(86 / 274) ラビットガール2 (86)

ルフィは標的を目の前に悠々と話し終えるまで待つ性格ではなかった。
それは常に共にいるアスカも、姉であるミコトも十分に知っており、アスカは興味なさ気にしており、ミコトは『まあ、流石ルー君』と呑気にも笑っていた。


「この…!話せ!コノヤロー〜〜!!!」


ガスガスの実を食べたとローに教えられたシーザーの体をルフィは覇気によって捕まえる事が出来た。
覇気の存在は聞いていたが間近で見たのは2年前の黄猿対レイリーの時のみ。
あの時はまだルーキー中のルーキーで、新世界の事は何一つ分かっていなかったため、数には入らないだろう。


「あれが覇気か!!すげェなルフィの奴!!"自然系"の能力者を掴んでやがる!!」

「だけど『武装色』の覇気は"実体"を捉える力…『海』や海楼石のエネルギーのように相手の能力を奪えるわけじゃない!!―――"ガスガスの実"の実力を…私達はまだ知らない…!!」


目の前でルフィが覇気によって自然系のシーザーを捕まえたのを見てフランキーは驚きが隠せなかった。
ロビンも話には聞いていたのと持ち前の冷静さによってフランキーのように驚きはしなかったが、得体の知れない"ガスガスの実"の実力に警戒を高めていた。
その間もルフィは上半身をガス状にして逃げ出そうとするシーザーに向かって首を長く後ろへと伸ばす。


「"ゴムゴムのォ…鐘"!!」

「うぉっ!!」


ルフィはローとの約束のため、とりあえずシーザーの体を捕まえる事に成功した。
そして『鐘』によって攻撃を与えようとしたのだが、いち早く気付いたシーザーが体をガスにし避けてしまう。


「"ガスローブ"!!」


そして、シーザーは『ガスローブ』でルフィを殺そうと企む。
"ガスローブ"はシーザー自身が実験を繰り返し殺傷能力を更に高めた技であり、ルフィにガスを向ける。
シーザーはルフィがガスを吸い込み死ぬと思った。
それが正しい考えである。
しかし、ルフィは自分からガスほぼ全てを吸い込み、自爆のような行動を起こす。
それには流石のシーザーも驚き、ミコトの風から生き残った囚人達も驚きが隠せなかった。


「ウオオ〜〜!!バカかあいつ!!!」

「マスターの毒ガスを全部吸い込んだァ!!!即死だぞ…!!!」


マスター、と呼び慕う彼の毒ガスの威力は目の前で見たこともあり、自らガスを吸い込むルフィに目を丸くさせる。
見上げていたたしぎ(スモーカー)もさすがに息を呑んで見守り、ミコトは心配そうに見上げていた。
アスカも平然としつつも毒ガスと聞いており心配せずにはいられないのだろう…冷や汗に似た汗が額を伝う。
しかし…


「ふん!!」

「えええ〜〜〜!!?」


ポ〜!、とルフィは吸い込んだガスをそのまま耳の穴から噴出した。
人間業ではないルフィのそれに思わず囚人達は声を上げてしまう。
毒ガスを吸い込んでも無事でいられたルフィを遠目で見つめ、アスカもミコトもホッと胸を撫で下ろす。


「あれ、あんま毒類効かなくなったのかな!!マゼランのお陰だなァ!!」

「マゼラン!?インベルダウンの毒出し男か!!あんな"超人系"と一緒にすんじゃァ…―――」


どうやらルフィが毒に効かないのは、2年前のインペルダウンで戦ったマゼランの毒を一度受けたかららしい。
アスカはそれを聞き、正直マゼランの毒から生き残っただけでも奇跡だというのに、ルフィは少しずつ人間離れしていくんだなァ、と素直な感想を心の中で述べる。
ルフィはまたしてもただの毒を出すしか脳のない能力者と比べられカチンと来たシーザーの言葉を遮り、"JET鉾頭棒"で蹴り飛ばす。
シーザーはそのままルフィの技を受け止めてしまい地面に思いっきり叩きつけられてしまった。


「マスタァーー!!」

「あの野郎!!よくもおれ達の"M"に…!!」

「手ェ出すな!!ザコ共ォ〜〜!!!」

「…!!」


大きな音を立て地面に叩きつけられたシーザーに囚人達は我慢ならないと言わんばかりにルフィを睨みつけ、今度は自分達が相手だと躍起になる。
しかし瓦礫をどかしてのシーザーの言葉に耳を疑い、囚人達は聞き間違いだと思い込んだ。
だが、シーザーの言葉はミコトやアスカの耳にも届いており、2人は短くもシーザーが囚人達をどう見ているのか察した。
しかしだからと言って囚人達に言うつもりはお互いにない。
その間も2人の攻撃は止まない。
ルフィは畳み掛けるように攻撃しようとしたが、その前にシーザーが"ガスタネット"でルフィを丸コゲにさせた。
更にスライム状のモノを『スマイリーズ』と呼び、スマイリーズはシーザーのルフィに纏わりつけ、という命令に従い次々とルフィの体に纏わりついていった。
黒こげとなったルフィは抵抗も出来ずスマイリーが体中に纏わりつき、シーザーはルフィに向かって持っていたカスタネットを鳴らす。
その瞬間大きな爆発が起こった。


「シュロロロ…!!」


耳がキーンと成る程の大爆発も次第に治まり、その場にルフィの体はなく吹き消されたと見てもいい。
ルフィの遺体がない事にシーザーは機嫌よく笑っていたのだが…


「わー危なかった!スゲー爆発!!」

「え!!?」


その背後には何故かルフィが立っていた。
ルフィは寸前で逃げ出していたようで、爆発を食らったと思い心配していたアスカやフランキー達は安堵の息をつく。
ルフィはすかさず"JETスタンプ"で再びシーザーを蹴り飛ばす。


「よォし!!今度こそ捕まえた!!」


吹き飛ばした後、抵抗する暇も作らせずルフィは倒れるシーザーの上に飛び乗り覇気を纏って拘束する。


「ロビン!フランキー!アスカ!!コイツ入れとくモンねェかな!ロギアだから縛ってもよー!!」

「タルでもねェかな…」

「アスカ!おめェも手伝ってくれよー!こいつ往生際が悪くてまたガスになって逃げようとしてんだ!!」

「はいはい、今行く。」


上に乗っても上半身は覇気によってガス状になろうと無駄だが、下半身はまだ自由に動ける状態だった。
だから気付かれないようにシーザーはガス状になって逃げようとした。
しかしそれに気付いたルフィが同じく覇気を纏えるアスカに応援を頼んだ。
アスカは片手を振るルフィに渋々と装いながらも無事だった事に安堵しながら覇気を纏って逃げ出そうとするシーザーの足を掴む。


「オウオウ!待て"麦わら"!そいつの身柄は海軍『G−5』が貰うしお前も逮捕だァ!!」


アスカとルフィと2人掛りでシーザーを拘束するのを見てG−5達は慌てた。
同じく慌てだしたスモーカー(たしぎ)がたしぎ(スモーカー)に振り返り『スモーカーさん!!"麦わら"達がシーザーを!』と伝えるも何故かたしぎ(スモーカー)は傍観に入って何も答えない。


「あ…!!」

「…!!!」


ルフィ達は安堵していた。
自然系のシーザーをルフィとアスカで捕まえて、安堵していた。
しかしロビンが先ほど言ったように…まだルフィ達は『ガスガスの実』の実力を知らないのが現状である。
タルを探していたフランキー達の耳にルフィの苦しげな声が届き、ハッとさせ振り返る。


「え…!?」


そこには首を押さえ体を震わせながら力尽きたように倒れるルフィと、アスカが…映る。
ルフィが倒れた後、アスカがルフィに駆け寄ったが、何故かアスカもまた同じく倒れてしまった。


「ルフィ!!アスカ!!!」


ミコトは何事もまず、傍観から始める癖があった。
それにルフィなら倒されないという姉らしい自信と信頼もあった。
だが、今目の前では大切な弟とその幼馴染が続けざまに倒れている。
流石に傍観する余裕は失われ、ミコトはルフィとアスカに駆け寄ろうとした。
しかし…


「―――っ!!!」


プシュ、と軽い音と共にミコトの肩に何かが刺さったようなチクリとした痛みが走る。
その瞬間ミコトを守っていた傾世元禳が消え、ミコトはガクンと膝を折り座り込んでしまう。


「ミコトさん!?」

「ミコト様!!?」


まるで力が抜けていくように座り込んだミコトに海兵達は驚きの声を上げる。
ミコトからしたらその声すら遠く感じ、突然の事に唖然としていた。
そんなミコトにシーザーは愉快そうに笑う。


「シュロロロ!!黒蝶!お前がいるのは聞いていた!!お前と戦うのはこちらの分が悪いからな!!海楼石で出来た針を刺さしてもらった!悪いがお前には大人しくしてもらう!!」

「…ッ」


『海楼石』、という言葉にミコトは綺麗な顔を歪める。
動けないほどではないが、体はだるい。
重たく感じる体を起こしながらミコトはキッとシーザーを睨み付けた。
そしてズボンの裾に隠し持っていたナイフをシーザーに投げつける。


「うおっ!!ナイフ!?」


投げたのは覇気を纏わせたナイフ。
まだ無条件で甘やかせてくれる祖父達がいた頃、そして己の力を過信してはいけないと散々言われてきた頃…ミコトはもしもの時に備え体にナイフを隠し持つように言われていた。
ミコトも己の力を過信していたため『そんな物いりませんわ』と断ったが、どうしても強く出る祖父達に勝てず今の今まで肌身離さず持っていたのだ。


「てめェ…!!能力者なら能力者らしく大人しくしておけばいいものを…!!」

「―――!」

「ミコトさん…!!」


寸前のところで覇気を纏ったナイフを避ける事が出来たシーザーは苛立ちと共に声を上げる。
それと同時にミコトもアスカとルフィのように苦しそうにしながらドサリと地面に倒れていった。
ミコトは揺らぐ視界に映るスモーカーと、小さく聞こえるスモーカーの声が耳に届く。



『―――…』



ミコトは薄れる意識の中、小さく何かを呟きながら、意識を失った。

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