ローは条件をつけてスモーカーとたしぎの入れ替わりを解除し鎖を斬ってやる。
2人の鎖を斬ったあと、動けないであろうアスカを自分が運んで中に入ろうと考えているとその肝心のアスカがいない事に気付き慌てて周りを見渡す。
「おーい!!トラ男ー!!どうやって中入るんだ!?」
「――!!?」
アスカを探していると何故か下からルフィの声がし、外を見下ろせば既にルフィが下に降りていた。
しかも探していたアスカもいるではないか。
アスカはロビンに抱かれ、アスカに視線をやれば必然的にロビンもローの視界に映り、ロビンはローと目と目が合うとニコリと笑みを浮かべて見せローはそのロビンの意味ありげな笑みに顔を引きつらせる。
「とりあえず……降りるぞ…」
フランキーはルフィとローの許可を得て1人で船の元へと向かい、後に残されたのはスモーカーとたしぎとローのみ。
ローは内心麦わらの一味を舐めてかかっていたようでここまで自由奔放だとは思っていなかったようである。
3人ともルフィ達のもとに降りるとあとはローの能力で侵入は簡単なモノだった。
「緊急事態!!シャッターが上がったぞ!!G−5が入ってくる!!」
「誰がレバーを触った!?」
「侵入者だ!!あそこ…!!」
侵入すれば騒がれる前にシャッターのレバーの傍にいる囚人達を伸していくだけである。
ロビンはまだ力が出ないアスカをそっと隅へ座らせ、自分も出来るだけ音を立てないように囚人達を伸していく。
囚人達はそう多くなく、ルフィ達5人相手ではあっと言う間に終わった。
その光景をアスカはハッキリし始めた意識の中見つめ、『よわっ』、といつもの様に嫌味たっぷりに一言だけ呟いた。
意識がはっきりしはじめれば後は少しずつ回復を待つだけであり、アスカは壁に手を突いてゆっくり立ち上がりロビンのもとへと歩み寄る。
「あら、もういいの?」
「うん…ありがとう」
「ふふ、お礼なら"彼氏さん"に言ってあげなさい」
「……バレてたんだ…」
「あなた達を見ていたら誰だって分かるわ」
海楼石の鎖を付けられてから今までの事ははっきりと覚えていないが、檻から脱出する時にロビンに抱かれて脱出したことだけは覚えており、その事を含めてロビンにお礼を言えばロビンの口から出た言葉にアスカは一瞬固まった。
『彼氏』という言葉が誰に向かって言われたのか理解したアスカは気まずげに目線を外しながら頬をかく。
その様子が初心に見えてロビンは微笑ましく目を細める。
アスカは『誰だって分かる』という部分に『そんなに露骨だったかな…私…』と心の中で呟く。
「…ロビンは反対じゃないの?」
「あら、私だって本当は反対よ?あなたは私にとっても可愛い妹だもの…でも人の気持ちは他人が言ったところで簡単に変わらないものだわ」
アスカは露骨すぎているらしい自分の反応に照れてもいたが、正直ローとの恋を受け入れてくれるとは思っていなかった。
ローの『ハートの海賊団』と、アスカのいる『麦わら海賊団』は所詮ライバル同士の関係だから過保護なナミやサンジはともかくロビンもあまりいい顔はしないと思っていた。
だからロビンの笑みを浮かべながらの言葉にアスカは口を閉ざしてしまう。
反対をしたいが自分が決めた人を認めてくれるロビンに流石は大人の女性だと尊敬するアスカだったが、ずっとロビンの『彼氏』という言葉がアスカの頭に引っかかって仕方なかった。
俯くアスカにロビンは不思議そうな表情で『どうしたの?』と問う。
「……彼氏、かどうか…ちょっと分からなくて…」
「…?」
「だって…私……ローに答えてあげてないし…」
「と、いう事は…あの人からは告白されているの?」
『それに』、とアスカは口の中で続けた。
それに、アスカには少し気になった事があった。
だから彼が好きなのか……それとも―――彼は本当に自分の事を好きなのかも分からなかった。
ロビンはそんなアスカに気付かず、『答えてあげてない』、というアスカの言葉に目を見張った。
2人を見れば両想いなのはハッキリとしていることであり、ロビンはまさかまだ結ばれてもいないとは思ってもみなかった。
ロビンの問いに小さく頷くアスカにロビンは『あらあら』と思わず零してしまう。
「アスカの答えはどうなのかしら?」
「それは……」
「アスカはあの人の事、どう想っているの?好き?嫌い?」
ロビンの問いにアスカは俯いていた顔をあげ一瞬戸惑った様子を見せたが小さい声で『…好き』と答えた。
照れているのかほんのりと頬を染めて照れから視線も逸らして答えるアスカが堪らず愛らしく映りロビンは笑みを浮かべる。
「だったら迷う必要はないわね」
綺麗に笑うロビンに背中を押されるように、アスカはレバーを降ろしたローのもとへと小走りに向かう。
その際『ありがとう、ロビン』と小さく笑う末の妹にロビンは『ちょっと勿体無かったかしら』とちょっぴり背中を押したことを後悔した。
◇◇◇◇◇◇◇
「ロー」
ロビンに背中を押され、アスカはローのもとへと向かう。
ロビンの言葉にアスカはドキリとした。
疑っていてもやはり彼が好きなのは変わらないのか、彼を好きでいて、彼を信じようと思うようになる。
だけどアスカはロビンに勇気付けられたが今この状況で告白の答えを返すつもりはなかった。
場違いなだけなのは流石のアスカも分かっているようである。
ローは自分のもとに小走りに駆け寄ってくるアスカに振り返り待っててやる。
「動いても平気なのか」
「うん、ちょっとふらつくけどすぐに元に戻るから心配しないで」
「そうか…」
海楼石のせいとはいえあれほど衰弱していたアスカを見てしまっては心配しない方が無理であり、ローはアスカの小さな笑みにホッと安堵する。
ローの表情はとても優しく、ルフィ達に向けるような険しい表情はアスカに向けた事がなかった。
声色も優しく、ルフィ達に向ける表情と声色と違う事に多少の優越感をアスカは感じ、無意識に笑みを浮かべてしまう。
にまにまと笑うアスカに『どうした?』とローが問えばアスカはハッとさせ『なんでもない』と首を振って答える。
首を振るアスカにローはまだ心配そうな視線を向けるもアスカは話を逸らすためにローのコートをちょんとつまむ。
「ロー、ロビンから聞いたけど…鎖取ってくれてありがとう」
「気にするな…ヴェルゴの登場を予想していなかったおれのミスでもあるからな…」
自分を責めるような言い方をするローにアスカは気を失っていた為事情が汲み取れなかったが、ローの手をギュッと握ってあげる。
それは自分が落ち込んだ時にルフィがしてくれる行動で、アスカが1番落ち着くものだった。
突然手を握るアスカにローは驚いた表情を浮かべたが『大丈夫、これから巻き返せる』と呟くアスカに『そうだな』と微笑みアスカの手を握り返す。
「ねえ、ロー」
「ん?」
アスカはふと疑問に思う。
ロビンから自分が気絶している間、檻に入れられたのではなく別々にされていたのを聞いた。
そんな自分がロビン達と一緒に居るのはロビンの読みではミコトのおかげだということだったが…アスカはミコトは勿論だが少し引っかかった事があったのだ。
何となく…証拠はないけど、なんとなく…それをローが知っている気がしてアスカはそのモヤモヤを解決しようと声をかけ、ローはアスカを見下ろす。
アスカはそんなローを真っすぐ見上げ…
「"リサ"って、なに?」
「―――ッ!!」
問いかけた。
アスカが気になったのは『リサ』という名前の人物。
アスカは二年前の戦争の時から『リサ』という名前をよく耳にしていた。
だからロビンから聞いたヴェルゴも自分の事を『リサ』と呼んでいたと聞いて不思議さが深まったのだ。
アスカの問いにローは目を丸くして固まった。
「どこで…その名を……」
「最初は…ドフラミンゴっていう七武海に呼ばれた……それにロビンから聞いたけどヴェルゴって人にも呼ばれたって聞いたの……もしかしたらローは知ってるんじゃないかって思って…」
「…………」
「ねぇ…リサって誰のこと?もしかして…ローはその人を知ってて……本当は私じゃなくてその人の事…」
「アスカ」
ずっと気になっていたのだ。
『リサ』という名前が。
アスカは記憶がある限り『リサ』という名前は無縁…というよりは聞いたことがなかった。
それは記憶喪失だったからだというのもあるだろうが、ドフラミンゴという七武海もヴェルゴという今回の敵も自分の事を『リサ』と呼んだ。
でも、アスカは『アスカ』であって『リサ』ではない。
ローが知っているかという保証はない。
ないが…なんとなく知っているような気はした。
それと同時に、不安も。
ローは『アスカ』が好きと言っていたが、もしかしたら『アスカ』ではなく…
アスカはそれを言おうとしたが、ローに遮られハッと我に返る。
ローを見上げれば少し悲しげでアスカは息を呑む。
グッと言葉を止めたアスカにローはそっと手を伸ばしアスカの頬へ触れる。
最近ようやく一人前を食べれるように成長したアスカは肉付きも良くなった。
二年前はガリガリではないが少し肉付きが悪いな程度だったのに、今触れればふっくらとし若さ特有の弾力のある柔らかい頬となってきていた。
ローはその頬に触れ、親指の腹で撫でる。
「リサの事は知らない…それにおれが本当に心から愛してるのはアスカだ…それだけは疑わないでくれ」
「………うん…」
ローの言葉にアスカは頷く。
その表情はまだ晴れてはおらず、アスカはローが嘘をついているのに気づいていた。
ローは知っているのだ―――リサという名前の人物を。
でなければ『リサの事は知らない』とは言わない。
本当に『リサ』の事を知らないのなら『リサ"という人"は知らない』と答えるはず。
それにアスカが『リサ』という人物を聞くときアスカは『リサって"なに"』と聞いたのにローから返ってきたのは『どこでその"名"を』だった。
それでアスカはローが『リサ』を知っていると分かった。
アスカはローに聞くときは『誰』とも『"リサ"って名前知ってる』とも聞かず『なに』と聞いた。
その答えが『どこでその"名"を』である。
だから気づいたのだ…ローはリサを知っている、と。
それがアスカをリサの代わりに愛しているのか、それとも単に恋愛関係なく知られてマズイ事なのかはアスカには分からないが、アスカはもやもやしたものを抱える。
本当に知っているかはまだ信じたくはないが…ローの『愛してる』という言葉さえも信じきれなくなってしまった。
アスカはローの手から離れるようにふと顔を逸らす。
顔を逸らすアスカにローが声をかけようとしたとき…
「アスカ!!もういいのか!?」
アスカが起きた事に気づいたルフィが駆けつけてきた。
ルフィの介入にアスカはホッと息をつき、安堵のような表情をつくアスカにローはピクリ反応し、怪訝さを見せる。
しかしそれもすぐに表情を戻し、ローは頬から手を放しアスカの手を握った。
それにアスカは一瞬指先をピクリと反応させたが、ローは逃がさないようグッと手を握り、空気を読まない(または読もうとも思っていない)ルフィに溜息をつく。
アスカは空気が読めない幼馴染に慣れているのか気にも留めず『うん』と頷く。
ルフィもローと同じく頷いたアスカに安堵していたが…ローとアスカが手を繋いでいるのを見て足を止め、その場で固まった。
一瞬氷のように固まり表情を失くしたルフィにアスカは不思議そうにルフィの名を呼んだその時――…
「うりゃああああああ〜〜〜!!!」
「えええ〜〜〜!!?」
完全に閉まっているぶ厚いシャッターが2人の剣士によって紙のように斬られ重く大きな音を立てて倒れた。
G−5の驚きの声とシャッターが崩れる音が鳴り響く。
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