アスカの心境をよそに事体は悪化していくばかりだった。
A棟であるアスカ達がいるゲートは少しずつ閉まってきており、その上外からの砲弾によって壁が壊れ毒ガスが流れ込んできてしまい、みんな必死にゲートが閉まる前にA棟から逃げ出そうと走っていたがその間も海兵達が次々と固まり犠牲になっていく。
滑り込むように、茶ひげやアスカ達は逃げ出す事に成功した。
「きゃーっ!!」
それと同時にたしぎが何者かに投げられ茶ひげと麦わらの一味達と同時にゲートの外へと投げ込まれた。
飛んでくるたしぎを慌てて先に脱出していた海兵達が受け取り、たしぎに怪我はないが突然のたしぎの飛び込みに驚きが隠せない。
「えェ!?大佐ちゃんが飛んできたァ〜!!」
「!!――どいてください!!まだ外に何人も海兵が…!!」
「大佐ちゃんなんで今飛んで来たんだ!?誰かに飛ばされたのか!?手荒な…!!」
「大体外っつってももう扉は…―――!!!」
受け止められたため怪我も痛みもない。
だがたしぎは慌てて受け止めてくれた海兵の腕から降り、閉まっていくゲートへ向かおうとした。
しかしその先は毒ガスが蔓延しておりゲートの隙間もすでに人が通れるほど開いてはいない。
海兵が覗き込めば一瞬にして表情を変えたしぎへ振り返る。
「大佐ちゃん!ダメだ!もう遅い!!」
「何をバカな事!!仲間がまだ扉の外に取り残されてるのに!!そこをどきなさい!!」
「無理なモンは無理だ!たしぎ大佐!!」
「――!!?」
自分に振り返った海兵は何故か無理だと言って首を振った。
そんな海兵にたしぎは声をあげ自分だけでも、とゲートの奥へと向かおうとした。
しかしそれを周りの海兵が止め、たしぎを一喝するように海兵が声をあげた。
海兵の言葉にたしぎは一瞬動きを止め、そんなたしぎに海兵は再びゲートへと振り返りゲートの隙間から中に入る者達に声をあげた。
「よくやったお前ら!!!おれ達の大切な大佐ちゃんはしっかりと受け取ったからなァ!!!」
たしぎは一瞬、海兵の言葉が理解できなかった。
しかしチラリと見える隙間から仲の様子が見え、たしぎは息を呑む。
たしぎを投げたのは何者でもなく、海兵達だった。
自分をも犠牲にしたしぎを助けた海兵達は完全に固まる前にそれぞれ答えるようにポーズを構える。
グッと親指を立てる部下達にたしぎは涙が零れた。
「…………」
ロビンのお陰で落ち着いたアスカはロビンの肩から顔をあげ、小さくなっていく海兵やたしぎ達をただ見つめていた。
その表情からは少なくともシーザーに対しての嫌悪感が見て取れた。
◇◇◇◇◇◇◇
海軍は仲間の犠牲に嘆くたしぎを慰めその場に立ち止まっていた。
しかしすぐに追いかけてくるだろうと思いゾロ達は何も言わず先を急ぐ。
「研究所を犠牲にしてガスを入れてくるとは…!!」
「まだまだ安心できねェぞ!!急げ!茶ひげ!!」
「――いつの間に全員乗っとるんだ!!お前ら!!さすがに重い!!」
先を走っていたはずのブルック、ゾロ、錦えもんがいつの間にか気付かない内に自分の体に乗っていることに茶ひげは気付いた。
ゾロの言葉に茶ひげは声を上げたが、ゾロは真剣な表情を浮かべ後ろを鋭い視線で貫くように見る。
「…本当にすまねェ…耐えてくれ!!――だがこうするしか手がねェんだ…!!
おれ達は疲れて走るのが面倒くせェんだ」
「
最悪の理由だ!降りろお前!!!」
真剣な顔で告げるものだから、茶ひげは何か理由があるのかもしれないと思った。
しかし出された理由はまったくもって頑張っている茶ひげからして最悪な答えで、茶ひげは突っ込みを入れる。
しかも…
「貴殿茶ひげと申されたか!拙者は心苦しいが一刻も早く我が息子モモの助と直葉を救出致したい所存!!――
しかしもはや走り通しで走るのが面倒くさいのでござる!」
「
降りろ貴様ら!!アホなのか!!?」
同じく前を走っていた錦えんもんも続けざまに言われ、もう腹を立てるのを通り越してしまう。
そんな茶ひげをよそに、というより無視し、錦えもんは後ろで座るロビンと落ち着いたためにロビンから離れロビンの隣に座るアスカに振り返る。
「アスカ殿!」
「なに」
「怪我は…」
息をついて落ち着いたアスカは錦えもんに声を掛けられ振り返る。
真剣な表情で見てくる錦えもんにアスカは何か重大な事を言われるのではないかと思っていたがどうやら心配をしてくれたらしく、アスカは首を振って答える。
怪我はないというアスカに錦えもんは安堵の息をついた。
「それはよかった!もしも貴殿に何かあれば母君や直葉も悲しんでしまうからな!!」
その言葉にアスカの機嫌は降下する。
それでなくてもローの事でショックを憶えているというのに、更に記憶のない家族を押し付けられ腹が立つのも無理はない。
ルフィの前でキスをされるわ、知らない人間を家族として強制させられるわ、更にはアスカは先ほどまで海楼石に繋がれていたのもあり、最悪な気持ちのまま返事ができるわけもなくアスカは錦えもんを無視する。
「そういや…お前アスカとその『ジン』って奴が親子だって言う証拠があるとか言ってたな…」
「おお!そうであった!!サンジ殿に救出致されたこの上半身の懐に!母君から預かっている父君とアスカ殿が親子だという証拠があるでござる!!」
ふと、証拠の事を思い出しゾロが錦えもんに問う。
錦えもんが疑わず仁や直葉などの人物をアスカの家族だと断言できる証拠を持っているというものだ。
錦えもんはゾロの言葉に思い出したように懐から1枚の紙の絵を取り出した。
奇跡的に濡れていなかったらしいその紙には1人の男性と少女が描かれていた。
の、だが……
「って、おいおい!これじゃアスカなのかわからねェだろ!」
「何を言う!!この少女はまさしくアスカ殿であろう!!」
「「「どこがだよ!!」」」
見せられたその紙には、二人の男女が描かれていた。
しかし、残念ながらその絵が独特すぎて、現実の人間とは似ても似つかない。
色もない白黒だったため、髪の色や目の色などで判別も無理だ。
思わず突っ込んだウソップに錦えもんは心外だと言わんばかりにムッとさせ、絵が描かれている紙をアスカの顔横に並べて結び付けようとする。
そんな無理ありすぎな錦えもんについにはウソップ・ゾロ・サンジが同時に突っ込んだ。
アスカは3人と睨み合いをする錦えもんから紙を受け取りマジマジと見る。
「ねえ…これ、私に見える?」
「見えないわね」
「ええ、全然見えない」
ジッと凝視するように紙を見てもアスカは自分が錦えもんの持っている紙の少女とは思えなかった。
まだ写真なら納得するのだが…どうしてか錦えもんの持っていたのは写真ではなく絵である。
そのためアスカは内心ホッとさせる。
アスカ自身もルフィと同じく見たことのない『家族』に不安に思っていたのだろう。
もし本当に『家族』で、もし自分の出身が『ワノ国』なのなら…どうして『家族』は自分を助けてはくれなかったのだろうか…アスカの脳裏に一瞬疑念を抱く。
そもそも誘拐なら気づかなくて当たり前なのはアスカも理解しているが、アスカはそう思わざるを得なかった。
もっと安心したいのか、アスカは紙を自分の顔横に並べてロビンと、降りてきたらしいナミに見せて確認した。
2人からは否定的な言葉を貰い、アスカは小さく安堵の息をつく。
「……………」
そして、手元の絵を見つめ…アスカは仁という男らしい男性の絵を見つめていた。
その男性はとても優しそうな表情で描かれており、アスカはこの男がもしかしたら『父親』かもしれないとジッと見つめる。
不思議とそう思えば何だか懐かしい気もしないでもないが…それがただ言われたからそういう気でいるのか、はたまたそうではないのかなど……アスカ本人も分からなかった。
100 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む