スモーカーはヴェルゴの言葉を聞き、チラリとモネに付き添われているように座り項垂れ床を見つめているミコトを盗み見る。
今、ヴェルゴの口から出された名は、自分とたしぎのみ。
ミコトの名は一度も出されていない。
それは…ヴェルゴがミコトを警戒していない証拠だった。
悔しいが、今、この場で1番の実力者は若くして海軍大将の一角に上り詰めたミコトである。
そのミコトを警戒すらせず背を向けていると言う事は……―――ミコトがヴェルゴらの味方だから。
そう考えても仕方なかった。
しかしスモーカーもそれは馬鹿な憶測だと思う。
ミコトをまだ一介の海兵の時から度々見てきたスモーカーはミコトがヴェルゴと同じく海軍を騙し"ジョーカー"の手下として動いていたなど馬鹿げた話でしかない、と思う。
もし、ミコトが敵ならば海楼石をさっさと抜いているだろうし…何よりも、ミコトが海軍を裏切るなど考えられなかった。
そもそもスモーカーがミコトが裏切っていないと言い切れるのは、ミコトがあれほどセンゴクや祖父のガープ、そして同僚だったクザンを慕うはずがないからだ。
本音が見えない女だが、実際嫌でも一緒にいれば身内に甘いことが見え、センゴク達に可愛がられているのも見ればミコトが裏切るなど考えてもすぐに消える憶測である。
「妻が気になるかね、スモーカー君。」
「…!」
気だるげにしているミコトを見るスモーカーに気付きヴェルゴはわざと声を掛けた。
ヴェルゴの声が聞こえたミコトは俯かせていたが、床からスモーカーへと顔を上げる。
ミコトと目と目があったスモーカーは一瞬だが疑った事への罪悪感からか気まずげにミコトから目を逸らし誤魔化すようにヴェルゴを睨みつける。
「彼女なら心配いらない…夫を失い心に傷を負った彼女を、"ジョーカー"が優しく大切にしてくれるだろう…きっと彼女も"ジョーカー"の優しさに触れて……君の事などすぐに忘れる。」
一々棘のある言葉を含ませるヴェルゴだったが、ミコトの夫であるはずのスモーカーは何の感情もなかった。
それもそのはずである。
スモーカーとミコトは別段、恋愛を経て結婚したわけではないからだ。
それをヴェルゴも分かっているであろうに…むしろ分かっていてあえて言っているのだろう。
スモーカーは"ジョーカー"という人物は知らないが、ヴェルゴの言葉に『ミコトを奴隷として売る為に連れて行く』と捉えたらしく、不快そうに眉間にシワを寄せる。
「……その"ジョーカー"って奴にそいつを売るのか…奴隷として」
「まさか!"ジョーカー"は心底彼女に惚れこんでいる…奴隷に売ったらおれ達が"ジョーカー"に殺されてしまう…笑えない冗談はよしてくれ。」
「惚けやがって…心底そいつに惚れてるのはお前の方だろ?」
「……………」
スモーカーの言葉にヴェルゴは肩をすくめ恐ろしい、と言わんばかりに否定した。
しかし次のスモーカーの言葉に余裕を崩し、表情を消す。
それが図星だと察したスモーカーはますます不快だと表情を曇らせる。
「おい!さっきから姉ちゃんをモノみてェに言いやがって!!姉ちゃんはモノじゃねェ!!おれの姉ちゃんだ!誰にもやらねェよ!!」
無言の静けさがその場に落ちる。
誰もが口を出せない中、ルフィが声を上げた。
本来ならここで『空気を読め!空気を!!』と突っ込まれるはずのルフィだが、ミコトの弟という事もあり2人の間に入るのはありがち間違いでもない。
ルフィの言葉に暫く口を閉ざしていたヴェルゴだったが、『勿論だ』と呟けばルフィは『分かってんならいいんだ!』とフン!、と鼻を鳴らし、『よかねェだろ!』と思わずスモーカーが突っ込んだ。
「何がいいんだ!てめェの姉が"ジョーカー"って奴に奪われるんだぞ!!」
「なに!?姉ちゃん"ジョーカー"って奴のとこにいくのか!?」
スモーカーの突っ込みにルフィはハッとさせ、まるで世の終わりのような表情で『まあおれはケムリンでも許してないけどな!!』と付け足す。
スモーカーはこのシスコンをライバル(と呼びたくはないが)と呼ばなくてはならない事に頭痛がしてきた。
そんなスモーカーなどよそにルフィはジッと姉を見つめ、ルフィの目線にミコトは弱弱しく首を振って『ありえない』と答えた。
今の状況でその答えを信じていいのか分からないがとりあえずルフィが安堵できる要素であるようで、『なら大丈夫だな!』と答えきるルフィにもうどうでもいいと言わんばかりスモーカーは溜息をつく。
「っていうか…おい、トラ男。」
「何だ」
「さっき言ってた"ジョーカー"って誰だ?」
「…………」
姉から『ありえない』を貰ったルフィは心底疲れ果てた顔をするスモーカーに気付かず、ルフィだけ問題が解決したため次の疑問に移った。
ミコトの向かいのソファに横になって動きもしないアスカを心配そうに見ていたローはルフィの問いに口を閉ざした。
「…おれも…昔……そいつの部下だった。」
「…!」
ローは少し答えるのを戸惑った。
別に"彼"に歯向かっているのだから口を固く閉じる必要性はない。
だが、今答えるには"彼"は大物すぎた。
しかし『だからヴェルゴを知っている』、とローはあえて答えた。
「"ジョーカー"とは闇のブローカーとしての通り名だ…だがその正体は世界に名の通った海賊…『王下七武海』の1人……―――"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"だ!!」
ローの口から出された"ジョーカー"の本当の名に誰もが息を呑む。
ただ…ミコトだけはドフラミンゴの名に目を伏せた。
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