(91 / 274) ラビットガール2 (91)

ミコト達の目の前にあるモニターにはまさにこの世の地獄とも思える映像が映っていた。
スマイリーが毒ガスに変わりまるで雪崩のようなスピードで紫色の煙が島全体を覆いつくそうとしている。
その中でモニターには防御服を脱いだ元囚人達が映り、必死に逃げていたが一人、また1人とガスに包まれあっと言う間に白い固まりへと変わっていく。
それをヴェルゴ、モネ以外のミコト達は唖然と見ていたが、シーザーは実験の成功を意味する白い塊となった囚人達の姿に高々に笑った。


「シュロロロ!!やったぞ!!成功だァ!!逃がさねェぞ!もう誰一人…!!シュロロ!これでいいんだ!!毒が効いても多少動けるから避難できた!!固めちまえばよかったんだ!!!灰のように体に纏わりつくガスは皮膚から侵入し全身を一気に麻痺させる!!!シュロロロ!!さァ!!もっと見せろ!!地獄絵図を…!!!」


機嫌よくシーザーの声が室内に響き渡る。
しかし、目の前の光景を見せられているスモーカーやルフィ達の耳には入らず、逃げ惑いながらも毒ガスによって体を固められていく囚人達を見て唖然としていた。
まさにシーザーの言う通り、ミコト達が見ている光景は『地獄絵図』だった。


「――あ!!おい見ろ!!ほら!ゾロ達!!煙に追われてるぞ!!」


誰もが言葉を失くしモニターを見つめていると、パッと定期的に変わった画面に映ったモノにルフィは反応した。
それは別行動だったゾロ・サムライ・ナミ(サンジ)・ブルックだった。
どうやら別行動をしていたゾロ達も煙に追われているようで、必死に逃げているがその走り方がなんともマヌケで、所謂『漫画走り』だった。
が、クールなゾロまでもが漫画走りになってしまうほどに煙のスピードは見ているミコト達が思っているほど早く、そしてゾロ達も必死なのだろうと1人冷静なミコトはそう心の中で納得する。


「何やってんだ!?あいつらあんなところで!なんちゅう走り方してんだ!」

「あら、お侍さん完成してるわね」

「ほんとだ!!じゃあ足くれねェかな!!――って、あ!!おいロビン!それどころじゃねェだろ!!!」


ヴェルゴはチラリとミコトを見る。
それは逃げ出さないか警戒しており、何の変化もないミコトにヴェルゴはモニターへと視線を戻した。
ヴェルゴが目を逸らし少しだけ意識をモニターに移したとき―――ミコトはアスカへと目をやった。
フランキーはモニターに映るゾロ達の走り方を見てやはり突っ込みをいれ、ロビンは呑気にもサムライが完成していることに気付き、それに珍しくもルフィが突っ込みをいれた。(しかもノリ突っ込み)


「仲間か?"麦わらのルフィ"」


ルフィは毒ガスに追われるゾロ達を見て思わず逃げろと声を上げたが、海楼石の鎖のせいで満足に声すら上げる事はできず息を荒くさせながら言葉を途切る。
そんなルフィの反応を見てシーザーはモニターからルフィへと歩み寄る。


「シュロロロ…さすがにお前の仲間はしぶといなァ…!!だが!やがて息も切れ…ガスにやられる!!やがて広がる何も生きられない"死の国"!!この研究所の外にいる連中はもう誰一人生き残れやしない!!!お前らもな!!」

「――!!」


シーザーは海賊の手配書には興味ないのか、ルフィの仲間を知らなかったようである。
しかし今のシーザーにとって、どんな強敵だろうがあの毒ガスからは誰一人逃げれないという自信があるためルフィやその仲間達、そしてあの場にいる全ての人間に向かって嘲笑って見せた。
そして、あるスイッチをシーザーが押せば、ルフィ達が入っている檻が独りでに後ろへと傾きだす。
後ろは壁であり、その壁の部分が上がり外の冷たい風が温かな部屋に入って来た。


「ルフィ!!」


シーザーの後ろで見ていたミコトだったが、檻が外へと出され慌ててソファから立ち上がり檻のもとへと向かおうとした。
しかし檻へ駆け寄ろうとするミコトの腕をヴェルゴが後ろから掴み、ミコトはヴェルゴによって引きとめられてしまう。


「なにを…!!」

「言ったはずだ…お前はジョーカーに引き渡す、と…無駄な事はやめておけ」

「…ッ」


自分の腕を掴んで止めるヴェルゴにミコトはキッと睨む。
しかし今の状況で美女であるミコトに睨まれてもどうとも感じないヴェルゴはただミコトを見下ろすだけだった。
ヴェルゴの言葉にミコトは言い返したかったが、今はそれどころではないのだ。


「この殺戮兵器『シノクニ』の前には!4億の賞金首も!海軍の中将も!!"王下七武海"でさえ何も出来ないと世界に証明してくれ!!」


今はドフラミンゴのもとへ行く事を拒むよりも前に…最愛の弟とその幼馴染を救いたい一心だった。
しかし海楼石と同じ効果を持つ液体を飲み込んでしまい吐き出すことを拒まれたミコトは今普通の女性でしかなく、能力者ではないにしろ男の腕力には勝てず救いたくても救えなかった。
それがミコトを焦らせる。
今、この場はエースのように正式な戦場ではない。
今、この場はルフィを助け出せるなら助ける事が出来る場である。
それがしたくても今のミコトには出来ない。
だからミコトは悔しげに奥歯をギリ、と噛み締めた。


「ルフィ…」


完全にルフィ達はクレーンによって外に出され、機械音を鳴らしながら壁が戻っていき、ミコトはヴェルゴから開放される。
ミコトはコツコツとヒールの音を立てながらゆっくりとルフィ達が消えていった壁へと歩み寄り、そっと手を伸ばす。
短時間だったが、外の気温によって冷たくなったその壁がミコトに更に現実を突きつけているようで…ミコトの美しい瞳から一粒の涙が零れた。


「あなた…っ」


力尽きたようにミコトは膝を突き座り込んでしまう。
何も目の前で消えたのはルフィだけではない。
心から愛しているとは言い切れないが、夫と決めた男もまたミコトの前から消えたのだ。


「…………」


ヴェルゴは悲しみで震える声を零し項垂れるミコトの背を……目を細め見下ろした。

91 / 274
| top | back |
しおりを挟む