たしぎは自分の耳に届いた声が幻聴だと思った。
都合のいい幻聴だと。
もしも幻聴だとしたら……では、自分の目の前にいる人物は幻覚なのだろうか…
たしぎの目の前には…―――
「ミコト様ァ!!!」
捕まっているはずのミコトが立っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
ヴェルゴもたしぎ同様目を丸くさせて驚いていた。
流れ作業のように部下"だった"海兵達を刺していく腕を突然掴まれ、ヴェルゴは動きを止めた。
刺されそうになった海兵が自分の横を見つめこれでもかと目を丸くさせているのがサングラス越しで映り、そして女性の柔らかい声が耳に届き…ヴェルゴは横を見た。
そこにはシーザーとモネのもとで捕まり今では気を失っているはずの…
「黒蝶…?」
ミコトが立っていたのだ。
ヴェルゴは『まさかありえない』と顔にデカデカと書き、そんなヴェルゴにミコトはくすりと笑みを浮かべ腕を下げさせる。
「どうしてお前がここにいる…?気を失いモネ達のもとにいるのではなかったのか…」
「ええ、数分前は」
「どういう事だ…」
「女の涙はどんな武器よりも強しという事ですわ」
「……………」
くすりと笑うミコトは美しい。
しかしその美しさがヴェルゴを苛立たせた。
ミコトはルフィが死ぬのだと本当に思っていなかった。
ミコトは弟達を信頼していた。
だからミコトが流した涙は嘘である。
大抵の人間はミコトの涙を信じ、同情する。
それが同性であっても気付く事はなかった。
それと同時に気を失ったのも偽りだった。
自分達の失態にヴェルゴは眉間にシワを寄せた。
そんなヴェルゴなど余所にミコトはヴェルゴから庇うように海兵達の前に立ち、ヴェルゴから視線を外さずに叫んだ。
「G−5!この『偽者』のヴェルゴはわたくしが引きとめます!!その間に一刻も早く負傷者を連れてR棟へ向かい子供達と共に脱出なさい!!!」
「は、はいっ!!」
海兵達はヴェルゴが裏切った事を知らないのと同じく…ミコトが能力を封じられている事もしらない。
偽者だと思い込んでいる海兵達に合わせてミコトも目の前の『海賊』を『偽者』と呼んだ。
それにピクリとヴェルゴが片眉を上げて反応を見せるもミコトは何も言わずヴェルゴと対峙しながら海兵達に指示を出す。
『偽者』のヴェルゴの登場で士気が下がりつつあった海兵達だったが、頼りにしていた1人の登場に表情を引き締めミコトの言う通りに脱出しようとする。
「…………」
横を通りぬけようとする海兵達を横目で見ながらヴェルゴは近くにいた海兵に止めを刺そうとした。
しかしそれに気付いたミコトが一瞬にしてヴェルゴの懐に入り込み長い足で蹴り飛ばした。
よく見ればその足元には靴はなく、ミコトは気を失っていると思ってそれほど警戒していないモネとシーザーに気付かれないよう靴は置いてきたようである。
今頃作り出した幻影のアスカと共にミコトの姿がないことに気付いている頃だろう。
靴を脱ぎ捨てたお陰で素足のまま走ってきたため瓦礫やらで傷ついているが、ミコトは痛みなど表情にだしていない。
痛くないわけではないがまだミコトに余裕がある証拠だった。
能力を出しておらず覇気を纏っていない為、蹴り飛ばしてもそれほどの距離と衝撃にもならずヴェルゴが堪えた様子はない。
だが、この蹴りは海兵達を助けるためであるためミコトは倒れることもないヴェルゴに目を細める。
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