自分の腕の中にいるチョッパーは黒コゲであった。
たらりと汗を流すアスカだったが、もしここにウソップでもいたのなら『ちょっとじゃねェー!』と叫んで突っ込んでいただろう。
それほどチョッパーは黒コゲだった。(大事な事なのでry
取り合えず応急処置として"ラビットセラピー"の一部であるウサギを1匹出現させ、チョッパーに触れるよう両手で2匹を腕に抱く。

「ルフィ…もう倒したかな…」


大事な仲間を黒こげにしてしまった罪悪感がアスカを襲う。
…が、すぐに『ま、いいか』といつも通りに開き直りアスカはチョッパーとウサギを連れてルフィの元へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇



アスカとルフィとの距離はそう長くはなかった。
アスカが着いたのと同時に帽子を被っている大男が大きな音を立てて倒れていく。
アスカは大男の体が下半身と上半身で切られているよりも何より…雪煙の隙間に見える人物に目を丸くさせた。


「ロー!?」


アスカは思わずその人物…トラファルガー・ローの名を叫んでしまう。
そのアスカの声に気付いたのか背を向けていたローはアスカへと振り返り、ルフィとフランキー(ナミ)もアスカに気付く。


「アスカ!」


まず、動いたのはルフィだった。
ローがアスカに気付き微かに目を細めてアスカへと近づこうとしたのだが、その上を飛んでルフィが乗り越えアスカの前に着地し、ぎゅっとアスカを抱きしめた。
それをフランキー(ナミ)はいつも通り(だが今日のルフィは甘えん坊のようだと気付いている)だと『またか…』と肩をすくませる。


「…………」


しかし幼馴染同士の抱擁をローはピクリと片眉を上げて反応を示した。
アスカ関連に対して過敏なフランキー(ナミ)には背を向けており気付かれなかったが……フランキー(ナミ)を舐めてはいけなかった。
フランキー(ナミ)は多少の違和感をローから感じたが、その違和感の正体をまだ気付かない為首を傾げるしかなかった。


「ルフィ…苦しいんだけど…」

「しし!いいじゃねェか!」


ルフィは約束通りにアスカが自分のもとに戻ってきたのが嬉しいのか、ぎゅーっと力一杯抱きしめる。
力一杯と言っても本気を出してしまうとアスカとアスカの腕にいるチョッパーが潰れてしまうのをちゃんとルフィは分かっているので力加減はしているものの、それでも力を込めてしまう。
ルフィが何を言っても聞かない性格だというのはアスカが1番よく知っている。
だが痺れを切らしたフランキー(ナミ)がルフィに『いい加減にしなさーい!』と叱り、ルフィは渋々アスカを放し手を握る事で落ち着いた。
ルフィはアスカを引っ張ってフランキー(ナミ)のもとへと戻っていく。
ローとアスカの関係を知らないルフィはローの前を素通りし、アスカとローはその時何も言わない。
仲間でもなければ仲のいい海賊団の間柄でもない2人のそれは当たり前の態度だったが、ローは若干ムッとさせており主にルフィを睨みながら2人を見送り、アスカはローの機嫌が悪いと気付き首を傾げるばかりだった。


「もう!ルフィ!!行くなら鎖外してからにしてよね!!あとアスカの手そろそろ放しなさい!」

「いやだ!」


攫われたフランキー(ナミ)は解体される前に救い出されたのだが、まだフランキー(ナミ)の体にはジャラリとフランキーの体を拘束できる太い鎖が巻かれており身動きできずにいた。
この体だと自分の体ほどの寒さは感じられないが、サイボークといえど半分は生身の人間であるため、どうしたって寒い事は寒い。
それをルフィにプンプンさせながら怒るも一言で切って捨てられた。
その切られた言葉は『鎖を外してから』、ではなく、『アスカの手を放せ』の方である。
勿論、それはフランキー(ナミ)にも通じており、フランキー(ナミ)はルフィに『この野郎…』と心の中で毒ずいていた。
慣れたと言っていても、だから気にしないということではないらしい。


「麦わら屋。」


ニカッと眩しく清清しいまでの笑みを浮かべるルフィにフランキー(ナミ)は何も言えずぐぬぬ、となっているのを気にもせず、バキンと音を立てルフィが鎖を噛み千切りボトリと雪に落ち、その重さから雪の中に埋もれていく。
何の器具も使わず口で鉄製の鎖を噛み切ったルフィに『ええ!?』とフランキー(ナミ)が驚いていると歩み寄ってきていたローがルフィに声を掛けてきた。
ローは今だ手を繋いでいるアスカをチラリと見た後ルフィへ視線を戻し、本題へと入る。


「お前に話があってきた。」

「…?」

「…お前らは偶然ここへ来たんだろうが…この島には"新世界"を引っ掻き回せるほどの――ある『重要な鍵』が眠ってる……"新世界"で生き残る手段は2つ!『四皇』の傘下に入るか……挑み続けるか、だ…―――誰かの下につきてェってタマじゃねェよな、お前。」

「ああ!おれは船長がいい!!」


ローが何が言いたいのか、アスカは分からなかったが口を挟む権利はアスカにも、フランキー(ナミ)にもない。
恐らくローはルフィ…即ち船長同士の話がしたいのだろうとアスカとフランキー(ナミ)は考え口を閉じる。
ルフィが誰かの下につくなどありえないという事は多少の縁があったローにも分かっていた。
だから聞いてはいるものの、答えを言っているのと同じ問いを告げる。
当然ルフィは即答で考える事なく頷く。
ルフィが誰かの傘下に入る性格ならばこれまでの事件を起こすわけがない。
予想していた答えにローは小さく口端を上げる。


「だったら"ウチと"同盟を結べ」

「…同盟?」

「お前とおれが組めばやれるかもしれねェ…」


ローはルフィに『同盟』を提案する。
『同盟』という言葉にアスカは勿論のこと、フランキー(ナミ)は目を丸くして驚く。
しかし肝心のルフィは首を傾げるばかりで『海賊同士の同盟』の意味を分かっていないようだった。
聞き返すルフィにローは『ああ』と頷き、薄く笑った。



「『四皇』を1人…!!引きずり降ろす"策"がある!」



そして、ローはとんでもない事を言い出す。
アスカはルフィ同様世間に疎い。
ローが言った『四皇』だって、ここ新世界に皇帝のように君臨する4人の大海賊のことだとルフィの祖父であるガープから聞いて知った。
その4人の中に、アスカの養父であるシャンクスがいるのもガープから聞いて知っている。
そんな四皇を引きずり降ろそうとはまずルーキーでは考えないだろう。


「同盟ですって!?あんた達と私達が組めば『四皇』の誰かを倒せるの!?バカバカしい!!何が狙いか知らないけどダメよルフィ!こんなやつの口車に乗っちゃ!!」


アスカとルフィよりも海賊相手に泥棒を繰り返していたフランキー(ナミ)の方が海賊同士の同盟の意味を理解していた。
それを踏まえてルフィに断るようフランキー(ナミ)は言うが、ルフィはローをジッと見据えたまま答えない。


「いきなり『四皇』を倒せると言ったわけじゃない…!順を追って作戦を進めれば……そのチャンスを見出せるという話だ!!―――どうする?麦わら屋。」

「……………」


フランキー(ナミ)の抗議にローが言い返す。
ローからの話だとすぐにでも『四皇』を倒そうという風に受け取っても可笑しくはない。
それでなくても『四皇』を倒すという計画自体が、自称小心者のフランキー(ナミ)にとってはアウトな話である。
アスカはチラリと窺うようにルフィを見た。
しかしルフィはじっと口を閉ざしたままであり、アスカは冷や汗をかく。
四皇の中に自分の父親がいるためだった。
アスカはずっとシャンクスはルフィが挑むとばかり思って来た。
白ひげを亡くした後、四皇の中で穏便に終わりそうなのはシャンクスしかいないだろう。
魚人島で話しかしなかった『ビッグ・マム』も、ローから聞いた『カイドウ』も…そして、憎みきれないほどの恨みがある『黒ひげ』も……どう考えてもシャンクスのように笑って終われる相手ではないのは確かだ。
父であるシャンクスがそう簡単にやられる事はまずないと信じ、自信を持って言えるが、やはり義理とは言え四皇の娘であるアスカにはあまり心臓にいい話ではないのは確かである。


「その『四皇』って誰のことだ?」


アスカがギュッと手の力を入れたのに気付いたのか、それとも純粋に疑問に思ったのか…ルフィはまず、その『四皇の1人』を問う。
しかしローから出た言葉はアスカが心配していた名前ではなかった。


「『百獣のカイドウ』という男だ。」


カイドウ、という名前はルフィ同様世間に疎いアスカには聞き覚えのない名前だったが、通り名からして手ごわそうである事は窺える。
まだルフィがこの同盟を結んでいないが、アスカは父ではなかった事にホッと胸を撫で下ろした。


「ふーん…"一人目"はシャンクスじゃなきゃまあいいか!!―――『四皇』はおれが全部倒すつもりだから!!」

「…!」


ルフィもアスカと同じだったのか、カイドウという聞き覚えのない名前に『シャンクスじゃなきゃいい』と呟き、そしてローよりも更に大胆発言をする。
そのルフィの宣言とも言える言葉に次はローが目を丸くさせる番だった。


「『四皇』を全部倒す!?利害は一致してるようだがナメすぎだ!」


短い間だが、ルフィがどれほど世間に疎いのかを理解しているローは軽く見すぎているとしか言いようのないルフィの言葉に眉間にシワを寄せる。
そんなローにルフィは『そうか?』ときょとんとさせるだけで、そんなルフィにローは溜息をつく。


「いいか、奴らはかつて"白ひげ"ともナワバリ争いをしていた『海の皇帝達』だ…中でも"百獣のカイドウ"って男はこの世における"最強生物"と言われている」

「え!?何!?人間でもないの!?」

「俺達の同盟はカイドウの首を取るまで……作戦成功の確率は…そうだな………30%だろう…」

「なにそれ!低すぎ!!こんな話乗る価値ないわよ!ルフィ!!」

「…………」


溜息をついた後、やはり世間に疎すぎているルフィにローはどれほど難易度が高い相手なのかを説明した。
時間もないため軽くだが、それでも一般常識を持っているフランキー(ナミ)にその恐ろしさが伝わるほどの充分な説明だった。
しかし…ナミが低すぎる確率にルフィに向かって首を振っていたのだが………



「そうか…よし!やろう!!」

「え〜〜〜!!!?」



フランキー(ナミ)は断れ〜断れ〜、と念を送っていた。
しかしその念はルフィの天然フィールドによって防がれ……ついに、ルフィとローの間に同盟が結ばれたのだった。


「ちょっと待てェェェーーー!!!」


あまりにも何も考えず即答だと言わんばかりのルフィの決断に流石のフランキー(ナミ)も声を荒げてしまう。

フランキー(ナミ)の声は虚しくも2人には届かず山彦となり吹雪の風によってかき消されてしまった。

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