ルフィ達が消え、冷たい風も完全に入り込む事のなかったこの室内は暖房が効いているのか暖かくなっていく。
だが、それでも床は冷えているため、ヴェルゴは今だルフィ達を助けだせず悲しみで震えるミコトの背中に声をかけた。
「黒蝶、ソファに座れ…体を冷やすぞ」
声色は全く心配しているようには聞こえない。
しかしヴェルゴは本当にミコトを心配していた。
もし、ミコトが体が冷えた為に風邪を引いてしまえば少なくともドフラミンゴからはお叱りの声をいただく事になる。
だがミコトを心配するのはそれだけではないだろう事はヴェルゴ本人もとっくの昔に気付いていた。
ヴェルゴは1人の女性として…ミコトに惹かれていた。
初めて会った時から、ミコトを好きだった。
しかし今も昔も…ヴェルゴはその事を誰にも告げるつもりは全くない。
度々態度に出しているのは隠そうとするよりも周りと同様の反応を出した方が隠しやすいからである。
そもそも主人でもあるドフラミンゴの想い人を掻っ攫うつもりは毛頭なかった。
「…わたくしに…構わないでください…」
「そういうわけにはいかない。お前を逃がしてはおれがドフィに――」
「ルフィが死んでいく様を見ていろっていうんですか…ッ!!?」
「――……」
ミコトはヴェルゴの想いをよそにその言葉に首を振った。
項垂れて首を振るミコトをヴェルゴは腕を掴んで立たせようとした。
しかしミコトはヴェルゴの言葉を遮り声を上げた。
それは悲痛な叫びでもあった。
モニターを見ていたシーザーとモネはミコトの叫びに振り返りモニターからミコトへ視線を向ける。
だがミコトは3人の目線など気にする余裕はなかった。
「ルフィがあの囚人達のように白い塊になり死んでいくのを見ていろって言うんですか!?―――弟を、また…失う所を…見れと…っ!?」
ミコトは顔をあげ、ヴェルゴに声を上げる。
ヴェルゴは顔を上げたミコトの表情に息を呑んだ。
ミコトの美しい漆黒の瞳からは宝石のような涙が溢れ流れていたからだ。
頬を濡らして泣くミコトをヴェルゴは一瞬魅入られたように固まった。
しかしミコトの悲痛な言葉にハッとさせ、言葉にしてしまいルフィの現状が、そしてこれからの事を思いミコトは涙がまたポロリと流れる。
ミコトはまた一人、弟を失うかもしれない悲しみに…もう顔を上げることすら出来ずまた俯いてしまう。
ミコトが顔を俯かせれば落ちる涙が床を濡らしていく。
「……………」
肩を震わせ泣き声すら抑えて悲しむミコトをヴェルゴは見ていられなかった。
どんな男でも惚れた女の涙には弱いモノなのだろう…ヴェルゴは何も言わずミコトの腕を掴んでいた手を離しモネ達のもとに戻っていく。
ヴェルゴが戻っていってもミコトの涙は止まらない。
「…いいの?」
モネは戻ってきたヴェルゴに小さく問う。
ミコトに聞こえないようになのだろうモネの問いにヴェルゴはチラリともミコトを見ず『ああ』と短く答える。
相変わらず表情が読めないそのヴェルゴの表情と声色にモネは計ることも出来ずチラリと背を向け項垂れるミコトに視線を向けたが、震える背中を見てすぐに視線をモニターへと戻した。
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