(87 / 274) ラビットガール2 (87)

シーザーはルフィ達を囚人達に任せ、姿を消した。
能力者であるルフィ、ロビン、スモーカーは海楼石の出来た鎖で縛り上げ、既に海楼石の針を打たれているミコト、そしてアスカだけは手錠をはめられある場所へと移動させる。


「、…」

「起きたか、黒蝶。」


ミコトは深い眠りから浅い眠りへと変わり、重い目蓋を開ける。
そこには灰色の空ではなく、白く高い天井が見えた。
上から声を掛けられたミコトはその声の方へと視線だけを向ければ、そこには懐かしい顔がミコトの瞳に映る。
その瞬間、ミコトは美しく整えられている眉根を寄せる。


「………ヴェルゴ…」

「覚えていてくれたのか…光栄だな。」

「……………」


ミコトの目に映ったのはG−5の基地長であるヴェルゴだった。
ミコトはソファに横にされているらしく、暖かな毛布が上から掛けられ寒さはない。
しかし肘掛に座り覗き込むように見下ろすヴェルゴにミコトは心底嫌そうな顔を浮べる。
だがそんなミコトなど余所にヴェルゴは薄っすらと笑い肘掛から腰を上げる。



「姉ちゃん!!」

「!――ルフィ…?」


肘掛から腰を上げれば頭上から懐かしく愛おしい弟の声がし、ミコトは重い体を起き上がろうとした。
しかし海楼石で行動を制限されシーザーの能力で意識を奪われたのもありミコトにとって起き上がるのは少し困難だった。
そんなミコトをヴェルゴが肩に手をやり起き上がるのを手伝ってやる。
ミコトは手を貸すヴェルゴに目を見張りヴェルゴを凝視し、ヴェルゴはサングラス越しだが間近に見るミコトに目を細め笑う。
ヴェルゴが離れ、ミコトはヴェルゴを気にしつつもルフィの声がした方へと視線を向ける。
そこには大きな檻が置かれていた。


「ルフィ…!」


その檻の中にはルフィが入れられており、更にはロー、フランキー、ロビン…そしてスモーカーとたしぎもいた。
しかし、妹のように可愛がっているアスカの姿がなくミコトは檻の中を何度も見る。


「アスカはどこに…」


確か気を失う前までアスカの姿があったはずなのだ。
弟の隣にアスカがいたはずなのに、檻の中は夫や弟達はいてもアスカの姿はない。
アスカの呟きにヴェルゴが『リサなら、あそこに』とある場所を指さす。
指差すそこはミコトの向かいのソファだった。
そのソファに海楼石の手錠を繋がれぐったりと気を失っているアスカの姿があった。
ミコト同様体には毛布が掛けられており、手錠さえ見えなければソファでうたたねしているように見える。
自分含め8人全てが捕まっている状態にミコトは一瞬焦りの色を表情に浮べ、キッとヴェルゴを睨む。
ミコトの睨みなど余所にヴェルゴはポケットから1つの瓶を取り出しミコトに『飲め』と言って渡す。
しかしミコトは顔を逸らして飲むことを拒絶し、そんなミコトにヴェルゴは『仕方ない』と言わんばかりに溜息をつき、何故かその瓶の中身を自分の口に含ませた。
自分に飲ませるはずの瓶の中身をヴェルゴが口に含んだ事にミコトは怪訝とさせた。
そんなミコトなど余所にヴェルゴはミコトの顎に指を掛け上を向かせ、そして―――…


「んぅ…ッ!?」


頬を指で押さえミコトの口を開けさせ、その唇を自分の唇に宛がう。
所謂口移しだった。
ヴェルゴの行動にモネ以外が目を丸くさせ絶句させた。
ゴクンと口移しされた液体を飲み込んだ後もヴェルゴは背もたれに手を置いて執拗にミコトを追い込むように何度も口付けを落とす。
『んっ、ん…ッ』、と甘い声を零すミコトにヴェルゴは夢中になりかけた。


「ヴェルゴ。」

「おっと、いけない……これ以上は危険だな…」


きっとヴェルゴは止めなければ永遠とミコトとの口付けを交わしていただろう。
モネは夢中になっているヴェルゴを咎めるように声をかけ、ヴェルゴも止められれば名残惜しそうにしつつも唇を放した。
はあはあと息を上げるミコトの表情は熱が篭もっておりとても色っぽい。
この場にモネたちがおらずミコトとヴェルゴ2人っきりだったら襲っていただろう。
それほど今のミコトは艶めかしかった。
しかしヴェルゴの『危険』とは、この場で襲うかもしれない、という意味ではない。


「な、に…を…飲ませ、たのです…!!」

「海楼石と同じ効果を持つ液体をシーザーが作ったらしいからその試作品をな…まあその元を作ったのはベガパンクだが。」


唇を押さえキッと睨むミコトをヴェルゴは『愛らしい』と素直に思う。
そんなミコトの肩に刺さっている針を抜きながらヴェルゴは答えてやった。
海楼石は名前のように石である。
加工が難しく、特殊な加工によって近年海楼石の手錠や今ルフィ達がつけられている鎖に出来るようになった。
だが、それでは外からの衝撃で外されたりと欠点が多い部分がある。
だからシーザーは殺戮兵器と共に海楼石と同じ効果をもつ液体や薬などを開発していた。
海楼石は自然でしか作ることができないため、海楼石からは液体として取り出すことは出来なかったが、似た効果を持たせることには成功した。
ただし、やはり海楼石ではないソレは長い効果はない。
だが、ミコトの力を奪い『ある人物』に引き渡すまでは持つはずである。
絶句した後、自分がこれから何をされるのか察したミコトが飲み込んだばかりの液体を吐こうと口の中に指を突っ込もうとしたのを見てモネがすかさず傍に駆け寄りミコトの手を取って止めさせる。
それを見たヴェルゴは安堵しながらミコトから離れ檻の前へと移動する。


「それにしても…1つの檻に入れるにはあまりに豪華な顔ぶれだな…いい眺めだ。」


ヴェルゴがミコトの視界から離れればミコトはヴェルゴからモネへと視線を移し、ミコトとモネは目と目が合う。
モネはミコトにクスリと笑うがミコトは笑い返す状況ではなくフイ、と顔を逸らす。


「スモーカーさん!私…!この気持ちどうすればいいのか…!」


ミコトが目を覚ます前に既にルフィ達は気がついていたのか、檻の中で(主にルフィ達が)わいわいと呑気にも談話していた。
今まで黙り込んでいたスモーカー(たしぎ)は思わず泣き言を零す。


「お前の予想が最悪の形で的中したな…」

「……っ」

「――つまり…シーザーがガキ共を連れ去った"誘拐事件"はこいつの手で"海難事故"にすり替えられてたと言うわけだ…よりによって基地のトップが不正の張本人とは…『G−5』らしいと言やあそうだが…軍の面子は丸つぶれだ」


子供の誘拐事件…それは少し前に話していたことであり、目の前で見世物のように見下ろすヴェルゴの姿はたしぎの予想が最悪な方に当たった事を示す。
それが堪らず悔しいとたしぎは唇を噛む。
しかしたしぎ(スモーカー)の言葉にローはチラリと横目で見つめ『お前らが気付かねェのも無理はない』と呟いた。


「どういう意味だ」

「ヴェルゴは海軍を裏切った訳じゃねェ…元々奴は海賊なんだ。」

「…!」

「名を上げる前に"ジョーカー"の指示で海軍に入隊し、約15年の時間をかけて一から階級を上げていった…"ジョーカー"にとってこれ以上便利で信頼できる海兵はいない…ヴェルゴは初めから"ジョーカー"の一味なのさ…!!!」


ローの言葉にスモーカー、たしぎは目を丸くした。
上司だと思っていた海兵が、本当は海賊だった事に驚きが隠せなかった。
ミコトは知っていたため驚く事なくヴェルゴが起こしてくれたお陰で座る事ができ、背もたれに背中を預けながらローの説明を黙って聞いていた。


「"ジョーカー"…確か裏社会のブローカーの名だな……自分が情けねェ…こんな近くのドブネズミの悪臭に気付かねェとは…!!」

「そう悲観せず…優秀な"白猟"の目をも掻い潜ったドブネズミを褒めてほしいもんだ…スモーカー君。」


傍に海賊が、しかも裏社会のブローカーの手下がいたのに気付かなかった自分の愚かさを恨むスモーカーにヴェルゴは笑みを浮かべた。
しかし次に小さく苦々しい表情を浮かべスモーカーを見下ろす。


「お前が本部から転属して来た日から最大限に警戒網を張ったよ…そのストレスから今日解放されると思うと嬉しいね。」

「………」

「知られちゃマズいおれの正体を明かしたという事はどういうことか分かるな?」

「…………」

「スモーカー中将、たしぎ大佐…キミらはここで死に…その口は封じられるという事だ…表にいる部下達もシーザーにくれてやる…なァに、"いつものように"ちゃんと『事故』と処理しておくさ」

「――ッ!」


海賊に捕まったこの状況は屈辱にしかならない。
スモーカーは『いつものように』、という言葉と『事故』という言葉に苛立ったように奥歯を噛み締める。
たしぎもその言葉を聞き、伏せていた目を鋭くさせヴェルゴを睨む。
自分達の命がいつ消えても可笑しくないこの状況でも牙を向くスモーカーにヴェルゴは目を細めた。

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