(92 / 274) ラビットガール2 (92)

G−5は迫ってくる紫色の煙に途方に暮れていた。
どこを見渡しても回避できるような部屋も、扉も、ない。
壁になるような場所はあっても、ガスなため完全な密室でなければ防げない。
スモーカーやたしぎ、そしてミコトも捕まったまま音沙汰なしでG−5達はどうしたらいいのか分からなかった。
その時、頭上からクレーンの音がし、顔を上げればそこには求めてやまなかったスモーカーとたしぎ、そして麦わらの一味が入っている檻が見えた。


「あ!!スモやん!!」

「たしぎちゃーーん!!!」


スモーカーとたしぎの姿に緊迫していた空気が少し和らいだものの…現在の2人の状況に空気は戻ってしまう。
しかも檻の中には何故か黒蝶であるはずのミコトの姿がない。


「全員捕まったままだ!ダメだ!!」

「畜生!!みんな殺されるんだ!!」

「大佐ちゃーーん!中将〜〜!ミコト様〜〜!!おれ達一体どうなるんだよーー!!」

「死にたくねェーよォ〜〜!!」


G−5は捕まったままの2人と行方不明のミコトに叫ぶ。
すがり付いているのと同じだが、頼りにしていた3人が捕まっているということは……絶体絶命であることである。
死にたくないと騒ぐ部下達をスモーカー(たしぎ)は何も言えず、そんなスモーカー(たしぎ)にたしぎ(スモーカー)は『ヴェルゴの話をしてやれ』と投げやりに呟く。


「しかし、よく出来た研究所だ」

「ええ、大きな機材も運べそうね」

「こ、こんな時に!あなた達!!」


ギャーギャーと叫ぶG−5達をよそに、フランキーとロビンは今更ながら改めて見る研究所に感心そうに零す。
呑気に会話をする2人に思わずスモーカー(たしぎ)は声を上げた。


「よーし!とにかく困ったな!」

「…ヴェルゴの登場は予想外だったが…麦わら屋、おれ達は"こんな所で"躓くわけにゃいかねェんだ…!作戦は変わらず…――今度はしくじるな…!!反撃に出るぞ!」


部下が部下なら、船長も船長である。
ルフィも困ったと呟きながらもその声色も表情もまったく困ったようには見えず、呑気そのものだった。
スモーカー(たしぎ)はもう突っ込みを入れる余裕もなくローの言葉に目を丸くする。


「この中で誰か物を燃やせる奴は?いなきゃ別にいいが。」

「火ならフランキーだ!!ビームも出るぞ!!そうだお前ビームでこの鎖焼いてくれよ!!」

「"ラディカルビーム"は両手しっかりキメねェとできねェ!!今出せるのは尻から『クー・ド・ブー』!くらいだ。」


ルフィはビームの事を思い出し、フランキーに問うが、フランキーは両手が塞がれてしまってはできないと答えた。
『クー・ド・ブー』なら出せると呟くフランキーに女性陣からはしかめっ面を頂く。


「向かって右下の軍艦を燃やせるか?」

「それはお安い御用だ兄ちゃん!」


『ビーム』と『クー・ド・ブー』を華麗に無視したローの指示にフランキーは息を思いっきり吸い込み、指示通りの場所に火を放つ。
丁度そこにはスモーカー(たしぎ)がおり、スモーカー(たしぎ)は向かってくる火の玉を慌てて避ける。
火の玉は柵を通りぬけ、ローの言う右下にある軍艦を一発で仕留め燃やす。
突然火がついた軍艦に騒がしかった海兵達がもっと騒がしくなった。


「ゲホ!ゲホ!!おいこらトラファルガー!煙がこっち来たじゃねェか!!」

「お前がやったんだろ」

「おめェがやらせたんだよ!!」


燃えた軍艦の煙は丁度檻がすっぽり入るほどで、スモーカー達は襲い掛かる煙に咽たように咳き込んだ。
ルフィもむせていたが、まるでコントのようなローとフランキーの会話に笑い声を上げる。
何が可笑しいのか分からないが、笑いながらも器用に咳き込むルフィの笑い声を聞きながらローは『さて』と呟きガシャンと鎖を取る。


「これで映像電伝虫には映らねェ…すぐにはバレずに済みそうだ。」


ローはこちらを監視、というよりも観察しているであろう映像電伝虫の目を掻い潜る為に軍艦を燃やさせたらしい。
しかしあからさまにしてしまえばすぐにバレてしまう。
まあ、鋭いヴェルゴがいるためバレてしまうのは前提なのだが、時間稼ぎが必要だった。
だからローはフランキーに燃えやすい素材で作ってある軍艦を燃やせと指示を出した。


「!?――何だお前…!どうやって"海楼石"の鎖取ったんだ!?」

「なに…初めからおれのはただの鎖だ…能力で簡単に解ける。」

「えェ!?」

「おれが何ヶ月ここにいたと思ってんだ。」


ルフィ達は能力者の体に巻かれている鎖は全て海楼石で出来ているはずなのに、その能力者であるローが意図も簡単に鎖を解いたことに驚きが隠せなかった。
ルフィは隠さず目も口も開けて驚き、ルフィの言葉にローは刀を能力で取り返しながら答える。


「いざって時にすり替えられるように普通の鎖を研究所内にいくつも用意しておいた。何かの間違いでおれが捕まったとき"海楼石"だけは避けられるようにな…」


能力者の弱点は至って簡単で、『海』である。
『海楼石』は言葉どおり海のエネルギーを発し、能力者を普通の人間に戻す効力を持つ。
だから能力者は『海』も『海楼石』も恐れる。
この研究所は政府が管理していた頃から能力者の囚人も捕らえられるように海楼石の鎖や手錠を用意してあり、それを知っていたローはこの何ヶ月もの滞在の間にいくつかの海楼石の鎖や手錠を普通のモノにしていたようである。
全てしてしまえばバレるため、数は少なくすり替えていたが…正直ローも一か八かの賭けだと思っていた。
確実に自分を拘束する鎖や手錠が普通の物とは限らない。
だから捕まった時、海楼石ではない事に顔には出さず内心安堵していた。
ローはそう説明しながらルフィ、ロビン、フランキーの鎖を刀で斬ってやる。
『うおー!!自由だ〜〜!!』と叫ぶルフィを咎めていると、その瞬間ガシャンという音と共に何かが檻に落ちた揺れが起こる。


「!?―――な、なんだ!?」

「もうバレたのか!?」

「あっ…ち、違います!!あれ…!!」

「!!?」


大きいとは言えない揺れだが、揺らしていないはずの檻が揺れ、もうヴェルゴ達にバレたのかと警戒する。
周りを見渡すもフランキーが燃やした煙で視界が悪い。
するとスモーカーの体に入っているたしぎが気づく。
たしぎの見ている方へ全員が目線を送ればそこには―――…


「アスカ!?」


今ミコトと共に研究所内に捕まっているはずのアスカがいた。
まだ気を失っているのか起き上がる気配も動く気配もない。
ローはアスカへ駆け寄ろうとしたが、それよりも早くルフィがアスカの元へと駆け寄り抱き起す。


「………」


自分同様ルフィもアスカを心配して駆け寄り抱き起す。
幼馴染を持った事のないローはルフィの行動が純粋にアスカを思っての行動なんかは分からないが、今言い合いも難癖をつける暇もないため無理矢理幼馴染としての行動と思いこもうと言いたい言葉を呑み込み舌打ちだけで勘弁してやる。


「おい!!アスカ!!アスカッ!!」

「麦わら屋、そんなに激しく揺らすな…気を失っているだけだ…退け。」


声をかけても返事のないアスカにルフィは焦ってアスカの体を揺する。
そんなルフィにローが不機嫌そうな声で止めさせ、アスカの手錠を取った。


「アスカ…」


ルフィやスモーカー達が目を覚ましているという事はシーザーの能力で気を失っているというわけではなく、どうやら海楼石に弱い体質なのだとローは気づく。
極稀にアスカのように海楼石に弱い者がいるという噂は聞いた事はあった。
だからアスカもその極稀の一人なのだろう。
未だルフィの腕の中というのは気に入らないが、ローはアスカに声をかけた。
優しい声色に誘われるかのようにアスカは目蓋を震わせ金色の瞳の中にローを写す。


「……、ろー…」

「大丈夫か?」


自分の問いに小さくアスカにローはホッと安堵を浮かべる。


「アスカ!よかった…!目ェ覚めたんだな…!!」

「るふぃ…」


ルフィもアスカが目を覚ました事に安堵し声をかければ、ローを見上げていたアスカの瞳はルフィを映す。
アスカもルフィを見て安心した笑みを僅かだが浮かべたのを見てルフィはニッと笑った。
二人が笑いあっているのをローは腹立たしさはあるが、嫉妬に燃えるのは一先ず後回しにすることにした。


「……………」


自分たちと話しているときのローの声色と、そしてアスカにかけるその優しい穏やかな声色…ロビンはじっとローの背を見つめていた。
明らかにローはアスカに好意を持っている。
再会した時もロビンは薄々は気づいていたが、今目の前のやり取りで確信へと変わったのだ。
アスカを抱き上げるルフィを見るローの鋭い目線にロビンは目を細め笑った。
可愛い妹であるアスカにつく悪い虫の意味でロビンはローを観察していた。
アスカが幸せならいいと思っているロビンだが、もしもローが遊び相手でしか見ていないのならナミとサンジと協力して二人を引き離すつもりなのだ。
2人はロビンが恐ろしい計画を立てているとは知らず、アスカはローの『立てるか?』という心配そうな声に小さく首を振る。


「ごめ…力、出ない…」

「いい、無理するな…少し休んでいろ」


ローもまさか海楼石に触れ力が抜けるどころか意識が失うほどアスカが海楼石に弱いとは思ってもみなかったのか心配していたが、とりあえずミコトと同じくとらわれたアスカが戻り、失っていた意識を取り戻したことにローは安堵し、小さく頷いたアスカにふと微笑み髪をそっと優しく撫でてやる。


「……………」


一部始終見ていたロビンはホッと胸を撫で下ろした。
ローの本心を見たわけではないが、今のを見ている限りローがアスカを遊び相手として見ていない事が分かり、ロビンは安心した。
もし遊び相手ならあれほど心配そうな表情も、優しい声は出ないはずである。
ロビンはローとアスカを見つめ微笑み、そんなロビンにフランキーが『お?どうした!どうした!ロビン!そんな嬉しそうな顔しやがって!!そんなに海楼石から解放されて嬉しいのか?』と問えばロビンは『ふふ、そうね、そうかもしれないわね』とローがスモーカーとたしぎの鎖も外すのを見ながら笑みを深めた。


「しっかし…どんなトリックを使ってアスカがここに逃げてきたんだァ?アスカは気を失ってたんだよな?」

「恐らくは…彼女の仕業ね」

「彼女?」

「―――黒蝶」

「!」

「あの人なら、こんな芸当容易いはずよ」


フランキーはアスカが突然檻に入ってきたことを疑問に思う。
ロビンはフランキーの疑問にすぐに答えた。
考えていた…というよりかはそれしか該当する人物はいない、と言った方が正しいだろう。
最強と世の中が勝手に持ち上げた彼女なら、恐らくそんな芸当、簡単なはずである。
それに突然檻の外の人間を檻の中に入れるような能力者などこのメンバーにはいない。
そうなると奇跡にもなるそれはミコトしかいないとなる。
正解か不正解か…どっちにしろアスカが戻ってきて助かったのならそれでいいとフランキーはその疑問を解決したことにした。

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