(38 / 293) ラビットガール (38)

ルフィ達は店を出た後、目的の海軍基地へ向かい海軍基地の門の前に立っていた。
当然だが門は大きく、海賊を捕まえるために作りも頑丈である。
威圧感がどこか感じられる門の前に立ち三人は見上げていた。


「近くで見るとゴッツイなー!いけよ!コビー」

「で、でもまだその…心の準備が…!!さっきの一件もありますし…―――あ!ルフィさん!!」


目的や夢が今、コビーの目の前にある。
しかしいざ目の前にしてしまうとどうしても緊張してしまう。
心臓を抑えながらドクンドクンとうるさい心臓を静かにさせようとコビーは深呼吸しようとした。
その時、何故かルフィは塀にしがみ付き、塀の向こう側を覗き込む。


「魔獣はどこかなァ」

「魔獣じゃなくてロロノア・ゾロ。」

「覗いて見えるような所には居ませんよ!きっと奥の独房とかですよ!」


まだゾロの名前を憶えないルフィにアスカはまた訂正した。
魔獣と言われるほどの男を呑気に探すルフィにコビーはビクビクする。
正直ルフィの毛の生えた心臓がほしいと思うが、それはそれで大変だな、と考えなおす。
結果、普通が一番!とコビーの中で一番となった。
アスカは塀を上がるのが面倒で、全てルフィに任せており、キョロキョロと塀の向こう側を覗き込むルフィに問いかける。


「ロロノア・ゾロ、いた?」

「いや!でもなんかいるぞ!!向こうに!ゾロって奴かも!」

「えっ…!!」


アスカの問いにルフィは首を振りかけたが、遠目で何かが見えたようで塀から降りてその気になるところへと向かう。
それにアスカも続きコビーが去っていこうとする2人に慌てて後を追う。
ルフィはもっとゾロらしき人物が見える場所へと移動し、また塀を登る。
今度はコビーも塀に上り、そしてコビーの目に見た者は…


「―――!!!」


コビーはそれを見た瞬間塀から落ちてしまう。
塀から落ちたコビーに、ただ二人を見上げて待っていたアスカは小首を傾げ、塀にしがみ付いたままのルフィも塀から落ちたコビーに首を傾げていた。


「どうした?」

「コビー?」

「く、く、黒い手ぬぐいに腹まき!!ほ…本物だ…!本物のロロノア・ゾロです!!なんて迫力なんだろう…!あれがゾロ…!!」


コビーが見た人物…それがルフィが探していたゾロだった。
ゾロの名前にアスカはウサギを出し、ウサギを塀の上に登らせ目の代わりとする。
目を瞑るとルフィの隣に飛び乗ったウサギの視界が送り込まれ、ゾロの姿が映し出されていた。
ゾロは磔にされており、ルフィやアスカは平気だがゾロから出されるその気迫はアスカにも感じられる。


「うわ…もう虫の息じゃないの、あれ…」


磔にされているゾロは目立った傷はないが、無傷とも言い難く、ウサギを通して見ていると血が服についているのが見える。
海賊を狩っているということは言わば海軍側ではないのかとアスカは思ったが、海兵たちからしたら海賊を狩ってその賞金で暮らしている人物は海賊と同列なんだろうとも結論づけた。
彼らからしたら海賊狩りはお金に群がる厄介者でしかないのだろう。


「あれがそうか…あの縄ほどけば簡単に逃がせるよなあれじゃあ」

「ば…バカなこと言わないでくださいよ!!あんな奴逃がしたら町だって無事じゃ済まないしルフィさんだって殺そうとしますよ!あいつは!!」


アスカが物思いに耽っていると、ルフィはどうしても仲間にしたいのか逃がそうと零す。
その零しにコビーがすかさずウサギを挟んだルフィの隣へ上り、ルフィに考えなおすように言った。
だがやはりルフィは我が道を行く性格をしているため、その考えは簡単には覆らないだろう。
『だから無駄だってば、コビー』と下でアスカが零していると、ゾロが三人に気づいたのか声をかけてきた。


「おい、お前」

「ん?」

「ひいっ!!」


ゾロの声はかすれていた。
恐らく数日、またはそれ以上喋っていないからだろう。
いつからいるかは分からないが、噂が海に広がるのだから一日二日ではないのは確かである。
ゾロに声を掛けられコビーだけが怯えていると、俯いていたゾロは顔を上げルフィをまっすぐに見る。


「ちょっとこっち来てこの縄解いてくれねェか…もう九日間もこのままだ。流石にくたばりそうだぜ」


ゾロはそう言って笑っていた。
9日間も飲まず食わずらしいゾロに憔悴しきっているのをアスカは納得した。
アスカが一人納得していると、そのアスカの傍を一人の女の子が通り過ぎ梯子を使って塀を上っていくのが見える。


(何あれ…)


ロロノア・ゾロと言えば悪名高い事で知られており、子供等は怯える対象であるはずなのだ。
だが、自分の傍を通り過ぎた女の子は何故か塀を上りその恐れられているゾロのいる塀の中へと入ろうとしていた。
それにアスカは興味深めに女の子の行動を見守る。


「ん?」

「え!?」

「しーっ」


突然、隣に現れた女の子にコビーもルフィもゾロからその女の子へと視線を写し、2人の目線に女の子は静かにするよう合図してそのまま塀を超えてゾロの元へと向かってしまう。
それに慌てたのはコビーだけだった。
アスカは直接見たいと思い、女の子がかけた梯子に上って2人の間に入る。


「あっ!アスカさん!!アスカさんもあの子止めてください!あの子殺されちゃいますよ!!」

「殺されるって言っても相手動けないし…大丈夫じゃない?」

「そんな〜っ!」


隣に来たアスカにコビーは止めてくれるよう頼む。
だがルフィ同様アスカは止めるつもりはないらしく、冷たく突き放すアスカにコビーは情けない声を上げる。
チラリとコビーを見た後アスカは女の子とゾロに視線を戻す。
女の子が目の前に現れ、ゾロはギロッと睨むが、女の子は平然としておりアスカは『あの子将来有望だなァ』とズレた事を思う。


「殺されてェのか…消えなチビ!!」

「あのね、私おにぎり作ってきたの!お兄ちゃんずっとこのままでおなか空いてるでしょ?私初めてだけど一生懸命作ったから…」


どうやら女の子はゾロのためにおにぎりを作ってきたらしく、ゾロに包みを開いて食べさせようとした。
だが女の子に差し出されるおにぎりをゾロは拒み声を上げて追い払おうとする。


「腹なんか減っちゃいねェ!そいつ持ってとっとと消えろ!!」

「だけど…」

「いらねェっつったろ!!帰れ!!踏み殺すぞガキ!!」

「ロロノア・ゾロォ!!イジメはいかんねぇ…親父に言うぞ」

「…!」


何度断っても引き下がらない女の子にゾロは苛立った声を上げた。
傍から見たら女の子を苛めている大の大人でしか見えない。
しかしなんとなくだがアスカはゾロが女の子を追い払おうとしているように見えた。
だがそう思うだけで、確信はなく、ゾロという人物の性格もアスカは知らない。
小首をかしげていると一人の男が、海兵達を引き連れて現れた。
威張りながら歩くその姿にコビーは海軍の上の方の人だと思い、ゾロに苛められているとしか見えない女の子が無事保護されると思いホッとした。
しかし、男は女の子がゾロにと作ったおにぎりを奪い食べてしまう。


「ぷへェっ!まずうっ!!く…くそ甘ェ!!砂糖が入ってんぞこりゃ!塩だろうがふつうおにぎりには塩っ!!」

「だ…だって甘い方がおいしいと思って…!!」

「こんなもん食えるかボケッ!」


女の子のおにぎりを奪って食べた男だったが、どうやら女の子は本来おにぎりに入れる塩を砂糖に変えて作ってしまったらしく、男は残ったおにぎりごと地面に捨て、捨てたおにぎりを踏みつけた。
女の子は一生懸命作ったおにぎりを踏みつぶされ、止めてと言ってもやめてくれない男に涙を流してしまう。


「なに、あいつ…」

「ひ、ひどい…あの子がせっかく作ったのに…!」


子供を泣かした男は泣いた女の子を見下ろし面倒くさいと言わんばかりに顔を歪めた。
それは冷酷キャラで通っている(かは分からないが)アスカでさえその男の態度に気分を害するほどだった。
子供は当然泣き始め、しかしそれを見ても男は『だから子供は嫌いだ』と零し、後に控えていた海兵に子供を塀の外へ投げ飛ばせと命令する。
海兵は流石に戸惑ったが男の『親父に言うぞ』という言葉に海兵は口ごもった後、男の命令に従い女の子を投げ飛ばす。
投げ出された女の子をルフィが受け止めて何とか怪我がなくて済んだ。
ルフィの腕の中で怪我一つない女の子を見た後、アスカはゾロへと視線を戻す。
男は投げ飛ばされた女の子を笑っており、アスカは思わずカチンと来てしまう。
子供は苦手な類の人間だが、流石にあんな事を平然とする人間を擁護するほど人間を捨ててはいない。
男はゾロに何か言った後、嘲笑いながら帰っていく。
ムスッとしたままその憎たらしい男の背を見送っていると下に降りていたルフィが隣に戻り、何をする気なのかと様子見をする。


「あ、あれ!?ルフィさん!?どこいったんですかー!?」

「コビー、あそこ。」

「へ…?」


同じく下に降りて女の子に駆けつけていたコビーが不意にルフィの姿がないのに気付く。
そんなコビーの声に気づいたアスカは目線をルフィに固定しながらコビーにルフィの居場所を教える。
そこは…


「何してんですかあの人はァ〜〜!!」

「さあ?」


ゾロが磔にされている塀の中だった。
コビーの叫びにアスカは心から首を傾げる。
幼馴染でもやっぱりルフィの思考は読めないようである。

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